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第4章「ヴェル魔法大会」

第16話「ヴェル魔法大会 4」

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「試合再開は1時間後の予定となっております」

 司会者の男性がマイクを片手に、いつ試合が始まるかを説明している。
 さっきの試合で僕がバリアを壊しちゃったからね。正直申し訳ない。
 バリア自体は魔力で出来てるらしいから、魔力が充填されればすぐにバリアを張る事は出来るそうだ。
 ただ、バリアが壊された事は初めてらしく、念の為に故障していないか等の点検が行われている。

 1時間も進行が遅れれば会場は荒れるか心配していたけど、観客は以外にもすんなり受け入れていた。
 今の内にトイレに行く人や、試合内容を振り返って語る人、様々だ。
 また、一部の観客が観客席を飛び越え、リング上に乱入をして大道芸を披露したりしている。流石にダメだろと思ったけど、司会者さんはまるで事前に打ち合わせをしていたかのような流暢な説明を入れたりしていた。
 まぁ観客が暇を持て余すよりは、暇をつぶしてくれる人が居るならその人に任せようという感じなのだろう。その様子を見て一人また一人と名乗りを上げてはリングの上で各々が得意とする技を披露していた。

 僕らはと言うと、他愛のない会話をしている。
 ふと、「卒業後はどうするか?」と言う話になり、進路の事を話し合った。僕らは冒険者に戻り、学生の皆はそれぞれが違う道を歩む。こんな風にしていられるのもあと少しか。
 しんみりとした湿っぽい空気が流れだし、近くで同じような話題をしていた女の子グループが鼻を啜っているのが聞こえて来た。
 多分感化されてしまったんだろう、アリアを見るといつもの無表情で泣き出しそうな目になっている。それに気づいたサラやリン、イルナちゃん達やスクール君、クラスメイトも少し俯き加減だ。さっきまで和気藹々としていたのに。
 このまま伝染していって、皆が泣き出しても困るし、ここは一つ無理矢理にでも話題を変えてみよう。暗い空気よりも明るい空気の方が絶対いいはずだ。

「そういえば気になった事があったんだ」

 皆の視線が一気に僕へ集まる、「なになに?」と少し影を感じさせる笑顔で聞いてくる。皆もきっと空気の重さに耐えかねてたんだろうね。明らかな空元気だ。
 無理にテンションを上げようとしている。多分皆が皆お互いそう思ってると理解して、あえて乗ってくれているんだろう。

「さっきのマーキンさんの『浮遊』見てて思ったのですが」

 うんうんと、皆が頷いて僕の次の言葉を待っている。

「地剣術の『瞬歩』も、空剣術の『浮遊』も、剣関係無くないですか?」

 その瞬間、空気が固まった。
 え? もしかして僕おかしい事言った?
 だって『瞬歩』って凄く速く移動するだけだし、『浮遊』なんて原理は良く分からないけど、空をピョンピョンしてるだけじゃん?
 どう考えても剣は関係ないよね?

「それに『瞬戟』や『無手』も、別に剣じゃなくても良くないですか?」

 全員が笑顔で固まっていた。「何言ってんのコイツ?」と言わんばかりに。
 どうしようこの空気、誰も喋らない所か身動き一つしない。

「ジャンジャジャーン」
「うわぁあああああああ」

 空気を変えるために何か言おうとした僕の目の前に、人が降って来た。
 ソフトモヒカンの頭、素肌に毛皮のジャケットを着こんだチンピラのような出で立ち。最強の男キースさんだ。

「マジ最強なんでヨロシク!」

 決まり文句の挨拶だけど、もし負けたらなんて言うんだろ?
 
「空剣術の『浮遊』が知りたいと聞こえてきたから、文字通り飛んできたぜ」

「いえ、剣術って言うのに剣が関係ないって話を」
「それじゃあ『浮遊』について説明するな」 

 完全に無視されてる。
 もういいや、暗い空気も変な空気もどこかに行ったし、結果オーライさ。
 べ、別に悲しくなんて無いし!

