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176話 ラフラー砂漠脱出(2021.08.23改)
しおりを挟むデザートアッシュブラウンホエールのミイラ三匹が泳ぐ砂プールが完成した後、僕は、モーソンがミイラと交わした約束を果たすために彼らの前にいた。砂の滝を登って無事脱出できたのはナファローネの活躍があったからだ。
僕、モーソン、テリア、ボロニーズの四人は戦力外で、船酔いで倒れているか、当たらない矢を放つかのどちらかでちっとも役に立たなかった。僕たちの分まで活躍してくれたナファローネの希望には、報いたい。
鎧を纏った四匹のミイラ。緑のゴブリン王だったラガンと、ゴブリンジェネラルだったチダハとネグサ、三匹のゴブリンのミイラは三メートルに近い身長がある。
魔法職だったラガンが鎧を着ているのは、彼の装備品【ゴブリン王のローブ】を僕が着ているせいだ。
四匹の中で、元人間であるナファローネの背は低い。それでも、ゴブリンの上位種に比べても見劣りしないんだから大したものだ。
四匹は、本当に僕の従魔にしてもらえるのかと不安そうな表情をする。
ミイラなのに、顔の筋肉が動くんだもんな……彼らの顔の包帯は、ほぼ外れている。こんなに強いのに目が泳いでいるんだもん、僕と目が合う度にすぐ逸らすし。
彼らを従魔にするためには、まずは製作者でもあるトトルッポに主従関係を解除してもらわなくてはならない。これだけの魔物たちだし、トトルッポたちも渋るかと思ったんだけど……彼らは迷う様子も無く首を縦に振った。
「主従関係はすぐ切れるポン、ゴブリン王とゴブリンジェネラルは俺たちには過ぎた魔物だったポン、正直いつ切れるか冷や冷やだったんだポン」
とまくし立てた。強い魔物をミイラにした場合、主従関係が上手く保てず、言うことを聞かないミイラになるんだとか……初耳だよ?
言うことを聞かなくなるって割には、彼らは毎日素直に畑仕事を手伝ってくれた〝それだけルフト様の従魔の住処が凄いんだポン、住み心地抜群で裏切る気にならないポン〟とトトルッポたちは言葉を続ける。
僕の従魔の住処の居心地が良過ぎて、ミイラたちは僕に気に入られようと頑張っていると……小人の村に到着したら、トトルッポたちには、岩の森に移住してもらうつもりでいるんだけど、全員大人しく従ってくれるか心配だ。
「ルフト様、四匹の主従関係を解除したポン、サクッと従魔にしちゃってくださいポン」
トトルッポは、シーツの中から鳥の足に似た手を出して僕に敬礼する。
僕は、主従関係の解除が完了した四匹に『従魔契約』の準備をした。従魔契約の前にラガンとチダハとネグサの三匹に、僕らを恨んでいないか聞いてみたが、三匹は恨んでいないと即答した。
新しい魔石が出来てミイラとして生まれ変わる時に、記憶も一緒にリセットされるのかもしれない。僕は君たちを一度殺しているんだと伝えても三匹は平然としている。ミイラには謎が多い。
予想はしていたけど……四匹は既にミイラではなくなっていた。進化していたのだ。種族名【デスアーマー】、不死の魔物ではあるみたいだけど、聞いたこともない種族だ。
血が通ってないせいか肌は浅黒く、瞳は灰色をしていて生気を感じない。それでも彼らの顔には表情筋があった。
もう一つ驚いたのは、ナファローネが持っていたギルドカードが生きていたことだ。しっかりとした魔力を感じる。しかも、ギルドカードに刻まれていた、冒険者ランクの伝説と呼ばれるAランク!
