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連載
178話 出発前日(2021.08.23改)
しおりを挟むトトルッポの集落を出る際、イシザルの長老に呼び止められた。
「どうしました?」
「お主とモーソンについて話があってな」
以前、僕と同じ村の出身者の匂いを嗅ぐことで、僕の中の魔物の匂いが意図的なものかどうか分かるかもしれない、その話しを思い出した僕は、宴会の席でモーソンを長老に引き合わせた。
モーソンが魔物になった時点で、意図的なんだろうなという予想はしていたけど……。
「モーソンからもお主と同じエントの珪化木の匂いがした。お主たちは故意にそうなる様に仕組まれたんじゃろうな、名も無き村じゃったか、そこに行ってみるのが一番だろう」
「魔物になった僕らが元に戻れる可能性はあるんでしょうか?」
「無いとも言い切れんが、まーあまり期待はせんことじゃ」
「分かりました。モーソンには黙っておきます」
名も無き村に行くのが一番か、名も無き村の情報なんて、誰に聞けば教えてくれるんだろう……。
出発前日――僕は、テリアとボロニーズのお願いを聞き、小人の村で生き物の飼育している畜産エリアへと向かっていた。なんでも大事な相談があるらしい。内容は到着するまで秘密だそうだ。
いま僕らが乗っている馬車は、小人の村の小さな馬が牽く荷馬車を貰い、荒れた路面でも壊れない様にニュトンたちが改造したモノだ。
ペリツィアたちが牽く馬車は頑丈に作り過ぎたせいで、新たらしく従魔になったトリプルホーンガゼルが牽くには重すぎる。そこで小人たちから壊れていた馬車を一台譲ってもらって改造して使うことにしたのだ。今もガゼオとガゼゾウの雄二匹が牽いている。
ちなみに各部の補強以外で変えたのは、馬車の屋根として折り畳み式の幌を付けた点だ。水を弾く性質を持ったジャイアントトードの皮で作った幌だけに雨が降っても安心だろう。
なにより屋根なしの荷馬車では、従魔たちがまる見えでトラブルの予感しかしない。
試験走行も兼ねて僕が御者台に座り、畜産エリアを目指す。
テリアとボロニーズの案内で到着したのは、畜産エリアの中でも比較的新しい建物だった。
何を育てているんだろう?建物は小人の施設の中でも大きい方だと思う。僕らが建物の前に到着すると比較的若い小人が僕らを出迎えてくれた。
「ルフト様、お久しぶりです。この建物をテリア様とボロニーズ様と一緒に管理しているザザです。ようこそおいでくださいました」
ザザと名乗った小人が頭を下げる。礼儀正しい小人だ……よくドドさんの様な適当な村長が仕切る村から、こんなにも礼儀正しい小人が生まれてくるものだと変なところに感心する。
「いつも、テリアとボロニーズがお世話になっています」
挨拶を終えると。
ザザに続き、テリアとボロニーズと一緒に建物の中へと入っていく。作りからして鳥などの孵化場かな?この建物が他の建物に比べて大きい理由も分かった。中では、比較的体の小さなストーンゴーレムたちが働いていたのだ。体が小さいといっても二メートルは超えており人間と比べても大きい。身長四十センチ程のファジャグル族と並ぶと巨人にしか見えない。
建物に入るとすぐに〝ギャーギャー〟という鳥に比べて低めの鳴き声が聞こえてくる。テリアとボロニーズは、一体ここで何を育てているんだ?二人が建物に入ると、すぐにペンギンの様にパタパタと二本足で歩く奇妙な生き物が群がって来た。
よくよく見て気が付いた、まだ子供のため羽根は小さくて空は飛べないみたいだけど、レッサーワイバーンの子供たちだ。
巣から大量の卵を持ち帰ったのは、食べるのが目的ではなくレッサーワイバーンを育てるためだったんだろう。大きさは、子犬より少し大きい程度、テリアとボロニーズを親と思い込んでいる様で、二人を見た瞬間レッサーワイバーンの子供たちの鳴き声が甘える様に、少し高い声色に変わった。
建物の中にストーンゴーレムがいるのは、万が一暴れた際。小人たちだけでは対処できないからだろう。僕をここに呼んだということは、従魔の住処の中でガラス草で出来た水槽で飼っている【ゼブラピラニア】の様に、『従魔の従者』を使い従魔の住処でこのレッサーワイバーンたちを飼いたいってことなんだろうか?
