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166話 下級悪魔たちの話し合い(2021.08.22改)

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 ミイラを作るためのデザートアッシュブラウンホエール砂クジラの魔物の死体は手に入れた。あとは、トトルッポたちにミイラを作ってもらうだけだ。
 一度従魔の住処に入れた、クジラの魔物の死体を出して見てもらう。

「すまないポン、これだけの大きさの魔物をキレイに洗うための水が足りないんだポン」

 トトルッポたちは、分かり易いくらいにがくりと項垂れた。
 ミイラ作りに欠かせないのが、魔力を秘めた土地と水。一度死んだ魔物は土地から魔力を貰い『クリエイトミイラ』の魔法によって体の中に新しい魔石を作り出す。それと同時に重要になるのが、体の中をキレイに洗うための魔力を含んだ水だ。
 人と同じ大きさの魔物のミイラを作るのにも、水を集めるだけで一週間近く掛かってしまう、体の大きなクジラの魔物を洗うために、どれだけの多くの水が必要になるのか、どれだけの日数じかんが必要なのか彼らも想像できないのだろう……でも僕にはそれを可能にする方法がひとつだけある。

「どなたか一人僕の従魔になりませんか?」

 そう従魔の住処なら、フェアリーウエル妖精の泉がある……新しい魔石を得るための土地の魔力も、この洞窟よりずっと豊富なはずだ。
 最後の問題は、悪魔族であるトトルッポと『従魔契約』を結ぶことが出来るかどうかだけど、悪魔族は、魔物というよりはエルフやドワーフといった亜人種に近い種族だ。魔物とそれ以外の生き物を分けるのは、体の中に魔石があるかどうか、悪魔には魔石がない。果たしてそんな悪魔を従魔に出来るんだろうか?
 魔石の無い動物も従魔に出来るわけだし……試してみる価値はある。

 今、トトルッポたちは、誰が僕の従魔になるのかを決めるための話し合いをしている。彼らがテントに籠ってからだいぶ時間が経つが、進展がないのかテントからトトルッポが出て来る様子はない。誇り高い悪魔が人間の従魔になるのは難しい決断なんだろう。
 そんな大事なことを決めるんだ。当事者である僕も参加すべきだろう、そう思い彼らのテントを訪ねた。
 テントの外に一切漏れなかったトトルッポたちの声が、テントの入口の布を捲った途端、賑やかというよりは鳥の悪魔の甲高くてやかましい声が一気に溢れた。
 薄い布一枚でここまで音を遮ることが出来るなんて、魔道具なんだろうけど凄い技術だ。
 テントの中を見渡した。こんなに数がいたのかと思えるほど沢山のてるてる坊主姿の下級悪魔であるトトルッポたちが、群れをなし、お互いの体を押し合いながら白熱した議論を交わしている。
 夢中で話をする彼らは、僕が来たことに気付いていない。
 彼らの議論の内容は、僕の予想とは大きく違う実に自分勝手な悪魔らしいものだった。

「彼らと一緒にいきたいポン、この洞窟に暮らすのはもう嫌だポン」
「俺だって嫌ポン、外の世界を見てみたいポン」
「お主等はまだ若いポン、ワシなんてここに何百年もいるんだポン。聖地は若者が守るべきポン」
「こんな、聖地なんて捨ててしまうポン……悪魔が聖地なんてプププだポン」

 僕の従魔になるのが嫌で揉めていたワケではなくて、誰が僕の従魔になるかで彼らは揉めていたのだ。しかも、従魔になることより、一番の目的は、この地を離れること。
 これはこれでかなり面倒な話だ……中には〝みんなで!あの方たちと一緒に行くっていうのはどうポン〟なんて、恐ろしい意見まで飛び出している。
 もちろんここに残るべきだという意見もある〝ここは、我々トトルッポの聖地。ここを捨てるわけにはいかないポン〟といったものや〝あれを残して去ることは出来ないポン〟とっても嫌な予感がする言葉まで……聞かなかったことにしよう、こっそりテントを出ようとする僕の服を何かが掴んだ。

 見つかってしまった。トトルッポたちに押されるままテントの中央へと連れていかれる。
 話し合いは、僕を無理矢理巻き込み再開した。

「これは良いところに来てくださったポン」
「是非ルフト様自ら、連れて行くトトルッポを選んでほしいポン。それなら誰も文句なしだポン」
「十人……どうしてもと言うなら二十人まで選んでほしいポン。もちろんそれ以上でも相談に乗るポン」

 次から次へとトトルッポたちが好き勝手に意見を言ったが、みんな同じ格好をしているせいで誰が誰なのかさっぱり分からない。これは、さっさと決めてこのテントから逃げ出さないと……。

