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第3章「魔法大会予選 ‐エルクの秘められた力‐」

第18話「祝勝会」

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「予選突破を祝して、乾杯!」

「乾杯!」

 ジャイルズ先生が酒の入ったコップを片手に乾杯の音頭を取る。
 それに僕らも続く。

 ヴェル魔法大会の予選を学園から、学園長、ジャイルズ先生、シオンさん、サラの4人が予選を通った事を祝い、そのまま皆で祝おうという話になった。
 言い出しっぺはスクール君だ。

 予選が終わった後、会場に居た学生達や教員に声をかけて、近くの酒場に集めていた。
 シオンさん達や僕らも当然居るが。何故かランベルトさんやグレン達、他にもたくさんの冒険者が居る。

 「エルク君の知り合いっぽい人にも、声をかけておいたよ」との事だ。どうせ祝うなら大人数の方が良いだろうという、彼なりの気遣いだろうか?
 いや、気遣いではない。冒険者の場合は女性がいるパーティを選んでいるのだ。
 ちなみにグレン達については、スクール君がベリト君の後姿を見て、女性と勘違いして誘った結果だ。
 酒場は僕らで席を埋め尽くし、ほぼ貸し切り状態になっていた。


 ☆ ☆ ☆


「前から思っていたけど、女の子を連れながら他の女の子の事話してたり考えてたりしたら、その内刺されるよ?」

 と言うか一回くらい刺された方が、スクール君の為にもなりそうだ。

「大丈夫さ。俺はちゃんと、全ての女の子を愛しているから」

 立ち上がり両手を平げる彼の言葉に、女の子達は笑顔で頷く。
 彼女達の背中には、阿修羅や般若のようなモノと共にオーラが見える気がするけど、気のせいと言う事にしておこう。

 愛想笑いを浮かべ、「じゃあ僕はこれで」と言って、自分のコップを片手に移動する。
 スクール君と女の子達の輪に居るのは、心臓に悪い。 
 

 ☆ ☆ ☆


 アリアとリンの卓にはシオンさん、イルナちゃん、ケーラさんが居る。
 安全そうな気がするし、そこに移ろう。

「隣、良いですか?」

「うん」

 コップを片手に近づいた僕に、アリアが椅子を引いてくれた。
 それは普通、男性が女性にやる事のような気がするけど。まいいや。

 アリアとシオンの間に座る。
 対面では真ん中を陣取り、右手にリンを、左手にイルナちゃんを抱いて、匂いをクンクンしているケーラさんが居る。

「えっと、ケーラさん。それって獣人の挨拶か何かでしょうか?」

 もしケーラさんが男性だったら、色んな意味でアウトな光景だ。

「いやいや、この位の年齢の女の子が好きだからやってるだけだよ」

 なるほど、それなら女性でもアウトだ。 
 イルナちゃんの頼れるナイスガイな護衛は、その様子を微笑ましい感じで見ているだけだ。

「止めなくても良いんですか?」

「止める必要があるのか?」

 あぁ、うん。まいいや。
 イルナちゃんも「妾の匂いを嗅ぎたくなるのは、仕方のないことよ」と言ってまんざらでもないみたいだし。 

 「チッ」

 リンは照れ隠しで舌打ちをしているが、ケーラさん的にはそのしぐさがツボに入ったのだろう、頬ずりまでし始めた。
 助けを求めるような目で見てくるが、アリアですら勝てない相手だ。僕にはどうしようもない。
 目線を逸らして見て見ぬ振り。
 
「エルク、これ」

 これ? あぁメニューか。
 普段のアリアだったら、勝手に頼んで食べてるのに。
  
「興味あるけど食べた事無いから。一緒に食べる?」

「うん、良いよ」

 料理名は『とにかく肉!』
 注文したら大皿に「これでもか」と言わんばかりの肉が盛られていた。
 文字通り、とにかく肉と言う感じの料理だ。

「俺のオススメのメニューはこっちだ」

 シオンさんは慣れた様子で色々と注文していく。もしかしてここは行きつけの店なのだろうか?
 リンはケーラさんに捕まったままだったので、適当に魚料理を頼んでおいた。
 少々不機嫌でも魚を食べさせておけば満足してくれるはず。実際魚料理が来た瞬間に機嫌が良くなったし。

 リンが料理を食べ始めたら、ケーラさんの拘束が解かれていた。
 流石に食事中は弁えるんだな。ただ単にお腹が空いただけなのかもしれないけど。
 時折、魚を食べては幸せそうな顔をするリンをチラリと見ては、耳をピョコピョコ動かし、尻尾をブンブン振っている。

「所でエルク、サラに悪口言ったグレンですが」

 リンはもぐもぐと魚料理を食べながら、チラっとだけ視線をグレンに向けて、こちらに戻す。

「サラにはもう言わないように、言い聞かせておいた方が良いです」

 グレンの方を見てみると、グレンはサラを意識して睨んでいるが、サラ自身は気にも留めずにジャイルズ先生達と卓を囲んでいる。
 テーブルの中央には一枚の紙が置いてあり、サラ、ジャイルズ先生、ジル先生、フルフルさんで何やら語りながら書き込んでいる様子だ。
 4人とも完全に夢中になっていて、誰一人グレンの視線には気付かない。
 というかサラはいつの間にジル先生と和解したんだろう? 普通に会話してるけど大丈夫なのかな。

「何の話だ?」

 シオンさん達やアリアは知らなかったっけ、控え室の事をかみ砕いて教えた。
 
「ほう、そんな事があったのか」

「泣かすと言ってたのに、泣かされちゃったんだね」

 グレンはちょっとテングになっているところがあるから、良い薬にはなったと思うけど。

「その昔、リンが獣人だからと悪口を言ってた少年達が居たです」

「……それは酷い話だね」

 さっきまでのテンションとは違い、ケーラさんは茶化さずに、リンの話を真面目に聞いている。

「それを見かねたサラが少年達に注意したですが、少年たちはサラに『うるさいクソ女』『黙れブス』と言ったです」

「そんな事言った子が居たんだ。それでどうなったの?」

「彼らはクソ女になったです」

 ん? 話が一気に飛んだぞ?
 彼らはクソ女になったって、何があったんだ? いや、ナニが無くなったのか!?

