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115話 鉄を手に入れろ(2021.08.11改)
しおりを挟む受け取ることにした。……でも、だからといってタダで貰うわけにはいかない。
「メルフィルさんこの二冊はきっちり買い取りますね……」
でも、売買が禁じられている本だし、買取はまずいか……。
「売買禁止な品ですし、買うのはまずいですよね?」
「まずいですね、なのでこれは私からのプレゼントということにさせてください」
「そんな、こんな貴重な物をプレゼントなんて……それなら僕もメルフィルさんにプレゼントしたいものがあります」
僕が従魔の住処を開くと、色鮮やかなスピキオニクスの毛皮に牙に爪や骨といった素材。翼竜アリツィオカンピオグナイドドスの骨格標本を抱えたスライムたちが現れる。アリツィオカンピオグナイドドスの大半は魔物を集めるための餌として置いてきたのだが、恐竜の骨格標本が貴族たちに人気があるらしいという話を思い出し、何体か回収しておいたのだ。キレイに洗った骨を『乾燥』の魔法で乾かし、透明に固まる樹液を用いて恐竜の形に組み上げたものだ。
そのままスライムたちがテーブルの上に、恐竜の素材を運ぶ。
「ルフト様!!これは……恐竜の毛皮に骨ですか、しかも、この骨格標本は見事なモノですね」
「はい、スライムたちがキレイに肉や血など付着物を落とした後、僕の魔法と鍛冶妖精たちが倒れても壊れにくい様に細工を施した逸品です!魔物の骨格標本は一部の愛好家に人気があると聞いたもので、傷の少ない翼竜の骨を使い作ってみました」
「これは凄い!大き過ぎず飾りやすいサイズですし、恐竜の素材は貴族の間でも人気がありますから、これはきっと話題になります。でも……本当にいんでしょうか?私がこれを売れば、ルフト様が持ち込んだ物だと漏れる可能性もございます。もちろん故意に吹聴する気はございません」
メルフィルさんが言うように、稀少な魔物の素材が出回れば、どの冒険者が持ち込んだ物なのか?何処でその魔物を倒したのか?と興味を持ち探る者も出てくるだろう。特に貴族のコレクションとしても人気のある恐竜の素材となれば尚更だ。市場に出した時点で、僕の周囲を情報屋が嗅ぎまわる、なんてことも起こるかもしれない。
メルフィルさんは、そんな僕に起こり得る状況を心配してくれているのだ。
「バレても平気です。今回はギルドカードの記録で二つの新ダンジョンを発見したことも隠せませんし、冒険者ギルドで根掘り葉掘り聞かれると思うんですよね……恐竜の牽く馬車で来た時点で、もうイロイロ目立っちゃったので、恐竜たちの生息場所についても報告するつもりなんですよ」
「えっ……今なんとおっしゃいました?たった……たった一年で二つもの新ダンジョンを発見したんですか?ルフト様……あなたって人は、ハハハハハ、私の想像を軽々と超えてしまわれた。将来が楽しみです」
メルフィルさんは、大きく仰け反り驚いた後大きく息を吐き、何度か深呼吸を繰り返したかと思うと、今度は大声で笑い出した。
そういえば、ダンジョンの発見も偉業って称えられるレベルなんだよね、どんどん面倒事が増えていく。
太古の大湿原については、場所だけを伝えて細かい事は伏せておくつもりだ。一週間に一日しか霧が晴れないことや生息する恐竜の種類なんかも黙っておこう。貴族子飼いの上級冒険者たちが、あの大型恐竜に勝てるかも気になるし、運良くあの大型恐竜を倒してくれれば、僕はもっと奥まで太古の大湿原を調べることができるかもしれない。
僕が考え事に耽っているうちに、メルフィルさんは、部屋の奥から沢山の金貨や銀貨がぎっしり詰まった袋を持ってきていた。
「これだけの品物を前に本二冊では釣り合いません。これも受け取ってください」
そう言いながら僕の前に、幾つものお金が詰まった袋が並べられていく、贅沢をしなければ二~三年は何もしないでも暮らせる量だ。
「メルフィルさん、これは多過ぎます」
見たこともない、お金の多さに戸惑ってしまう。