流石にこれだけの数の魔物の子供を育てるのは無理だろうな。今が一番手がかかる時期のはずだし、このままここで育てるのが良い様にも思える。
僕の予想と二人の考えは違っていた。
二人に連れられて奥の部屋へと向かう。奥の部屋には、さっきのレッサーワイバーンの子供と比べて少し大きな赤い色をしたワイバーンがいた。三匹いる……しかも、さっき見たレッサーワイバーンの子供たちに比べると明らかに痩せていて元気がない。
小人のザザが〝最近、ご飯を食べてくれないんですよ……〟と悲しそうに言った。
目の前の三匹は、変異種にして上位種、炎を吹く飛竜【アリツィオブレイズワイバーン】の子供たちだ。テリアとボロニーズが近付いても、三匹は目を瞑ったまま身を寄せ合い一向に顔を上げる様子もない。上位種はプライドも高いって聞くし……なかなか懐かないんだろう。
「あるじ、このこたち、これならたべる」
テリアが何かを袋から出した瞬間……三匹のワイバーンの子供が競う様に上を向いて走り出した。
「りんごしか、たべなくて」
テリアが麻袋から取り出したのは、従魔の住処で育ったリンゴだ。
大量のリンゴを前にした途端……赤いワイバーンの子供たちが〝キューキュー〟とあざとい声を出して目を潤ませる。なんなら、麻袋ごと置いていけと言わんばかりにテリアとボロニーズに体を摺り寄せる。生存本能かな……?
リンゴが無くなった途端に、リンゴがないならお前らには用はないと赤いワイバーンの子供はテリアとボロニーズから離れてしまった。
ボロニーズなんて分かりやすく〝ガーン〟と声に出して肩を落としてるし。
テリアとボロニーズが、三匹の喜ぶ顔見たさに毎回リンゴを持って来た結果。三匹はリンゴ以外を口にしようとしなくなり、僕らが留守の間にやせ細ってしまったということらしい。どうやら二人の相談は、弱る三匹を何とかして助けてあげたいってことみたいだ。
本来ワイバーンたち飛竜種に属する竜は、雑食でどんなものでも食べるのが特徴だ。実際、隣の部屋のレッサーワイバーンの子供たちはリンゴを食べた後も、肉や野菜や牧草と出された物は好き嫌いせずに食べているみたいだし、上位種だけに舌が肥えてしまったんだろうか?
でも……小人の村産のリンゴをあげても食べないって話だし、何が原因なんだろう。
うちのみんなの様に、生肉はダメでも焼いた肉なら食べるとかかな?肉を焼いて置いてみたが三匹は見向きもしない。テリアとボロニーズの方がヨダレを垂らしている。
これならどうだ。従魔の住処産の柿を目の前に置いてみた……勢いよく食べた。
水もあまり飲まないって話だけど……水の話をしていたら急に喉が渇いてしまい、お出かけ用のショルダーバッグから水筒を取り出して水を飲む。
ん……三匹の赤いワイバーンが、僕の前で水を飲みたそうにしているような、彼ら専用の水桶があるのに、ナゼ?水筒の水を欲しがるんだ。
もしかしてと思い、三匹の目の前に今度はフェアリーウエルから汲んだ水を入れた桶を置いてみた。予想通り三匹は咽るのも気にせず夢中になって飲み続ける。
「あるじ、すごい」
「あるじ、まじかみ、さいきょー」
テリアとボロニーズが、キラキラした目で僕を見た。
今度は同じオニハコベを別々の皿に盛り、三匹の目の前に置いてみた。三匹は片方の皿のオニハコベだけをキレイに平らげた。
彼らが食べたのは、すみれの間と呼んでいる僕の従魔の住処で育ったオニハコベだ。一方残したオニハコベは、あじさいの間と呼んでいるラガンの部屋(仮)で育ったオニハコベだった。
上位種だからなのか、彼らは食材に宿る魔力を感じ取って食べているんだろう。
余程お腹が空いていたんだろう、三匹は目の前に追加で置いた山盛りのオニハコベを夢中になって食べ続けた。胃袋を掴んだんだろう、その後も三匹は僕に甘え続ける。
それを見たテリアとボロニーズが声を揃えて
「「ガーン」」
と言って肩を落としたのは、見ないことに……後で二人にも美味しい食事を作ってあげよう。
結局、やせ細っていく子供のワイバーンを放っておくことが出来ずに……三匹は新しい仲間になった。テリアとボロニーズも大喜びだし、しょうがないよね。
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