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連載
198話 地下世界でやりたいこと(2021.08.26改)
しおりを挟む朝食を終えて、修行組のみんなが装備を整えて出かけていくのを僕は食器を片付けながら見送った。大穴ダンジョンで出現するワーウルフは、魔力の幕に触る度に何度も湧くのだが……ダンジョンにも限界があるようで、ある程度の数を倒し終えるとそれ以上湧かなくなってしまうらしい。〝一日に湧く数は毎回違うみたいですわ〟とローズが僕に教えてくれた。
修行組に参加しているみんなは、毎日。打ち止めになるまでひたすらワーウルフを狩り続けては、日が落ちる頃にはヘトヘトになって帰って来る。
リザスさんだけは朝と変わらず元気なままだ。むしろ戦って元気が出た?本当に戦うのが好きなんだな……戦闘狂確定である。
帰って来てからも疲れ知らずで、ブランデルホルストに縋りながら模擬戦の相手を頼んでるし、元王様の行動に黒いゴブリン族ですら明らかに引いている。
みんなが強くなろうと頑張っているのに、毎日呑気に地下世界見学というのは申し訳ない気がするわけで、僕もやることを見つけないと。地下世界で僕だからこそ出来ることを探したい。
地下世界は、大穴ダンジョンに比べれば明るいものの、それでも地上のように植物が元気に育つには光が足りない。明るさ的に毎日曇り空って感じだもんな。全体的に背の低い植物が多く数も少ない、なにより、木材となる木が生えていないのだ。
黒いゴブリン族の主食は【日陰芋】という名の芋科の植物で、形はウシイモと似た細長い円筒形をしている。ただ、甘さなどはまったく無く、腹がいっぱいになればいいと割り切って食べる必要がある。単純に不味いのだ。
そんな、日陰芋を口に運ぶゴブリンたちが気の毒に思えた。僕は、従魔の住処で育てた野菜を彼らに御馳走した。ゴブリンたちは、その味にいたく感動して、次の日から僕は彼らから尊敬の眼差しを向けられるようになった。
どこかで見た光景だと思ったんだけど――ムボたちファジャグル族の村にジャイアントトードの肉を運んだ時も、こんな感じだったよね。
未知の生物と仲良くなるのは、食べ物を渡すのが一番なのかもしれない。
でも、植物が少ないからといって生き物がいないわけじゃない、むしろ思った以上に生き物がいる。獣なんかも沢山いるから肉には困らない!それに地底湖とでも呼ぶんだろうか?【黒ゴブリンの集落】近くには大きな湖もあるらしく魚が豊富に獲れるんだそうだ。
✿
歩きながら……空というか天井を見上げる。
地下世界に来てから鳥を見ていない。
(主様、何を探しているんですか?)
上を見上げる僕を不思議に思ったのか、トリプルホーンガゼルと呼ばれる、三つの角を持った鹿に似た魔物、ガゼオの背中の上に座るヘリアンサスの花の妖精のレモンが念話で尋ねてきた。
「うーん……、鳥がいないから不思議だなって思ったんだ」
(たしかに、地下世界に来てから鳥を見てませんね。鳴き声も聞こえませんし、穴の中ならコウモリくらいいてもいいのですが)
そう、可愛らしく首を捻るレモンに、心の中で〝コウモリは鳥じゃないと思うな〟と突っ込みを入れる。後ろには、二メートル近くある黒色の狼ダンジョンウルフの背中に乗るムボとシザとミダの三人の小人たちが続く。
ムボたちを見て思い出した。エドックスの冒険者ギルドの副マスターのリヴィエールさんから受けた〝名も無き村の探索〟に関する指名依頼のことを……一~二月後に来てほしいって話だったよな。
みんなの修行が終わらなくても、一月後には一度地上に戻った方がいいかもしれない。
ムボたち三人が、見習い冒険者から一人前の冒険者の証であるFランクへ昇格するための、大穴ダンジョンに棲みつく魔物の魔石は手に入れてある。大穴を出るのはぎりぎりでいいと思うけど、忘れないようにしなきゃ……名も無き村の手掛かりを掴むチャンスなんだ。
