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第4章

第4話「そいつらはお前の家族だったりするのか?」

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 集落の近くにある雑木林。
 歩いて2時間ほどの場所にあり、よほど奥へ入り込まない限りは危険度の高いモンスターが生息しない。
 比較的安全に狩りを出来る場所で、集落の人達が利用していたらしいが、今では誰も寄り付かないそうだ。

「ベルはここには来たことあるのか?」

「うん。昔はお父さんに連れられてよく来ていたんだ」

 ブラックゴールドウルフが住み着いてからは、来ていないとの事だ。
 村の大人が、どうしても食料に困ったら、ここに来て危険と隣り合わせの狩りをしているのだとか。

「昔話を聞いてやりたい所だが、早速ご登場のようだ」

 『気配感知』スキルには、6体の反応があった。
 わざわざ犬のような鳴き声を上げて、こちらへまっすぐと向かって来ている。

 しばらくして、俺達の前に5匹の狼が姿を現した。
 黒と金の毛に覆われている。本当にブラックゴールドウルフのようだ。
 
 俺達を威嚇するように、唸り声をあげたり、吠えたりしている。
 何故か襲い掛かってこようとはしない。
 ならば先手必勝とその場で剣を振り『投刃』スキルを発動させた。
 そのままスパっと両断、と思いきや簡単に避けられた。

 ならばもう一度と剣を振るが、俺の『投刃』が当たらない。
 距離が離れているのもあるが、このランクのモンスターになると、そうそう当たってはくれないようだ。

 襲い掛かってこないとはいえ、ここで当たらない『投刃』スキルを乱発しても、無駄に体力を消耗するだけだ。
 それに、構えておかないと、本命がこちらに向かって来ている。

 『気配感知』スキルに反応している6体目が、俺の真上に降って来た。
 
「バレバレだ!」

 迎撃するために剣を振り上げる。
 いくら回避能力が高いブラックゴールドウルフでも、空中にいては意味が無い。
 その辺を考えない辺り、ラビットウルフとたいして知能の差が無い。所詮は獣だ。

「ッ!?」

 両断しようと振りかかった体勢で、俺は無理やり動きを止めた。
 振ってきたのはブラックゴールドウルフではなく、人間だったからだ。

 ソイツは落下の勢いのままに俺に突進し、ぶつかると同時に俺を転がせ、完全にマウントポジションを取って来た。

「お、おい」

「ぐるぁぁぁ!」

 倒れる俺の上に馬乗りをして、マウントポジションを取る黒髪で全裸の少女。
 完全に理解が追い付かない。
 振り上げた拳を一発顔面に貰ってから、やっと我に返った。

「アンちゃん!」

「大丈夫だ」

 両腕を足で挟まれているが、体格差が十分にある。
 勢いをつけ、無理やり上半身を起こすと、少女はくるりと後ろにジャンプした。

 四つん這いの姿勢で着地し、ブラックゴールドウルフ達と共に俺達を睨みつけて来る。
 顔には奴隷の紋が彫られているのが見えた。

「オイお前。言葉は分かるか?」

「だったらなんだ!」

「まずは服を着てくれ」

 見た感じ、ベルよりも年下の獣人の少女。
 俺にそんな趣味はないが、やはり全裸のままで居られるのは目に毒だ。

「そんなものはない!」

「じゃあ貸すから!」

 とりあえず、適当にマントっぽいものを投げつけた。
 何故マントじゃなくマントっぽいものかって?
 先ほどからモルガンが手で俺に目隠しをしているからだ。少女の裸体を見えないように。 
 
「着た!」

「よし!」

 モルガンが手を離したから、多分大丈夫だろう。
 う~ん。色々きわどいが、まぁいい。

「襲い掛かってこなくて話に応じるという事は、俺達と話し合いをするつもりがあると取って良いのか?」

「違う。ここはラル達の縄張りだ! もう来るなと警告したいだけだ」

「いいや、ここは集落の人間も使う場所だ。お前たちの場所じゃない」

「ラル達が一番強いから、ここは場所だ!」

 強いものの縄張り。自然界の摂理だ。 
 
「なぁラル。そいつらはお前の言葉が分かるか?」

「当然だ!」

「そうか。じゃあここで俺達が一番強い事を証明したら、お前たちは出て行け」

「だったらお前たちが負けたら、もうここには来るな」

 腕っぷしで決める。獣と獣のような少女にはこれ位シンプルな方が分かりやすいはずだ。
 話し合いには応じてくれそうにないし。

 それと今更だが……なんでコイツモンスターと一緒に居るの?
 全裸だったし、なんか四つん這いでオオカミたちと同じような歩き方しているし。
 まさかとは思うが。

「一つ聞いて良いか。そいつらはお前の家族だったりするのか?」

「そうだ。ラルの兄弟だ。名前は……」

 いや、そこまで聞いていない。
 しかし家族か、弱ったな。

 経緯は分からんが、多分この少女はブラックゴールドウルフに育てられたのだろう。
 人間とモンスターは基本共生しない。もし共生出来る場合はモンスターではなく、動物のカテゴリに入る。

 ブラックゴールドウルフはモンスターに分類されている。なので人間とは共生しないはずだ。
 だが現実に、俺達の目の前でブラックゴールドウルフは家族のように少女に寄り添っている。

 モンスターとはいえ、少女にとっては大事な家族。
 目の前で家族が殺される。それがどれだけ辛いのかはよく知っているつもりだ。

 出来るだけ殺さないように倒す事を考えると、クーにはやらせれない。爆発させて即死させてしまうからな。 
 かと言って、クーが『魔力伝導』無しで戦って勝てる相手でもない。

「ここは俺が1人でやろう」

「アンリ。あなた1人でなんとかなる相手なの?」

「あぁ、大丈夫だ」

 それに……

「試したかったスキルがあるんだ」

 ギルドマスターを鑑定した際に覚えた、アサシンのレアスキル『影分身』。
 発動させると目の前に自分が3人現れた。こうして自分で自分を見るというのは不思議な感覚だな。

「それじゃあ。縄張りをかけて喧嘩しようぜ!」
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