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第2章

第6話「よろしくね、アンちゃん」

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「はぁ。疲れた」

 宿屋に戻り、ベッドにダイブする。
 新人の教官で、依頼のランクもそれに合わせた低い物を選んだ。
 なのにものすごく疲れた。どういう事だ。
 答えは簡単だ、新人が異常過ぎる。

「問題は山ほどあるが、鍛えればモノになる」

 ベルは引っ込み思案だが、いざ戦闘になればタンクとしての役割を見事に果たしている。
 『ヘイトコントロール』の扱いが上手くできるようになれば、一流のタンクになるだろう。

 モルガンは場を見る能力に優れている。経験はまだ足りていないが、それでも十分な程だ。
 それにパーティの”もしも”があった場合でも、彼女の『完全回復』で即死以外の事故ならリカバリー出来るのだ。
 自分の行動一つで全滅の危険性がある。だが、気にしすぎて慎重になり、精神をすり減らせばいつか壊れる、彼女が居ればそんな不安も和らぐ事が出来る。 
 俺が会話中に困ればすぐにフォローを入れてくれたりと、何かと気が利く性格だ。

 クーは……うん。性格の事は、この際置いておこう。
 本来魔法使い系の職は近接戦闘が苦手なのだが、クーは俺と共に前衛を張るだけの動きが出来る。
 なので守る対象をベルだけにする事で、俺は戦闘に集中しやすくなる。

「最初はかなり尖って見えたが、こうしてみると良い感じに嚙み合っているな」

 とはいえ、決めるのはあいつらだ。
 頃合いを見て、正式にパーティを組まないか話をするか。 
 
「教官、居るか?」

「ちょ、ちょっとクーちゃん。いきなり開けたらダメだよ」

 バタバタと足音が聞こえてきたと思ったら、部屋のドアが勢いよく開かれた。
 驚きベッドから跳ね起きた。ドアの方に目を向けると、ベル、クー、モルガンが立っていた。

 ドアを開けたのはクーだろう。その後ろで申し訳なさそうな顔をしながら俺に頭を下げるベルと、そんなクーの頭をはたいているモルガンが居る。

「せめてノックぐらいしろ」

「わかった!」

 コイツ開いたドアをノックし始めやがった。
 馬鹿にしてるのかと思ったが、多分素でやっているのだろう。
 怒る気にもならない。

「今度からノックはドアを開ける前にするんだぞ」

「わかった!」

「ノックして返事が来てから開けるんだぞ」

「わかった!」

「本当に分かったのか?」

「うん!」

 満面の笑みで返事をするクー。
 多分分かってないな。

「クーは昔からこうなのか?」

 クーは一旦無視して、モルガンに話しかけてみる。
 クーの家が道場をやっている事を知っていたりするから、2人は顔見知りの仲なはずだ。

「いえ、昔はもう少しまともだったのですが」

 苦笑気味だったモルガンが、俯く。

「モンスターと戦って、クーが瀕死になるたびに『完全回復』をかけてたら、少しづつ変になって……もしかして、『完全回復』のせいでしょうか?」

「それは無いと思うから安心しろ」

 何度も瀕死になるまで戦わせていれば変にもなるだろ。『完全回復』のせいじゃなく、お前のせいだと突っ込みたいが、やめておこう。
 割と本気マジな顔をしているから、下手な事を言えば本気で気に病んでしまいそうだ。

「しかし、なんで瀕死になるまでモンスターと戦ったんだ?」

 わざわざ命の危険をおかさなくても、道場ならいくらでも相手が居るだろうに。

「クーが武闘家適性が無いからって、誰も相手してくれないからだ!」

「私とクーの村は人族だらけの小さな村で、格闘適性がある人が多く、生まれて来る子供も格闘適性がある子たちばかりです。なので、格闘に適性が無いクーやハーフエルフの私は、いつものけ者のような扱いで相手が居なかったんです」

 あー……。
 子供ってのは自分たちとちょっと違うだけで、平気で仲間外れにしたりイジメたりするからな。

「だからクーは、立派な武闘家になるために村を出たんだ」

「私はそんなクーに付いて行って、一緒に村を出ちゃいました」

「そうなのか」

 俺やベルみたいに選択を迫られたわけじゃなく、自分の意思で冒険者になったのか。
 帰る家があるくせになんて思わない。家があっても、居場所が無ければ意味が無いのだから。

 っと完全に話が逸れていたな。
 湿っぽい空気になって来たし、少し露骨だが話題を変えていこう。

「ところで、俺の部屋まで来て何の用だ?」

「えっと。ボクがアンリさんと初めて会った時の話をしていたんだけど、最初は部屋の取り方が分からないからって一緒に寝てくれた話をしたら」

「クー達も一緒に寝る!」

 なるほどね。

「流石にこのベッドで4人寝るのは無理だぞ」 

 クー達を見ながらベッドを指さす。
 普通のシングルベッドで、2人でも厳しいくらいだ。

「でしたら、床で寝るしかないですね」

「意外だな。姉として止めるかと思ったのだが」

 本当の姉妹ではないが、長年一緒に居たのだから姉妹同然だろう。
 世話のかかる妹の面倒を見るために、モルガンは一緒に村を出たと思ったのだが。

 もしかして、モルガン達もベル同様に、異性に対し警戒心が薄いのか?

「あの……クーのが私より年上ですよ、一応」

 俺の言葉の意をくみ取ったモルガンが、そう言った。

「お姉ちゃんだぞ。エッヘン」

「マジかよ」

「もしかしてクーちゃん、ボクよりも年上なのかな?」

「クーは19歳だぞ」

「しかも俺よりも年上だと!?」

 ずんぐりまなこにちんちくりん。
 言動が幼く、これを年上と認識するのは無理がある。 

 もしかしてホビットか何かじゃないかと思ったが、ホビットやドワーフのような低身長の種族は身長が低くても、顔や言動は立派な大人だ。
 
「ボクよりも4つも上なんだ」

「あら。ベルさんは私と同い年なんですね」

「教官もベルも、クーをお姉ちゃんと呼んで良いぞ!」 

「ボク一番年上だったから、お姉ちゃんに憧れてたんだ!」

 ベルは嬉しそうにクーにお姉ちゃんと呼んでいる。
 胸を張ったクーが俺をチラチラ見て来るが、お姉ちゃんと呼ぶ気はない。
 
「クー」

「クーお姉ちゃんと呼びなさい」 

「飴が余ってたから、お前にやろう」

「わぁい! 教官ありがと!」

 クーの頭を撫でながら、飴を渡す。
 飴を受け取ると、クーは喜んでそれを口に放り込んだ。やっぱガキじゃん。

「モルガンもクーも俺をわざわざ教官と呼ばなくて良いぞ。ベルも名前で呼んでいるし、教官と言われると何だかむずかゆくなる」

「アンリですね。はい。分かりました」

「分かったぞ。よろしくね、アンちゃん」

 アンちゃんだと俺のが年上みたいになるが……まぁいいか。

「こちらこそよろしくな」
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