落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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212話 報告と発見

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 エドックスに戻ると僕らは真っ先に冒険者ギルドへと向かった。毎度お馴染みとなった他の冒険者たちの〝特別扱いかよ〟といった嫉妬交じりの視線を浴びながら、副マスターのリヴィエールさんの案内で別室へと向かう。

「随分急いで戻って来たみたいですね」 
「はい、少しダンジョンの中でのんびりしてしまったもので……」 
「まさか……ずっと大穴ダンジョンの中にいたんですか?」 
「いや、それはその、あの……いろいろあったんです」

 思わず言葉に詰まる。
 
「ふふ、素直ですねルフトくんは、大丈夫ですよ、指名依頼の期日には間に合いましたから」 
 
 部屋に入りリヴィエールさんと向かい合う僕らの前に、女性職員が恐る恐るお茶を並べる。Aランク冒険者は下手な魔物以上に恐れを抱く対象なのだろう、小人であるムボ、シザ、ミダには子供用の小さなカップを、ナファローネの前には僕と同じ大きさのカップを置いた。 
 リンゴのジャムをお湯に溶かしてミント系の薬草を刻んで浮かべた甘く清涼感のあるお茶だ。ミント系の薬草の効果だろうか、鼻の通りが少しよくなったような……ナファローネは顔を覆う兜を半分ずらしながらお茶を器用に飲んだ。これを見れば、誰も彼が不死の魔物アンデッドだとは信じないだろう。前回見た時よりも歯並びが良くなっているし、時折覗く舌は黒ずみが薄れ赤みを帯びていた。
  不死の魔物アンデッドだったモノをここまで変えてしまうとは、恐るべしフェアリーウエル妖精の泉
 一瞬、それを見たリヴィエールさんが驚いた顔をしたように見えたのは気のせいだろうか?もしかしたらリヴィエールさんもナファローネが魔物かもしれないと疑っているのかもしれない。
 僕らはお茶を飲みながら大穴ダンジョンについてどんな冒険をしたのか報告をした。もちろん、黒いゴブリン族の集落のある地下世界の話やワーウルフ狼男が湧く特殊な区画エリアについてはヒミツにした。
 冒険者たちが暮らす大穴の町については、エドックスの住人であれば、ほぼほぼ知っているらしい。ただ、あの町については詳しくは話をしないというのが暗黙のルールなんだとか、冒険者の多くは大穴の町で仲介業者を通して倒した魔物の素材をエドックスに運ぶ。倒した魔物をエドックスに運びたいと荷馬車の相談に来た際に、そういった独自規則ルールについて説明されるそうだ。 
 僕の場合、従魔の住処があるからそういった話とは無縁なのだが、普通の冒険者は一日、二日ダンジョンに潜れば魔物の素材でいっぱいになり外に出る。キャンプ地と呼ばれる場所に陣取る冒険者のもとには、仲介人と呼ばれる荷物運びのプロが定期的に顔を出しているそうだ。 
 普通に売るのに比べて安くなってしまうのだが、キャンプ地を利用するのも順番制で、多少安くともキャンプ地に居座り狩りを続けた方が儲けには繋がるのだとリヴィエールさんは教えてくれた。 
 といってもキャンプ地に居座ることが出来る期間は長くて一週間、大穴ダンジョンに数週間潜り続ける者はいないといった話は、そういったことも含めての話なんだろう。 

 無事ムボ、シザ、ミダは、昇格試験ともいえる『大穴に住む魔物の魔石五個手に入れる』を成し遂げ、無事冒険者ランクが見習いと呼ばれるGランクから、一人前の仲間入りをするFランクに上がった。リヴィエールさんも従魔の住処を持つ従魔師テイマーに興味を抱いたのか、僕よりもムボたちにあれやこれやと質問した。ムボ曰く僕は従魔師テイマーの中でも色々規格外なんだそうだ。普通の従魔の住処は、せいぜい大きくても今僕らがいる小部屋程度、それでも直に運ぶよりはずっと荷物持ちが楽になるのは確かだ。 
 リヴィエールさんもムボの意見に〝ルフトくんが規格外なのは存じておりますよ〟と楽しそうに言った。
 頬を膨らまして抗議する僕を見てみんなが笑う。
 従魔の住処があれば、例え従魔が弱くても最低限に剣や弓が使えれば十分冒険者として役に立つだろう。だとしても長年かけて定着した冒険者の中での従魔師テイマーの価値はそう簡単には上がらないだろうが、こうして少しずつでも評価されるようになればと思う。 
 従魔師テイマー=荷物持ちという評価は、いささか複雑ではあるけれどね。 

 ムボたちの冒険者ランクの変更と従魔師テイマーについての聞き取りを終えて、ようやく指名依頼の話に移った。 
 僕らがこれから向かうのは、王都オリスの南の森の中にある特別監獄と呼ばれる場所だ。その監獄はいささか不思議な性質を持っているという。 
 