Aランク冒険者なんて初めて見たよ。Aランクは、世間から英雄と認められた一握りの冒険者に与えられる特別なランクだ。ギルドカードを見る限り、資格もまだ消えていない。
ナファローネと一緒なら、僕も冒険者パーティーを組めるかもしれない。パーティーに最低人数とかあるのかな?今度冒険者ギルドに立ち寄った時に、絶対確認しよう。憧れの冒険者パーティー登録が出来るかもしれない。
四匹の魔物ランクは、生前高位の魔物と上級冒険者だったせいか、かなり高かった。ナファローネとラガンがBランク、チダハとネグサがC+ランクだ。ランクだけならナファローネとラガンは、ローズやアルジェントより上で、チダハとネグサもテリアよりも上だ。ローズが物凄く悔しそうな顔をしているけど、見なかったことにした。
リザスさんと会ったら、きっと四匹とも手合わせさせろってごねるだろうな。
次の日、僕たちは移動を再開した。ラフラー砂漠で暮らす魔物だからといって、すべての地形で動けるわけでなく、クジラのミイラたちは流れのある砂の川でしか泳げない、逆に砂ムカデのミイラやサンドワームのミイラたちは、流れのある砂の中には入れないそうだ。
ミイラとも意思疎通が出来るなんてホワイトさんは本当に凄い。
ラフラー砂漠の西側には、砂の川と呼ばれる動きのある砂地は少なく、僕らはまた砂漠を歩いて渡ることになってしまった。
数日後――そこで新しく準備したのが、砂渡の船よりも一回り以上小さい一台のソリだ。砂ムカデのミイラとサンドワームのミイラがソリを牽き、その上に僕とモーソンとブルーさんとグリーンさんの四人が乗り込む。
ソリで移動中も、魔物たちは襲って来たが、襲ってくる魔物一匹に傷を負わせることで、目が見えず振動と匂いで獲物を探す彼らは、流れた血と体液の匂いに惹かれて勝手に集まり殺し合いをはじめる。
その隙に僕らには、十分逃げる時間を稼ぐことができた。
さらに数日後、まだ距離はあるが、やっと森が見えはじめた……ラフラー砂漠の旅が終わりに近づいるのだ。長かったー。
「ねえルフト」
「ん……なに?」
ソリに揺られながら周囲を警戒する僕にモーソンが話し掛けてくる。
「あのさ、砂漠では、召喚の壺は開けてみないの?いろんなところで開けてみたいって話してたよね」
確かに、少し前モーソンとそんな話をした記憶がある。砂漠に来る機会なんてそうそうないし、ただ、実際来てみたら虫の魔物が多くて召喚の壺を開ける気が失せたのだ。
でも……E級且つ欠陥品の壺なら、ラフラー砂漠に暮らす中域の虫の魔物が出ることはないのかもしれない。砂漠という特殊な環境の中、何個か召喚の壺を開けてみるのも悪くない。
気持ちが揺らいだ。
「せっかく砂漠にいるんだし、十個くらい開けてみようかな」
「うんうん、その方が良いよ!開けてみようよ」
スライムたちの手を借りて、あじさいの間の小屋から、召喚の壺E十個を運び出す。
早速、近くに魔物がいないことを確認すると、一つ目の召喚の壺の蓋を開けた。勢いよく白い煙が壺から噴き出した。少しして煙が消えるも魔物の姿はなく、ハズレだった。
二つ目……三つ目とハズレが続く、ラガンの手記にも書いてあった通り、召喚の壺Eは、従魔の住処の外で開けると魔物が出る確率がかなり落ちてしまうみたいだ。
四つ目にして、ようやく一匹目の魔物が現れた。
鹿かな?真っ直ぐ尖った長い角が三本生えた、鹿に似た生き物。体長は一メートル前後で、体は茶色で腹が白く、黒い角と耳と短めの尻尾が生えている。
『従魔契約』を待っているのか、その生き物は僕の前でじっと立ったまま逃げようとしない。
従魔契約をしたことで魔物の正体が分かった。種族名【トリプルホーンガゼル】乾燥地帯や木の少ない草原で暮らす、跳躍力のあるウシ科の動物ガゼルが魔物化したものだった。
魔物だからか、ガゼルと名前が付く動物たちに比べて体や足も太い。ホワイトさんに従魔として何をしたいのか聞いてもらったところ、馬車を牽いたり人を乗せることには興味があるそうだ。ただ、あまり戦いはしたくないとのこと。
十個あった召喚の壺を全部開けてみたところ、雄二匹と雌二匹の合計四匹のトリプルホーンガゼルが仲間になった。
ペリツィアたちツァガンデギア一家はヤキモチを焼くかもしれないが、街道の様な人目が多いところではガゼルたちに馬車を牽いてもらおう。雄と雌の違いは、角があるかないかの違いだけで、雄だけに角が生える。
ホワイトさんから『主!従魔には名前を付けてあげるべきです。モストットたちは名前を貰えず落ち込んでいますよ』と黒板に書かれてしまい、ガゼルたちには早々に名前を付けた。
ありきたりではあるけど……名前は雄が、ガゼオとガゼゾウ、雌にはガゼミとガゼネスと名付けた。名前を貰ったガゼルたちは嬉しそうに僕の背の高さを軽く越える高さまで飛び跳ねた。
従魔の数が増えてしまい、みんなの名前を書いたノートでも持ち歩かないと、名前をすぐに思い出せそうもない。子供も合わせて一九匹のモストットと、人型のグリーンマンと犬型のグリーンマンにも名前を付けてあげないといけないし、僕はこの日から、従魔たちの名前用ノートを持ち歩くようになった。
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