67 / 157
第4章「ヴェル魔法大会」
第4話「エリーのために」
しおりを挟む
男性恐怖症か。
グレンの性格を考えると、エリーさんがもじもじして頼りなくモンスターの接近を伝えたとしても、「あん!?」とか言う感じで声を荒げてしまうだろう。
そうなったら男性恐怖症の彼女は泣き出すか、何も言えなくなってモンスターが接近してても教えれなくなってしまう。その結果グレンが更に怒り出す悪循環だ。
一緒に居た剣士風の男性も、村人っぽい男性――多分彼が勇者だろう――も、彼女に対して庇ったりしようとした様子が無いのを見る限り、あまり良い印象を持っていないように思える。それはヨルクさんやベリト君もだ。
女性の居るパーティに入れれば解決だろうけど、そんなパーティがあったら既に入れて貰ってるはずか。
パーティ分けでこっちの男性陣が僕、ヨルクさん、ベリト君なのは、比較的性格が温和な男性を選んだわけだな。エリーさんが少しでも男性に慣れる為に。
ランベルトさんの意図を考えると、リンやローズさんに慰められながら隣でシクシク泣いてエリーさんと、出来るだけ話したほうが良いんだろうけど、正直話しかけるたびにビクビクされたり泣かれたりするのはやだなぁ。
ヨルクさん達も出来るだけ彼女と接触しないようにしてるし、ローズさんと喋りたいってのもあるだろうけど。
そうだ、ローズさん達が冒険者になるっていうんだから、彼女をそこのパーティに入れてもらえば解決じゃないか!?
いや、卒業まで二週間以上ある。卒業してすぐに冒険者を始めるとは限らないし。そもそも学園に通うほど裕福な家の親が、学園から帰ってきた子供が「冒険者になります」と言って「はいそうですか」と答えてくれるとは思えない。もう少し時間がかかるだろう。
遠巻きでこっちを見ているヨルクさん達が何とか出来れば良いんだけど。
僕の「どうにかしましょうよ?」と言う目線に、ヨルクさんは愛想笑いを浮かべて軽く会釈をして、ベリト君は風の家庭用魔法で軽い風を吹かせてなにやらポーズを決めてるだけだし。
そして遠くで風に髪をなびかせて、サラサラとした黒く長い髪から微かに見える彼のその素顔は、やはりブサイクだった。
前は10メートル位離れていればイケメンに見えるかもしれないと思ったけど、10メートルじゃ足りないから、もう10メートル離れてもらいたい。
ちなみに普段は左目に付けている眼帯を、今日は右目に眼帯を付けていた。ずっと片方に眼帯を付けてると視力が悪くなるから定期的に眼帯の位置を変えてるそうだ。じゃあ外せよと思うけど。
その時、一つ案が思いついた。
ローズさん達に近づいていくと、僕の姿を見つけたエリーさんは一瞬ビクっと体を強張らせて目を伏せている。
リンとローズさんは、いかにも「策があります」と言った表情の僕が頷くと、頭に「?」を浮かべながら、お互いに一歩ズレて、彼女への道を開けようとする。
一歩ズレたローズさんの後ろに隠れるようにして、僕の対面に立とうとする彼女に対しローズさんが困惑の表情を見せるが、手の平を前に出して「そのままで大丈夫」とジェスチャー。
さっきまでエリーさんは、弱気ではあるけど話せていた。
でも僕から話しかけると泣き出してしまった。つまり男性と面と向かって話すのがNGなのだろう。
彼女が話しかける時も、どちらかと言うと独り言のようにボソボソ言ってたり、リンやローズさんを見ながらだった。
ならば、これならどうだろうか!?
