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134話 精霊の恵み水2(2020.08.18改)

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 テリアとボロニーズは少々水を飲み過ぎた様で、腹がぽっこりと膨らみ〝げぷっ〟っと苦しそうにフェアリーウエル妖精の泉の横で倒れている。
 僕もみんなに釣られて水を飲んだけど……毎日飲んでる水だし、流石に精霊が生まそうな泉だからといって、水を飲むだけで強くなったり、新しい技能スキルをゲットするといった奇跡は起きなかった。
 でも……なんだろう?微かに力が湧く感じがするんだよね。気になった僕は、コップに入った水に『鑑定』の魔法を使う。

【精霊の恵み水】効能:下級万能ポーション同等……簡単な傷や病気、精神の回復、体力アップ効果あり。殺菌・消臭効果も引き継がれています。

 元々フェアリーウエルの水には、ほんの少しだけ癒し効果があった。
 他にも薬草に混ぜると効能が上がったり、肉の臭みをとったり、普通の水よりも汚れが落ちやすいなど便利な性質があったんだけど……こんなにも水の性質が変わることもあるのか。

「……なにこれ」

 僕は唖然とした。下級万能ポーション同等って……かなり凄いと思う。

「あるじ、どーした……ゲプ」

 苦しそうにお腹をさすりながら、寝ころんだままボロニーズが話し掛けてきた。

「泉の水が、万能ポーションになったみたい」
「……あるじ、おいらはよくわかんない」

 興奮する僕に比べボロニーズのテンションはあまりにも低い。関心がないみたいだ。美味しければ水だろうがポーションだろうが、ボロニーズには関係ないんだろう。
 際限なくポーションが湧き出るって、かなり凄いんだけど……ポーションっていったら、複数の薬草を煮詰めた後、錬金術スキルを用いて作る。時間も掛かり工程も複雑な冒険者には必須の便利アイテムである。
 少し言動のおかしな精霊が出てきたから心配したけど、意外に凄い精霊なのかもしれない。
 大きな戦争がはじまれば、怪我人も増えるはずだ。きっとこれは役に立つ!
 僕は精霊の恵み水を樽いっぱいに詰めて、銀猫亭と冒険者ギルドへと向かった。

 顔を覚えてくれたんだろう。銀猫亭に到着すると、宿屋の主人が〝どうぞ、どうぞ〟と、二階へすぐに案内してくれた。
 バルテルメさん以外の兵士長、副長は留守で、戦争間近なこともあり兵士たちは忙しそうに動いている。

「どうしたんですか。ルフト君が自分からここに来るなんて珍しいですね」

 バルテルメさんが言うように、僕が銀猫亭に顔を出すのは、指輪が光った時か町でアルトゥールさんに捕まった時のどちらかだ。最近は、モーソンを訪ねてキャンプのある広場に直接行くことの方が多い。

「今日は兵士のみんなさんに渡したいモノがあって……」
「はー渡したいモノですか?」

 渡したい物があると聞いた瞬間、何を連想したのか、バルテルメさんが一瞬身構えた。僕って……そんなに毎回みんなを驚かせるようなことをしているんだろうか?不安になる。
 気にせずに従魔の住処を開くと、大きな樽を両手に抱えたボロニーズが現れた。

「ばるてるめ、やほー」

 バルテルメさんの前に樽を置きながら、ボロニーズは元気に挨拶をした。

「西の砦ぶりですねボロニーズ君、で……この樽には何が入っているんですか?」
「ポーションに似た物が手に入ったので、お裾分けです」

 僕は、これを何と呼ぶべきか悩んだ。この国の人々は妖精や精霊を神聖視している人も多いし、かといって錬金術の技能スキルを持たない僕が樽いっぱいの万能ポーションを持って来るのもおかしい……悩んだ末のネーミングが、ポーションに似た物だ。
 庭の泉からポーションが無限に湧きはじめた……なんて言ったら、ポーションの価格が暴落して何人の商人を敵にまわすか分からない。

