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197話 僕のやりたいと、みんなのやるべきこと(2021.08.25改)

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 本当は、緑のゴブリン王ラガンを倒すために借りていた【黒いフランベルジュ魔法喰い魔剣】を返して、すぐに逃げる……帰るつもりでいたんだけど、地下世界にある黒いゴブリンの集落に来てからすでに三日が過ぎていた。
 ことの発端は、倒しても倒しても、魔力の幕を潜ることで無限に湧き出すワーウルフ狼男の存在だ。みんながここでの特訓を強く希望したんだ。
 一日でも早く強くなりたいと願うみんなの声に僕は応えた。恐らく、僕が過去の記憶の中にいた際、みんなと魔物の王イポスさんの間で何らかの遣り取りがあったのだろう……無理に聞いちゃいけない感じがしたから、そのことは聞いていないし謎なままなんだけど、本当は物凄く気になっている。でも、みんなを信じて聞かないって決めたから頑張るんだ。
 僕ができるのは、みんなが大きな怪我をしないようにって、祈りながら修行の終わりを待つだけだ。

 【地下世界ブエルシバース】は、僕の想像していた地下世界とは大きく違っていた。もちろん地下にあるのだから太陽も出なければ星も出ない。それでも、どういう仕組みなのか?地上で日が昇るタイミングに合わせて天井が光り明るくなる。
 天井と言っても、高すぎて地上の空と変わらない感じだけど、アルジェントでは飛んでいけない高さってことは確認済みである。日が昇るタイミングで明るくなる閉ざされた空間って……従魔の住処に似ているよね。
 ムボたちが【太古の大湿原】で従魔にしたコンドル似の翼竜、アリツィオカンピオグナイドドスなら、アルジェントより高く飛べるだろうけど、万が一上に魔物がいた場合、彼らだけでは殺されてしまう可能性が高い。
 天井がどうして光っているのか知りたいけど、もっと高く飛ぶことが出来る仲間に出会うまでは、我慢、我慢と!
 次に【大穴ダンジョン】に続く魔物のいない穴についてだけど、あれはリザスさんたち黒いゴブリンが地上に出るために掘り進めた穴で、偶然大穴ダンジョンに繋がったそうだ。穴に続く石像のある部屋の特殊性を考えるとダンジョンの意思が故意に繋げた可能性もある。
 それでも、黒いゴブリン族以外の地下世界の魔物が、この穴から地上に出て来ないって分かっただけでも安心かな。
 この穴は、黒いゴブリン族の集落にあり、黒いゴブリンたちを倒さない限りこの穴を使うことは出来ない。
 とどのつまり、リザスさんたちは、僕ら人間が使う大穴ダンジョンの入口とは別の入口を使って地上を行き来していた。そこが、冒険者の噂になっていた別の入口と同じかは分からない。
 黒いゴブリンたちは、今まで僕以外の人間をダンジョンで見たことがないそうだ。
 次からは、リザスさんたちの使う出入り口を使って大穴ダンジョンに来た方が、冒険者ギルドで面倒な手続きもいらないし、何かと便利かもしれない。

 僕らは、リザスさんから一軒の家を借りている。家……だよね?本で読んだ知識にはなるけど、北には一年中雪が降り続ける大陸がある。そこで人々は、イグルーと呼ばれる半円型の雪で造った家に暮らしているんだけど、目の前にある黒いゴブリン族の家は雪ではないものの、それにそっくりだ。
 粘土製(粘っこい土)のイグルーなのだ。
 粘土といっても地上の粘土とは性質が違い、水と合わせて長時間捏ねた後、魔力を籠めると石のように固くなる。石に比べて多少脆さはあるけれど断熱性にも優れており、朝晩の温度差が激しい地下世界でも十分快適に過ごすことが出来た。
 せっかく地下世界に来たんだ。従魔の住処もいいが、その土地の住居に寝泊まりしてみるのも良い経験になるんじゃないか、ともっともらしいリザスさんの口車に乗せられて、僕は少しの間この家を借りることにした。

 暇さえあればリザスさんが遊びに来て、従魔にしろと迫ってくる面倒臭さいっぱいの超迷惑物件だけど、それ以外は結構快適である。
 最初はその都度ローズたちがリザスさんを追い払ってくれていたんだけど、何度追い払っても諦めてくれないし、僕に害があるわけじゃないと悟ったのか、今はリザスさんが遊びに来てもみんな放置である。
 困ったことに、みんなもリザスさんのこと気に入りはじめてるんだよね、外堀埋められた気分だよ。
 モーソンなんて〝リザスさんはルフトに夢中なんだよ!そういうのって恋する乙女って言うらしいよ〟と自信満々に意味不明なことを言ってたけど、四メートルの背丈で筋骨隆々なリザスさん相手に乙女はない、思わずリザスさんのスカート姿を想像して、ひとり吹いた。
 何よりリザスさんは雄だと思う……ゴブリンだけに雌の可能性もあるのかな?オレッなの、リザスさんがオレッ娘、想像したせいか更に頭が痛くなってくる。

「おはようございますルフト様、朝から随分と顔色が悪いですな、悪い夢でも見ましたか」

 朝の空気を吸おうと外に出て、リザスさんのスカート姿を想像して一人悶える僕に声を掛けてきたのは、ラプタさんという近所に暮らす黒いゴブリン族のお爺さんだ。
 この三日で、気軽に声を掛けてくれる黒いゴブリン族のご近所さんが増えた。一年冒険者を続けても数える程しか知人が出来なかったことを考えると、これは奇跡である!
 緑のゴブリン王ラガンを倒して手に入れた、ゴブリン王のローブのおかげかな?それとも僕はやはり魔物に懐かれやすいの体質なんだろうか?ゴブリン王のローブの効果は、ゴブリン語での読み書き及び自動翻訳機能とゴブリン族への好感度上昇、今回のような状況にはピッタリな魔道具だ。

「地下世界って寒いんですね。頭を起こそうと外に出てみたんですが、目が覚めるのを通り越して少し頭が痛くなっっちゃいました」
「ほっほっほ、あと二、三時間もすれば暖かくなりますぞ、そうそうルフト様のお仲間はみなお強いみたいですな、若者たちが騒いでおりました」
「自慢の家族ですから!みんながみんなってわけじゃないですけど、留守番組は僕をはじめまだまだ力が足りないんです」

 そんな話をラプタさんは微笑みながら聞いてくれた。

 ワーウルフは強い魔物だ。当然戦いに参加出来ないメンバーもでる。
 そこで、修行組と探索組(地下世界観光?)に分かれて行動することにしたのだ。僕はもちろん後者である。修行組のみんなが心配だけど、リザスさんや黒いゴブリン族の精鋭たちが同行してくれているから大丈夫だろう。
 僕は僕でやれることを頑張らないと。
    
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