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151話 ゴブリンダンジョン2(2020.08.20改)

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 ゴブリン王ラガンの戦う姿を見て、リザスさんが僕らでも勝てるといった意味がよく分かった。
 ゴブリン王ラガンは弱くはないけど……リザスさんの様に桁違いに強いわけでもない。ラガンを目の前にしても怖さで足が震えるようなことも無かった。
 ローズを中心に戦い、みんな従魔がそれをフォローする。
 本来のラガンの戦い方は、従魔を前に出し、自分はあくまで後方から支援をするといった感じなんじゃないだろうか?
 ローズと戦いながらもラガンは、ゴブリンジェネラルに向け何度も光の鎖を伸ばそうと試みた。その度に僕が【黒いフランベルジュ魔法喰い魔剣】を使い砕くものだから、ラガンは、鬼の形相でずっと僕を睨んでいる。
 そんな怖い顔をされても止める気はない。支援の鎖を壊す、これが僕の役割だ。
 リザスさんとの戦いで、僕の役に立てなかったと落ち込んだ従魔たちは、僕に〝主は光の鎖だけ斬ることに集中してください、後は我々だけでケリをつけます〟と意気込んだ。
 僕がひたすら光の鎖を斬る傍らで、ゴブリンジェネラルとの戦いは決着ががつこうとしていた。
 ゴブリン王ラガンの支援無で戦うジェネラルでは、仲間のフォローがあるブランデルホルストとアルジェントには届かない。
 一匹はブランデルホルストが創った黒煙の長槍ロングスピアで胸を貫かれて死に、もう一匹はアルジェントに頭を食い千切られて地面に崩れ落ちた。
 従魔たちの死を前にラガンも焦ったんだろう。何度も従魔の住処の入口を開いては逃げ込もうとするが、その度に僕は黒い魔剣で、従魔の住処の入口を斬っては閉じた。魔道具によって強制的に閉ざされた従魔の住処の入口は、一定のリキャストタイムが設けられるらしい。
 従魔師テイマー泣かせの武器だよね……コレ。
 ゴブリンジェネラルを倒したみんなが合流したことで、戦いは一方的になった。

 最後は、後ろからブランデルホルストがゴブリン王ラガンの両脚の健を斬り、ローズが動けなくなったラガンの喉元にスコーピオンを突き刺して終わった。
 モーソンが無意識に呟く〝後ろから躊躇なく斬るなんて……〟王国に所属する兵士や騎士は、騙し討ちとかしない印象だし、モーソンもそうなんだろう。僕たちは騎士じゃない、勝つためなら倒し方にはこだわらない。
 本当にこれが、ゴブリン王ラガンなのかを確認する。
 僕は地面に転がる、三メートル近いゴブリンの亡骸に近付き『鑑定』魔法を使った。

【緑のゴブリン王ラガンの死体】
褒賞獲得:テイマー同士の戦いで勝利したあなたは、相手が持つ従魔の住処と力の一部を手に入れるました。

 えっ……?何が起きたんだろう。みんなを連れて従魔の住処に急いで戻った。部屋の端の壁に、今まで無かった扉が一つ出来ている。留守番をしていたニュトンたちが、鍛冶の手を止めて扉の前で騒いでいた。
 鑑定結果から推測するなら、扉の先はラガンが持っていた従魔の住処ってことになる。
 僕は扉の向こう側にゴブリンが残っている可能性も考えて、慎重に開けた。
 どうやらゴブリンは居ない様だ。ゴブリン王の従魔の住処にしては、屋敷同様何もない。僕のようにといった使い方はしていないのかもしれない。部屋の中には家具ひとつなく、空間の中央に薪が少しと小さな小屋、小さな泉がひとつだけあった。
 それでも広さは、僕の従魔の住処よりもずっと広い。あれだけの多くのゴブリンを従魔にしていたんだから当然か。僕の従魔の住処に連結したばかりで大きさははっきり分からないが、とにかく広い。
 ここを全部牧草地にして牛を育ててみるのもいいかもしれない。牛乳にバターにチーズ美味しいもん。想像しただけで口の中が唾液でいっぱいになった。
 中に入って何か起きても面倒だし、部屋の中を調べるのは後回しかな、ゴブリン王ラガンの部屋の扉には、付けたいと想像しただけで大きく頑丈な錠前が付いた。錠前には鍵穴が無く、僕が開けとイメージするだけで鍵が開く便利な錠前だ。これでみんなが勝手に覗いたりも出来ないだろう。