修行組には、強くなろうという意識が高い従魔たちが参加している。ローズとブランデルホルストを筆頭に、コボルトの兄弟であるテリアとボロニーズ、シルバーウルフという銀色の狼の魔物ドングリと、その従者になった八匹のダンジョンウルフたち……ダンジョンウルフは、ワーウルフと戦うのはキツイと思うんだけど、ドングリが強く希望した。ローズの従者であるデーモンソーンのサクラも一緒だ。
後は、ブルーさん、レッドさん、グリーンさん、ホワイトさんの四匹スライムたち。ホワイトさんに関しては救護班といったところか、ワールトラに変わってしまった元人間であり僕の馴染みのモーソンと、アイアンジャガーという鉄の体を持つネコ科の魔物ビセンテも一緒だ。
それ以外は、僕と一緒に留守番かな。
実力は十分にあるものの参加していない従魔もいる。
ミイラに鎧を着せだけなのに、いつの間にかデスアーマーなんて物騒な名前の魔物に進化してしまった。元Aランク冒険者のナファローネと元緑のゴブリン王リザスとその側近のゴブリンジェネラルたち。
流石に黒いゴブリン族の前で、不死の魔物になった彼らを見せるのは気が引けた。
フローラルとレモンの二匹も僕と共に行動している。強くなるなら戦闘経験よりも新しい魔法を覚えた方が早いということで、みんなから僕の護衛をお願いされたようだ。
空飛ぶサメの魔物アルジェントには、地下世界を移動することを考えて残ってもらった。
「ルフト様、もうすぐで湖が見えてきますぞ」
僕らの先を歩く、黒いゴブリン族のお爺さんラプタさんが振り返った。集落で暇そうにする僕を見て〝退屈そうですな、良ければ地底湖のそばにある市場にでも行きませんか?〟と誘ってくれたのだ。
やることが見つかるまでは、地下世界観光を満喫しようと僕はラプタさんの誘いを受けることにした。
地底湖は、僕らがいる黒いゴブリン族の集落から二、三時間ほど歩いた場所にある。地底湖という響きから、池より少し大きな物を想像していたんだけど……向こうの岸が見えないほどに地底湖は大きかった。
恐竜たちの住処でもある【太古の大湿原】の奥で見つけた湖くらいの広さはあるんじゃないだろうか?
岸近くは浅いようで黒いゴブリン族の子供たちが水遊びを楽しんでいる。凶暴な魔物もいないんだろうな。
市場というから屋台が並んでいるのかと思ったんだけど、湖畔に並んでいたのは、僕らが借りている家と同じ、ドーム型の建物、粘土製のイグルーだ。家の前にテーブルを出しそこに様々な、見たことが無い貝や魚が並んでいる。黒いゴブリン族には貨幣は無く、取引は全て物々交換で行われている。
市場を眺めながら進む。
港だろうか?沢山のお椀の形をした奇妙な形の船が浮かぶ場所に辿り着いた。
木材が無いのに、ゴブリンたちは、どうやって船を造っているんだろう?
「ラプタさん。あの船は何で出来ているんですか?」
「わしらの船は、浮き亀の甲羅で作るんじゃ」
浮き亀――地底湖に棲みつく大きな亀で、甲羅が軽く湖のあちこちに〝ゆらゆら〟と浮かんでいるんだそうだ。大人しい亀で数も多く、肉は食料に甲羅は水に浮く性質を利用して船にする。〝大きなものだと五メートルを超えるものもおるんじゃよ〟と興奮気味に話す。最近大きな魔物ばかり見ているせいか五メートルと言われても驚きは少ない。浮き亀の甲羅を叩いてみたけど強度は少し心許無い気もする。
「湖で魔物に襲われたりすることはないんですか」
「ないのー、いままで漁をしていて襲われたなんて話は聞いたことが無い」
黒いゴブリン族が漁をするのは、湖畔からそう離れていない水深の浅い場所だ。万が一湖に落ちた際には、湖を監視しているゴブリンたちがすぐに救助に向かうんだそうだ。
〝湖の奥へ向かう物好きは、元国王のリザス様くらいじゃ〟とラプタさんは笑った。
理由は僕の想像通り、強者を求めて……本当に強い相手と戦うためなら労力を惜しまない人だ。
目の前に広がるこの大きな地底湖のおかげで、黒いゴブリン族は、他の魔物に攻められることもなく平和に暮らすことが出来る。
僕たちのことは、リザスさんから全てのゴブリンたちに伝えられているそうで、見慣れない人間と奇妙な魔物の一団を前にしても、誰も慌てる様子もなく、むしろ友好的に接してくれた。
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