上 下
16 / 50
第2章

第5話「こいつらヤベェ」

しおりを挟む
「ベ~ル~」

「ご、ごめんなさいぃ」

 俺達の眼前には、焼け焦げたモンスターの死体が大量に積み重なっている。
 なぜこんな状況になっているかというと、話は少し遡る。


 ★ ★ ★


 街への帰り道、街道を歩いている時だった。

「あの、アンリさん。お話があります」

「どうした?」

 せっかく後輩が出来たのに、自分は先輩らしいことをまだしていない事に気づいたベルが、戦う姿を見せたいと言い出したのだ。
 戦闘なら、オークの時に十分活躍できたと思うのだが、本人としては物足りないらしい。
 自分から戦いと言い出した事には成長を感じる。

 しかし、いくら補助バフ阻害デバフを使ったからと言って、オークを相手にして物足りないか。
 これは悪い兆しだな。調子に乗ってしまっている。

 やはり補助というものをちゃんと説明した上で、実感してもらわないといけないな。
 俺がかけた補助は20個ほど。一つ一つの効果量は小さいが、これだけかければ馬鹿に出来ない量になる。

 自分で補助有りと補助無しで戦ってみた事がある。
 結果は補助をかけると、大体ランクが2、3個くらい上までのモンスターが相手に出来た。 

「ふむ。狙いすましたようにゴブリンの群れが居るな」

 補助無しで戦わせるのは、良い機会だな。

「ベル。お前は『プロヴォーク』をかけてタンクをしろ」

「はい」

「クーがアタッカーで、モルガンはベルのサポートだ。

「わかったぞ!」

「了解しました」

「俺は手を出さないから、3人で連携して倒してみろ」

 見渡の良い平原でキャッキャと遊んでいるゴブリンが4匹。まだこちらに気づいて居ないようだ。
 こいつらは先ほどのオークと比べれば、いや、比べなくても雑魚だ。だが今のベル達には補助をかけていない。ゴブリンに阻害をかけるつもりもない。

 補助が無ければ、雑魚のゴブリンですら簡単には倒せない事を体で覚えて貰おう。そんな考えだった。

「ベル、くれぐれも気を付けろよ」

 ユニークスキルの『ヘイトコントロール』で、下手をしたらここいら一帯のモンスターが釣れてしまう可能性もある。
 だからベルが『プロヴォーク』をする時は、出来る限り音が鳴らないように気を付けながら音を出している。

「分かりました! 『プロヴォーク』」

 自信満々の笑みで、ベルは盾を叩き音を鳴らした。ガンッとデカい音を立てて。
 良い所を見せようとりきんだベルが、思い切り音を鳴らしてしまったのだ。

 直後、地響きが鳴り始めモンスターが集まり始めた。
 クーは何もわかって居ないようだが、モルガンはオロオロしながら明らかな異常に気付いて居る。

「作戦変更だ。俺がモンスターの相手をするから、クーとモルガンはベルの護衛を頼む。危なくなったらベルから離れろ。そうすれば多少は安全になる」

 モンスターの狙いはベルだけだ。それ以外は目もくれないだろうから、最悪ベルから離れれば狙われる事は無い。
 離れられたらベルへの護衛が手薄になるが、原因がベルなのだから、もし2人が逃げ出したしてもベルの自己責任だ。

 まずは近くにいるゴブリン4匹が邪魔なので、『飛剣』で斬撃を飛ばしさっさと始末した。
 遅れてやってくるであろうモンスターに備え、詠唱をする。
 しばらくして、こちらへ向かって来るモンスターの姿が見えてきた。

「『上級雷魔法ダンシングクレイジーズ』」

 魔法使い系のレアスキル『上級雷魔法』。広範囲の雑魚を散らすには、コイツが一番適している。
 難点はモンスターが黒焦げになって、討伐証明部位を取れない事だが、まぁ仕方がない。
 俺だけならまだしも、こいつらのおもりをしながらだ。安全が第一だ。

 雷がモンスターを襲う。
 何匹か集団からすり抜けたモンスターが、ベルの元へ向かっているのが見えた。
 ベル達が緊張の面持ちで迎え撃っている。助けに行きたい所だが、俺はここで『上級雷魔法』を維持しなければならない。
 ベル達が無事にしのいでくれることを祈るだけだ。

「これで最後っと」

 俺の魔力が底をつきかけたので『上級雷魔法』を解除した。
 残った魔物は10にも満たない。しかも既に満身創痍の状態だ。
 ほっといても力尽きるだろうが、一応トドメは刺しておくべきだな。