「ポーションに似た物ですか??」

 更に首を捻るバルテルメさんに、僕は無言で頷いた。……良い言葉が思い浮かばないのだ。
 バルテルメさんは、どうしたものかと困った顔で一人の兵士を呼び出した。『鑑定』魔法が得意な兵士なんだろう、その兵士は樽に触ると驚いた顔でバルテルメさんに小声で報告する。

「ルフト君、確かに効果は下級の万能ポーションと一緒みたいですが、でも、精霊の恵み水って一体……キミは精霊とも仲が良いんですか?」

 驚きと呆れを帯びた目で僕を見る。どう答えていいか分からない。

「まーこんなことをルフト君に聞くのは野暮ですね、詮索はしないでおきます。ちなみにこの精霊の恵み水は、もっと手に入りますか」
「はい、今回の戦争限定ですけど、必要なら手配します」

 ただ、泉から水を汲むだけなんだけど……どんどん湧き出てくるし。市場に流す気はないが、怪我をした兵士に使ってもらう分には問題はない。
 何かを察してくれたんだろう、バルテルメさんは必要な時にはお願いしますねとだけ言い、明日からは忙しくなるから今日はゆっくり休んだ方がいいと言ってくれた。

 次に冒険者ギルドに精霊の恵み水を届けようと顔を出したところ、すぐにギルドマスターであるカストルさんの部屋に案内されてしまった。僕の扱いって……。

「散らかっている部屋ですまないね、ここ数日バタバタしているんだ。何か持って来てくれたらしいね、流石にみんなの前で君が持って来たモノを出すわけにはいかないからね」

 バルテルメさんもそうだったけど、この一年で僕のイメージおかしくなった気がする。言いたいことは山ほどあるが、出す物を出してさっさと帰ろう。
 バルテルメさんの時と同様、ボロニーズが樽を抱えて現れた。
 カストルさんが固まっている。どことなく顔色も悪いし、進化したボロニーズを見せるのは初めてだっただろうか?樽を置いてボロニーズが従魔の住処に戻るまでカストルさんは静かにしていた。

「ルフト君、あれってコボルトだよね?」

 どうして疑問形なんだろう?

「コボルトですよ、カストルさんも進化する前に一度会ったと思うんですが」
「ハハ……進化したのか、あんな大きなコボルトを見るのは初めてでね、ルフト君はギルドマスターの全てがどんなことにも対処できると思ってないかい。私は意外に臆病なんだよ」

 そんなことを、ドヤ顔で言われても……、カストルさんを見る限り体も鍛えてみえるし、臆病ってことはないと思うんだけど。

「アリツィオ大樹海に隣接する町のギルドのマスターが、自分のことを臆病とか言っちゃってもいいんですか?」
「問題ない!逆にこういう魔物が多い地域のギルドマスターはね、臆病なぐらいの方がいいのさ、力よりもここが大事だしね」

 カストルさんは自分の頭を指差した。

「クエストをランク毎に仕分けたり、ギルドからの直接依頼の報奨金を決めたり、冒険者のランク管理など僕らは頭を使う仕事が多いんだ」

 僕も少しは、見ただけで相手の強さが分かる様になってきた。カストルさんはローズやブランデルホルストに比べれば弱いと思う……けど、ボロニーズよりは強いはずなんだけど。

「ルフト君、ちなみにこの樽の中身は何が入っているんだい?このタイミングで冒険者ギルドの職員にも人気がある従魔の住処産リンゴを使ったリンゴ酒を持ってくるわけはないだろうし」
「はい、下級万能ポーションに似た物が樽いっぱいに入っています。ゴブリンとの戦争で負傷者も出ると思うので使ってください」

 カストルさんも、樽の中身を疑っているようだ。

「ルフト君、中身を下級万能ポーションと仮定して話せさせてもらうが、このポーションが必要になったら追加で売ってもらうことは出来るんだろうか?こんな時期だ。普通の万能ポーションよりは高く買い取らせてもらうよ」
「戦争中限定になりますが、準備できます」

 あくまで今回の戦争期間限定にはなるが、僕は、カストルさんにも必要な時に精霊の恵み水を卸すことを約束した。
 
 
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