「サラの放ったコールドボルトが」

「リン、その話は止めにしよう!」

 思わず股間を抑えそうになる。聞いただけでも痛みに悶えそうだ、男として。
 シオンさんならこの感覚をわかってくれるだろうか? 隣のシオンさんを見ると、冷静そうな顔をしつつも、座っている腰が先ほどよりも引けていた。彼にシンパシーを感じた。


 ☆ ☆ ☆
 
 さてと。まだ問題を起こしてないようだし、グレンと話に行くか。
 立ち上がった僕の袖を、アリアがクイクイと引っ張っている。

「どうしたんです?」

「グレンが女になったら、スクールにあげれば良い」

 なるほど、それは名案だ。
 説得失敗してグレンが女の子になった場合は、グレンにスクール君を紹介してあげよう。


 ☆ ☆ ☆


 グレン卓にはグレン愚連隊のグレン、ヨルクさん、ベリト君。
 対面に飲んだくれて既に出来上がっているランベルトさんと、そのパーティの剣士の男性だ。

 近くまで来たものの、どうやって入ろうか悩んでる僕にランベルトさんが気づき、「良い所にいるじゃねぇか」と愉快そうに笑いながら、強引に隣に座らされた。
 
 ランベルトさんは、ジャイルズ先生に負けた事、と言うよりも負け方が相当悔しいようで、自分がどれだけこの魔法大会の為に修行してきたかを語って来る。
 隣に座っている剣士の男性も苦笑いを浮かべながら「まぁまぁ」と言うのが精いっぱいだ。
 グレンと話したいのに、これでは埒が明かない。

 しょうがない、酒だ。
 ランベルトさんをとにかく語らせて酒を飲ませて、さっさと潰してしまおう。

「俺はよ、今回の為に新しい装備も整えたのによ」

 なるほど、それはそれは。
 まぁまぁ飲んで飲んで。

「今思えばリングを凍らせてるだけなんだ。どうにかする方法なんていくらでもあったはずだし」

 なるほど、それはそれは。
 まぁまぁ飲んで飲んで。

「なのにあいふときたら、ほんとになんなんなんなのら~」

 なるほど、それはそれは。
 まぁまぁ飲んで飲んで。
 
 彼のコップに追加で注ごうとしたが、バタンと机にひれ伏して、いびきをかき始めた。
 完全に酔いつぶれたようだ。

「はぁ、仕方ありませんね。宿まで連れて行くので俺らはここで帰ります」

 ランベルトさんのパーティの剣士はテーブルの上にいくらか金を置き、酔って寝てしまったランベルトさんを抱え店を出ていった。
 テーブルの上のお金は明らかにランベルトさんが飲んだ金額よりも明らかに多い。多分グレン達の飲食代も含めてあるのだろう。
 ちょっと申し訳ないことをしたな。今度会った時には、ちゃんと愚痴に付き合おう。

「で、何の用だよ?」

 ランベルトさんが帰ったのを見届けた後に、グレンはフォークを食べ終わったお皿に当て、カンカン音を立てながら僕を睨んでいる。
 ヨルクさんとベリト君は、少し落ち着きない様子で僕らを見ている。

「サラに悪口を言ったり、何かしないようにクギを刺しに来ました」

 一瞬ピクっと、彼の眉が動いた。
 僕の目を見つめた後に、苛立たしく情熱のような赤い髪をボリボリと掻いている。

「嫌だね。お前のいう事を聞くつもりは無い」

 彼の今までの態度を考えると、この返事は想定できていた。
 脅しになるか分からないが、警告を無視したらどうなるかだけでも教えておくか。

「僕は純粋にグレンさんの心配をして忠告してあげてるだけです」 

「なぁに?」

 彼は怒りをテーブルにぶつける。
 大きい音が出たが、周りの喧騒からか、特に注目は浴びていない。

「昔、グレンさんみたいに、サラに『クソ女』と言った少年達が居たそうです」

「それがどうしたんだよ」

 彼は興味ありませんと言った感じで、視線を横に向けて左手で頭を掻きながら、右手で鼻を弄り出す。

「彼らはサラのコールドボルトで、クソ女になったそうです」

「はっ?」

 右手を鼻に突っ込んだまま、停止している。
 意味がすぐには理解できないのだろう、僕も最初は理解できなかったし。
 先ほどよりもゆっくりと同じ言葉を口にする。

「彼らは、サラのコールドボルトで、クソ女になったそうです」

「ヒィ」

 言葉の意味を理解したのだろう、ヨルクさんとベリト君は青い顔をしてほぼ同時に股間を抑える。
 
「グレン、キミの実力じゃサラには勝てない。やめておいた方が良い」

「アホらし。お前ら、帰るぞ」

 無視して、立ち上がり。

「お前さ。女共に守られてて、それでみじめにならないの?」

 僕を哀れんだ目で見て、グレンの後に続いてヨルクさんとベリト君も店から出ていった。
 みじめか、そんなのいつも感じているよ。
 だからこそ、僕にしか出来ない事を精いっぱい頑張っているんだから。
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