「よっと」

 近くにある石を拾い、スキル『狙撃』を発動させて投げつける。
 本来は狙撃手《スナイパー》系の弓で狙いをつけるスキルだが、一応投擲でも効果がある。
 俺の投げた拳サイズの石が、モンスターの頭に次々と命中する。
 モンスターは倒れて起き上がらない。どうやら仕留めたようだ。


 ★ ★ ★


 ベルに軽く説教をした。
 命の危険があるかもしれないのだから、もっと怒るべきだとは思うが、『ヘイトコントロール』は扱いが難しそうなスキルだ。
 あまり叱り過ぎて、負い目を感じて使わなくなっても困る。

「叱りはしたが、それで教官を辞めたりする事はしない。一人前になってから失敗したら説教程度じゃ済まない、だから今の内に存分に失敗しておけ」

 そう言って、説教は〆た。
 

 ★ ★ ★


 さて、先ほどの戦闘でクーが手をケガしたと聞いたが……

「気合が足りないわ!」

「気合! クーもっと気合入れる!」

 握りこぶしを作り、2人は何やら叫んでいる。

「その程度のケガ。気合で何とかしなさい!」

「うん!」

 当然そんな事で傷が癒えるわけもなく、クーの腕からは血がドバドバ流れ出ている。

「お前ら……何やってんの?」

「「気合でケガを治してる!」」

 綺麗にハモらせて返事が返って来た。

「モルガン。お前、実は武闘家だったりする?」

「いえ、僧侶クレリックですが」

「回復魔法が使えないとか?」

「どちらかというと、得意な方ですね」

 ドヤ顔をしてる辺り、本当に得意なんだろう。
 じゃあ何でこんな事をしているのか聞きたいが、やめておこう。聞けば頭が痛くなりそうだ。

「あー、モルガン。お前の実力を知りたいから、クーに回復魔法をかけてやってくれ」

 気合じゃ治らないと言っても頑なに否定されそうなので、実力を測るという口実を取る。
 
「分かりました」

 意外にも素直に聞き入れてくれた。
 もっと反論されると思っていたので助かる。

 クーの傷を見ると、腕を10センチほどバッサリ切れていた。
 鋭利な刃物ではなく、鋭い爪か何かで引っかかれたような傷だな。

 このサイズのケガなら、治すのに俺が使える回復系のスキル『上級回復魔法《エクスヒーリング》』だと治るのに10分といった所か。
 『中級回復魔法ハイヒールなら15分、『初級回復魔法ヒール」なら20分はかかるだろう。 

 モルガンが初級回復魔法しか使えないなら、回復は俺がやろう。
 時間がかかる事よりも、初級回復魔法だとケガの跡が残りやすい。
 クーは女の子だ。身体に傷跡なんて残したくないはずだろう。

「クー。治すから腕を出して」

「うん。モルちゃんよろしくね」

 クーが「はい」と言って腕を出した。
  
「『完全回復フルヒール』」

「クー完全復活!」

 一瞬でクーの腕の傷が治った。
 死んでさえいなければ一瞬で回復させるユニークスキル『完全回復』か。
 にわかに信じがたいが、クーの腕を見ると出血した際の血が付いてるだけで、傷はきれいさっぱり消えている。
 
「どうでしょうか?」

「どうでしょうかって……」

 『ヘイトコントロール』『魔力伝導』『完全回復』
 ユニークスキルのオンパレードかよ。
 ユニークスキルが本当に希少なスキルなのか疑いたくなってくる。

「こいつらヤベェ……」

 どうやら俺は、とんでもない新人を受け持ってしまっていたようだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

無能スキルと言われ追放されたが実は防御無視の最強スキルだった

さくらはい
ファンタジー
 主人公の不動颯太は勇者としてクラスメイト達と共に異世界に召喚された。だが、【アスポート】という使えないスキルを獲得してしまったばかりに、一人だけ城を追放されてしまった。この【アスポート】は対象物を1mだけ瞬間移動させるという単純な効果を持つが、実はどんな物質でも一撃で破壊できる攻撃特化超火力スキルだったのだ―― 【不定期更新】 1話あたり2000~3000文字くらいで短めです。 性的な表現はありませんが、ややグロテスクな表現や過激な思想が含まれます。 良ければ感想ください。誤字脱字誤用報告も歓迎です。