僕はリンの後ろに立ち、彼女の肩に両手を置いて、彼女の影にすっぽり収まるようにしゃがみこむ。
リンが「何やってるです?」と怪訝な表情で、僕をチラチラ見てくるので「エリーさんの方向を見ててあげて」と言うと、素直に頷いてエリーさんに視線を向けてくれた。
「エリーさん、これならお話し出来そうですか?」
出来る限り優しく、ゆっくりとした口調で語りかけてみる。
僕はリンの背中に居るから、彼女がどんな表情をしているかわからない。
「あ、はい。大丈夫……だと思います」
消え入りそうな声だったが、ちゃんと会話が成立した。
「じゃあリンの方を向いて、お話してみようか」
「えっと、はい」
「じゃあ、もう一度エリーさんの自己紹介を聞いても良いかな?」
「はい。えっと、エリー14歳です。職業は斥候をやっています。昔パパに狩りを教わったので弓をちょっと扱えます」
たどたどしい感じだったけど、先ほどの消え入りそうな声ではなく、普通に話す感じで喋れている。
その後リンやローズさんも入って他愛もない会話を続けれた。慣れるにしたがって、時折冗談も言ったりしていた。
同年代の女の子と中々話す機会が無くて段々暗くなっていただけで、もしかしたら元々は明るい性格だったのかもしれない。
調子に乗ってリンを操り人形のように動かそうとしたら、リンに顔面キックをお見舞いされて悶絶したが、そんな僕を見てエリーさんはクスリと笑っていた。目が合うとまたビクビクとした感じに戻ってしまったけど。
最後にもう一度リンの後ろに回って、彼女に確認しておきたい事だけ聞いておこう。
「ねぇ、エリーさんはグレン達の事。嫌いですか?」
「ううん、私こんなんだから迷惑かけてるし、文句いっぱい言われるけど。仕事の報酬はちゃんとくれるし、見捨てないでいてくれるから、その……好きです」
まぁグレンは文句は多いけど、見捨てるようなタイプじゃないからな。文句は多いけど。
色々問題があるけど、リーダーとしての自己犠牲精神だけはちゃんとある。前もキラーファングを見た時に逃げ出さずに立ち向かおうとしてくれたし。
「それなのに私、皆の役に立てないし。ローズさんみたいに綺麗じゃないから」
「そんな事ないよ? エリーさんは可愛いと思いますよ」
リンに思い切り足を踏まれた、別に変な事言ってないよね!?
見た感じ可愛らしいし、おどおどしてはいるが、少し涙目で上目遣いをするしぐさも相まって女の子していると思う。僕の周りの女の子達がグイグイと積極的だから、消極的な彼女は新鮮に感じる。
実際に”そういうお店”で働かせようとする人が居るという事は、僕以外の人が見ても容姿が良い証拠だと思う。
「それに私、胸ペッタンコだし」
「それは関係ないんじゃないかな?」
こっそりリンの背中から顔を出して、確認してみる。確かにリンよりも無いな。その瞬間リンのゲンコツが僕の頭にさく裂した。
「やっぱり男の人って、胸が大きい女性の方が好きなんですね……」
「そんな事無いよ! 少なくとも僕はどんな大きさでも構わないし!」
「うわぁ……エルク君って女の子の胸なら何でもいいんだ」
リンの背中に居る僕からはローズさんの表情はうかがい知れないが、これは確実に侮蔑の目で見られているのはわかる。
話がどんどん変な方向に行ってるし、そろそろ戻したいんだけど。それにさっきからリンの足癖がどんどん悪くなっていく。
「この前も、モンスターに驚いちゃって。私服を汚してしまって、近くの川で水浴びさせてもらった時に、誰も覗こうとすらしなかったから。やっぱり私の体魅力ないんです」
グレン、あいつ紳士か!?
