上 下
6 / 50
第1章

第6話「この数のモンスターが、今ので釣れたのか?」

しおりを挟む
「これで、良しと」

 討伐証明部位として倒したラビットウルフの右前足を切り落とし、ベルの元へ戻ってきた。
 不安そうな顔をしたベルが、俺を見つけるとパッと笑顔になった。

「アンリさん、どこに行ってたんですか。怖かったんですよ」

「すまんすまん。近くで冒険者が襲われていたから、助けに行っていたんだ」

「さっきの『助けてくれ~』って悲鳴ですか?」

「そうそう」

「ふーん」

 ベルはジーっと俺を見て来る。
 う、嘘は言っていないぞ! 

「アンリさんって、優しい人なんですね」

 そう言って、ベルは笑顔で手を叩いた。

「いや、そんな事は無いぞ」

 うん。マジで。

「困ってる冒険者さん達を助けたんでしょ?」

 困らせたのは俺だ。あいつらの自業自得でもあるんだけどさ。
 俺のやった事は単なる自作自演だ。褒められるいわれはない。

「それに、わざわざボクなんかの為に教官をやってくれているし」

 教官だってお前の為じゃなく、俺自身が困っていたからやっただけだ。
 とはいえ、ここで無理に否定する必要もないか。
 成り行きとは言え、ベルをほっとけないと思うのは事実だ。

 彼女は本人に責のない、理不尽な理由で冒険者にならざるを得なかった。
 俺はかつて理不尽に家族を殺され孤児になった。だからベルを見捨てる気にはなれなかった。

「俺はガキの頃。冒険者に命を救ってもらった事があるんだ」

「命を、ですか?」

「あぁ。だから俺はもう一度その人に会って、助けてくれたお礼をしたい。『アンタの助けたガキは立派に育ったぞ』って」

 もう一度会ったら、胸を張って自分が誇れるように。なんていうのはちょっと照れくさいな。

「す、す、す」

「す?」

「素晴らしいです! ボク感動しました! アンリさん、ボクもアンリさんがその人に会えるように、お手伝いしたいです!」

「お、おう」

 ベルは、体が密着するんじゃないかというほど俺に近づいてくる。

「ボクに何かお手伝い出来る事はないですか!?」

「そうだな。まずは一人前の冒険者になる事から始めようか」

「はい! 頑張ります!」

 自分の事でいっぱいいっぱいなはずなのに、手伝いたいと申し出るなんて。お人好しな性格なのだろう。 
 悪い気はしない。かつてドーガ達に話した時は小馬鹿にされて軽い喧嘩になったくらいだし。

「それでは、次は何をしましょうか?」

「そうだな。もう必要数は狩ったから、終わりにするか」

 顔を背け、頬をポリポリとかいてみる。
 昔話に対し、熱く反応されたから気恥ずかしくなっただけであって、決してベルが顔を更に近づけて来たから背けたわけじゃないぞ。本当だぞ?

