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174話 出港、砂渡の船1(2021.08.23改)
しおりを挟むついに出港だ――デザートアッシュブラウンホエールのミイラたちは、ゴブリンジェネラルのミイラたちに運ばれて外に出た。早速砂の湖に入り目の届く範囲で楽しそうに泳ぎはじめる。やはりクジラは広い場所で泳ぐのが嬉しいんだろう。
毎日、従魔の住処でゴロゴロしながら鰭を動かしているだけでは退屈だったんだろうな。
無事、ラフラー砂漠から抜け出すことが出来たら、船を牽いてくれたお礼に『あじさいの間』に大きな穴でも掘って彼ら専用の砂のプールを作ってあげよう。
それとは別に、水の中でも砂の中と同じように泳げるのかも試してみたい。
もし、彼らが水の中でも泳げるのなら、海を渡って他の大陸にも行けるかもしれない。ミイラなら淡水も海水も関係ないだろう。
最近、イロイロなことを考えてしまう。カスターニャ町に来たばかりの頃は、自分が冒険者としてやっていけるかすら不安だった。家族が増えたのは僕にとって大きかったんだろう。今は、もっとみんなで沢山の景色を見てみたい。
今は、この砂漠を抜けることに集中しないとな……目の前で轟音を響かせている巨大な砂の滝を見上げて、決意する。頑張ろう。
モーソンがそんな僕を見てニタニタしていた……〝見るなああーー!〟カッコつけてたわけでもないし、感傷に浸っていたわけでもないんだ。だから、そんなに笑わないでよ。
完成した砂渡の船は、クジラのミイラたちが出来る限り楽に牽ける様にと、抵抗の少ない細めの船体にした。もちろん、必要のない帆や櫂は省いてある。
船というよりは大き目のボート?と呼んだ方が似合うかもしれない。
船首には、九十度近い傾斜がある砂の滝に突っ込んだ際に、船が上手く持ち上がる様に水車にも似た大きな車輪が取り付けてある。もちろん、これが上手くいくかどうかも、やって見なきゃ分からない。
それに、あれだけ高さのある滝を登るのだ、船から放り出されない様に、命綱や足を床に固定するための足錠も準備してある。
今回は、本当に誰を連れて行くのかで悩んだ。
スライムたちの体の性質を考えると、命綱や足錠といった道具で体を固定するのは難しい。それに、デザートアッシュブラウンホエールを中心とした砂の中にいる魔物たちから、船とクジラのミイラを守ることも考えなければならない。
船の上からじゃ、遠距離攻撃しかないよな。
本当は、フローラルとレモンが一緒に来てくれるのが一番なんだけど、ラフラー砂漠で彼らは魔法を使えない。
そんな多くの理由から、船に乗るメンバーは、僕とモーソンにテリアにボロニーズにブランデルホルスト、ミイラのナファローネとトトルッポの代表者を入れた七人に決まった。
モーソンとテリアとボロニーズの三人は、こうなることを予想して、僕が寝ている間、毎日クロスボウの練習をしていた。片腕のテリアのクロスボウの矢の装填は、隣のボロニーズがフォローする。
同行するミイラのナファローネだが、彼は生前名のある冒険者だった。大抵の武器はそつなく扱い弓の腕前も達人級。それを知ったモーソンが僕が寝ている間に『従魔契約』を餌に、彼を口説き落としたのだ。
トトルッポたちにも相談済みというから本当に手が早い、他の三匹の鎧を着たミイラたちもナファローネの活躍次第で従魔に加えると勝手に約束しちゃうし、テイマーである僕以上に、仲間を増やすことに積極的なんだからモーソンは。
準備が出来た僕たちは、クジラのミイラを船に繋ぎ乗り込んだ。
船は二列で乗る形で、先頭に僕とモーソン、二列目にテリアとボロニーズ、最後尾にブランデルホルストとミイラのナファローネの順で並ぶ。ちなみにナファローネは、生前彼が名乗っていた名前である。