称号は神を土下座させた男。

春志乃
ファンタジー
「真尋くん! その人、そんなんだけど一応神様だよ! 偉い人なんだよ!」 「知るか。俺は常識を持ち合わせないクズにかける慈悲を持ち合わせてない。それにどうやら俺は死んだらしいのだから、刑務所も警察も法も無い。今ここでこいつを殺そうが生かそうが俺の自由だ。あいつが居ないなら地獄に落ちても同じだ。なあ、そうだろう? ティーンクトゥス」 「す、す、す、す、す、すみませんでしたあぁあああああああ!」 これは、馬鹿だけど憎み切れない神様ティーンクトゥスの為に剣と魔法、そして魔獣たちの息づくアーテル王国でチートが過ぎる男子高校生・水無月真尋が無自覚チートの親友・鈴木一路と共に神様の為と言いながら好き勝手に生きていく物語。 主人公は一途に幼馴染(女性)を想い続けます。話はゆっくり進んでいきます。 ※教会、神父、などが出てきますが実在するものとは一切関係ありません。 ※対応できない可能性がありますので、誤字脱字報告は不要です。 ※無断転載は厳に禁じます

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

女神様からもらったスキルは魔力を操る最強スキル!?異種族美少女と一緒に魔王討伐目指して異世界自由旅!

覇翔 楼技斗
ファンタジー
 気がついたらいきなり女神様に自分が死んだことを伝えられた全 鳴海は、女神様にチートありで異世界転生させてあげる代わりにお願いを聞いてくれと頼まれる。  もちろんそのお願いを受けた鳴海はその内容を聞き少し後悔しつつ、しかし『全能操《ぜんのうそう》』というなんと魔法やスキルといった魔力を操るチートスキルを貰って転生する。  最初にやってきた街で冒険者として稼いで生活をしていると、魔物に追われている謎の少女と出会う。しかもその少女は命を狙われていた?!  これは、女神様から貰ったチートを駆使して異世界を自由に(魔王討伐をちょっと忘れつつ)旅しながら世界を救う、歴史どころか世界そのものに影響を与える物語。  ・備考  作者が序盤から最強主人公があまり好みでは無いため序盤はあまり主人公が強くなく、基本的にかっこよく活躍するのは他のキャラになっています。ですが、後々最強になるのは好きなので終盤にはとんでもないチート主人公になってると思います。  ヒロインは13話ぐらいから出ます。  タイトル通りメインヒロインズは人族ではありませんが、ガチガチのファンタジーでは無いので肌の色が赤とか青とか顔が動物だとかそういうのでは無いです。(メインヒロインには)  それと、思い出したようにシリアス要素も入れてきます。  この作品は作者の初作品です。初心者なのでグダグダしてるところもあるかも……(許して)。  頑張って投稿してるので、応援してくれると嬉しいです。週一(月曜日)投稿頑張ってます。  この作品は「小説家になろう」「カクヨム(先行)」にも掲載してます!  旧タイトル『女神様からとんでもないチート貰ったので異世界で無双する!〜え?最強の魔法使い?それがどうしました?~』『ぶっ壊れチートスキルで魔王討伐目指して異世界自由旅!〜異種族美少女達を添えて〜』

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

八百長試合を引き受けていたが、もう必要ないと言われたので圧勝させてもらいます

海夏世もみじ
ファンタジー
 月一に開催されるリーヴェ王国最強決定大会。そこに毎回登場するアッシュという少年は、金をもらう代わりに対戦相手にわざと負けるという、いわゆる「八百長試合」をしていた。  だが次の大会が目前となったある日、もうお前は必要ないと言われてしまう。八百長が必要ないなら本気を出してもいい。  彼は手加減をやめ、“本当の力”を解放する。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

無限初回ログインボーナスを貰い続けて三年 ~辺境伯となり辺境領地生活~

桜井正宗
ファンタジー
 元恋人に騙され、捨てられたケイオス帝国出身の少年・アビスは絶望していた。資産を奪われ、何もかも失ったからだ。  仕方なく、冒険者を志すが道半ばで死にかける。そこで大聖女のローザと出会う。幼少の頃、彼女から『無限初回ログインボーナス』を授かっていた事実が発覚。アビスは、三年間もの間に多くのログインボーナスを受け取っていた。今まで気づかず生活を送っていたのだ。  気づけばSSS級の武具アイテムであふれかえっていた。最強となったアビスは、アイテムの受け取りを拒絶――!?

処理中です...