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177話 新しい住人(2021.08.23改)
しおりを挟むラフラー砂漠を抜けた僕たちは、中域から浅瀬へと抜け、四日後……小人の村に到着した。
「ルフト様、おかえりなさい」
小人たちの歓迎を受けて、村の中央広場にある家へと向かう。小人たちが管理してくれていたんだろう、家の中はとてもキレイだ。
みんなを従魔の住処から出すと、それぞれが好きなように出掛けて行く。小人の村はみんなにとっても気心の知れた場所だ。進化して見た目が少し厳つくなったブランデルホルストも、はじめは怯えられていたがすぐに小人たちに受け入れてもらえたようだ。
一番ホッとしたのはブランデルホルストだろう……僕の家族のなかでも優しい性格だからこそ、怖がられるのはカワイソウだ。
「ここが小人の村なんだね、小人以外にもイロイロな魔物が普通に歩いているなんて凄い村だね」
僕の隣にいる僕の幼馴染でワールトラのモーソンが、先細りした尻尾をユラユラと揺らしながらつぶらな瞳を輝かせる。前回来た時より、村を歩く魔物の数も種類も増えている。岩の森で暮らす一見岩にしか見えないカメや、うちのストーンと同種のイシイグアナもいる。
「ファジャグル族には、従魔師のクラス持ちが多いんだよ。村を歩いているのは彼らの従魔たちなんだ」
「へぇー、そうなんだ。種族関係なく暮らせるなんて良い村だね。大きな倒木から生えているキノコの家もカラフルで可愛いし」
モーソンは、ファジャグル族が暮らす小人の村を気に入ってくれた。
本当は少しのんびりしたいんだけど、リザスさんから借りている【黒いフランベルジュ】を返しに行かなければならないし、早めに発たないと……急ぎの用件だけでも済ませてしまわないと。
まずは……村長のドドさんの家を訪ねて、一見痩せたてるてる坊主にしか見えないトトルッポたちが住人として受け入れてもらえるかどうかを相談した。〝そうですか下級悪魔をここに住まわせたいと、我々ファジャグル族は、ルフト様が決めたことならば反対しません……ただ、イシザルやゴーレムたちにも相談するべきですかな〟とドドさんにしては、至極まともな意見が飛び出した。
僕らが帰還しただけで大げさすぎだよね。僕が戻った話を聞いたのだろう、岩の森で暮らすイシザルやストーンゴーレムたちも、小人の村へとやって来た。
僕が不在の間にストーンゴーレムの代表者も決まっていた。野生のストーンゴーレムの身長は二メートル~四メートルと身長差があるのだが、代表者のゴーレムはそれよりも大きな五メートルの体を持っていた。石の質も他のゴーレムとは違って見えるし変異種かな?
元々ストーンゴーレムたちは岩の森の奥地、アリツィオ大樹海でいえば中域に暮らす魔物たちだ。これだけ力のある魔物が他の種族と協力して生きるのは珍しい。
早速、代表者の大きなゴーレムがホワイトさんに頭を下げていた……ホワイトさんはストーンゴーレムにとって女王の様な存在なんだよね。スライムに性別は無いけどホワイトさんには女の子のイメージがある。
これだけ強い魔物が、ルフト同盟という訳の分からない一団に所属しているのも、ひとえにホワイトさんが、ゴーレムたちから慕われているからだ。
僕のことは、ホワイトさんの主なんだから従うのは当たり前だ!……くらいに考えていそう。
宴の席で僕は、トトルッポたち四九匹とその主従関係に当たるミイラたちを紹介した。
「ふぉっふぉっふぉ、悪魔とは珍しい種族を連れてきたの」
流石に物知りなイシザルの長老だ。不思議なてるてる坊主たちを見て、一目で悪魔と見抜いてしまった。
「悪魔はだめでしょうか?」
「ルフトよ、この悪魔を連れてきたのはお主じゃろう。お主は儂らの代表なんじゃ、お主が決めたのなら儂らも反対せぬよ……なーみんな」
長老の声に、その場にいたイシザルたちが一斉に胸を叩き〝ウホウホ〟と雄叫びを上げる。