トトルッポ族の代表者は、僕の前に置かれた箱の中から顔だけを出している。命綱や足錠では不安だと、自ら船に固定された箱の中に入ってしまったのだ。
クジラのミイラに細かい指示を出すためにもトトルッポの同行が必要だから仕方ないんだけど、〝絶対に落ちないかポンか、本当に落ちないポンか、行きたくないポン〟とすでに泣いている。
僕と目が合う度に〝あのクジラの群れを躱して、滝を登るなんて絶対、絶対、絶対!ルフト様は頭がオカシイポン、狂人だポン〟と叫ぶ。
クジラのミイラ一匹でも船は引けたんだけど、船を牽くクジラのミイラたちには最も危険がつきまとう。最悪を事態を想定しての三匹だ。
クジラのミイラたちは愛嬌もあり、みんなとも仲良くなったので、出来れば一匹も欠ける事無くこの砂漠を脱出したい。
出発だ。三匹のクジラのミイラは、僕に向けて合図を送る様に胸鰭を振ると泳ぎ始めた。
これだけ大きな三匹の魔物に牽かれた船が目立たないはずも無く、砂の湖で日光浴を楽しむクジラの魔物の群れは、既にこちらに気付いている。
それにしても、馬車を牽く馬のように考えていたんだけど、前を泳ぐクジラのミイラの尾鰭が砂を叩く度に僕たちの顔や体に大量の砂がかかった。
モーソンが僕の横で〝目がー口が―〟と叫び、叫ぶ度に大きく開いた口には、更に大量の砂が吸い込まれた。体に生えた毛の間にも砂が入る様で、〝気持ち悪い、痒い〟と愚痴が止まらない。
「トトルッポ、ごめん、もう少しクジラたちに潜ってもらってもいいかな」
「分かった……ゲホゲホ……ポン」
僕と話そうと開いたトトルッポの嘴の中にも砂が入る。本当に、ごめん。
テリアとボロニーズも毛の間に砂が入るのが気持ち悪いらしく、後ろで体を掻きながら悶えている。こうなると、砂の影響を受けないブランデルホルストとナファローネが頼りだ。
ゆっくりとこちらに動きはじめたクジラの群れが、僕らを敵として認識したのだろう。泳ぐ速度を上げて近付いて来た。クジラたちは仲間と連携を取るように一斉に歌いはじめる。
クジラたちが一斉に飛び跳ねることで、砂の湖は大きく波打ち、その度に僕らの船は横波を受けて激しく揺れる。
「ルフト、無理、本気で吐く降ろして」
モーソンが青い顔?毛並み?をして口を両手で押さえる。揺れがキツイし船酔いでもしたんだろう。船から顔を出して、砂の湖に向けて胃の中の物を盛大に吐き出した。
近付いてくるクジラの魔物に対して、僕も矢を放つが揺れ続ける船の上からでは、まともに矢は当たらない。そんな悪条件の中でもミイラのナファローネの放った矢はクジラに当たり、ブランデルホルストのブラックジャベリンは、空中で何度も軌道を変えながらクジラの頭に突き刺さった。
船が大きく左に向きを変えた。急な方向転換に僕らも悲鳴を上げる。クジラのミイラたちが急旋回したのだ。
命綱もあるから船から放り出されることはないんだけど、思わず船にしがみ付く。
僕らの船が少し前までいた場所からクジラの魔物が飛び出してきた。砂の湖はかなり深さがあるんだろう、一度大きく潜ってから、あのクジラたちは僕らの船目掛けて浮上したんだと思う。
なんとか、滝まで辿り着かないと……。
ブランデルホルストの槍とナファローネの矢がクジラの接近を防ぐ。それに比べて、僕とモーソンとテリアとボロニーズは、悲鳴を吐き出すか食べた物を吐き出すかのどちらかで物凄くカッコ悪い。
「みんな、もうじき滝だよー衝撃に注意して」
よろけながら僕は大声で叫んだ。
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