彼女が覗こうとしたかどうかわかるのは、多分『気配察知』の能力のおかげかな。覗きがいるのかもわかるって便利だな。
覗かれたら覗かれたで嫌なのに、覗かれなかったらそれはそれで凹むとは。これが乙女心と言うやつか。
「それは違うよ、皆エリーさんの事が好きだから覗かなかったんだよ。もし好きでもないなら覗いてたと思うよ」
「えっ、でも」
「覗いてエリーさんを傷つけたくない。だから覗かなかったんだよ」
僕が「そうだよね?」と言ってヨルクさん達を見ると、彼らは「えっ?」と言う表情の後に、慌ててうんうんと頷いていた。多分話の流れがわかってないな。
すすり泣く声が聞こえる、多分エリーさんの物だろう。内気になった彼女は、彼らに嫌われていると思っていたから、尚更塞ぎこんでしまったのだと思う。
そんな彼らが彼女に対して好きだと思っている、その気持ちが分かっただけでも十分だろう。本当に好きかはさておき。
まぁパーティに女の子が居るってのは、それだけで嬉しいだろう。冒険者ってのは男だらけだ、女性の存在は貴重で、女日照りの無い冒険者にとってパーティに女性が居るというのは、それだけでステータスであり、モチベーションに繋がる。
実際彼らはローズさんにデレデレしてるわけだし。エリーさんとも話せるようになれば、今度はエリーさんにデレデレし始めるはず。
「でも、私ちゃんと話せないし」
「うん、そうだね。だから、何とかする方法を思いついたんだ」
その瞬間、彼女はガチっとリンの両肩を掴んでいた。僕がリンの両肩に手を置いているから、その上からだけど。
興奮気味に「本当ですか!?」と何度も繰り返して、掴んだリンの肩を前後に揺らしていた。「任せて!」と言いながら、僕も悪ふざけでリンを揺らしたところで、リンがプッツンした。
☆ ☆ ☆
気がついたら僕は地面に仰向けで横たわっていた。
リンの後ろ回し蹴りをまともに食らい、気絶していたようだ。頬が痛い。
痛むヵ所を擦りながら体を起こすと、ヨルクさんが治療魔法をかけてくれて、痛みは幾分引いた。
エリーさんは、少し離れた所で申し訳なさそうにチラチラとこちらを伺うように見ている。目があったらそらされてしまった。
僕の隣で腕を組んで僕を見下ろしているリンに「ごめんごめん」と頭を撫で立ち上がる。リンには「チッ」と舌打ちされたが、手を退かそうとして来ないから、多少は機嫌が直っていると思う。後でちゃんと謝ってご機嫌を取っておこう。
「それで、エルク君がさっき言ってた方法って何?」
ローズさんはへの字眉毛で困ったような表情に見えるが、興味津々と言った感じだ。
「実はローズさんの協力が必要なんだ」
「うん、私で良ければ力になるよ。それで何をするの?」
彼女の協力があればいけるはず、僕は笑った。
多分他の人から見たら、今の僕は相当いやらしい笑みを浮かべただろう。
「ベリト君を女装させよう」
「はっ!?」
皆が僕の言葉に戸惑い、固まっている中、一人だけ動いていた人物がいる。
勿論ベリト君だ。
「ちょっ、ちょっとベリト。勝手に行ったらダメだよ」
ヨルクさんが必死に叫ぶが、ベリト君は止まらない。
「もしベリト君が逃げたら、ヨルクさんにやってもらう事になりますが」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
僕が言い終わる前にヨルクさんが凄い勢いで走り出していた。シアルフィの魔法がかかっているのだろう、一瞬でベリト君に追いついている。
ベリト君に後ろからタックルを決め、まるで取った獲物を自慢するかのように、そのまま頭の上に持ち上げて、凄い勢いでこちらに戻ってきた。
必死に暴れて「やめろ」と叫びながら抵抗するも、ローズさんが顔を近づけて「大人しくしてて、お願い」と言ったら、顔を赤らめてすぐに大人しくなった。チョロイな。
以前スクール君が彼を女の子と勘違いしたことがあったから、もしかしたらいけるのではと思っていたが、ローズさんの手によって化粧を施されたベリト君は、見事にベリトちゃんに変わっていた。
女性は化粧で変わるというけど、男でもここまで変わる物なのか。
サラサラとした黒い髪の奥に見える、おびえたような瞳は可憐な少女そのものだった。
始めは指をさして笑っていたヨルクさんも、段々と変わっていくベリトちゃんを真顔で見ていた。
「ベリト君。いや、ベリトちゃん。ちょっとエリーさんと話してみてもらえる」
一瞬殺意の目で僕を見たベリト君だが、色々諦めて悟ったような目でエリーさんの前にのそのそと歩いて行く。
ローズさんの後ろに隠れている彼女は、少しびくびくとしながらも「あの、こんにちわ」と自分からベリト君に話しかけ、その後も何とか会話が出来ている。どうやら成功のようだ。
見た目さえ女の子になっていれば、会話が出来る。これは大きな一歩だ。
僕はリンにそっと目配せする、それに気づいたリンが軽く頷き、ヨルクさんに後ろから延髄チョップを食らわせて気絶させた。どうせなら彼女と話せる人間は多い方が良いよね!
