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連載
193話 大穴ダンジョン中域2(2021.08.25改)
しおりを挟む僕らがこの場所に籠りはじめてから一週間、他の冒険者の姿は見ていない。本当にダンジョンの奥を目指す冒険者はいない様だ。
ブランデルホルストとナイトワンをはじめとしたレッサースパルトイが大量のジャイアントボアと呼ばれるイノシシの魔物を担いでやって来る。
ここ数日。僕はベース基地(?)と名付けたこの草原に留まり、みんなが運んでくる魔物の解体作業に追われている。近くに魔物が湧いても対処できるようにブルーさん、レッドさん、グリーンさん、ホワイトさんたちスライム四匹とナイトツー、ナイトスリーの防御重視のレッサースパルトイ二匹が、僕の護衛で残っている。
それとは別に、解体のお手伝いとして日々数が増えている土と苔の人型の魔物、非戦闘員であるモストットたちも一緒だ。素手で触ると泥が素材や肉についてしまうので、モストットたちは手袋を付けながら切り分けた素材をせっせと従魔の住処の中へと運んでいく。
魔物の解体は僕にとっての日常だし、こういう毎日も充実感があっていいと思う!リザスさんと会うと面倒なことしか起きない予感がするし、当分ここにいるのもいいかもしれない。
今回の狩りで従魔たちも進化した!
一度に全部というわけではなく数日に分けてだけど……まずレモンに鍛えられていた夜人たちヨルイチ、ヨルニ、ヨルサンの三匹が全員進化した。
種族名は影人。名前だけ見ると夜から影へとランクダウンした感じがするのだが、日中も人型に浮かび上がる夜人は、朝は目立つため夜や暗いダンジョン内でしか活動出来なかった。それが影人に進化したことで、日中も影に潜み自由に動くことが出来るようになり、しかも半透明の体は物理攻撃無効の特徴まで持っている。ゲコタと役割が被る気もするけど、隠密活動に優れた魔物になった。
ちなみに使える魔法はマジックミサイルひとつだけである。
(※進化チャート:夜人⇒影人)
そして、従魔の住処から外に出ることが無かった、蔓の集合体である人型のグリーンマンのグリルと犬型のグリーンマンのグリリも、大穴で戦闘を経験したことで進化した。
単にグリーンマンの体から花が咲くようになっただけなんだけど……これも一応進化になるらしい。もちろん魔物の体から咲く花だけに普通の花ではなく、赤い花の香りは眠気を誘い、黄色い花の香りは幻覚を見せる、白い花の香りには感覚を鈍らせる麻痺に似た効果がある。三色の花それぞれが違う状態異常の効果を持ち、自由に好きな色の花を咲かせることができる。問題は敵味方関係なく効果が作用しちゃうことかな。
(※進化チャート:グリーンマン⇒花付きグリーンマン)
最後は、ロックジャガーのビセンテも進化してアイアンジャガーになった。体が石から鉄になったことで一段と固くなり体も重くなったが、動きは俊敏なままだ。しかも、噛み付いた箇所を徐々に石化させる能力が変化して徐々に鉄に変える鉄化能力に!以前の石化能力同様鉄に変わる速度も遅く、資源不足の解決になればと期待したんだけど……そう上手くはいかないみたいだ。
それでも従魔たちの戦闘力の底上げという部分では大きな手ごたえがあった。
(※進化チャート:ロックジャガー⇒アイアンジャガー)
✿
狩場がぬるくなってきたと感じた僕たちは、さらに奥へと進んだ。
この辺りからは、ガイドブックにも道は載っておらず、進む速度も遅くなる。
途中幾つか横道があったので、その一つを探索がてらに進んでみたのだが、今までには無かった広場のような場所に出た。ダンジョンボスの部屋の様に扉はないものの、恐らく中ボス(?)的な魔物が湧く特異エリアなんだと思う。
ダンジョンに似つかわしくない小さな岩山の上には、三メートル越えの巨大ゴリラの群れが鎮座していた。僕らに気が付いたんだろう一斉に巨大ゴリラたちが手で胸を叩きドラミングを繰り返しながウホウホと叫び出す。
当然、相手が動き出すまで待つつもりはない。
