最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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悲劇の序章

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*ラウル視点*

船で再会した時、僕はどうしたらいいのか分からなかった。

いつも臆病者で、ユリウスの後ろにただ隠れているだけ。
だから僕は、いつまで経っても成長が出来ないんだ。

その男は僕を見ているだけで、何もして来ない。
あんな子供みたいな事を今もするわけないよね。

ユリウスも僕と同じ事を思っていたのか、睨み付けるのを止めた。

意地の悪い顔をして「相変わらずだね、変わってなくて嬉しいよ」と僕を見つめていた。

いくらいじめなくなっても、トラウマは今もまだある。
僕はゴーグル越しでも目を見る事が出来ずに下を向いた。

「昔を忘れて、仲良くしたかっただけなのに…酷いね」

「よくそんな事言えたな」

「君には聞いてないんだけど」

ユリウスとその男が喧嘩をしてしまう気がして、僕からユリウスの腕を引いて離れた。
友達が僕のせいで喧嘩をするのは嫌だ。

その男の方に振り返って「僕は仲良くしたくない、ごめんね」と言った。

酷い事を言っているとは思うが、本当の事を言わないと僕の気持ちを分かってくれない。

それから、追いかけてくる事もなく…それで終わったと思っていた。

教室でまたあの男が現れるまでは…

僕がこの学院にいると分かって、すぐに来るとは思わなかった。

僕に何の用なのか、楽しい感じはしない。

しかも、口では言わなかったけどフォルテに目の事を話すと脅された。
せっかく出来た大切な友達なのに、僕の目を見たら怖がってしまう。
嫌だ、失いたくない…僕の秘密は気味の悪いものだから隠さないといけない。

昨日の反応からして、ユリウスを連れて行くと逆効果だ。

僕が付いて行けば、フォルテに知られる事はないんだ。
僕さえ我慢すればいい。

教室を出てから、何処に向かうのか分からないまま不安が大きくなっていく。

「僕に、何の用事?」

「ずっと思ってたんだけど、君さ…可愛い顔してるよね」

「…え、何いきなり」

突然そんな事を言われて、顔が引きつる。
別に身長が少し低いだけで、女顔ではない。
今まで言われた事もない…ほとんど素顔を隠していたとはいえ。

可愛い顔なんて言われて喜ぶわけがない…僕は男なんだから。

これ以上付いて行きたくなくて、足を止めた。
彼も同時に足を止めて僕を見ていた。

もう一度「僕に何の用事?」と聞いた。
誤魔化さないでほしい、僕が聞いたのは僕の顔についてではない。

「お願いがあるんだけど、聞いてくれるよね」

「…なんで僕が」

「逆らえるの?目の事言ってあげようか、それとも学院に通えないほど全校生徒の前で君の瞳を見せ物にしようか」

「……っ」

その瞳は、冗談を言っているようには見えなかった。
僕が動く前に腕を掴まれて、引きずられるようにして歩かされた。

男に連れていかれた場所は、なにかの倉庫だった。
この場所は一度も行った事はないところで、僕に拒否権がないと言いたげに倉庫の中に押し込まれた。

勢いよく入って足が絡まり、床に滑り込んだ。

あちこち痛い、やっぱり彼は変わってなかったんだ。
そうそう人の気持ちは変わらないのか。

起き上がって、目の前を見ると顔を青ざめた。

知らない生徒が三人僕を見下ろしていた。

「コイツか?」

「そうそう、ラウルくん」

「へぇ、顔見えねぇな」

ゴーグルに手を伸ばそうとしてきて、必死に奪われないように手で押された。
早くここから出ないと、嫌な予感がする。

後ろを振り返ると、あの男がドアの前に居て僕を通さなかった。
腹を蹴られて床に転ぶと、両手を二人の生徒に押さえられた。

もう一人の生徒が僕のゴーグルを外した。
顎を掴まれて、顔を見られた。

コイツらにどう思われても構わない。
でも、そのゴーグルは僕にとって大切なものなんだ。
ゴーグルは投げ捨てられて、床に落ちた。

「やめろ!離せよ!」

「なんだこの目、気持ち悪っ」

「でもこれならいける」

「良かったな、喜んでもらえて」

「何をするつもりなんだ……」

「分からないのか?そういうのに疎そうだからな、お前」

さっきから何を言ってるのか分からない。

一人の生徒が僕の上着を脱がそうとしていて、抵抗する。
僕を連れてきた男は「またお小遣いに協力してよ、ラウル」と笑みを浮かべて倉庫から出ていった。

床にうつ伏せで押さえつけられて、上着とネクタイを取られた。

なんで、なんで僕が…悪い事なんて何もしてないのに…

違う、フォルテとユリウスの仲を拗らせたのは僕だ。
バチが当たったんだ、ごめんなさい…二人共…ごめんなさい。

「ラウル!そこにいるのか!?」

その声が聞こえて、目の前を見つめた。
あの男が出ていき、閉ざされていた扉が開いていた。

そこに立っている人は、僕のよく知る人だった。

安心して、全身の力が抜ける。

僕の周りにいる奴らは、シャツを掴んでいた手を離した。

第三者が来た事により、戸惑いが隠せていない。
それでも屈強な男が来たわけではないから、すぐに馬鹿にした顔になる。

駄目だ、来ちゃダメ…君には関係がないんだから。

「フォル……」

フォルテの名前を呼んで逃がそうとしたが、僕の意識はなくなった。
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