気絶している間に化粧を施したヨルクさん。彼はビックリするほどのバケモノになっていた。
思わず笑ってしまう。というか笑うしかないレベルだ。
そんな風に笑っていたから僕は気づかなかった、彼がリンに対して目配せをしていたことに。
目が覚めると顔に違和感があった、皆が口を押えて笑いを堪えているのを見て、僕は全てを理解した。
バケモノになってしまったヨルクさんは、温和な表情で僕の肩を叩き。僕はそれに対して笑顔で答え。そしてお互い噴き出していた。
ちなみにこの状態でエリーさんと話せるか試そうとした所、目が合った瞬間に泣き出された。
僕も泣きたい気分だよ、チクショウ。
グレンの性格を考えると、エリーさんがもじもじして頼りなくモンスターの接近を伝えたとしても、「あん!?」とか言う感じで声を荒げてしまうだろう。
そうなったら男性恐怖症の彼女は泣き出すか、何も言えなくなってモンスターが接近してても教えれなくなってしまう。その結果グレンが更に怒り出す悪循環だ。
一緒に居た剣士風の男性も、村人っぽい男性――多分彼が勇者だろう――も、彼女に対して庇ったりしようとした様子が無いのを見る限り、あまり良い印象を持っていないように思える。それはヨルクさんやベリト君もだ。
女性の居るパーティに入れれば解決だろうけど、そんなパーティがあったら既に入れて貰ってるはずか。
パーティ分けでこっちの男性陣が僕、ヨルクさん、ベリト君なのは、比較的性格が温和な男性を選んだわけだな。エリーさんが少しでも男性に慣れる為に。
ランベルトさんの意図を考えると、リンやローズさんに慰められながら隣でシクシク泣いてエリーさんと、出来るだけ話したほうが良いんだろうけど、正直話しかけるたびにビクビクされたり泣かれたりするのはやだなぁ。
ヨルクさん達も出来るだけ彼女と接触しないようにしてるし、ローズさんと喋りたいってのもあるだろうけど。
そうだ、ローズさん達が冒険者になるっていうんだから、彼女をそこのパーティに入れてもらえば解決じゃないか!?
