上 下
117 / 149
連載

182話 第三都市エドックスへ4(2021.08.23改)

しおりを挟む
 
 従魔の住処から、木箱に入れて欠陥品の召喚の壺Eランクを運び出す。僕の後ろには、同じ木箱を抱えたモーソンが続く。一人で一度に十本もの壺を持ち切れなかったため、壺からどんな魔物が出てくるのか見学したいとモーソンがついてきた。

「ルフト様、それはなんですか?」

 草原に戻った僕たちを見てシダが言った。そういえば三人の小人たちには召喚の壺はまだ見せたことが無かったんだ。反応を見て思い出す。

「これは、召喚の壺という魔物を呼び出す不思議アイテムなんだ」
「すげーそんな物があるんだ。さすがルフト様だ」

 ムボは、なんにでも驚いてくれる。
 まぁ……どう説明していいか分からないし、実際見てもらうのが一番良いと思う。
 僕が召喚の壺を取りに行っている間にウイルオーウイスプたちは消えてしまっていた。ナナホシの話だと雲が出はじめて月が隠れると、ウイルオーウイスプたちは競う様に泉の中へ飛び込んでしまったらしい〝不思議なんだ、泉の中に飛び込んだのに、水飛沫が一切起きなかったんだぜ〟とナナホシは説明を続ける。泉の中ではなく手前に異界の扉ゲートが出現していたってことなんだろうか?
 ウイルオーウイスプたちの挙動から、月の光が泉に差し込んでいる間だけ異界と泉が繋がる可能性が高い。
 ナナホシは泉のそばに寄ると水の中を覗き込んだ。妖精の目には、僕ら人間の目で見ることが出来ない何かが見えているのかもしれない。ナナホシは何度も泉の水面に手を伸ばしては首を捻った。

(ルフト、この泉不安定みたいだぞ……魔力がたまーに大きく揺いじゃうんだ。ウイルオーウイスプたちも扉が開いたからといって毎回こっちに来られるってわけでもないみたいだ)
「それじゃあ、当分、ウイルオーウイスプはこっちに出てこれないのかな?」

 ナナホシは肯定を示すように首を縦に振る。
 召喚の壺を開けるのならウイルオーウイスプたちがいない方が都合がいい、急に囲まれて次から次へと自爆でもされたら目も当てられないよ。

「ナナホシ、今もあっちと繋がっているかどうかは調べられる」

 ナナホシは、確認する様にもう一度泉に手を翳した。

(うん、大丈夫そうだ。こっちにはない力を感じるから……間違いなく繋がってるよ。俺ら妖精に言わせると、この泉自体が奇跡なんだ。自然と異界の門が開くなんてありえないことなんだぜ)

 ナナホシの隣で、ハナホシもその泉を不思議そうに覗いていた。
 僕は、泉の状態が変わる前に終わらせようと、十本ある召喚の壺の封を次から次へと剥がしていく、煙が消えるのを待たずに開け続けた。その大半はハズレだったが、ようやく魔物が出る気配を感じた。それでも、手を止めずに開け続ける。
 最後の十本目を開けた。
 今、僕のそばには三匹の魔物の気配がある。目の前にいるのが分かるのに三匹の姿はちっとも見えやしない。そんな不思議な状況の中でも、僕は姿の見えない三匹の気配だけを頼りに『従魔契約』を行った。
 恐らく、モーソンとムボたち三人の小人たちには、僕がひとり言でも喋っている様に見えているんだろう。
 ただただ、四人は僕の方を不思議な物を見ている様な、奇妙な顔で見続けていた。

「ルフト様、光の鎖が見えましたが……魔物はどこにいるんですか?」

 シザが不思議そうな顔で言う。
 召喚の壺を開けたから、僕は、三匹の魔物を辛うじて認識出来ているんだと思う。とても希薄な気配のその魔物を……。
 ナナホシとハナホシ、フローラルにレモンは妖精の目でその気配を掴み、ドングリとビセンテは微かな臭いでそれを判別したといったところか。

「目の前に三匹確かにいるよ。でも今は、視ようと思っても見えないと思う」

 朝になればみんなにも新しい仲間の姿が見えるだろう。なんとかモーソンたちを説得して、そのままゴロネスの村の近くまで歩き、その日は休むことにした。

 翌日、みんなに新しい家族を紹介する。
 僕も初めて彼らを見た。人型に空間がくり抜かれている様に見える不思議な姿、人型の部分だけが夜なのだ。【夜人ヨビト】と呼ばれる不思議な魔物、常に夜を纏うその姿は、それだけで人の恐怖を掻き立てる。
 けして、気性の荒い魔物ではないし、攻撃的な魔物でもない。それでも人は正体不明の存在を恐れてしまう。
 僕は従魔契約をして彼らが優しい魔物だと分かっているから、恐れないんだ。
 夜人は、人間にとって身近な魔物である。彼らは度々僕らの世界に紛れてはふらふらと歩き、何もないところで人とぶつかり驚かせる不思議な魔物だ。
 夜人を見てポカンと口を開けるみんなを見て、悪戯が成功したみたいに僕は笑った。みんなのこの驚く顔が見れただけでも、夜人たちを従魔に迎えられて良かった。

 夜人は、恐らく魔法使い系の魔物だと思う。従魔師の勘がそういった。

「フローラルとレモンは、夜人たちが魔法を覚えられないかどうか試してほしいんだ」
(魔法を教えるのか……ふむ、いいじゃろう。主よ、まずは彼らの名前だけでも教えてもらえんかの)

 名前か、顔も背丈も瓜二つなニュトンたちの時もそうだったけど、見分けが付かない魔物に、名前を付けるのは想像以上に難しい。レッサースパルトイたちみたいに数字入りの装備を持たせるってわけにもいかないし……どうしよう。頭を両手で掻きながら必死に考える。
 僕は三匹を順番に指差しながら〝ヨルイチ、ヨルニ、ヨルサンで〟と言い切った……次回どの子がヨルイチか、言い当てる自信はこれっぽっちもないけれど、見た目が同じじゃどうしようもない。
 少しの間、三匹のことはフローラルとレモンに任せることにした。

 朝食を終えて外に出ると、トリプルホーンガゼルのガゼオとガゼゾウが牽く幌馬車に乗ってゴロネスの村へ入る。
 ここでは、足りない食材だけを補充してすぐに村を出発した。娯楽の少ない村だ。当たり前のように、草原の牛の数が減ったことが大きな話題になっていた。
 第三都市エドックスは、ゴロネス村から馬車で三日程の距離にある。
 エドックスまでは道も整備されていて走り易く、順調に進むことは出来たが、アリツィオ大樹海の様な森の中とは違い、従魔の住処へ入るタイミングが難しいというか……街道では人目も行き交う馬車も多く、なかなか休む場所が見つからない。
 今まで人のいない未開の地にばかりいたせいか、魔物の出ない安全な旅にどうしても違和感がある。
 ゴロネスの村を出て三日目の昼、ようやく僕らは第三都市エドックスへと到着した。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

転生したら神だった。どうすんの?

埼玉ポテチ
ファンタジー
転生した先は何と神様、しかも他の神にお前は神じゃ無いと天界から追放されてしまった。僕はこれからどうすれば良いの? 人間界に落とされた神が天界に戻るのかはたまた、地上でスローライフを送るのか?ちょっと変わった異世界ファンタジーです。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。