続いて、ストーンゴーレムたちを見た。代表者の変異種の頭の上には、いつの間にかホワイトさんが乗っていた。ホワイトさんが黒板を出して文字を書く、黒板には『ゴーレムたちも、トトルッポたちを歓迎するとのことです』と書いてあった。晴れてトトルッポたちは、この場所の新たな住人として『ルフト同盟』に迎えられた。
僕らの帰還を祝う宴は続く。イシザルとゴーレムたちは僕たちの様な食事を摂らない、この日はそれぞれが持参したお気に入りの鉱物に噛り付く。
僕らの帰還を祝う宴のはずなのに、宴用の食材として従魔の住処の冷凍庫に貯め込んでいた魔物の肉が、ほぼ空になってしまったのは解せない。でも、みんな楽しそうだし仕方ないか。
翌朝、僕はトトルッポたちの住処を決めるために、長老と一緒に岩山へと登った。
岩の森にこんな山があったのかと驚きながらも、それ以上に険しい崖の前で、石を操りいともたやすく階段を作り出す長老の魔法技術に目を丸くする。魔法についての質問は、いつもはぐらかされてしまうが、長老は、凄い魔法使いなんだと思う。
長老が、トトルッポの集落として提案してくれた場所は、岩山の上にある開けた場所だった。地面も平らだし長老があらかじめ均してくれていたのかもしれないな。
地面が岩だけにテントを張るための杭も刺さらず途方に暮れていると、イシザルたちがテントを張るのを手伝ってくれた。広場には岩をくり貫いた池もあり、そこに雨水を貯めて使う仕組みの様だ。トトルッポたちが住んでいた砂漠の滝の下にある洞窟の壁から染み出す水に比べると魔力は弱いが、アリツィオ大樹海の中の岩山だけあり、池に貯まった水にも魔力が宿っている。
トトルッポ曰く、魔力は少ないものの、この水なら十分ミイラ作りに使えるとのことだ。それに、洞窟の湧水に比べて水量も豊富だし、岩肌が水の汚れを取り除くため飲み水としても問題ないだろう。トトルッポたちも、この場所を気に入ってくれたみたいだ。
次に、岩山に完成したトトルッポたちの新しい集落へとミイラたちを移そうとしたのだが……僕の従魔になりたいとごねるミイラが続出した。トトルッポたちも〝気に入った子は従魔にしてくれて構わないポン〟と好きに選んでくださいって感じだし、僕はミイラたちに、新しい集落で暮らす様必死に説得することになった。
その結果。僕が小人の村に帰って来た際に、試験をして合格したミイラだけを従魔にするという条件で何とか納得してもらったのである。
それでも、体が大きくて、この集落では暮らす場所がないデザートアッシュブラウンホエールのミイラ三匹と、トトルッポでは主従関係を保ちきれそうもない、力の強い五匹のゴブリンジェネラルのミイラは、僕が従魔として連れて行くことになった。
フェアリーウエルの水を朝晩美味しそうに飲むって時点で、予想はしていたんだけど、他のミイラたちも普通のミイラでは無くなっていた。種族名【ハーフミイラ】ハーフといっても人間とミイラの子供って意味じゃない、周囲の魔力を受けて、体の半分以上の肉を取り戻したミイラのことだ。稀に魔力の濃い環境で暮らすミイラに起こる現象なんだけど、どうりでミイラにしては動きが滑らかなわけだ。
別れ際に、僕はトトルッポたちから一枚のメモを半ば強引に渡された。なになに……人型のそれほど強くない魔物、移動に使える(馬や牛希望)で強くない魔物、力持ちで強くない魔物……なんだろう、これ。
「ルフト様、ここでは魔物を拾えないポン、ですのでミイラの素材になる魔物の死体を集めて来てほしいポン」
面倒だな、と思ったのが顔に出ていたんだろう。トトルッポたちは何度も僕に頭を下げた。
「「「「い……イッテらっしゃいポン」」」」
ひとまず冷蔵庫に残っていた、進化種のゴブリンの死体は置いてきたし、ミイラ用の魔物集めは多少遅くなっても平気だろう。
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