「いえ、問題ありません。ルフト様が恐竜の生息地を冒険者ギルドに報告しても、その恐竜の素材が市場に出回るのは少し先になるはずです。それまで、この恐竜の素材は貴族たちが競って高値を付けるはずですよ」
「少し先って?恐竜はそこそこ強いですが、このスピキオニクスなんて割と浅い場所に住んでいる魔物なんです。ベテラン冒険者たちなら問題なく倒せるはずです」
「フフフ、倒せる倒せないんじゃないんです。もし、仮に今恐竜の生息地が冒険者たちに知れ渡ったら、冒険者たちはどうすると思いますか?」
メルフィルさんはどこか楽しそうだ。
「恐竜の素材はお金になりますし、冒険者たちはすぐにでも狩りに向かうんじゃないでしょうか?」
「その通りです」
僕の返答に良く出来ましたと言わんばかりに、メルフィルさんは満足そうに笑う。
不思議そうな顔をする僕に、メルフィルさんは話しを続ける。
「冒険者ギルドも国も、冒険者たちがすぐにこの町を離れることを望んではおりません。うまい話を前に心を動かされた冒険者たちが、ゴブリンキング討伐を投げ出す様なことが起これば本末転倒です!たまったモノじゃないと嘆く事でしょう。恐らくルフト様が冒険者ギルドに未開の地で得た成果を報告をした後、恐竜の生息地の情報も、新しいダンジョンの情報も、冒険者ギルドは隠すようにと言ってくるはずです。もしかしたら、ゴブリンキングの討伐参加の褒美に、恐竜の生息地の情報を加えるかもしれませんな」
僕は、この話に納得した。
そして考える。メルフィルさん以外の商人に恐竜の素材を売るのは、もの凄く面倒な事態を引き起こすのではないかと、それなら、ファジャグル族が使う鉄を手に入れるためにも、恐竜の素材は全てメルフィルさんに預けるのが一番良い気がする。
「メルフィルさんお願いがあります。もっと多くの恐竜の素材の買取は可能でしょうか?」
僕の言葉にメルフィルさんは声を上げて驚く。恐竜の素材がまだまだあるとは考えていなかったのだろう。
そして、顔に汗を浮かべながら〝申し訳ございませんルフト様。流石にそこまでのお金は用意できません〟とはっきり無理だと僕に告げた。
「それなら、後で恐竜の素材の代金の代わりに鉄で受け取るというのはどうでしょう?道具や武器に加工した物でも、インゴットの様な塊でもかまいません。もちろん利益もメルフィルさんが多めにとってください」
「恐竜の素材という宝の山を前に私は持ち逃げするかもしれませんよ……嘘を付くかもしれません」
「その時はその時です。僕はメルフィルさんを信じます」
これだけ貴重なものであれば、もしメルフィルさんに裏切られてしまったら恐竜の素材を売ることは叶わないだろう死蔵確定だ。僕が信用できる商人は、この世で彼しかいないのだ。
「分かりました。かなりの量の鉄を集めなきゃいけませんな。ルフト様が引き取りに来るまでの保管用の倉庫代も差し引かせていただきます。では、三か月後にこの紙に書かれた場所まで取りに来てください。遅くなればなるほど倉庫代は増えていきますのでくれぐれもご注意ください」
そう話すメルフィルさんの顔は、とても活き活きしていた。恐竜という珍しい商材を前に、商売人の血が騒いでいるのだろう。
渡された紙には、リレイアスト王国の王都オリスの西にある、第三都市エドックスに新しくオープンするメルフィルさんの店の場所が記されていた。
「ありがとうございます。少し遅れるかもしれませんが、エドックスにあるメルフィルさんの店に必ず伺います」
「お待ちしております。必ず 無事に再会できると信じております」
第三都市エドックスの近くには、魔力が溜まり巨大なダンジョンに変化した有名な大洞窟がある。メルフィルさんを訪ねつつ、そのダンジョンに潜ってみるのも面白そうだ。
僕はメルフィルさんから受け取ったお金を収納すると、手持ちの恐竜の素材ほとんどを渡し、再会の約束をして店を後にした。
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