 実際どうやって飛んでるかは興味がある。空を飛べるなら飛んでみたいと思わなくはないし。
 アリアやリンも原理は知らないようで、真剣な目でキースさんを見ている。周りの皆もだ。

「お前ら、良く目を凝らして目の前を見てみろ」

 言われた通りに目を凝らして前をじっと見る。勿論何も変化はない。

「わかるか?」

 うん、わからない。
 他の人も同じように分からないのか、どよめいた感じで「見えないよね?」と隣同士で話し合っている。
 もしかしてキースさんも魔眼持ちで、大気を流れる魔力が見えるとかだろうか?
 それなら魔眼を持っているシオンさんならわかるはず、だがシオンさんも僕と目が合うと「わからない」と言った様子で首を横に振った。

「すみません。サッパリわからないです」

「わからないのか、こことかにあるだろ?」

 そう言ってキースさんは指をさす、指をさす方向が結構な速度であちこちに動いているけど。
 彼の指の動きに注目しながらじっと目を凝らしてみるけど、やっぱり見えない。

「すみません。見えないのですが」

「しょうがないなぁ」

 そう言って彼は指を何度か摘み始める、何度目かでやっと掴めたのか、その摘んだ先を僕の前に出してくれた。
 他の人も興味津々で、彼の指の周りに集まって皆で目を凝らすが、やっぱり見えない。

「ほら、ここにちゃんとあるだろ? 塵が」

 嫌な予感がしてきた。

「これに乗って飛ぶんだよ」

 嘘でしょ!?
 塵に乗って空中をピョンピョンするなんて、どう考えても無理だ。
 ひょうきんな性格の彼だし、冗談で言ってるのだろう。
 でもヘラヘラしているけど、その眼差しは真剣だ。そして空剣術の歴史を語り始めた。
 話の内容は『空剣術を立ち上げた初代師範は、武道の達人が水辺に浮いた水草の上に乗って水上を歩いているのを見て、空剣術の『浮遊』を編み出した』という話だ。
 嘘だと思うけど、実際に目の前で空中をピョンピョンしているし。

「俺が教えている空剣術の道場では、『浮遊』を覚えるために塵に乗る練習を数年はやらせているよ」
 
 何もない所でジャンプして、その場で足をバタバタして塵に乗ろうとする姿を想像してみた。相当シュールだ。
 しかもこれを何年もやるのか。厳しい修行だ。
 と言うか「俺が教えている」って事は、キースさんは道場の主。つまり師範なのか。
 『浮遊』の練習法を聞いて何人か試そうと席を立つが、狭い場所だから周りの邪魔になる。隣の席の人に宥められ席に座らせれている。
 かくいう僕も、ちょっとだけ試してみたかった。アリアとリンも席を立ちはしないものの、その場で足元を見ながら塵に乗れるかどうか足を上下に動かしている。リンはスカートだから、足を上げるとパンツが見えちゃうからやめようか。

「すまない、一つ良いか?」

 シオンさんが苦い顔をして、キースさんに尋ねている。何かわからないことがあったのだろうか?
 確かに「塵に乗って飛ぶ!」と言われた時は僕も同じように苦い顔をしていたと思うけど、実際目の前でそれをやってくれたのなら疑う余地はないと思うけど。
 
「お前が飛ぶ際に、一瞬だが魔力で足場を作っているのが見えた」

 さっきの説明は嘘かよ!?
 後で隠れて練習しようかなと思っていたのに。

「俺の目は魔眼だから、魔力が見えるんだ」

 そう言って自分の目を指さすシオンさんに、皆驚いていた。『魔力感知』を持った人自体珍しいのに、更にその上位の『魔眼』だ。そんな物中々お目にかかれない。
 そして周りと一緒に、キースさんも驚いていた。他の人達とは別の意味で。

「えっ? じゃあこれ魔術なの?」
 
「魔法はイメージだ。多分そうやって塵に乗る練習を続けることで、塵に乗るイメージを強く意識し、無意識的に足場を作り出しているのだと思う」

「まじかぁ」

 「まじかぁ」って、その発言のが「マジか?」だよ。
 もしかして、空剣術は誰もその事に気付かないまま教え広まっていたの?
 使い手は魔術で作った足場なのに、塵に乗ってると思い込んでいるとか。ある意味凄いな。
 事実を知らされたキースさんはバツが悪そうな顔をして、頬をポリポリしながら目線を彷徨わせている。
 ハハハと苦笑気味に笑いながら、「う~ん」と頭をひねる。コロコロと百鬼面相のように表情が変わり、何か思いついたのか、凄い笑顔になった。

「じゃあ魔術師名乗ったらダメかな!?」

 ダメです。


 ☆ ☆ ☆


「準備が完了致しましたので、魔法大会を再開しようと思います」

 どうやらバリアの点検が終わったようだ。 
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