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4話 未踏遺跡

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 グルーノ=ヤーシスの小屋にあった地図を頼りに、砂嵐の中を進む。
 魔法機械マギノギアである無限軌道キャタピラ付の魔導人形マシンドール輸送車は、速度は出ないが砂嵐の中でも移動できるのが特徴だ。

「なあヤスにい、聖痕を見せてくれよ」
「ザイン、俺の聖痕はごくごく平凡なものだぞ」
「平凡って言われてもなー、他の聖痕なんて見たことねーし」

 聖痕――魔力転換期を迎えた人間の手の甲に浮かぶ模様だ。魔法機械マギノギアを動かすための鍵にもなっており、魔法機械マギノギアは、聖痕を持たない子供が触れても一切反応を示さない。
 浮かぶ聖痕によって動かせる人工遺物アーティファクトの種類も異なり、その人工遺物アーティファクトの頂点と呼ばれているのが魔導人形マシンドールと呼ばれる大型魔導兵器だ。
 普段聖痕は隠れており、手に魔力を集めることで、目に見える形で聖痕が浮かび上がってくる。
 聖痕には数字と絵が描かれており数字は一なら縦に棒が一本、二なら二本、四は棒の右にVのような文字がありⅣとなる。数字が大きいほど人工遺物アーティファクトへの適応力が高くなると言われている。ヤス兄はⅠだ。数字と一緒に書かれた絵は工具でモンキーレンチとドライバーの絵が描かれていた。
 所属が反政府組織という血生臭い場所のこともあり、聖痕の中に武器や獣の絵が浮かび上がる者は、戦士としてそれなりの評価をもらえた。といっても浮かぶ絵による力の違いも謎なのだ。二つのバルガス王国である北バルガス王国と南バルガス王国の正規軍であれば絵の秘密も分かるのかもしれないが、彼らもヒミツを敵である反政府組織に漏らす様な真似はしないだろう。

 ヤス兄は〝Ⅰ〟と入った自分の聖痕を平凡だといったが、この世界の人の大半は平凡であり、戦地でもない限り聖痕の価値を人の価値と重ねたりはしない。

「でも、モンキーレンチとドライバーっていかにもヤス兄らしい聖痕だよな、魔法機械マギノギアの整備も得意だし」
「俺もこの絵柄は好きなんだ……でも、特にこの絵柄が浮かんだからといって整備の腕が上達したわけでもないしよ、どんな意味があるのやら」
「でもさ、亀は動かせるんだろう?」
「ああ……〇三式ぜろさんしきはな、〝Ⅰ〟の聖痕でも動かせる数少ない魔導人形マシンドールだからな、発掘数が多い割に高値が付くそうだ」

 ヤス兄とザインの会話は途中から脱線して、遺跡探索後にお金持ちになったら何を食べるか……ってところまで飛躍する。僕はそんな二人の会話をBGM程度に聞き流し、放置遺跡が記された地図を見た。
 放置遺跡は、その名前の通り、遺跡の場所は分かっているものの手つかずとなっている遺跡群のことだ。遺跡の中には、お宝ひとつない無人殺人兵器が目いっぱい詰め込まれた怪物屋敷モンスターボックス的なモノもゴロゴロある。地図の中で禍々しい赤色の光が宿る遺跡はそういった場所なのだろう。
 安全な遺跡などこの世にはないのだが、それでも赤い光だけじゃなく、希望の黄色い光が灯る遺跡を目指して僕らは進んだ。
 もちろん、砂嵐が吹き荒れる砂漠にいるのだ。慎重に進む。
 〇三式ぜろさんしき汎用型魔導人形タージル。車と変わらない大きさの本体からは四本の脚が伸び、どんな地形でも動くことが出来る。戦闘用というより地形を選ばず進むことが出来る乗り物的意味が強い魔導人形マシンドールだ。
 これと似た用途の魔導人形として〇六式ぜろろくしき汎用型魔導人形フレイブがある。フレイブは呼称として犬と呼ばれている魔導人形で、オートバイのように背中に人を乗せて運ぶ、四本の脚を持つ小型魔導人形マシンドールだ。大きさもバイクと変わらず、タイヤ付魔法機械マギノギアでは走ることが出来ない砂漠の中でも機敏に動くことが出来る。犬の頭部分に、自転車やオートバイを思わせるハンドルが付いており、使い方としては前に聖痕を持つ大人が乗り込み、その後ろに魔導銃マドウガンを持った少年兵を乗せる二ケツスタイルで戦場で活躍する。

 砂嵐対策で小さな覗き窓しか開いていない魔導人形マシンドール輸送車の視界はかなり悪い。輸送用のため人が乗るためのシートも固く〝お尻が痛い〟と度々エミリが文句を言った。

「食べ物あるといいよな……」

 ザインの一言にみんなが大きく頷く。遺跡からは時折謎の保存食が大量に見つかることがある。歯磨き粉のチューブに似た容器に入った謎肉を細かくみじん切りにしたパテのようなものだ。数百年経っているであろうそれは意外にも食べることが出来る。
 大人たちが気味悪がり食べずに僕たち少年兵に渡すため、僕たちの間では馴染みのある食べ物となっていた。普通なら数百年経過しているであろう食べ物など口に入れようとはしないのだが、行く当ての無い戦争孤児にとっては、口に入れて死なないのであれば、それは十分ご馳走になる。塩辛い濃い目の味がなんとも癖になる一品なのだ。栄養?何それって具合に考えるのであれば、上手くいけば一つの遺跡から四~五年は生きていける量の食糧をゲット出来る。自称コック長のアリスは、チューブ肉反対派ではあるものの、生き延びるためなら仕方ないと諦め顔だ。

「もうすぐ大きな砂嵐が来ます。十メートルほど進んだら一度止まってください」

 ヤス兄は僕の言う通り、輸送車を少し進めるとエンジンを止めた。
 車内にある時計の文字盤を見ると、三十分後の十六時を現す四の数字からはじまり五、六、七と赤く光っている。砂漠の中で起こりうることを想像するならこの輸送車でも進めないほどの砂嵐がもうじき来るのだろう。十メートルと伝えたのは、少し先が黄色く光っていたからだ。僕の目は安全地帯がどこにあるのか見ることが出来る。
 砂嵐が弱まるまで、車内で布に包まりながら仮眠をとろうとしたが、余程大きな砂嵐が来ているんだろう、車体が大きく左右に揺れて眠れない。

「ねえトマ、私たちが目指しているのは何て遺跡なの?」

 遺跡の名前は僕たちが勝手に付けているわけではない、遺跡には決まった名前があるのだ。遺跡を作った代表者の名前が付けられているのか、当時の偉人の名前なのかは分からない。
 遺跡の入口には、名前が彫られたプレートが立てられている。
 遺跡の名前は、その遺跡を知るための指標となる。同じ名前が付く遺跡は、中にある人工遺物アーティファクトから罠の種類まで酷似していることが多く、一度攻略した遺跡と同じ名前を持つ遺跡があるなら、その遺跡を選ぶ方が攻略は楽になる。
 僕は潜る遺跡に印をつけた地図をアリスに渡した。

「ガゼルアイン……初めて聞く遺跡の名前ですね。未踏遺跡に挑むことになるとは思いませんでした」

 アリスの顔色は悪い。
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