「監獄のなのに見張りがいないんですか?」 
「ええ、朝晩二回の食事の時間のみおりますが、それ以外の時間には見張りは一人もおりません」
 
 リヴィエールさんの話では、王都の南にある特別監獄は、囚人を逃がすための監獄なのだという、元々は貴族の血縁者が罪を犯した際、金で解決するための監獄なんだとか、貴族なら金さえ払えば罪が無くなるのかと腹立たしい気持ちになったが、どうやらそういうことでもないらしく、これも貴族あるあるなのだが、陰謀によって無理矢理罪を着せられてしまった者への救済措置のひとつってことらしい。平民なら罪を着せられた時点で詰んでるだろうし、貴族に特権があるのは間違いない。 
 そうなると……だ。指名依頼は貴族の救出任務なんだろうか?そんな僕の考えを、出来る大人二号ことリヴィエールさんは軽々と先読みして説明に移る。 
 
「今回の救出対象となる方は貴族ではありません。宮廷魔術師団のとある力を持つ人物に気に入られて数年前に養女になられた方でして、しかもその方は先頃魔力が暴走して人外になったという噂があります……その方を保護してほしいとのことです」 
「保護……人外ですか……」 
「はい、人が魔物になったと、今回の依頼人はルフトくんがそういった案件の専門家だとある人物から紹介されたそうです……そう、怖い顔をなさらないでください」 
 
 怖い顔か……僕はどんな顔をしていたんだろう。魔力暴走で魔物になった少女、十中八九僕やモーソンと同じ名も無き村の出身だろうな、しかも報酬が名も無き村の場所のヒントって、どう考えても陰謀でしょ。
 
(主様、モーソンから伝言というかお願いです。この依頼は絶対に受けてほしいとのことです) 
 
 従魔の住処の中にも僕が聞いた声や音は届いているんだった……僕が断ることを心配したんだろう、名も無き村の手掛かりをモーソンが見過ごすはずもなく、フローラルを通じて念話が届く。

(フローラル、モーソンには絶対受けるから安心していいよって伝えて)

 念話を使いフローラルに語り掛ける。

「どうされましたか、口をもごもごと動かしていたようですが、お茶が口に合わなかったでしょうか」
「いえ、お茶は凄く美味しいです。考えごとをしているとたまに口をモゴモゴ動かしてしまうことがあるみたいで……癖なんです」

 と、咄嗟に誤魔化してはみたものの明らかに無理がある。それでも出来る大人なリヴィエールさんは、それ以上は何も聞かないでくれた。
 依頼の流れはこうだ――僕はこれから王都オリスに向かいそこで依頼主と会い指示を仰ぐ。依頼主自身は僕のことをよく知らないそうだ。それなのにナゼ指名依頼を?って話なんだけど、守秘義務で詳しくは教えてもらえなかったんだけど、僕を強く推薦した人がいたそうだ。僕を専門家だと紹介した人物のことだろう。
 モーソンのことを知っているのは、第五兵団兵士長プリョードルさんと、その古くからの友人であり片腕のダンブロージオさんくらいだ。でも、あの二人がモーソンのことを話すとは思えないし……魔法使いでも役立たずと言われた従魔師テイマーである僕ですらこれだけのことが出来るんだ。
 遠視のような高位の魔法を使う魔法使いがいて、僕とモーソンのことを調べていた可能性もある。
 依頼の報酬である名も無き村の情報については、依頼達成後王都の冒険者ギルドより渡されるそうだ。状況によっては追加報酬や追加依頼もあるらしい。

 まずは王都に向かうことが先決だろう。王都に向かう商人の馬車への同乗を提案されたが、馬車は持っていると体よく断ったところ〝恐竜に牽かせた馬車で王都に向かうのは問題がありますよ〟と諭されたアドバイスを受けた。僕が馬車を牽く恐竜を所持しているという情報は冒険者ギルドの上層部では当たり前のように広まっているのだろう。
 ツァガンデギア恐竜種・鎧竜目ではなく、新しく仲間になったトリプルホーンガゼルという魔物に馬車を牽かせることを伝えたところ見せてほしいと言われ、僕は雄の一匹ガゼオをリヴィエールさんに見せた。
 『鑑定』魔法持ちだったのだろう、ガゼオに手を翳すとすぐさまこう言った。

「Eランクの魔物ですか、それなら一頭引きであれば町の中にもそのまま入ることができますよ」

 思わず何の話なんだろうと固まる。そんな僕にリヴィエールさんは一枚の紙を渡してくれた。リレイアスト王国限定にはなるが、従魔師テイマーの優位性が認められて、法律の見直しもされているという。あくまである程度の規模の町や村限定だが、E+プラスランク以下の魔物であれば、町の入口の近くにある詰め所で届け出ることで一匹に限り町に入れることも許される。
 ただ、町の中で従魔が問題を起こした場合、主である従魔師テイマーの責任となる。

「従魔は動物と違い訓練レベルにたがわずトイレもキチンと覚えますので、もちろん急に用を足すことになれば従魔の住処に入れることも出来ます。ですので従魔師テイマー職技能クラス持ちであれば従魔を一匹に限り連れ歩くことが許されているのです。あまり大きな従魔は通行の邪魔になるのでダメなんですがね」

 これもルフトくんの功績ですよと、リヴィエールさんは優しく笑った。
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