「じゃ―君で!」

 一番近くにいたトトルッポを適当に指名した。僕が指を差したトトルッポは、急に震え出したかと思うと〝イ―――ヤッホ―――ポン〟と奇声を上げて、その場で踊り狂う。どういうテンションなんだ。

「じゃ―みんな、おやすみ」

 軽く右手を上げてテントから立ち去ろうとするが、逃がすものかと沢山のトトルッポが僕の足にしがみ付いた。

「お待ちくださいポン、一人って……一人って……あんまりですポン」
「お願いしますポン、せめて後十人、いや後二十人選んでくださいポン」

 二十人、どう考えても多い、一人ですら悪魔を連れ歩くことでどんなリスクがあるか分からないのに、二十人も悪魔を引き連れたりしたら、それこそ、僕がどんな目で見られるか分からないよ〝ぼっちテイマー〟どころか〝ぼっち魔王〟とか変な仇名で呼ばれるかねない。

「キノウネテイタラ、カミサマカラオツゲガアリマシテ、アタラシイジュウマハ、ヒトリニシナサイトイワレタンデス」

 目を逸らしながら感情の無い声で呟き、もう一度テントからの脱出を試みる。
 ……それでも。

「ご再考をお願いしますポン」
「ご慈悲をーどうかご慈悲をーポン」

 慈悲とか、悪魔が言っちゃいけない言葉なんじゃ……悪魔のプライドはどこに捨てて来たんだ。良く見ると、トトルッポの目の周りの布が濡れていた。?僕が泣かせたのか……この光景を目にした人はどう感じるんだろう。遠くから見ると悪魔といっても、大きさ的にシーツを被って悪戯をする子供にしか見えないし、僕が一方的にイジメてる様に見えるんじゃ。
 ふと気配に気付きテントの入口を見ると、顔を出したカワウソ……モーソンと目が合った。

「僕……僕ルフトが幼児をイジメてるのなんて見ていないから」

 〝ワ―〟と、モーソンが大声を上げてテントから飛び出していった。
 その後、僕は、一人……また一人と従魔にするトトルッポを指名しては、まだ数が足りないと泣きつかれて同じことを繰り返す。
 モーソンだけじゃなく、今度はモーソンが呼んで来たのか、ドングリとテリアとボロニーズも一緒にテントの入口から顔だけを出し、僕とトトルッポの遣り取りを興味深そうに覗いていた。
 必死にこの状況から助けてほしいと目でみんなに訴える。

「あるじ、おいら」

 テリアには僕の想いが通じたようだ。(ありがとう、テリア)

「ととるっぽ、ぜんぶなかまでも、なかよくできるお」

 想いは間違った方向で伝わってしまった。テリアに続いてボロニーズも僕に追い討ちをかける。

「おいらも、なかまいっぱい、うれしい」

 トトルッポたちがテリアとボロニーズに向かって、神様でも崇めるかのように膝を付き、今まで見せることが無かった鳥の足に似た手をシーツから外に出して合わせると〝神様っているポンね、ありがとう神様ポン〟と、絶対悪魔が使っちゃいけない言葉を繰り返している。
 モーソンもサムズアップポーズで〝良かったねルフト〟と微笑みながら、良い話風に目を潤ませているし、このままだと全員を従魔にして、さらに〝あれを残して……〟のとのご対面が待っている。
 アリツィオ大樹海の中層で、砂の滝の底にある悪魔たちの島に眠ると呼ばれるものが、普通のものなはずがない。
 それに、これだけの数の悪魔を全部従魔にするのは、僕自身残り何匹の魔物を従魔に出来るのか分からない状況だと不安過ぎる。
 今度は、僕の心をキチンと読み取ってくれたんだろう。テリアがアイデアを出す。

「あるじ、どどやいしざる、ごれとおなじでいいおもう」

 テリアの言葉を聞いて、彼ら全員をここから連れ出す良い方法を思い付いた。トトルッポ全員が望めば偉大な従魔師テイマーエミネントのスキル『従魔師の同盟』を使うことが出来る。
 これは、種族全員が僕への服従を誓うことで、従魔の住処への入場が可能になる。(僕の許可が必須)
 現在のルフト同盟の加盟部族は『ファジャグル族』『イシザル族』『アリツィオストーンゴーレム族』の三部族。 問題を解決するためにも『トトルッポ族』を加えて四部族にしてもいいんじゃないかな。
 もちろん、先に加盟した三つの部族が反対するのならその時は外して別の方法を考えればいいだけだし、僕はトトルッポたちに新たな提案をする。
 僕の同盟に入って、全員で外の世界に行かないかと。

 しばらくして、全員の気持ちが重なったんだろう。ルフト同盟に四つ目の部族『トトルッポ族』が加盟した。これで、彼らを従魔の住処へ招待することが出来る。クジラのミイラを作りの目処が立った。
 
 
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