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173話 不思議な棺2(2021.08.23改)
しおりを挟む宙に浮かぶ不思議な棺。照れているかどことなくモジモジしている。従魔の住処の外に置いてきたわりには、怒ってもいないし悪い感じはしない。
その証拠に僕と向き合う棺を前に、見守るみんなの表情も穏やかなものだ。
もちろん警戒を怠っているわけではなく、ローズとブランデルホルストはすぐに飛びだせる様に各々が武器に手をかけている。
それに僕も、棺に手を伸ばした瞬間、万が一腕が斬り飛ばされてもいい様に木化した右腕を前に出す。
立ち上がった棺はなかなかに大きい。ゴブリンジェネラルより少し背が低いくらいか〝ヨイショ、ヨイショ、ウーン〟とつま先立ちになり目一杯手を伸ばすが、棺の頭?には全然届かない。
困っている僕に気が付いたのか、棺は、僕が撫でやすいようにと棺全体を斜めに傾けた。
これなら、手が届く。
撫でるというよりは棺を磨いている感じだ。棺に触れたからといって、腕を斬り落とされることはなかった。
何の木で作られているんだろう?少なくても数百年は経過しているはずなのに、棺には大きな痛みも無くとてもしっかりとしている。良い木材で作られた道具は、年月と共に味が出るというがまさしくこの棺がそういう物なんだろう。
棺に触れながら考える。
この棺がどんな魔物なのか、棺自体が本体なのか、それとも棺の中に本体があるのか……棺に入っている魔物で最も有名なのがヴァンパイアたちだろう。
分かっていることは、棺の状態で自由に宙に受くことが出来ることと、『瞬間移動』に近い技能か魔法を持っているってことだけだ。
何よりも驚くべきは、入口の閉じた従魔の住処に入ることが出来たことだろう。入口が閉ざされている従魔の住処に入って来れた魔物は、魔物の王であるイポスさんとこの棺で二匹目だ。
でもイポスさんは〝入口さえ分かっていれば魔物の王でなくても、従魔の住処に入ることは可能だ〟みたいなことも話していたし、後は、ラガンの屋敷に飛んだ【下級転移石】の様な、登録した場所であれば飛ぶことが出来る能力を持っているとか……『瞬間移動』が出来るんだし、従魔の住処に飛ぶことも出来るんじゃないのか。
とはいえ、転移系統の魔法は失われた魔法と呼ばれる、表向きは使い手がいないとされる魔法だ。仮に転移先登録系の移動魔法だとしても、それを使えるのであればこの棺は、高ランクの魔法使いであることに間違いはない。
考え事をしていたせいか、くすぐったそうにプルプル震える棺に気付かずに、僕は容赦なく撫でまわしていた。
この棺自体が魔物の本体であれば、会ってみたかった箱系魔物かもしれない。
箱系魔物とは、箱に入った、または箱に擬態した魔物たちの総称で、その中でも代表的な魔物がダンジョンに生息する宝箱に擬態する魔物たちだ。
こういった箱系魔物の多くは、自分からはあまり動かずに宝箱を目当てにダンジョンに潜る人間や近くを通りかかった魔物を食べて生活していることが多い。そのせいか生息地が限られていて滅多に見ることが叶わないのだ。
アリツィオ大樹海にあるダンジョンでは、目撃例がないし……会う機会があるなら、リザスさんたち黒いゴブリンたちが暮らす地下世界への入口があたる。大穴と呼ばれるダンジョンだろう。
僕が考え事をしながら棺をひたすら撫で続けたことに満足したのか、棺は、その場で嬉しそうにクルクル回ると、そのまま飛んで行ってしまった。
上から、棺から剥がれた一枚のお札がひらひらと落ちてくる。思わず手を伸ばしたが、お札は僕の手に触れる前に青い炎を上げて一瞬で燃え尽きてしまった。
棺が満足する度に、お札が一枚ずつ剥がれていくのだろうか?
最後の一枚が剥がれた時に本体とご対面って感じなのかな、棺の中に何が入っているのか凄く興味はあるけれど、開けちゃいけない箱って感じもするし、今は保留かな。
アルジェントも空を飛ぶ魔物?が増えて嬉しそうだ。空飛ぶ棺と楽しそうに追いかけっこをする空飛ぶサメ、何処から突っ込めばいいんだろう。
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