「そうですか……」

「最後にベルの能力を見ておきたいから、もう一度くらい狩りして行くか」 

 しょんぼりと垂れた耳が、俺の言葉に反応してぴょこぴょこと動く。
 せっかくやる気を出してくれているんだし、もう一回くらい何か狩るか。

 この時は軽い気持ちだった。
 この後俺は、自分の発言を後悔する事になる。

「この先に、モンスターの反応があるな。次はベルが『プロヴォーク』をやってみようか」

「分かりました。ところで、スキルはどうやって発動させれば良いんですか?」

「『プロヴォーク』はモンスターの注意を引くイメージをしながら、音を立てるんだ」

 俺の言葉に対し、素直に返事をして「注意を引く」と何度もぶつぶつと小言で言っている。
 発動させるまでの間に、俺は補助バフスキルをベルにかけていく。

 まずは敏捷性と、耐久を上げておくか。
 土の精霊の加護付与。風の精霊の加護付与。

 それと物理と魔法対策も一応しておこう。
 物理結界付与。魔法結界付与。

 さっきのように戦っていたら、攻撃が当たっても意味ないだろうし腕力とかも上げておいた方が良いな。
 パワーアップ付与。ウェポンエンチャント付与。

 おどおどした性格だから、スキルがちゃんと発動するか不安だし、スキルブーストさせておくか。
 スキル範囲拡大。スキル効果増幅。

 他にもいくつか補助バフをかけておいた。

「それでは行きます!」

 ベルは盾と木の棒を高く掲げた。

「プ、プロヴォーク!」

 叫ぶわりには、控えめな音がした。
 この程度の音では、スキルは不発だろう。
 もう一度やり直してもらうか。

「ん?」

 『気配感知』に次々と反応が現れる。それも10や20なんて数じゃ済まないほどの。
 それら全てがこちらへ向かって来ている。

「も、もう一度やってみます」

「待て待て! ストップ!」

 もう一度『プロヴォーク』を発動させようとするベルを必死に止める。
 この数のモンスターが、今ので釣れたのか?
 
「そんな馬鹿な」

 なおも増え続ける反応に、頬をひくつかせた。
 流石にこれはありえない。しかし、現実にモンスターの大群がまっすぐこちらに向かって来ている。

 やがて地響きがなり始めると、俺達の前に大量のモンスターが現れた。
 雑魚のラビット種からゴブリンや獣型モンスター。先ほど倒したラビットウルフまでもいる。

 そして、普段はめったにお目にかかれないようなモンスターまで確認できた。
 この森のボスと呼ばれる存在である、ひと際大きな巨体で、虎柄をした熊。タイガーベアだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラス転移で裏切られた「無」職の俺は世界を変える

ジャック
ファンタジー
私立三界高校2年3組において司馬は孤立する。このクラスにおいて王角龍騎というリーダーシップのあるイケメンと学園2大美女と呼ばれる住野桜と清水桃花が居るクラスであった。司馬に唯一話しかけるのが桜であり、クラスはそれを疎ましく思っていた。そんなある日クラスが異世界のラクル帝国へ転生してしまう。勇者、賢者、聖女、剣聖、など強い職業がクラスで選ばれる中司馬は無であり、属性も無であった。1人弱い中帝国で過ごす。そんなある日、八大ダンジョンと呼ばれるラギルダンジョンに挑む。そこで、帝国となかまに裏切りを受け─ これは、全てに絶望したこの世界で唯一の「無」職の少年がどん底からはい上がり、世界を変えるまでの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 カクヨム様、小説家になろう様にも連載させてもらっています。

勇者召喚に巻き込まれたモブキャラの俺。女神の手違いで勇者が貰うはずのチートスキルを貰っていた。気づいたらモブの俺が世界を救っちゃってました。

つくも
ファンタジー
主人公——臼井影人(うすいかげと)は勉強も運動もできない、影の薄いどこにでもいる普通の高校生である。 そんな彼は、裏庭の掃除をしていた時に、影人とは対照的で、勉強もスポーツもできる上に生徒会長もしている——日向勇人(ひなたはやと)の勇者召喚に巻き込まれてしまった。 勇人は異世界に旅立つより前に、女神からチートスキルを付与される。そして、異世界に召喚されるのであった。 始まりの国。エスティーゼ王国で目覚める二人。当然のように、勇者ではなくモブキャラでしかない影人は用無しという事で、王国を追い出された。 だが、ステータスを開いた時に影人は気づいてしまう。影人が勇者が貰うはずだったチートスキルを全て貰い受けている事に。 これは勇者が貰うはずだったチートスキルを手違いで貰い受けたモブキャラが、世界を救う英雄譚である。 ※他サイトでも公開

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

異世界をスキルブックと共に生きていく

大森 万丈
ファンタジー
神様に頼まれてユニークスキル「スキルブック」と「神の幸運」を持ち異世界に転移したのだが転移した先は海辺だった。見渡しても海と森しかない。「最初からサバイバルなんて難易度高すぎだろ・・今着てる服以外何も持ってないし絶対幸運働いてないよこれ、これからどうしよう・・・」これは地球で平凡に暮らしていた佐藤 健吾が死後神様の依頼により異世界に転生し神より授かったユニークスキル「スキルブック」を駆使し、仲間を増やしながら気ままに異世界で暮らしていく話です。神様に貰った幸運は相変わらず仕事をしません。のんびり書いていきます。読んで頂けると幸いです。

処理中です...