いや、卒業まで二週間以上ある。卒業してすぐに冒険者を始めるとは限らないし。そもそも学園に通うほど裕福な家の親が、学園から帰ってきた子供が「冒険者になります」と言って「はいそうですか」と答えてくれるとは思えない。もう少し時間がかかるだろう。
遠巻きでこっちを見ているヨルクさん達が何とか出来れば良いんだけど。
僕の「どうにかしましょうよ?」と言う目線に、ヨルクさんは愛想笑いを浮かべて軽く会釈をして、ベリト君は風の家庭用魔法で軽い風を吹かせてなにやらポーズを決めてるだけだし。
そして遠くで風に髪をなびかせて、サラサラとした黒く長い髪から微かに見える彼のその素顔は、やはりブサイクだった。
前は10メートル位離れていればイケメンに見えるかもしれないと思ったけど、10メートルじゃ足りないから、もう10メートル離れてもらいたい。
ちなみに普段は左目に付けている眼帯を、今日は右目に眼帯を付けていた。ずっと片方に眼帯を付けてると視力が悪くなるから定期的に眼帯の位置を変えてるそうだ。じゃあ外せよと思うけど。
その時、一つ案が思いついた。
ローズさん達に近づいていくと、僕の姿を見つけたエリーさんは一瞬ビクっと体を強張らせて目を伏せている。
リンとローズさんは、いかにも「策があります」と言った表情の僕が頷くと、頭に「?」を浮かべながら、お互いに一歩ズレて、彼女への道を開けようとする。
一歩ズレたローズさんの後ろに隠れるようにして、僕の対面に立とうとする彼女に対しローズさんが困惑の表情を見せるが、手の平を前に出して「そのままで大丈夫」とジェスチャー。
さっきまでエリーさんは、弱気ではあるけど話せていた。
でも僕から話しかけると泣き出してしまった。つまり男性と面と向かって話すのがNGなのだろう。
彼女が話しかける時も、どちらかと言うと独り言のようにボソボソ言ってたり、リンやローズさんを見ながらだった。
ならば、これならどうだろうか!?
僕はリンの後ろに立ち、彼女の肩に両手を置いて、彼女の影にすっぽり収まるようにしゃがみこむ。
リンが「何やってるです?」と怪訝な表情で、僕をチラチラ見てくるので「エリーさんの方向を見ててあげて」と言うと、素直に頷いてエリーさんに視線を向けてくれた。
「エリーさん、これならお話し出来そうですか?」
出来る限り優しく、ゆっくりとした口調で語りかけてみる。
僕はリンの背中に居るから、彼女がどんな表情をしているかわからない。
「あ、はい。大丈夫……だと思います」
消え入りそうな声だったが、ちゃんと会話が成立した。
「じゃあリンの方を向いて、お話してみようか」
「えっと、はい」
「じゃあ、もう一度エリーさんの自己紹介を聞いても良いかな?」
「はい。えっと、エリー14歳です。職業は斥候をやっています。昔パパに狩りを教わったので弓をちょっと扱えます」
たどたどしい感じだったけど、先ほどの消え入りそうな声ではなく、普通に話す感じで喋れている。
その後リンやローズさんも入って他愛もない会話を続けれた。慣れるにしたがって、時折冗談も言ったりしていた。
同年代の女の子と中々話す機会が無くて段々暗くなっていただけで、もしかしたら元々は明るい性格だったのかもしれない。
調子に乗ってリンを操り人形のように動かそうとしたら、リンに顔面キックをお見舞いされて悶絶したが、そんな僕を見てエリーさんはクスリと笑っていた。目が合うとまたビクビクとした感じに戻ってしまったけど。
最後にもう一度リンの後ろに回って、彼女に確認しておきたい事だけ聞いておこう。
「ねぇ、エリーさんはグレン達の事。嫌いですか?」
「ううん、私こんなんだから迷惑かけてるし、文句いっぱい言われるけど。仕事の報酬はちゃんとくれるし、見捨てないでいてくれるから、その……好きです」
まぁグレンは文句は多いけど、見捨てるようなタイプじゃないからな。文句は多いけど。
色々問題があるけど、リーダーとしての自己犠牲精神だけはちゃんとある。前もキラーファングを見た時に逃げ出さずに立ち向かおうとしてくれたし。
「それなのに私、皆の役に立てないし。ローズさんみたいに綺麗じゃないから」
「そんな事ないよ? エリーさんは可愛いと思いますよ」
リンに思い切り足を踏まれた、別に変な事言ってないよね!?
