剣も魔術も使えぬ勇者

138ネコ@書籍化&コミカライズしました

文字の大きさ
31 / 157
第2章「魔法都市ヴェル」

第11話「それでも僕は」

しおりを挟む
 僕らは森を抜け、宿まで戻ってきた。
 サラがリンの足の状態を見ているが、かなり酷い傷だ。
 やはりポーションや中級治療魔術程度ではどうにもならない。
 
「専門の治療魔術師の人に見てもらおう」

「だ、大丈夫で……ッ!」

 大丈夫だと言って、歩いて見せようとしたリンだが、激痛で立ち上がる事すらままならない。
 それでも何度も立ち上がろうとするのを辞めさせるが、「大丈夫」だと言って聞かない。

「リンッ!」

 強い口調で名前を呼ばれ、リンは一瞬ビクンと震えて、俯いた。 
 このまま問答していても仕方ない。可哀想だけど強めに言わせてもらおう。

「リンは、パーティに迷惑かかると思って、大丈夫って言ってるんでしょ?」
 
「……はいです」

「それは違うよ。迷惑なんて誰も思っていない、だって仲間なんだから」

「……」

「もしこれで無理してリンが歩けなくなったら、そっちの方が迷惑するんだ。わかるかい?」

「うっ……グス」

 泣かしてしまった。アリアとサラの目線が痛い、けどこれもリンの為なんだ、心を鬼にしよう。
 何とか説得することに成功し、納得してくれたようで最後はコクンと頷いてくれた。

「それじゃあ、今から治療に行こうか。さぁ僕の背中に乗って」

「はいです」

 嗚咽交じりの返事をして、僕の背中におぶさって来てくれた。正直心が痛い。
 さて、問題は専門の治療魔術師がどこにいるかわからない。
 宿の人にでも聞いてみようか。魔法大会の闘技場がある位なんだ、きっと治療施設だって沢山あるはずだ。
 ドアを開けて部屋を出ようとしたところで、スクール君と鉢合わせた。

「やあエルク君、キミがリンちゃんを背負って歩いている姿が見えたから心配になってね。もし治療魔術師に診てもらうつもりなら、案内しようか?」

「スクール君、お願いしていいかな?」

「あぁ、ついてきてくれ」

「ありがとう」


 ☆ ☆ ☆


 わりと近場に治療魔術院はあった。
 中に入るとスクール君は受付を通り過ぎて、そのまま治療魔術師の先生を呼んできてくれた。
 白衣を着てメガネをかけた、若い女性だ。短く切りそろえた髪は清潔感を感じさせる。

「スクールの頼みなら仕方ない。すぐに見てあげよう」

「ありがとうございます」

「スクール、これで貸し一つね」

 治療魔術氏は、凄く悪い笑顔をしていた。

「おぉ、キミは獣人か。ちょっと尻尾触っても良いかい?」

 無遠慮な態度だが、獣人と分かっても変な態度を取らないでちゃんと見てくれている。相変わらず悪い笑顔のままで。
 高額な治療費請求されたりしないか、ちょっと不安だ。

「おお、可愛いパンツ穿いてるな」

 足のケガを見ていたと思ったら、そのままリンのスカートをガバっと開きだす。本当に大丈夫かこの人?
 チラっとリンのパンツが見えてしまい、見ないように目をそらすが、逸らした先にはサラが居た。こっちも悪い笑顔だ。

「リンは私が見てるから、あんたらはギルドに報告でもしてきなさい」

 僕とスクールは追い出されるように外に出た。何故かアリアも一緒だ。
 そうだな、とりあえずギルドに報告してこよう。「今回の依頼は失敗しました、ごめんなさい」と。
 違約金が発生するが、それも仕方がない。
 例えリンがケガをしていなかったとしても、僕は続けることに反対しただろう。

 ギルドに向かう途中に、見知った顔がこちらに息を切らせながら走ってきた。
 先ほどの依頼で、キラーベアを見て腰を抜かして半狂乱になっていた男子生徒だ。
 こんな所まで追いかけてきて、まだ言い足りないのか?
 これ以上やるって言うなら、僕も冷静でいられる自信はない。
 だが様子が変だ、明らかに何かに怯えている。目にいっぱい涙を溜めて、必死にこちらまで走ってきた。

