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202話 地底湖の底 3(2021.08.26改)

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 地底湖の底にはダンジョンがあった。しかも、そのダンジョンは意志を持っていて僕たちとの意思疎通が可能なのである。
 僕はそんな彼に……彼女かもしれないけど、ダンジョンさんと名付けたんだ。ダンジョンさんは仲間の強制転移なんて奇跡も起こせちゃうようで……従魔限定だとは思うけど、大穴ダンジョンで修行するみんなもここに呼んでもらうことになった。
 けして、後でみんなに怒られるのが怖かったから、それを選択したわけじゃない。

 でも、何か大事なことを忘れているような気が……僕がこの場所に転移した時のことを思い出そう、ほんの数分前、数十分前に起きた出来事の記憶を。
 そうだ。僕らがどこに転移したか、この場所の中央にある池の真ん中だ。船ごと転移したから溺れずに済んだけど、船は岸まで移動してしまっている。
 今みんなが転移して来たら池の中に落ちて溺れてしまうんじゃ!
(まずい、まずいよ……みんなが溺れちゃう)心の中で叫びながら、池に向かって全速力で駆け出した。
 僕が転移して来た時のように、青白い光が辺りを包みはじめる。〝えっ〟思わず変な声が出た。息を切らしながらあんなに走ったのに、大穴で修行中だったみんなは、池の中ではなく少し前まで僕が立っていたテーブルの近くに現れたのだ。
 それを呆然と見つめる僕に〝船が一緒だったから池の上に出現させただけだ。わざわざ溺れると分かっていて池に落とすと思うのか、お前はバカか〟と辛らつな言葉が続く。

(おとうさまが目の前に?で……誰と話しているんですの?)

 ローズが少し呆れていた。他人から見たらただ独り言を言っている人だしね。戦闘の真っただ中だったんだろう、その左右の手には、重そうなスコーピオンとクレセントアックス三日月斧が握られており、刃から乾き切らない魔物の血が滴り落ちる。

「何が起きたの?あれー?ルフト」

 モーソンも〝えっここは何処、ワーウルフが消えてルフトが目の前に……ナニが起きてるの〟と完全に混乱している。こちらもグローブ一体型武器シールドナックルで敵を殴っている途中だったのか、モーソンの全身は魔物の返り血で濡れていた。
 急な転移に混乱するみんなを見回すと、僕は違和感に目を止めた。
 ドングリの従者であるダンジョンウルフ八匹のうちの三匹が進化していたのだ。数日前にはなかった小さな角が額から生えている。ドングリの角に長さも質感もそっくりな短い角。従魔の従者になった魔物は、主である従魔に寄った進化を遂げるのかもしれない。

(お父様、余所見しないでください!先に今何が起きているのか教えてください!ですわ)

 進化したダンジョンウルフに目を奪われていた僕の体をローズが前後に揺らす。

「あ……ごめん、説明が必要だよね」

 現在の状況に理解出来ないと戸惑うみんなに、新しく家族になったエビゾメゲンゴロウのゲンコを紹介しつつ、地底湖の底に偶然ダンジョンを見つけたこと。ダンジョンの意思的な存在ダンジョンさんと話し、遠くにいる仲間もこのダンジョンまで強制転移させることが出来ると教えてもらい、その力でみんなを呼んでもらったことを順番に説明していく。
 もちろん、みんなは話を聞いても納得できないと首を捻る。相手を指定して強制転移させること自体がありえないことだし……なかなか受け入れられないと思う。でもこれは現実なんだ。
 実際、大穴ダンジョンからここに来ているわけだしね。
 急に呼ばれてみんな驚いたはずだ。それについては謝っておかなきゃと、僕はみんなに頭を下げた。

(気にしないでください。私たちにとってお父様が決めたことは絶対なんです。どこにでも駆けつけてみせますわ)

 ローズは満面の笑みを浮かべる。

 問題は、リザスさんたちにワーウルフを押し付けてしまったことだ。これについても〝悔しいですけどリザスは誰よりも強いですから、心配いりませんわ〟とローズは、気にしなくていいと言う。
 僕だってリザスさんがワーウルフに後れを取るとは思わないけど……問題は後で何を要求されるかだ。絶対借りを作っちゃいけない相手から借りを作ったのだ。頭が痛くなる未来しか浮かんでこない。
 今はこのダンジョンを突破して、外に出ることを考えないと。
 あの巨大な扉を見る限り嫌な予感しかしない、攻略は簡単にはいかないだろう。
 悩んだ挙句、結局この日は、先に進まず体を休めて、明日からダンジョン攻略に挑むことにした。

 ドングリの従者のダンジョンウルフたちを調べるのも忘れない。
 大きく口を開けてもらったり全身をくまなく観察する。見た目の変化は、額にドングリに似た角が生えただけなんだけど……『鑑定』魔法を使ったところ魔物としての力は大きく上がっていた。

【ダンジョンウルフ】魔物ランクE ダンジョンでの生活に特化した暗視能力を持つ黒毛の狼。体長二メートル近くあり集団行動する。

 これが普通のダンジョンウルフだ。これに対して……。

【ブラックウルフ(変異種)】魔物ランクD- シルバーウルフに並ぶ狼の魔物の代表格。長であるドングリの影響を受けて短い角が生えた変異種。
(※進化チャート:ダンジョンウルフ⇒ブラックウルフ(変異種))

 ブラックウルフは、アリツィオ大樹海の中級ダンジョンでも目撃情報のある魔物だ。人型と獣型の魔物だから単純に比較は出来ないけど、魔物ランクだけで判断するならレッサースパルトイより少し弱い魔物って感じかな。
 ドングリの従者であるダンジョンウルフの進化を見て、同じ魔物を従魔にするムボ、シザ、ミダの三人は悔しがっていた。同じダンジョンウルフでも、地下世界に来てから、ドングリに連れられて毎日ワーウルフの狩りに参加していた彼らと、僕と一緒に、地下世界観光を楽しんでいた彼らとでは差が開くのも当然だろう。
 【地底湖ダンジョン】で湧く魔物の強さ次第では、ムボたち小人と、その従魔たちにも戦いに参加してもらおう。
 もちろん、ダンジョン内の魔物が強い場合は、従魔の住処で留守番になるけどね。
 僕たちは従魔の住処で、明日からはじまるダンジョン攻略の準備を整えた。
 
 
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