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143 話 ゴブリン戦争終戦3(2021.08.19改)
しおりを挟む「今回はイロイロすまなかったな」
一通り治療を終えた頃を見計らって、リザスさんがもう一度僕に謝りに来た。
「何かお前には恩返しをしねぇーとな、なんなら俺がお前の従魔になってやろうか」
急な提案に僕は言葉を失う。……数秒、無言が続いた。
「いえ結構です。従魔になるとか言って、単に僕と一緒にいれば強い魔物と戦えるかも!とか思ってるだけじゃないですか」
図星だった様だ。リザスさんはあからさまに目を反らす。
「まー従魔の件は保留だな。はははは……」
リザスさんは笑ってごまかす。本当に純粋に戦うことが好きなんだな、ここはハッキリ断らないと。
「保留じゃなく、お断りします」
睨み合う僕とリザスさん、リザスさんの目は終始泳ぎっぱなしだ。それを誤魔化すように魔力を帯びた石を取り出した。
「そうだこれをやろう。一度だけ登録した場所に飛ぶことが出来る魔道具でな【下級転移石】と呼ばれるものだ。飛べるのは石を持つ者一名限定だがら注意して使え」
そんな便利なモノがあるのか……受け取る代わりに従魔にしろとか言ってこないよね、警戒しながらも石を受け取る。僕がアイテムを受け取る瞬間リザスさんがにやけた様な……うーん、怖い。
「あの記録した場所に行けるってことですが、この下級転移石にはもう転移先が登録してあるんですか?」
「ああ、登録先は緑のゴブリン王がいる屋敷の中だ。転移先の再登録は不可能で使えば一度で砕けてしまう。片道切符ってやつだな。嬉しいか、羨ましいぞあいつと殺し合えるなんて」
そんな言葉を、本当に嬉しそうに言ってくる。鼻息が少し荒くなってるし。
「戦闘狂のリザスさんと一緒にしないでください」
リザスさんと戦って感じたのは、想像以上にゴブリンキングが強かったことだ。本当にこんなちょっとした天災じみた化け物と、進んで戦おうとする冒険者がいるんだろうか?
リザスさんは変態で戦闘狂だったから、僕らに準備の時間をくれたけど、最初から本気を出されていたら僕らに勝ち目はなかったはずだ。
「俺を従魔にすれば、楽勝だと思うぞ」
何か言う度に自分を売り込んで来るよ……でも同じゴブリンキングなのに、楽勝ってどういう意味なんだろう。
「従魔の件はお断りします!でも……緑のゴブリン王ってラガンってゴブリンですよね?リザスさんより弱いんですか」
「ほーラガンを知っているのか」
「名前だけですが、前回倒したゴブリンに『鑑定』魔法を使ったらゴブリンキングラガンの従魔って情報が見えたもので」
リザスさんが興味深そうに僕を見るので、〝知り合いとかではないですよ!あくまで『鑑定』魔法でわかっただけです〟と念を押す。強い魔物と出会いがちだと思われたら、リザスさんは無理にでも付いてくる気がする。
「人間にはそんな便利な魔法があるのか、知りたいのは、あいつが俺より弱いのかだったな。弱いぞ、俺はゴブリンキングでもいわゆる戦闘系だからな、奴はテイマーだから支援系の魔法使いだ」
「支援系ですか?」
テイマーが支援系の魔法使いという話は初めて聞いた。
リザスさんの話によると、ゴブリン王ラガンは従魔に光の鎖を繋ぎ、その能力を強化することが出来るんだそうだ。人間はテイマーのことを従魔師と呼んだりするけど、魔物たちはテイマーを魔物使いと呼び、従えた魔物を強化して戦わせることが出来るそうだ。
仲間を強くする鎖の魔法か、欲しい!ラガンを倒せば、その能力を僕が使える様になったりするとかは……ないよね。もしかしたら、魔法のスクロールからなら手に入れることが出来るかもしれない。
さらに詳しく話を聞く。
ラガン本人の力は、ゴブリンジェネラルに少し毛の生えた程度らしい。僕らなら勝てるはずだとリザスさんは言った。問題はその取り巻きたちで、ゴブリンジェネラルが常に数匹近くにいて、ラガンの魔法で強化されてしまうとのことだ。リザスさん程ではないにしろ、かなりの強敵で苦戦が予想される。
「なのでこれも貸してやる。あいつと戦う時に役に立つぞ」
僕の前に置かれたのは、リザスさんの持つ【黒いフランベルジュ】だった。
「お前さんのは知らんが、あいつの支援の鎖は手で触ることができないんだ。だがこの剣を使えば支援魔法と一緒に鎖も壊せる」
確かに、言われてみると僕の従魔の鎖も手で触れることは出来ない。ただ、借りるのはいいとして、四メートル前後の剣なんて誰が持てるんだ。持てたとしても、まともに振ることすら出来ない気がする。魔法の武器だし小さくなったりするんだろうか。
「貸してもらえるのはありがたいんですが、こんな大きな剣どう使えばいいのか……小さくなるなら別ですが」
「形状変化の能力はねーな、お前の背中の杖で何とかなるんじゃないのか、俺を捕まえた木の腕は大きかっただろ」
「あれは……見てくださいよこの何もなくなってしまった森を、森に宿る魔力と木や草や、ここにいた多くの生き物の生命力を代償にしたから出来たことなんです。建物の中じゃ使えないはずです……それにこれ以上森を壊せば何が起きるか、森の精霊を怒らせないためにも火の魔法は使わない様にって、冒険者ギルドからも教わりましたし」
「なるほど、お前の魔力だけでは無理ってことか」
リザスさんは、考え込む……また従魔になって付いていくとか言い出しそうで怖い。
「魔石を食べさせてみたらどうだ。あいつを倒すくらいの時間ならなんとかなるんじゃないのか」
なるほど、早速試してみた。燃費はかなり悪いけど短時間、剣を振り回すくらいならできそうだ。
「なんとかなりそうだな」
成功したことを、僕よりリザスさんが喜んでいる。ついさっきまで殺し合いをしていたというのにこの人は……。
僕は、リザスさんと黒いゴブリンたちに、ある協力をお願いした。
従魔の住処から大きな桶でフェアリーウエルの水を汲み出しては、何度も死にかけた森の地面に撒いていく。カスターニャの町のことも気になるけど……これは、僕を助けてくれた精霊の願いでもあるんだ。
黒いゴブリンたちの手も借りて、何回も何回もそれを繰り返す。
人手があったお陰だろう。三十分も経たないうちに、ほんの少しだけ地面に草が生えはじめた。これで、少しは精霊たちにも謝れただろうか。
リザスさんは、黒い魔剣を返すのは、あまり急がなくてもいいと言ってくれた。
リザスさんたち黒いゴブリン族が暮らす国は、噂通り地下世界にあり、一番近い入口がメルフィルさんが新しく店を出す、第三都市エドックスの名物となっている巨大ダンジョン【大穴】の中にある。
「地下世界は広いんだぜ、お前らが暮らす大陸や島みたいにこの世界の至る所に散らばっている。俺がいる地下世界の名はブエルシバース、地下世界同士は直接行き来は出来ねーけどな、あと人族に近いものや強い魔物もいるし楽しいぜ。主よ再会を楽しみにしている」
「誰が主ですか!絶対、従魔にはしませんからね」
僕はリザスさんたち黒いゴブリン族をみんなで見送った。
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