124 / 149
連載
189話 大穴突入1(2021.08.25改)
しおりを挟む気になることがある。
冒険者しか入ることが出来ないダンジョンに、リザスさんたちはどうやって出入りしているんだろう?黒いゴブリン族のことをぼかしつつ、僕はナファローネを連れて町にいる冒険者たちに聞いて回った。
「ゴブリン?大穴には出ねーぞ」
そんな声が多い中、ひとつ面白い話を聞くことが出来た。あくまで噂レベルの話ではあるんだけど、町を包む巨大トンネル以外にも、大穴ダンジョンに繋がる道があるという話が出回っていたのだ。
他の入口か……リザスさんも、カスターニャから一番近い地下世界への入口が大穴ダンジョンにあると言っただけで、入口がひとつだけとは一言も言ってなかったような。
✿
宿屋の店主のアドバイスに従い、僕らは狩りを終えた冒険者たちがダンジョンから町に戻る夜間に出発した。
ダンジョンから出てきた冒険者たちの多くは、その足で酒場へと向かう。この町で最も数が多い店が酒場なのだ。酒好きの冒険者が多いって理由だけで、これだけ多くの酒場が出来るのだから驚きである。
大穴ダンジョンの町に長く滞在する冒険者の多くは、大穴の奥を目指すのではなく、その日のうちに戻ることが出来る浅瀬で狩りをする。
町に戻る冒険者たちが、ダンジョンの奥へ進もうとする僕らをチラ見する。ナファローネに抱えられたムボ、シザ、ミダの三人の小人が珍しいんだろう。その視線の多くは、好意的とは言い難い。
急に建物が無くなったかと思うと、木の柵が立てられていた。ここから先が魔物が出現するエリアだ。大穴ダンジョンは、奥に進めば進むほど魔物は強くなっていき、湧く間隔も短くなっていく。
逆に、町に近ければ近いほど魔物は弱く、湧く間隔も長くなるそうで、宿屋の店主は入口付近の魔物は日が昇るまで出て来ない、奥を目指すなら夜のうちに先を急いだ方がいい、と教えてくれた。
大穴ダンジョンの床や壁には、光を放つ鉱物が所々に埋まっており松明いらずで進むことが出来る。ちなみに、この鉱物を掘り起こすのはタブーだ。
周囲に人の気配がないのを確認してからペリツィア、ペリツェル、ペリツィカの三匹の鎧竜たちを呼んだ。三匹も普段と違う景色に嬉しそうだ。ツァガンデギアは、頭の上から背中、尻尾の先までゴツゴツした骨の鎧に包まれた四足歩行の草食恐竜だ。彼らは元々大人しい性格で、戦闘をあまり好まない。
早く駆け出したいと僕の体に顔を摺り寄せてくる三匹。ペリツィアたちの背中にはニュトンたちが急ごしらえで作った革製の鞍が乗っている。
冒険者たちに遭遇することを考えると、リンゴの苗のメンバーである僕とナファローネ、ムボ、シザ、ミダは外にいた方がいいだろうし、誰を一緒に連れて行くべきか……。
一目で力のある魔物だと分かるローズとブランデルホルストとアルジェントは、奥に行くまで出さない方がいいだろう。
走りながら迫る魔物を寄せ付けないように戦うことを考えると、遠距離攻撃が得意なメンバーから選ぶべきだよね……結果。一番体の大きなお父さん恐竜ペリツィアの背中には、ロングボウを持ったナファローネと小人のムボとシザ、ムボの従魔であるクロスボウ持ちのキノコンコンのナメコんが乗ることになった。
二番目に体の大きな母さん恐竜ペリツェルの背中には、二弓術の使い手のスライムのグリーンさんと小人のミダと妖精のフローラル、ミダの従魔キノコンメイジのブナピんが乗ることになった。
ブナピんの得意魔法は『スリープミスト』と『スモークスクリーン』と『マジックミサイル』の三つで、魔法職に進化したキノコンは、村でもこのブナピんだけだとミダは胸を張る。
三匹の中で一番小さなお兄さん恐竜ペリツィカの背中には、僕と妖精のレモン、絶賛猛特訓中であるレモンの弟子でダンジョンの中では暗闇にしか見えない。夜人のヨルイチとヨルニとヨルサンが乗った。
レモンが組んだ特訓の成果だろう、夜人たちは既に魔法を習得したそうだ。まだ、一度に二発のマジックミサイルしか撃てないって言ってたけど、たった数日で魔法を覚えるって、どれだけ厳しい特訓をしたんだろう。レモンは夢中になると容赦しないから……夜人たちがちょっと気の毒かな。
薄暗い巨大トンネルをペリツィアたち三匹が突き進む。途中何度か大きなクモの魔物と出くわしたが、僕らを恐れてくれたのか、襲ってくる様子は無くすぐに道を譲ってくれた。
途中、岩陰を見つけては従魔の住処に入り休憩をとりながら進む。
一度も戦闘が無いまま、ダンジョンに入り二時間ほどが経過した。
進む先に、明らかに僕らを警戒する。武器を手にした冒険者の一団が現れた。恐らくペリツィアたちが走る音がうるさかったんだろう……体重を計ったことはないけど、ペリツィアたちはかなり重い。
そんな重い生き物が全力で洞窟の中を走ったのだ。寝ていられないくらい、ウルサカッタんだろうな。
ペリツィアたちに止まる様に命じると、僕とナファローネの二人だけで、こちらを警戒する冒険者たちのもとへ向かう。ここは素直に謝ろう、それで無理ならナファローネのAランク冒険者パワーでなんとかすれば……そう決心した僕は、勇気を振り絞って冒険者たちに話し掛けた。
※設定について、一部小人の名前が(正)ミダのところ、(誤)リジで書かれていたところが多数あり遡って修正しています。
資料(ファジャグル族):ムボは活発な性格の元気な男の子で、シザは三つ編みに木のフレームの眼鏡をかけた可愛らしくて気が強い女の子、ミダは大人しいちょっと内気なショートヘアの女の子。身長は三人共四十センチ前後です。
6
お気に入りに追加
4,127
あなたにおすすめの小説
王が気づいたのはあれから十年後
基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。
妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。
仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。
側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。
王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。
王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。
新たな国王の誕生だった。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます
ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう
どんどん更新していきます。
ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
【完結】婚約破棄されて修道院へ送られたので、今後は自分のために頑張ります!
猫石
ファンタジー
「ミズリーシャ・ザナスリー。 公爵の家門を盾に他者を蹂躙し、悪逆非道を尽くしたお前の所業! 決して許してはおけない! よって我がの名の元にお前にはここで婚約破棄を言い渡す! 今後は修道女としてその身を神を捧げ、生涯後悔しながら生きていくがいい!」
無実の罪を着せられた私は、その瞬間に前世の記憶を取り戻した。
色々と足りない王太子殿下と婚約破棄でき、その後の自由も確約されると踏んだ私は、意気揚々と王都のはずれにある小さな修道院へ向かったのだった。
注意⚠️このお話には、妊娠出産、新生児育児のお話がバリバリ出てきます。(訳ありもあります)お嫌いな方は自衛をお願いします!
2023/10/12 作者の気持ち的に、断罪部分を最後の番外にしました。
2023/10/31第16回ファンタジー小説大賞奨励賞頂きました。応援・投票ありがとうございました!
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
★小説家になろう様でも公開しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
転生したら神だった。どうすんの?
埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの?
人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。