上 下
109 / 149
連載

174話 出港、砂渡の船1(2021.08.23改)

しおりを挟む
 
 ついに出港だ――デザートアッシュブラウンホエール砂クジラの魔物のミイラたちは、ゴブリンジェネラルのミイラたちに運ばれて外に出た。早速砂の湖に入り目の届く範囲で楽しそうに泳ぎはじめる。やはりクジラは広い場所で泳ぐのが嬉しいんだろう。
 毎日、従魔の住処でゴロゴロしながら鰭を動かしているだけでは退屈だったんだろうな。
 無事、ラフラー砂漠から抜け出すことが出来たら、船を牽いてくれたお礼に『あじさいの間』に大きな穴でも掘って彼ら専用の砂のプールを作ってあげよう。
 それとは別に、水の中でも砂の中と同じように泳げるのかも試してみたい。
 もし、彼らが水の中でも泳げるのなら、海を渡って他の大陸にも行けるかもしれない。ミイラなら淡水も海水も関係ないだろう。
 最近、イロイロなことを考えてしまう。カスターニャ町に来たばかりの頃は、自分が冒険者としてやっていけるかすら不安だった。家族従魔が増えたのは僕にとって大きかったんだろう。今は、もっとみんなで沢山の景色を見てみたい。

 今は、この砂漠を抜けることに集中しないとな……目の前で轟音を響かせている巨大な砂の滝を見上げて、決意する。頑張ろう。
 モーソンがそんな僕を見てニタニタしていた……〝見るなああーー!〟カッコつけてたわけでもないし、感傷に浸っていたわけでもないんだ。だから、そんなに笑わないでよ。

 完成した砂渡の船は、クジラのミイラたちが出来る限り楽に牽ける様にと、抵抗の少ない細めの船体にした。もちろん、必要のない帆や櫂は省いてある。
 船というよりは大き目のボート?と呼んだ方が似合うかもしれない。
 船首には、九十度近い傾斜がある砂の滝に突っ込んだ際に、船が上手く持ち上がる様に水車にも似た大きな車輪が取り付けてある。もちろん、これが上手くいくかどうかも、やって見なきゃ分からない。
 それに、あれだけ高さのある滝を登るのだ、船から放り出されない様に、命綱や足を床に固定するための足錠も準備してある。
 今回は、本当に誰を連れて行くのかで悩んだ。
 スライムたちの体の性質を考えると、命綱や足錠といった道具で体を固定するのは難しい。それに、デザートアッシュブラウンホエール砂クジラの魔物を中心とした砂の中にいる魔物たちから、船とクジラのミイラを守ることも考えなければならない。
 船の上からじゃ、遠距離攻撃しかないよな。
 本当は、フローラルとレモンが一緒に来てくれるのが一番なんだけど、ラフラー砂漠で彼らは魔法を使えない。
 そんな多くの理由から、船に乗るメンバーは、僕とモーソンにテリアにボロニーズにブランデルホルスト、ミイラのナファローネとトトルッポの代表者を入れた七人に決まった。
 モーソンとテリアとボロニーズの三人は、こうなることを予想して、僕が寝ている間、毎日クロスボウの練習をしていた。片腕のテリアのクロスボウの矢の装填は、隣のボロニーズがフォローする。
 同行するミイラのナファローネだが、彼は生前名のある冒険者だった。大抵の武器はそつなく扱い弓の腕前も達人級。それを知ったモーソンが僕が寝ている間に『従魔契約』を餌に、彼を口説き落としたのだ。
 トトルッポたちにも相談済みというから本当に手が早い、他の三匹の鎧を着たミイラたちもナファローネの活躍次第で従魔に加えるとに約束しちゃうし、テイマーである僕以上に、仲間を増やすことに積極的なんだからモーソンは。

 準備が出来た僕たちは、クジラのミイラを船に繋ぎ乗り込んだ。
 船は二列で乗る形で、先頭に僕とモーソン、二列目にテリアとボロニーズ、最後尾にブランデルホルストとミイラのナファローネの順で並ぶ。ちなみにナファローネは、生前彼が名乗っていた名前である。
 トトルッポ族の代表者は、僕の前に置かれた箱の中から顔だけを出している。命綱や足錠では不安だと、自ら船に固定された箱の中に入ってしまったのだ。
 クジラのミイラに細かい指示を出すためにもトトルッポの同行が必要だから仕方ないんだけど、〝絶対に落ちないかポンか、本当に落ちないポンか、行きたくないポン〟とすでに泣いている。
 僕と目が合う度に〝あのクジラの群れを躱して、滝を登るなんて絶対、絶対、絶対!ルフト様は頭がオカシイポン、狂人だポン〟と叫ぶ。
 クジラのミイラ一匹でも船は引けたんだけど、船を牽くクジラのミイラたちには最も危険がつきまとう。最悪を事態を想定しての三匹だ。
 クジラのミイラたちは愛嬌もあり、みんなとも仲良くなったので、出来れば一匹も欠ける事無くこの砂漠を脱出したい。

