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第1章

第9話「それならもう倒した」

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 ベルを連れてギルドに戻る頃には、既に日も傾き始めていた。
 俺の隣を歩く、ベルは耳をぺたんと落とし少々俯き気味だ。

 彼女が落ち込んでいる理由二つある。
 一つは討伐した魔物の殆どが、雷で丸焦げになっていたため証明部位が取れなかったからだ。
 今日の成果は、俺の手元にあるのはラビット種の皮と肉が2匹分。ラビットウルフの討伐証明部位と、ゴブリンの討伐証明部位。
 それとタイガーベアの頭だ。こちらはベルに持たせている。

「あっ……」

「どうした?」

「いえ、何でもないです……」

 目が合った。
 そして何か言おうとして、口をつぐむ。 
 
 逃げ出した事に負い目を感じているのだろう。
 俺自身は気にしていないし、本人にもそう伝えたのだが、そうそう切り替えれるものではないか。
 これが落ち込んでる理由の二つ目だ。

「なんだか騒がしいな」

 ギルドにつくと、冒険者たちが集まってざわついている。
 夕暮れのこの時間だ。大方酔っぱらって冒険者同士で喧嘩を始めたか何かだろう。
 
「何かあったのかな?」

「さぁな。まずは報告に行くぞ」

 何があったか分からないが、変に絡まれてもめんどくさいだけだ。
 無視して、まっすぐギルドのカウンターを目指す。
 
「アンリさん! ベルちゃん!」

 カウンターにいたニーナが、俺達の姿を見つけ叫んだ。

「討伐依頼の報告に来た」

「はい、報告ですね。って違いますよ! お二人は大丈夫だったのですか!?」

「話が良く分からない。説明してもらって良いか?」

 ちなみに大丈夫かと問われ、ベルは苦笑している。
 ニーナの大丈夫かと、ベルの大丈夫かでは大分意味が違うのだろうが。まぁこの際置いておこう。

「ラビットの森で、モンスターの大群が街に向かって押し寄せてるという情報が、今しがた入りました!」

「モンスターの大群ね」

 ベルに続いて俺も苦笑をした。

「それはもしかして、タイガーベアを率いた大群か?」

「はい。もしかして、アンリさんも見かけたのですか!? 冒険者を募って、今から緊急依頼を出す所なので、帰って早々お疲れの所申し訳ありませんが」

「あー、それならもう倒した」

「はっ?」

 俺の言葉に、ニーナだけでなく冒険者達も反応し、一斉にこちらを振り向いた。
 俺はカウンターに討伐部位と、ラビット種の皮をカウンターに置いた。
 続いて、ベルがタイガーベアの頭をカウンターに置く。

「討伐証明として、頭丸ごと持ってきたぞ」

「な、なんで頭を丸ごと持ってきてるんですか!?」

 驚きの表情を浮かべるニーナに対し、ベルも困惑している。
 ニーナはともかく、ベルが困惑するのは仕方がない。討伐証明部位は頭部だと、俺が嘘を教えたからだ。

「『倒した獲物をニーナに自慢したい』と言い出したから、頭部を持ってこさせた」

「ボク、そんな事言ってないよ!」 

 はいはいとベルをあしらう姿を見て、ニーナは何となく察してくれたようだ。

「タイガーベアを倒した自慢がしたくて頭部を持ってくるなんて。飼い主に自慢するネコさんみたいですね」

「だから違うってば!」

 クスクスと笑うニーナに対し、顔を赤らめて抗議するベル。
 少し和やかな空気だが、冒険者達は違った。

「おい。あの新人ルーキー、タイガーベアを倒したってマジかよ」

「どうせアンリが倒しただけじゃねぇの?」

「でもアンリって、役立たずで追放されたんだろ? その後パーティメンバーにボコられたって話じゃねぇか」

「アンリをボコったドーガ達じゃ、タイガーベアを倒すのは難しいだろ。じゃあ、あの女が相当つええって事じゃねぇのか?」

 遠巻きに、ベルを警戒する声が聞こえる。
 これでさっきみたいに後を付けて、変な事をしようとする輩は居なくなるだろう。

「おっ」

 見かけた顔があった。さっき俺達の後を付けてきた3人組だ。

「彼らがモンスターの大群が迫ってきている事を知らせてくれた冒険者達なんです」

「そうか」

 俺は討伐報酬を受け取り、3人組に近づいた。
    
「よう、また会ったな」

「……ご無沙汰しております」

 3人は必死に目を逸らし、愛想笑いを浮かべている。
 もうちょっとイジメてやりたい所だが、周りの目もあるし程々にしてやるか。

「これ、忘れものだぞ」

「恐縮です」

 剣を受け取り、少し複雑そうな顔をされた。
 一応ふき取ったとはいえ、剣には血が付いてるからだ。このままでは錆びてしまうかもしれない。

「悪いな。勝手に使わせてもらった。こいつは弁償代と思って受け取ってくれ」

 適当に金貨を数枚握らせた。多分ナマクラ2本くらいは買える金額だ。
 タイガーベアを倒すためとはいえ、勝手に使った事に関しては俺が悪い。
 俺に盗まれたとか変な噂を流されても困るし、これで手打ちにしてもらいたい。
 実際、金貨を受け取った冒険者はほっこり顔をしているし、問題ないだろう。

「もし、また良からぬ事を考えていたら、次はお前らの首が並ぶからな」

 とはいえ、金を払った事によって舐められても困る。
 離れる際にボソッと耳元で呟き、クギを刺しておいた。

「ベル。そろそろ行くぞ。暗くなると宿が無くなる」

「あっ、待って」

 冒険者ギルドを出ると、外は暗くなり始めていた。
 まだベルは俯いたままだ。仕方ない。

「ベル」

「はい!」

 ビクッと反応をするベルの頭に、そっと手を置いた。

「明日もよろしくな」

「……はい!」

 満面の笑顔で返事が返って来た。
 うむ。よろしい。
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