「た、助けてほしい! お願いだ!」

 走って来た彼が僕の肩を掴み、縋るように助けを求めてくる。

「落ち着けピーター。いったい何があったんだ?」

 スクール君にピーターと呼ばれた男子生徒は、息を整えようとして、ゲホゲホと咽ている。
 僕はとにかく嫌そうな顔をしながら水筒を彼に渡した。正直さっきの事があるからそのまま咽させたいが、緊急事態の様子でもあるし。
 僕の表情を見る余裕もないのか、水筒をすぐさま受け取り、中の水をゴクゴク飲んでいる。
 アリア、ステイステイ。まだ殴っちゃだめだ。

「キラーヘッドに襲われたんだ。頼む、皆を助けてくれ」

「キラーヘッド、ですか?」

 どうやら僕らと別れた後に、彼らはそのまま散策を続けたそうだ。
 そこで一匹にキラーファングを見つけて、倒そうと追いかけた所。キラーファング、キラーウルフ、キラーフォックの群れに囲まれたそうだ。
 
 基本キラーファングもキラーウルフもキラーフォックも群れる事は無く、1、2匹で行動している。
 一度に遭遇する数が少ないために、危険度は低いとされるが、キラーと名前の付くモンスターを統率出来るキラーヘッドが居る場合は別だ。
 
 キラーヘッドは茶色の毛皮のキラーファングの色違いで黒色の毛皮をしている。
 固体としての能力はキラーファングとは大差は無いが、統率能力があるため、遭遇した場合は取り巻きを何匹もつれて襲い掛かって来る危険度の高いモンスターだ。
 キラーベア同様に、森を抜けた山の方に生息していると聞いていたのだけど。

「それで、状況は?」

「俺は何とか走って逃げれたけど、先生達がそのまま。アイスウォールで四方に壁を作って時間を稼いでいるけど、魔力が切れたら終わりだ」

「おい、エルク君。もしかして助けに行くつもりなのか?」

「頼む、皆を助けてください。お願いします」

 その場で土下座を始めるピーター、道行く人は怪訝な顔で見ている。
 まるで僕らがイジメてるようにも見えなくもない。

「エルク、助けに行くつもり?」

「うん、僕は助けに行こうと思う」

「やめるんだ! こいつらのさっきの話を聞いたけど、そんなの自業自得だろ!」

 自業自得か、前にも聞いた気がする。
 そうだ、ジーンさん達の時だ。あの時は復讐しようとしているアルフさんが言ってたっけ。
 幼稚な正義感だって。

「それでも僕は、助けたい」

 確かにあいつらがやった事は許さないし、許す気もない。
 でも、だからって見捨てて良いとも思わない。

「エルクならそう言うと思ってた。急ごう」

 いつも無表情のアリアが、笑った気がした。
 走り出す僕らの後ろでスクール君が叫んでいる。「やめろ、あんな奴ら生きる価値が無いんだ」と。
 彼の言葉を振り切り、走っていく。


 ☆ ☆ ☆


 先ほどのひらけた場所まで来た。ここを行った先の場所で襲われたと言ってたな。
 実際ここまで来ると、キラーファングやキラーウルフの「ウオオオオオオオン」と言う事が聞こえてくる。まだ戦っているのだろう。

 声のする方向へ急いでいくと、スーツ姿で片眼鏡をかけた、白髪交じりのオールバックの初老の男性。スクール君達の時に引率をしていたジャイルズ先生が。
 自慢のスーツはボロボロに引き裂かれ、所々血が流れ出ているのが痛ましい。
 何故ジャイルズ先生がここに?

「やぁ。キミもピーター君に頼まれて、助けに来たのかい?」

 穏やかな顔で、まるで世間話でもするようにこちらに話しかけてくる。
 先生もピーターに頼まれて、彼らを助けに来たのか?
 だが、その彼らはアイスウォールの中で見守っているだけだ。

 先生に向かって、後ろからキラーファングよりも一回り小さなキラーウルフが飛びかかって来たが、一瞬で地面から「ゴオオオオオオオオオオ」と音を立てて現れた、無詠唱のファイヤピラーに吹き飛ばされ、キラーウルフは丸コゲになった。

「いやはや、昔はブイブイ言わせたものなのだけどね。どうやら私も歳のようだ。申し訳ないが、彼らを助けるために手伝ってもらえないだろうか?」

「なんで、そんなになってまで彼らを助けようとするのですか?」

「はっはっは、可愛い生徒を助けるのに、理由は必要かな?」

 愉快そうに笑いながらも、次々とキラーファング、キラーウルフを仕留めていく。
 だが、全部を捌ききれるわけではない、急いでジャイルズ先生の元まで走る。捌ききれなかったモンスターをジャイルズ先生に近づけないために。

