落ちこぼれぼっちテイマーは諦めません

たゆ

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200話 地底湖の底 1(2021.08.26改)

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 これで五回連続失敗だ……欠陥品の召喚の壺だけに成功率が低いのは仕方がないのだが、次で六本目だし、そろそろ当たりを引きたい。
 魔物よ出てこい!祈りながら最後の召喚の壺を開ける。白い煙が船を包み込んだ。初めて召喚の壺を開けた時は、勢いよく出てくるこの煙が毒か何かと思い驚いたものだ。
 煙が徐々に薄れていく、魔物の影が見えはじめた。やっと成功した。
 足が多い……虫かな?間違いなくこの影は虫だよね。

 召喚の壺から現れたのは、子犬より少し大きな一匹の虫だった。どことなくナナホシやハナホシにも似ている、暗い紫色をした虫の魔物。
 見る限り甲虫に分類される虫だろう。どうして湖の上で召喚の壺を開けたのに、魚ではなく虫の魔物が出てきたんだろう?
 虫の体の周りには、縁取るように白い線が入っている。
 みんなに見られているのが恥ずかしいのか、暗い紫色の虫は緊張した面持ちで若干汗ばんでいる様にも見えた。

(へー珍しいな、水の上だからこいつが出てきたのか)

 ナナホシが僕の前に立ち、自分より体の大きな虫を見上げる。どんな相手を前にしてもナナホシは臆することなく堂々としている。むしろ暗い紫色の魔物の方が恐縮している。

(凄いです。こんな大きなゲンゴロウ初めて見ました)

 ハナホシは、ナナホシの背中に隠れながら顔だけを覗かせてそう言った。水の上……ゲンゴロウ?水の中で生活する虫ってことなんだろうか。

「ねーハナホシ、ゲンゴロウってどんな虫なの?」
(あっルフト様……えーと……えーと)

 急に僕に話し掛けられて驚いたのか、ハナホシはびくりと体を震わせると身を竦ませた。

(ルフト、ハナホシを驚かせるなよ)
(だ…大丈夫だよ……ナナホシくん、ちょっと驚いただけだから)

 別に驚かせるつもりはなかったんだけどな、とにかく謝ろう。

「驚かせちゃってごめんね」
(だ……だいじょうぶです……少し驚いただけなので)

 ハナホシはもじもじしたままだ。ハナホシは、初めて会った時から極度の人見知りではあったんだけど、人見知りというよりは急な変化が苦手、驚くことが苦手なのかもしれない。

(ハナホシに代わって俺が説明してやるよ、ゲンゴロウは器用な虫でな、体にいっぱい空気を貯めて水の中に潜るんだ。この後ろ足を見ろよ!面白い形だろう。これで自由自在に水を蹴って泳ぐんだぜ)

 虫の妖精だけあって、虫の生態にも詳しいんだろう。
 今まで虫の魔物を従魔にしなかったのには理由がある。イポスさんから預かっているソウコウムシは別として、虫の魔物は総じて植物を食い荒らすイメージがある。従魔の住処で大切に育てている野菜や果物、薬草が喰い荒らされないか心配なのだ。

「ナナホシ、ゲンゴロウってさ畑を荒らしたりはしないかな」
(畑?)
「うん、野菜とか薬草とか食い荒らされたら困るなって……」

 果物は、ソウコウムシが一日中守っているから、並みの魔物では近付くことすら難しいだろう。しかし、畑は僕らが外にいる間、見張りがいない。

(薬草だって……そんなことになったら、ホワイトさん師匠にボコボコにされてしまう。すぐに聞いてみる)

 ホワイトさんは、ナナホシやハナホシにとってどんな存在なんだろう、薬草が食い荒らされると聞いて、ナナホシは明らかに畑を荒らされてホワイトさんに怒られる自分の姿を思い浮かべていた。
 ナナホシは、ゲンゴロウの魔物の体に手を当てたまま目を閉じると、何度か頷き、そのままゆっくり目を開けると僕の方を見た。