見た感じ可愛らしいし、おどおどしてはいるが、少し涙目で上目遣いをするしぐさも相まって女の子していると思う。僕の周りの女の子達がグイグイと積極的だから、消極的な彼女は新鮮に感じる。
実際に”そういうお店”で働かせようとする人が居るという事は、僕以外の人が見ても容姿が良い証拠だと思う。
「それに私、胸ペッタンコだし」
「それは関係ないんじゃないかな?」
こっそりリンの背中から顔を出して、確認してみる。確かにリンよりも無いな。その瞬間リンのゲンコツが僕の頭にさく裂した。
「やっぱり男の人って、胸が大きい女性の方が好きなんですね……」
「そんな事無いよ! 少なくとも僕はどんな大きさでも構わないし!」
「うわぁ……エルク君って女の子の胸なら何でもいいんだ」
リンの背中に居る僕からはローズさんの表情はうかがい知れないが、これは確実に侮蔑の目で見られているのはわかる。
話がどんどん変な方向に行ってるし、そろそろ戻したいんだけど。それにさっきからリンの足癖がどんどん悪くなっていく。
「この前も、モンスターに驚いちゃって。私服を汚してしまって、近くの川で水浴びさせてもらった時に、誰も覗こうとすらしなかったから。やっぱり私の体魅力ないんです」
グレン、あいつ紳士か!?
彼女が覗こうとしたかどうかわかるのは、多分『気配察知』の能力のおかげかな。覗きがいるのかもわかるって便利だな。
覗かれたら覗かれたで嫌なのに、覗かれなかったらそれはそれで凹むとは。これが乙女心と言うやつか。
「それは違うよ、皆エリーさんの事が好きだから覗かなかったんだよ。もし好きでもないなら覗いてたと思うよ」
「えっ、でも」
「覗いてエリーさんを傷つけたくない。だから覗かなかったんだよ」
僕が「そうだよね?」と言ってヨルクさん達を見ると、彼らは「えっ?」と言う表情の後に、慌ててうんうんと頷いていた。多分話の流れがわかってないな。
すすり泣く声が聞こえる、多分エリーさんの物だろう。内気になった彼女は、彼らに嫌われていると思っていたから、尚更塞ぎこんでしまったのだと思う。
そんな彼らが彼女に対して好きだと思っている、その気持ちが分かっただけでも十分だろう。本当に好きかはさておき。
まぁパーティに女の子が居るってのは、それだけで嬉しいだろう。冒険者ってのは男だらけだ、女性の存在は貴重で、女日照りの無い冒険者にとってパーティに女性が居るというのは、それだけでステータスであり、モチベーションに繋がる。
実際彼らはローズさんにデレデレしてるわけだし。エリーさんとも話せるようになれば、今度はエリーさんにデレデレし始めるはず。
「でも、私ちゃんと話せないし」
「うん、そうだね。だから、何とかする方法を思いついたんだ」
その瞬間、彼女はガチっとリンの両肩を掴んでいた。僕がリンの両肩に手を置いているから、その上からだけど。
興奮気味に「本当ですか!?」と何度も繰り返して、掴んだリンの肩を前後に揺らしていた。「任せて!」と言いながら、僕も悪ふざけでリンを揺らしたところで、リンがプッツンした。
☆ ☆ ☆
気がついたら僕は地面に仰向けで横たわっていた。
リンの後ろ回し蹴りをまともに食らい、気絶していたようだ。頬が痛い。
痛むヵ所を擦りながら体を起こすと、ヨルクさんが治療魔法をかけてくれて、痛みは幾分引いた。
エリーさんは、少し離れた所で申し訳なさそうにチラチラとこちらを伺うように見ている。目があったらそらされてしまった。
僕の隣で腕を組んで僕を見下ろしているリンに「ごめんごめん」と頭を撫で立ち上がる。リンには「チッ」と舌打ちされたが、手を退かそうとして来ないから、多少は機嫌が直っていると思う。後でちゃんと謝ってご機嫌を取っておこう。
「それで、エルク君がさっき言ってた方法って何?」
ローズさんはへの字眉毛で困ったような表情に見えるが、興味津々と言った感じだ。
「実はローズさんの協力が必要なんだ」
「うん、私で良ければ力になるよ。それで何をするの?」
彼女の協力があればいけるはず、僕は笑った。
多分他の人から見たら、今の僕は相当いやらしい笑みを浮かべただろう。
「ベリト君を女装させよう」
「はっ!?」
皆が僕の言葉に戸惑い、固まっている中、一人だけ動いていた人物がいる。
勿論ベリト君だ。
「ちょっ、ちょっとベリト。勝手に行ったらダメだよ」
ヨルクさんが必死に叫ぶが、ベリト君は止まらない。
「もしベリト君が逃げたら、ヨルクさんにやってもらう事になりますが」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
僕が言い終わる前にヨルクさんが凄い勢いで走り出していた。シアルフィの魔法がかかっているのだろう、一瞬でベリト君に追いついている。
ベリト君に後ろからタックルを決め、まるで取った獲物を自慢するかのように、そのまま頭の上に持ち上げて、凄い勢いでこちらに戻ってきた。