「いいかい? あいつらは目線が外れた瞬間に襲い掛かって来る。逆を言えば目を合わせておけばこちらのタイミングで飛びかからせる事が出来るのだよ」

 まるで授業を行うように、僕らにアドバイスをくれる。
 先生の魔法は強力だが、モンスターの数が多すぎる。奥に居る黒色のキラーファングがキラーヘッドだろうか? が遠吠えをするたびに次々に沸いてきて、これではキリがない。

「キャアアアアアアアアアアア」

「ギャアアアアアアアアアアア」

 突如、バキンと何かが砕けるような音がした。
 四方を固めたアイスウォールが破られたのだ、キラーベアによって。

「キラーヘッドはキラーベアも支配下に置けるらしいからね」

 口調は明るいが、見るとジャイルズ先生の顔から余裕の色消えている。
 
「うわっ」

 キラーベアに気を取られた一瞬の隙をついて、キラーファングに押し倒された。
 キラーファングのツメがわき腹に食い込んでくる、だが問題はそっちじゃない。このままでは喉をかみちぎられるだろう。
 そうだ、目線を逸らすな、逸らした瞬間に襲い掛かって来る。下手に動いても多分アウトだ。
 僕は右手の剣を逆手に握りなおし、噛みつこうとしてきたキラーファングの口めがけて突き入れた。
 そのまま噛みつこうとした勢いで、剣はキラーファングの喉を突き破り、そのまま痙攣して、バタンと倒れた。

「エルク、大丈夫?」

 心配そうに声をかけてくれるが、アリアも手一杯でこちらを見る余裕もない。

「僕は大丈夫、それより」

 そう、それよりもキラーベアだ。
 キラーヘッドに、キラーベアに、キラーファングとキラーウルフとキラーフォックが大量の状況だ。
 生徒たちと引率の教員が僕らの元まで走って来る。
 キラーベアは、動かない? もしかして、統率されているから下手に動いてこないのか? それでも状況が最悪な事からは変わりないが。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~

シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。 主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。 追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。 さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。 疫病? これ飲めば治りますよ? これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

この聖水、泥の味がする ~まずいと追放された俺の作るポーションが、実は神々も欲しがる奇跡の霊薬だった件~

夏見ナイ
ファンタジー
「泥水神官」と蔑まれる下級神官ルーク。彼が作る聖水はなぜか茶色く濁り、ひどい泥の味がした。そのせいで無能扱いされ、ある日、無実の罪で神殿から追放されてしまう。 全てを失い流れ着いた辺境の村で、彼は自らの聖水が持つ真の力に気づく。それは浄化ではなく、あらゆる傷や病、呪いすら癒す奇跡の【創生】の力だった! ルークは小さなポーション屋を開き、まずいけどすごい聖水で村人たちを救っていく。その噂は広まり、呪われた女騎士やエルフの薬師など、訳ありな仲間たちが次々と集結。辺境の村はいつしか「癒しの郷」へと発展していく。 一方、ルークを追放した王都では聖女が謎の病に倒れ……。 落ちこぼれ神官の、痛快な逆転スローライフ、ここに開幕!

《レベル∞》の万物創造スキルで追放された俺、辺境を開拓してたら気づけば神々の箱庭になっていた

夏見ナイ
ファンタジー
勇者パーティーの雑用係だったカイは、魔王討伐後「無能」の烙印を押され追放される。全てを失い、死を覚悟して流れ着いた「忘れられた辺境」。そこで彼のハズレスキルは真の姿《万物創造》へと覚醒した。 無から有を生み、世界の理すら書き換える神の如き力。カイはまず、生きるために快適な家を、豊かな畑を、そして清らかな川を創造する。荒れ果てた土地は、みるみるうちに楽園へと姿を変えていった。 やがて、彼の元には行き場を失った獣人の少女やエルフの賢者、ドワーフの鍛冶師など、心優しき仲間たちが集い始める。これは、追放された一人の青年が、大切な仲間たちと共に理想郷を築き、やがてその地が「神々の箱庭」と呼ばれるまでの物語。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)

みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。 在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。

処理中です...