 出発だ。三匹のクジラのミイラは、僕に向けて合図を送る様に胸鰭を振ると泳ぎ始めた。
 これだけ大きな三匹の魔物に牽かれた船が目立たないはずも無く、砂の湖で日光浴を楽しむクジラの魔物の群れは、既にこちらに気付いている。
 それにしても、馬車を牽く馬のように考えていたんだけど、前を泳ぐクジラのミイラの尾鰭が砂を叩く度に僕たちの顔や体に大量の砂がかかった。
 モーソンが僕の横で〝目がー口が―〟と叫び、叫ぶ度に大きく開いた口には、更に大量の砂が吸い込まれた。体に生えた毛の間にも砂が入る様で、〝気持ち悪い、痒い〟と愚痴が止まらない。

「トトルッポ、ごめん、もう少しクジラたちに潜ってもらってもいいかな」
「分かった……ゲホゲホ……ポン」

 僕と話そうと開いたトトルッポの嘴の中にも砂が入る。本当に、ごめん。
 テリアとボロニーズも毛の間に砂が入るのが気持ち悪いらしく、後ろで体を掻きながら悶えている。こうなると、砂の影響を受けないブランデルホルストとナファローネが頼りだ。
 ゆっくりとこちらに動きはじめたクジラの群れが、僕らを敵として認識したのだろう。泳ぐ速度を上げて近付いて来た。クジラたちは仲間と連携を取るように一斉に歌いはじめる。
 クジラたちが一斉に飛び跳ねることで、砂の湖は大きく波打ち、その度に僕らの船は横波を受けて激しく揺れる。

「ルフト、無理、本気で吐く降ろして」

 モーソンが青い顔?毛並み?をして口を両手で押さえる。揺れがキツイし船酔いでもしたんだろう。船から顔を出して、砂の湖に向けて胃の中の物を盛大に吐き出した。
 近付いてくるクジラの魔物に対して、僕も矢を放つが揺れ続ける船の上からでは、まともに矢は当たらない。そんな悪条件の中でもミイラのナファローネの放った矢はクジラに当たり、ブランデルホルストのブラックジャベリン黒煙の投げ槍は、空中で何度も軌道を変えながらクジラの頭に突き刺さった。
 船が大きく左に向きを変えた。急な方向転換に僕らも悲鳴を上げる。クジラのミイラたちが急旋回したのだ。
 命綱もあるから船から放り出されることはないんだけど、思わず船にしがみ付く。
 僕らの船が少し前までいた場所からクジラの魔物が飛び出してきた。砂の湖はかなり深さがあるんだろう、一度大きく潜ってから、あのクジラたちは僕らの船目掛けて浮上したんだと思う。
 なんとか、滝まで辿り着かないと……。
 ブランデルホルストの槍とナファローネの矢がクジラの接近を防ぐ。それに比べて、僕とモーソンとテリアとボロニーズは、悲鳴を吐き出すか食べた物を吐き出すかのどちらかで物凄くカッコ悪い。

「みんな、もうじき滝だよー衝撃に注意して」

 よろけながら僕は大声で叫んだ。
 
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】6歳の王子は無自覚に兄を断罪する

土広真丘
ファンタジー
ノーザッツ王国の末の王子アーサーにはある悩みがあった。 異母兄のゴードン王子が婚約者にひどい対応をしているのだ。 その婚約者は、アーサーにも優しいマリーお姉様だった。 心を痛めながら、アーサーは「作文」を書く。 ※全2話。R15は念のため。ふんわりした世界観です。 前半はひらがなばかりで、読みにくいかもしれません。 主人公の年齢的に恋愛ではないかなと思ってファンタジーにしました。 小説家になろうに投稿したものを加筆修正しました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

余命1年の侯爵夫人

悠木矢彩
恋愛
余命を宣告されたその日に、主人に離婚を言い渡されました

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

美しい姉と痩せこけた妹

サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。