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121 話 友人からの手紙(2021.08.12改)

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 モーソンから届いた手紙を読む。

『ルフトへ――お元気ですか。もし、僕のことを忘れていたとしても、この手紙は最後まで読んでほしいな。
 君は忘れているのかもしれないけど、僕らは同じ村で育ち大の仲良しだったんだ。そして、あの日、村から捨てられる時も一緒だった。悲しかったよね、今でもあの日のことを思い出すと泣いちゃうんだ。
 村に未練が無いといったらウソになるけど、いまの僕は幸せだよ。
 僕はいまリレイアスト王国の第五兵団の兵士として頑張っています。兵士長のプリョードルさんはとってもいい人です。プリョードルさんが本当のお父さんだったらなーて考えちゃうことがあるくらい。
 アルトゥール兵士長とバルテルメ兵士長にキミの活躍を聞いた時、規格外の黒髪の従魔師テイマーが僕の知っているルフトで間違いないと確信したんだ。キミは僕のヒーローだったからね!僕の部隊もゴブリンの侵攻に備えてカスターニャの町へ向かう予定です。会ったら、たっくさん話をしよう。
 再会する前に、ルフトに伝えておきたいことがあります。
 これは、昔のキミから記憶を失ったキミに伝えてほしいと頼まれた伝言なんだ。僕もすっかり忘れていたんだけど、今回のゴブリンの侵攻の話を聞いて急に思い出したんだ。
 ディアラという名前の男を絶対に信じちゃダメだ。それに、ディアラと繋がりのある、軍事国家ヴォラベルにも気を付けて、これが過去のキミから託された伝言です。
 親愛なるルフトへ、再会を楽しみにしています――君の弟分のモーソンより』

 手紙を読んで、僕は噛み合わない記憶に困惑した。
 モーソンの顔と名前は思い出せたのに、どんな性格だったのか……一緒に何をして遊んだのか、彼の声色さえも思い出せない。
 過去の僕からの伝言メッセージ、記憶を失くす前の僕が託した伝言メッセージだとすると、僕は自分が記憶を失くすことを知っていたのか?僕とディアラは過去に会っていた……カストルさんはディアラが軍事国家ヴォラベルの貴族の出だと言っていた。
 僕の育った村はヴォラベルにあって、そこで僕とディアラは出会ったんだろうか?信じるなってことは少なくとも友好的な関係ではなかったはずだよね。
 軍事国家ヴォラベルから派遣されてくる魔導中隊も一気に信用できなくなった。

 モーソンからの手紙の様に、大事なことが書いてあるかもしれない。と……読まずに溜まっていた手紙の山に手を伸ばす。
 差出人を確認した。
 アルトゥールさんやグレドさん、イリスさんにセラさん、カスターニャの町のトップパーティー『暴走の大猪』のグザンさんからの手紙もあった。
 内容は、元気にしているか……とか、早く帰って来いよといった僕の身を案じる内容ばかり、手紙を読んだらちゃんと返事を書くんだぞ、と釘を刺すモノも多い。〝信用がないな……手紙を溜めちゃうくらいだし、そうだよね……何時いつ届くかは分からないけど、忘れないうちに返事だけは書いておこう〟その日のうちに、僕はみんなへの手紙に返事を書いた。
 
     ✤ ✿ ★

 夢を見た次の日から、毎日、朝一番で部屋の外に出て扉に吊るした黒板を確認するようになった。今日も動きはなしか。
 従魔の住処で、みんなに手伝ってもらいながら、メルフィルさんにもらった魔法生物の魔法回路の作り方が書かれた本を頼りに、農業用の魔法生物【案山子カカシ】の製作に挑む。
 魔法生物は、人の心臓と同じ役割を持つ魔法回路を埋め込むことによって動き出す。
 木の板に魔法文字ルーンを掘る作業は誰がやってもいいみたいだけど、魔法回路を起動させるのは魔法使いじゃないと出来ないみたいだ。
 一応、魔法使い系統ではあるんだけど、従魔師テイマーである僕が魔力を流しても魔法回路は反応しなかった。
 みんなの中では、フェアリー花の妖精のフローラルとレモン、スライムのホワイトさん、スプリガン虫の妖精のナナホシとハナホシの五匹が魔法回路を起動させられるようだ。
 今作っているカカシは、本来の仕事である畑の害獣避けに使うのではなく、ゴブリンとの戦いに使うつもりだ。そのため、出来る限り頑丈な体にしようと、ダンジョン産の迷宮胡桃の木を主材料に決めた。
 カスターニャの町じゃ堂々と従魔たちを出すことも出来ないだろうし、カカシは、それを補うために使おうと思う。
 そうはいっても、藁を詰めた頭と体のカカシでは、敵を引き付ける囮役くらいにしか使えない……カカシにも何か武器が必要だよね。
 カカシは本来戦闘用の魔法生物じゃない。体重も軽いし力も弱い。強みは身の軽さと一本足を軸に素早く回転することくらいだ。一番最初に完成したカカシでイロイロ試してみたところ、カカシは倒れてもすぐに自動で起き上がるよう設計されていた。
 従魔の住処にある素材で大量に作れて、カカシにぴったりな武器か、難しい……みんなに意見を求めたところボロニーズが手を挙げた。

「あるじ、わいばんのきばで、たんけんつくるのが、いいとおもう」

 鍛冶妖精のニュトンたちに相談したところ、木箱に大量に放り込まれたレッサーワイバーンの牙は、軽く研ぐだけでそこいらのナイフよりも切れ味が良く、今回の用途にはピッタリな素材だったのだ。なにより、使い道が浮かばず困っていた素材でもある。
 早速ニュトンたちから研ぎ方を教わりレッサーワイバーンの牙で刃を作り、包丁を作る様に迷宮胡桃で柄を作っていく。
 短剣というよりは……ナイフや包丁に近い『アリツィオレッサーワイバーンのペティナイフ』の完成である。
 いくら切れ味が良くともカカシの力では、鉄製の鎧は貫けないだろう。それでも、無防備な顔や喉元に当たれば十分ゴブリンを倒せるはずだ。
 ある程度の数のカカシが完成すると、今度は従魔の住処の練習場で、ナナホシテントウの妖精スプリガンのナナホシが魔法で呼び出したイリュージョンゴブリンを使い実験を行う。
 ナナホシの『イリュージョンゴブリン』の魔法は順調にレベルが上がり、今では最大レベルの五に到達した!レベル五になると一度に十体のなんちゃってゴブリンが呼び出せる。普通のゴブリンとの違いも眼球が有るか無の違いくらいだし、ゴブリンとの戦いでは色々使い道がありそうだ。
 初めから棍棒と小型の盾に革鎧といった装備品付なのもイイ。かなり便利な魔法である。
 棍棒固定じゃなく武器が毎回ランダムだったら面白かったのに。

 魔物たちの専用魔法である『イリュージョンモンスターシリーズ』は研究が進んでいない魔法のひとつだ。
 僕は、二本のナイフを持った農業用魔法生物カカシと実体を持つ幻想の魔物イリュージョンゴブリンの戦闘を興味深く観察した。
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