落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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203話 要塞(2021.08.26改)

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 巨大な扉を見上げる。

 壁や天井と同じ青い石で造られた〝そこにそれがある〟と、はっきり認識しなければ壁にしか見えない不思議な扉。エビゾメゲンゴロウ蒲葡色の水生甲虫のゲンコが、この扉に気が付けたのは、人間と虫とで見える景色が違うからかもしれない。そこに扉があると教えてもらえばすぐに分かるんだけど、認識阻害の魔法かな。
 これだけ大きな扉だ。入る前からダンジョンの中にどんな魔物がいるのかイロイロ想像してしまう。地底湖の底にあるダンジョンで群青色の壁、やはり水と繋がりのある魔物がいるのかな……と。
 一番の問題は、扉の大きさだ。魔物の大きさに合わせて、この扉が造られているのなら……厄介だ。
 万が一、扉の先にいるのが巨人種の魔物なら、その時点でこのダンジョンは、アリツィオ大樹海深域、上級ダンジョンに並ぶことの証明にもなる。
 攻略は無理だろうな……逃げることを考えないと、巨人は竜に並ぶ魔物の頂点に立つ種族なんだから。

 一番強い魔物―

 単体であればマルコキアスさんやイポスさんたち魔物の王がそれに当たるんだろうけど、種族としての頂点であれば間違いなく竜か巨人だ。
 開けたくないなー……。
 扉の先に広がるダンジョンへの不安から、僕は自分の妄想の中に潜ってしまっていた。

(主様……主様!どうしました?顔色が悪いですぞ、もしや扉を開ける方法が分からないのですか?)

 フローラルがドングリの背に座り、妄想に沈む僕の頭に念話を飛ばす。門の大きさから中にいる魔物を妄想して怖気づいてましたとは言えずに、表情を繕い平静を装う。
 それにしても、みんなは何でこんなにウキウキしているんだろう。楽しみなんだろうな見たことも無い魔物との戦いが、地下世界にある地底湖の底にあるダンジョンってだけで不気味なのに、高位の転移魔法を易々と使うダンジョンさんが創ったダンジョンなんだよ!絶対怖いよ。
 一人で不安がっているのが、なんだか馬鹿らしくなってきた。
 僕が怖がっていては、みんなもそれに引きずられてしまうだろう。いまは前を向こう、僕は気合を入れるために両頬を両手で〝ぴしゃり〟と叩く。

「ごめんね、少し考え事をしていたんだ……扉は好きなタイミングでダンジョンさんが開けてくれるよ」
(ほー随分とダンジョン様は友好的な方なんですな)
「うん、悪い人じゃないと思う、たぶん……ダンジョンだから生物じゃないのかもしれないけど、僕らは運が良いのかもしれないね。質問にも答えてもらえるし、それにしても、まさかダンジョンの創造ぬしと話す日が来るとは思わなかったよ」

 ダンジョンと話した人間、もしかしたら僕が世界初ってこともあるのかな?もちろん、ダンジョンさんの言葉全てを鵜呑みにはしない。それでも、人族のような裏表うらおもてはないように思えた。

(はっはっは、恐らく主様はこれからもっと様々な経験をするでしょう!こんなことで悩んでいては身が持ちませんぞ。主様は人間以外と不思議な縁をお繋ぎになるお方ですからな、魔物の王とまで呼ばれる神の如き方々と友好を結ぶ人間なんて、世界中探し回っても見つかりません)

 急にフローラルが笑い出す。

「やめてよフローラル、全部偶然なんだから……怖いこと言わないでよ。平凡に暮らしたいんだ」
(平凡ですか、主様にはもっとも縁遠い言葉ですな)

 そう言い更に大きな声でフローラルは笑う。新しい魔物との出会いは嬉しい。でも、それにも限度がある。
 毎回行く先々で魔物の王や恐竜、変異種のワイバーンと出くわすのは、本当に勘弁してほしい。
 でも、難易度の高いダンジョンほど、お喋りな創造主がいるとかだったら嫌だな……。
 ダメだ…ダメだ……今は目の前のダンジョンに集中しないと、何としてもここを攻略クリアして外に出るんだ。

 挑む前から、どんなにダンジョンのことを想像しても、中に入ってみないことには真実は分からない。何が起きても対応出来るようにメンバーを吟味する。
 何があるか分からないし連携重視が一番だろう。
 付き合いが長く、気心の知れた仲間家族たち。フローラルとレモンに二匹をそれぞれ背に乗せるドングリとアルジェント。真っ赤なバラのような髪と大きな瞳、アルラウネ花の魔物のローズに、肩や背中から痛そうな刃が突き出た物騒な全身鎧に身を包むダークロード黒炎の騎士ブランデルホルストに陽気なコボルトの兄妹テリアとボロニーズも一緒だ。もちろん、ブルーさん、グリーンさん、レッドさん、ホワイトさん四匹のスライムたちも並ぶ。
 唯一例外がいるとすれば、どうしてもダンジョンが見たいと半ば強引についてきた、幼馴染でワールトラカワウソ人間のモーソンだろう。
 ダンジョンの中を確認したらすぐ呼ぶからって言ったんだけど、どうしても、あの大きな扉が開くところを見たいって聞かなかったのだ。

「状況によってみんなにも出て来てもらうから、準備は万全にね」

 従魔の住処の中で待機するみんなにも声を掛ける。
 独り言ではない……僕の聞いた音は従魔の住処の中にも聞こえている。特定の相手に伝えるなら念話なんだけど、みんなに伝言があるなら、わざわざ不慣れな念話を使わず独り言を呟いた方が早い。
 準備は整った。

「準備が出来ました。ダンジョンさん!扉を開けてください」

 大声で叫ぶ。
 〝ゴゴゴゴゴ……〟大きな地響きを立てながら扉が開きはじめる。高さ十メートルを優に超える二枚の扉が、砂煙を巻き上げながら左右にずれていく……まさかの引き戸。
 扉が完全に開くまで、優に三百ほど数字を数えた。
 ダンジョンの中は明るく、奥に広がる景色に僕らは目を奪われた。
 目の前に広がる広大な空間と、その奥、数百メートル先にある城壁に囲まれた要塞が姿を現す。
 
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