 先にゴブリンダンジョンの攻略を終わらせないと……。

 最終層、地下五階。
 ボス部屋の石の扉の前に立つ、扉は大きな音を立てながら僕らを歓迎する様に開いた。
 部屋の中へ入ると、真っ暗なボス部屋の壁に吊るされたランタンが自動的に光り出す。人型の魔物のせいか、今までのボス部屋とは違い、中央には少し大きなテントがあり、その中から魔物がぞろぞろと姿を見せる。数は四匹……。
 僕らはその魔物の姿にしばし、固まってしまった。
 だって……ブロードソード広刃の剣をそれぞれの手に持つ二刀流のゴブリン、ボス部屋なのに、普通のゴブリンソードマンが四匹だけ……。
 ゴブリンキングとゴブリンジェネラルを倒した後に〝これ〟だよ!僕らは固まった。
 ゴブリンソードマンもそんな僕らを見て〝なんで、あいつらあんなにやる気がないんだ〟と言いたげな顔でこっちを睨む、この空気に我慢できなかったのか一斉に僕ら目掛けて走り出した。
 そんなゴブリンたちを見たグリーンさんは獲得したばかりの新技能『分裂』で二匹に分かれると、四つのクロスボウから矢を放ち、フローラルも条件反射で『マジックミサイル魔法の矢』の魔法を唱えた。

「ぷぎゃー」「ぐぎゃー」「あぎゃー」「もぎゃー」

 という独特な叫び声が連続で響き、四匹のゴブリンソードマンは、その場で力尽きてしまった。

「……。」

 ボスは倒したんだけど、なんだろう……これじゃない感が凄い。一瞬だったし、せめてゴブリンの体を開いて魔石を取り出して、彼らが持っていた八本のブロードソードを回収した。

 部屋の中央にはボス討伐の証でもある宝箱と、奥にはダンジョンの攻略を示す光の紋章が浮かぶ。
 唯一の楽しみ!ボス部屋の宝箱だ。罠もないので早速箱を開けて中身を確認する。宝箱の中には五個のいびつな形の封がされた壺が入っていた。『鑑定』魔法で確認する。

【召喚の壺E:欠陥品】
特徴:Eランク以上の魔物が出る召喚の壺、出ないことの方が多い欠陥品ハズレ

「ぷぎゃー」

 僕は思わず叫んだが、みんなが凄く冷たい目をしていた。

 初攻略ダンジョンのボス部屋で、これはじゃ……ガックリと肩を落とす僕の横で、モーソンは〝宝箱なんて初めて開けたよ、凄いね!凄いね!〟と大はしゃぎ。
 お陰で目が覚めた。今は出来るだけ早く屋敷を出ることを考えないと。
 ゴブリン王ラガンとゴブリンジェネラルの死体はすべて地下冷凍庫に放り込んだ。
 僕とドングリとその背中に乗るフローラルとナナホシ、それにブランデルホルストを残して、他のみんなは従魔の住処へ戻る。

 ダンジョンが閉まるのを見届けて、周囲に気を配りながら屋敷へと移動した。屋敷に変わった点はない。
 まだ気付かれていないんだろう。
 一人、スカウトリングの能力『忍び足』を使い、足音を消しながら屋敷の入口の扉へと近付く。扉越しにゴブリンたちの話し声が聞こえる。屋敷を見張る衛兵といったところか、スカウトリングの能力『危機感知』を使う。
 これは光の色で危険の度合いが大まかにわかるスキルだ。『青=安全、黄=少し危険、赤=危険』といった具合に光が見える。ハズレも多いので頼り過ぎは良くないんだけど、今は目の前に見える青色のモヤっとした光を信じたい。
 みんなを手招きして呼び、扉を開けて静かに外に出た。
 扉の外には、槍を持った二匹のゴブリンがいた。彼らは驚き声を上げようとしたが、すかさず僕とブランデルホルストでそれぞれゴブリンの口を塞ぎ、僕は喉元をナイフで一突き、ブランデルホルストは黒煙の小ぶりな剣ショートソードを創り、ゴブリンの首を刎ね落とした。
 ゴブリンの体を支えながら大きな音を立てないようにゆっくりと地面に寝かせる。ブランデルホルストの手から、ゴブリンの頭が地面に落ちかけたがドングリが無事キャッチ。ブランデルホルストが申しわけなさそうにドングリに何度も頭を下げるが、ドングリは〝気にしないで〟といった感じに尻尾を振りながら答えた。先輩カッコイイです。衛兵の死体も回収して、地面に飛び散った血には上からフェアリーウエル妖精の泉から汲んだ【精霊の恵み水】をひとかけ、血の跡が消えていく。
 周囲にゴブリンの気配がないことを確認すると、ドングリの耳と鼻を頼りに細い路地を進む。

 ゴブリンたちも、ゴブリン王ラガンを殺した犯人が町の中に潜むとは思わないだろう。僕は予定通り、ゴブリンの町の中に従魔の住処の入口を開いて隠れることにした。
 
※2020.08.20追加……衛兵のゴブリンの処理を変更しました。
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