(ルフト、こいつ肉食なんだってさ好物は魚全般!仲間にしてくれるならどんな肉でも食べますって言ってるぜ!畑は絶対に荒らさないって約束してくれたぞ)

 ゲンゴロウの口は一切動いていないのだが、ナナホシの言葉が正しいとでも言うように、ゲンゴロウは何度も頷いた。ナナホシは虫と話をすることが出来るんだろうか。

「ねーナナホシって虫と話せるの?」
(話せるって言うか、体に手を触れると相手の言っていることが分かるようになるんだよ!ホワイトさん師匠と違って俺らは虫限定だけどな)

 レアな白いスライムであるホワイトさんは、どうやら全ての生物と意思疎通が可能なようだ。やはりホワイトさんは只者ではなかった。虫と意思疎通が出来るナナホシとハナホシも十分凄いと思う。
 放っておかれたと思ったんだろう、ゲンゴロウの瞳が少し涙で潤んでいる。畑を荒らさないと分かれば仲間にしない理由はない。すぐに従魔契約に移る。僕が翳した右手から光の鎖が伸びるとゲンゴロウの体と繋がり淡い光が包み込んだ。従魔契約が成功した。ついでに『鑑定』魔法も使う。

【エビゾメゲンゴロウ】
補足:体調五十センチ程の蒲葡エビゾメ色をした水生甲虫。前脚の爪が武器。めす。魔物ランク:E-

「決めたキミの名前はゲンコだ。今日からよろしくね」

 僕の言葉を聞いてゲンコは前脚をばたばたさせた。たぶん喜んでくれているんだと思う。ナナホシとハナホシの二匹と意思疎通が出来るのも助かる。
 名前で分かると通りゲンコは雌である。

「ゲンコに早速お願いがあるんだ。湖の中に危険な魔物がいないか見て来てほしい。ただ無理はしないでね!危ないと思ったらすぐに逃げてくるんだよ」

 ゲンコは、あまり動かない首をほんの少しだけコクコクと縦に振ると水の中へと飛び込んでいった。
 船を動かしては、ゲンコが水の中に潜り見たものをナナホシに報告する。結果、何種類か大きな魚はいたが、この湖には、ゴブリンたちを襲うような魚の魔物がいないことが分かった。
 ただ、深い湖の底の岩場に大きな蛇が数匹いるらしい……試しにアルジェントをゲンコに見せたところ、恐怖で固まってしまった。ややあって元に戻ると、湖の深部にいる蛇はアルジェントより更に大きかったと教えてくれた。鰭もあるみたいだし恐らくサーペントと呼ばれる蛇に似た魔物だと思う。
 かなり厄介な魔物だ。水中での戦いならリザスさんでも勝てないだろう。恐らく水面近くに上がってくることは無いと思うが、湖の奥では漁をしないように、ゴブリンたちには念を押した方がいいかもしれない。

(なールフト、ゲンコがこの船の丁度下あたりで不思議な穴を見つけたって言ってるぞ)
「不思議な穴?どんな穴だったの」

 ナナホシがゲンコの体に触れて〝フムフムフム〟と何度も頷く。

(穴の奥に階段みたいなの見えたかもだって、離れた所からしか見ていないから自信はないみたい)

 ナナホシが〝しっかり見てこなきゃだめじゃないかゲンコ〟と言うと、明らかにゲンコは下を見て落ち込んでいた。首があまり動かないから、注意して見なきゃ分からない程度にだけどね。

(ゲンコがもう一度穴を見てくるってさ)
「無理はしないでね、危ないと思ったらすぐに引き返すんだよ」

 前脚を動かすとゲンコは勢いよく湖の中へと飛び込んでいった。僕は、ゲンコの飛び込んで湖面に出来た波紋を見ながら考えた。階段って……湖の底にダンジョンでもあるんだろうか?水の中にあるダンジョンに誰が挑めるんだろう、魚人専用のダンジョンかな。

 
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