必死に暴れて「やめろ」と叫びながら抵抗するも、ローズさんが顔を近づけて「大人しくしてて、お願い」と言ったら、顔を赤らめてすぐに大人しくなった。チョロイな。
以前スクール君が彼を女の子と勘違いしたことがあったから、もしかしたらいけるのではと思っていたが、ローズさんの手によって化粧を施されたベリト君は、見事にベリトちゃんに変わっていた。
女性は化粧で変わるというけど、男でもここまで変わる物なのか。
サラサラとした黒い髪の奥に見える、おびえたような瞳は可憐な少女そのものだった。
始めは指をさして笑っていたヨルクさんも、段々と変わっていくベリトちゃんを真顔で見ていた。
「ベリト君。いや、ベリトちゃん。ちょっとエリーさんと話してみてもらえる」
一瞬殺意の目で僕を見たベリト君だが、色々諦めて悟ったような目でエリーさんの前にのそのそと歩いて行く。
ローズさんの後ろに隠れている彼女は、少しびくびくとしながらも「あの、こんにちわ」と自分からベリト君に話しかけ、その後も何とか会話が出来ている。どうやら成功のようだ。
見た目さえ女の子になっていれば、会話が出来る。これは大きな一歩だ。
僕はリンにそっと目配せする、それに気づいたリンが軽く頷き、ヨルクさんに後ろから延髄チョップを食らわせて気絶させた。どうせなら彼女と話せる人間は多い方が良いよね!
気絶している間に化粧を施したヨルクさん。彼はビックリするほどのバケモノになっていた。
思わず笑ってしまう。というか笑うしかないレベルだ。
そんな風に笑っていたから僕は気づかなかった、彼がリンに対して目配せをしていたことに。
目が覚めると顔に違和感があった、皆が口を押えて笑いを堪えているのを見て、僕は全てを理解した。
バケモノになってしまったヨルクさんは、温和な表情で僕の肩を叩き。僕はそれに対して笑顔で答え。そしてお互い噴き出していた。
ちなみにこの状態でエリーさんと話せるか試そうとした所、目が合った瞬間に泣き出された。
僕も泣きたい気分だよ、チクショウ。
0
お気に入りに追加
530
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!
よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です!
僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。
つねやま じゅんぺいと読む。
何処にでもいる普通のサラリーマン。
仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・
突然気分が悪くなり、倒れそうになる。
周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。
何が起こったか分からないまま、気を失う。
気が付けば電車ではなく、どこかの建物。
周りにも人が倒れている。
僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。
気が付けば誰かがしゃべってる。
どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。
そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。
想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。
どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。
一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・
ですが、ここで問題が。
スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・
より良いスキルは早い者勝ち。
我も我もと群がる人々。
そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。
僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。
気が付けば2人だけになっていて・・・・
スキルも2つしか残っていない。
一つは鑑定。
もう一つは家事全般。
両方とも微妙だ・・・・
彼女の名は才村 友郁
さいむら ゆか。 23歳。
今年社会人になりたて。
取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。
劣等生のハイランカー
双葉 鳴|◉〻◉)
ファンタジー
ダンジョンが当たり前に存在する世界で、貧乏学生である【海斗】は一攫千金を夢見て探索者の仮免許がもらえる周王学園への入学を目指す!
