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第2章

第9話「だから俺は、もう一度あの冒険者達に会って、ちゃんと礼を言いたい」

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 モンスター大災害。かつて国を一つ滅ぼす事になった災害だ。
 なぜ起きたか原因はいまだにわからないらしい。唐突に国中のモンスターが統率され共闘し、人間を襲い始めたのだ。

 その日、俺は仕事の手伝いをサボり、たまたま村の近くにある草原で遊んでいた。
 異変に気付いたのは、帰ってどう言い訳しようか等と考えている時だった。
 突如、地鳴りがしたかと思うと、村から煙が上がっているのが見えた。

 急いで村に戻ると、そこは地獄だった。モンスター達が、村を襲っていたのだ。
 今思ってもおかしな光景だと思う。同種のモンスターならまだしも、違う種類のモンスター達が、力を合わせて人間を襲っていたのだから。

 俺は一目散に自分の家に向かった。その時モンスターに襲われなかったのは、幸運だったからだろう。
 家に着くと、玄関には家族を守るように立ちふさがり、立ったまま体中から血を流した父親が事切れていた。
 その後ろで、幼い弟を守るように必死に抱きかかえる母が居た。
 見た事もない大型のモンスターが、今まさに母親に襲い掛かろうとしている状況だ。
 人型で、斧を持った。ゴブリンやオークなんかとは違う、でも人間ではない、はっきりとモンスターと分かる生物だ。

「やめろ!」

 母親を守ろうと、駆け出した。その時は全てがスローモーションのように見えた。
 得体の知れないモンスターがゆっくりと斧を振り下ろし、弟もろとも母を切り裂いたのだ。

「アン……リ……逃げ……て」

 俺が聞いた、母親の最後の言葉だった。
 
「うあ……うわぁああああああああああああああ!!!」

 その時俺は、母親の敵であるモンスターを前に、泣いて逃げ出したんだ。
 母親が逃げてと言ったからじゃない。怖くて恐怖心から逃げ出した。
 もちろん、ガキの足で逃げ切れるわけもなく、すぐに追いつかれた。
 尻もちをついて、もう駄目だと思ったその瞬間だった。

「『投刃』ッ!」

 何が起きたか分からなかった。急にモンスターの右手が、斧を握ったまま吹き飛んでいったんだ。
 尻もちをついた俺の元に、3人のおっさんが守るように立ちはだかると、モンスターは右手を抱えて逃げて行った。

「坊主。大丈夫か? 血が出てる。どこをケガした!?」

「落ち着いてください。転んでケガはしているみたいですが、返り血みたいですよ」

 俺を心配する剣を持った男性に対し、もう一人の男性が温和な笑みを浮かべ、傷を治してくれた。
 
「『上級回復魔法エクスヒーリング』ほら、これで走れますね?」

「は、はい」

 立ち上がる俺に、頷きかけてくれる。
 状況の飲み込めない俺は、呆然と立ち尽くし、崩壊する村を見るしかなかった。
 助けを求める悲鳴すら、もう聞こえない。ただ獣のようなうめき声がそこかしこから聞こえてくるだけだった。

「おい、そろそろここもヤバいぞ。あいつはまだ戻ってこないのか?」

「おまたせ~」

 ヘラヘラとした様子で現れたソイツに、俺はその時嫌悪感を持った。
 こんな状況で笑っているなんて、クソヤロウだって。

「おせぇよ。どこぶらついてやがった!」

「すまんすまん。生存者を探していたが、もうここに生存者は居ないみたいだ。モンスターも集まってきてる。ズラかろうぜ」

 ズラかる。つまり逃げるって事か?

「待ってくれ。まだ父さんと母さんと弟が居るんだ!」

「残念だが坊主、もう生きちゃいねぇ。『気配感知』でこの辺りの生きてる人間は俺達しか反応が無い」

「そんな事はない! お願いだ! 助けてくれ! 弟はまだ歩く事すらままならないんだ!」

 そんな俺を、ヘラヘラした男は小脇に抱えた。

「ここで問答する気はねぇ。生きて帰ったら文句を聞いてやらぁ」

「待て、放せよ。まだ生きているんだ。絶対に生きているんだ」

 今思えば、何を言っているんだと思う。
 目の前で殺されたのを見て、怖くて逃げたくせにな。

「逃げるぞ。『上級雷魔法ダンシングクレイジーズ』で辺りの魔物を吹き飛ばして、追撃されないようにしろ」

「待て、そんな事をすれば村の人間が」

「生存者はいねぇ。それにほっといても魔物の餌になるだけだ。恨むなら俺を恨め。これはリーダーの命令だ。やれ!」

「チッ……。安心しろ。俺も同罪だぜダンナァ」

 『上級雷魔法』。男性がそう唱えた瞬間に、辺り一面が光ったと思うと、轟音が鳴り響いた。
 雷に打たれ、次々と家が焼かれ、吹き飛び、それを見て俺は泣きながらずっと叫んでいた。


 ★ ★ ★


 そこからどうやって村を出て、ここまで来たかはあまり覚えていない。
 完全に放心していた俺を、4人は安全な孤児院まで連れて来てくれたんだ。

「じゃあな坊主。達者で暮らせよ」

 剣士のおっさんは、俺の頭をなでると振り向かずに去っていった。
 俺はそんな命の恩人に対し、最悪な言葉を言ってしまったんだ。

「なんで、父さんと母さん。弟を助けてくれなかったんだよ!」

 俺の言葉に4人は振り返らず、ゆっくりと歩いて行った。
 俺は、去っていくその背中に、見えなくなるまで文句を言っていたんだ。

 彼らが悔しさから、血が出る程に拳を握っている事にも気づかずに……。

「だから俺は、もう一度あの冒険者達に会って、ちゃんと礼を言いたい。『助けてくれてありがとう』と。そして、あの日言った言葉を謝りたい。それが今の目標だ」

 そう言って、話を締めくくった。
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