フローラルとレモン。ヨルイチ、ヨルニ、ヨルサン。ナナホシが呼び出した十体のイリュージョンゴブリンシャーマンがゴリラに向けて一斉にマジックミサイルを放つ。
ミダの従魔のキノコンメイジのブナピんも小さな杖をゴリラに向けて、マジックミサイルを合わせて放った。
五十発越えの魔法の矢が岩山で騒ぐゴリラに向かって降り注ぐ。
ちょっとした魔法師団並みの魔法攻撃の物量に、一発一発は弱くとも、魔法の矢が作る雨を嫌いゴリラたちは手で顔を覆い防御姿勢に入った。そこに追い討ちとばかりにブランデルホルストが両腕を左右に伸ばす……ブランデルホルストの体中から黒い炎が揺らぎ二十本近い槍が生成されていく、ブランデルホルストのブラックフレイムだ。魔法の矢で岩山に足止めされている巨大ゴリラの群れに、黒い炎を纏った槍が一斉に襲い掛かる。
黒炎で作られた槍は、巨大ゴリラの体に容赦なく突き刺さり焼いていく。オーバーキルだよね。
大半の巨大ゴリラは、この攻撃で力尽きてしまった。
(ちょっとブランデル、私の分まで倒しちゃダメですわ!サクラも行きますわよ)
ローズが愛槍のスコーピオンを握り生き残った巨大ゴリラへと走っていく。その後ろを鉢植えになったデーモンソーンのサクラが器用に蔓をタコの足の様に使い追いかける。あの目がくり抜かれた女性の生首風の心臓が無ければもう少し受け入れられるんだけどな……夜中に目を覚ましてトイレに行く際、寝ているサクラと出くわすと思わず漏らしそうになる。
名誉のために言っておきたい〝断じて漏らしたことはないと!〟微かに灯ったランタンの明かりで本物の生首みたいに浮かび上がるから怖さも倍増だ。
テリアとボロニーズも負けてはなるものかと走り出す。狩りは競争じゃないんだけど……ナファローネはダンジョンメガクラブのハサミをそのまま鈍器にした武器でゴリラを岩山から殴り飛ばした。
死んだゴリラの魔物の死体が偶然僕の足元に転がる。
【ダンジョンコングの死体】
補足:三メートル近い巨大ゴリラの魔物の死体。筋が多くて肉は硬くて不味い。
「不味いのか……残念」
みんなに任せておけばダンジョンコングは片付くだろうと、僕は近くの魔物の死体から順に解体をはじめる。解体といってもニュトンたちから素材はいらないと言われたため、胸元を開け魔石だけを抜いていく。
ガイドブックを見る限りダンジョンコングは、大穴の中でも要注意の魔物になっているんだけど……顔を上げるともう八割方片付いているし、みんなの敵ではなさそうだ。
「あるじ、たからばこ、あるお」
岩山の上でダンジョンコングに馬乗りになりながらメイスで殴り続けているボロニーズが僕に向かって叫んだ。
「大穴の中には宝箱に化ける魔物もいるって話だから、触らないようにね」
「わかったー」
手を振るボロニーズのいる場所へ岩山を登る。少し離れて宝箱を見る〝ふむふむ〟見た目は普通の宝箱だけど、ただダンジョンコングを倒し終えてないのに宝箱が出るのは変だよね。
「アルジェントごめん、ダンジョンコングの死体を一体持ってきてー」
僕の声に応じて、魔石を抜き取ったダンジョンコングの死体をアルジェントが銜えて運んできた。そのまま宝箱の上に置いてもらった。
次の瞬間――宝箱の蓋が開きダンジョンコングの死体に噛り付く。僕とボロニーズとアルジェントで暫くその光景を観察した後、口を開けたままの宝箱の中に、ボロニーズが槍を突き刺して止めを刺した。不意を突かれなければそう怖い魔物ではなさそうだ。
当然の様に『鑑定』魔法を使う。
【宝箱化け貝の死体】
補足:殻はそのまま入れ物としても使える陸貝の魔物。食用可能。
貝の魔物は一度食べてみたかったからかなり嬉しい。早速宝箱に似た殻から貝柱の根本部分を斬り中身を取り出していく。内臓が大きくて見た目はかなり気持ち悪いけど、貝柱が太くて美味しそうだ。
僕が宝箱化け貝の解体に夢中になる中、ダンジョンコングを全て倒し終えたんだろう岩山の頂上には、今度は本物の宝箱が出現した。
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