無事内定をもらえたのも束の間。案内されたクラスはどいつもこいつも金欲しさで集まった探索者不適合者たち。通称【Fクラス】。
カーストの最下位を指し示すと同時、そこは生徒からサンドバッグ扱いをされる掃き溜めのようなクラスだった。
唯一生き残れる道は【才能】の覚醒のみ。
学園側に【将来性】を示せねば、一方的に搾取される未来が待ち受けていた。
クラスメイトは全員ライバル!
卒業するまで、一瞬たりとも油断できない生活の幕開けである!
そんな中【海斗】の覚醒した【才能】はダンジョンの中でしか発現せず、ダンジョンの外に出れば一般人になり変わる超絶ピーキーな代物だった。
それでも【海斗】は大金を得るためダンジョンに潜り続ける。
難病で眠り続ける、余命いくばくかの妹の命を救うために。
かくして、人知れず大量のTP(トレジャーポイント)を荒稼ぎする【海斗】の前に不審に思った人物が現れる。
「おかしいですね、一学期でこの成績。学年主席の私よりも高ポイント。この人は一体誰でしょうか?」
学年主席であり【氷姫】の二つ名を冠する御堂凛華から注目を浴びる。
「おいおいおい、このポイントを叩き出した【MNO】って一体誰だ? プロでもここまで出せるやつはいねーぞ?」
時を同じくゲームセンターでハイスコアを叩き出した生徒が現れた。
制服から察するに、近隣の周王学園生であることは割ている。
そんな噂は瞬く間に【学園にヤバい奴がいる】と掲示板に載せられ存在しない生徒【ゴースト】の噂が囁かれた。
(各20話編成)
1章:ダンジョン学園【完結】
2章:ダンジョンチルドレン【完結】
3章:大罪の権能【完結】
4章:暴食の力【完結】
5章:暗躍する嫉妬【完結】
6章:奇妙な共闘【完結】
7章:最弱種族の下剋上【完結】
悪徳貴族の、イメージ改善、慈善事業
ウィリアム・ブロック
ファンタジー
現代日本から死亡したラスティは貴族に転生する。しかしその世界では貴族はあんまり良く思われていなかった。なのでノブリス・オブリージュを徹底させて、貴族のイメージ改善を目指すのだった。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません
青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。
だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。
女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。
途方に暮れる主人公たち。
だが、たった一つの救いがあった。
三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。
右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。
圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。
双方の利害が一致した。
※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
迷い人 ~異世界で成り上がる。大器晩成型とは知らずに無難な商人になっちゃった。~
飛燕 つばさ
ファンタジー
孤独な中年、坂本零。ある日、彼は目を覚ますと、まったく知らない異世界に立っていた。彼は現地の兵士たちに捕まり、不審人物とされて牢獄に投獄されてしまう。
彼は異世界から迷い込んだ『迷い人』と呼ばれる存在だと告げられる。その『迷い人』には、世界を救う勇者としての可能性も、世界を滅ぼす魔王としての可能性も秘められているそうだ。しかし、零は自分がそんな使命を担う存在だと受け入れることができなかった。
独房から零を救ったのは、昔この世界を救った勇者の末裔である老婆だった。老婆は零の力を探るが、彼は戦闘や魔法に関する特別な力を持っていなかった。零はそのことに絶望するが、自身の日本での知識を駆使し、『商人』として新たな一歩を踏み出す決意をする…。
この物語は、異世界に迷い込んだ日本のサラリーマンが主人公です。彼は潜在的に秘められた能力に気づかずに、無難な商人を選びます。次々に目覚める力でこの世界に起こる問題を解決していく姿を描いていきます。
※当作品は、過去に私が創作した作品『異世界で商人になっちゃった。』を一から徹底的に文章校正し、新たな作品として再構築したものです。文章表現だけでなく、ストーリー展開の修正や、新ストーリーの追加、新キャラクターの登場など、変更点が多くございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる