最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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ラウルのゴーグル

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*視点なし*

「へぇ、創立パレードねぇ…危機管理能力がないのかな」

「……」

薄暗い空間に、二つの姿だけがはっきりと見えていた。

下を見下ろしているレッドは眉を寄せて、怒りに満ちた瞳を向ける。
向けられた人物は感情がない瞳で、ただレッドをジッと見つめていた。

それが気に入らず、その人物を足で蹴ると抵抗もなく倒れた。
まるで操り人形、誰も動かしていないから自分で立つ事も出来ない。
足で踏もうと上げたが、無反応の相手をいたぶっても面白くないから足を下ろした。

どんなに泣き叫んで助けを呼んでも、ここには誰も来ない。
悪魔が作り出した無の空間で、レッドと目の前にいる少年だけが存在出来る空間を今作った。

しゃがんで声を掛けるが、聞いているのかいないのか無反応だった。
少年の頭に付けていたゴーグルを引っ張って、顔を上げさせた。
頭から簡単にゴーグルが外れて、顎を掴んでその顔を覗き込んだ。

「お前、救世主を醜い魔物だって言ったけど…お前が一番醜いな」

口を歪ませて笑うレッドは、少年から手を離して立ち上がった。
手に持っていたゴーグルを地面に落として、思いっきり踏みつけた。
ガラスのように粉々に砕けたゴーグルをゴミのように見つめて少年に背を向けた。

あんなに攻撃的になったのに、フォルテには全く響いていない。
気にするどころか、友人と一緒に遊びに行くなんて…

ますます自分を無視した事を後悔させてやると、怒りの炎が燃えていた。






何処からか声がする。
その声に導かれると、視界が明るくなって見えた。

「ラウル、どうしたんだ?」

「…っへ?」

ラウルは目の前にいる幼馴染みのユリウスの顔を見て不思議そうな顔をしていた。
それは、ユリウスも同じで心配そうに見つめていた。

寮の廊下の真ん中で、一人ポツンと座っていたら心配にもなるだろう。

ゆっくりと思い出してみると、なんでここにいるのか思い出した。

ユリウスが飲み物を買うために部屋から出て、ラウルも暇だから付いて来た。
そこから何をしていたのかは、記憶が曖昧で思い出せない。
思い出そうとすると、酷い耳鳴りが邪魔をして思い出せない。

よく分からないが、ユリウスに心配掛けないように笑った。

「あはは、なんか寝ちゃってた?」

「ほどほどにしないとぶっ倒れるぞ」

「大丈夫だよ!僕にはあの薬があるからさ!」

ラウルが自信に満ちて言っているのは、虹色に輝く薬の事だ。
あれはラウルが、頑張っている友人達のために作ったものだ。
先輩にいろいろ聞いて、薬を調合して自分で試して微調整を繰り返した。

機械弄りしか出来ないラウルに出来るのはそれくらいだと考えている。

ユリウスはああ言って呆れながらも、優しい顔をしていた。

その時、ラウルになにか足りないものがあると気付いた。
ラウルの後ろから人の話し声が聞こえて、とっさにラウルの頭を下に向けた。

下で文句を言っているラウルを無視して、通りすぎるのを待った。
話し声の持ち主達は、こちらに来る事がなくいなくなった。

「もうなんだよー、いきなり」

「お前、ゴーグルどうした?」

「…っ!?」

ユリウスに言われて、頭を確認したがそこには何もなかった。
慌てて周りを見渡してみると、少し離れたところに砕けたゴーグルが置いてあった。
一つ一つ拾って、手のひらに乗せても当然直らない。

ユリウスは「誰かに踏まれたのかもな」と言っていた。
確かにそうかもしれない、何処かで落として廊下でボーッとしている時に踏まれたと思えば説明できる。

これは自分の不注意だと、ゴーグルの破片を見つめながら思った。

このゴーグルは、家族とユリウスの前以外で自分から外した事はなかった。
ユリウスは心配そうにしているが、ラウルはこれ以上心配掛けないように笑った。

「かたちあるもの壊れるから大丈夫だって!」

「ちょっと待ってろ」

ユリウスはそう言って、ラウルに上着を頭の上に被せて何処かに走っていった。
ラウルが素顔を嫌っているから、ユリウスは優しさでそうしてくれた。

昔から変わらない、ユリウスは正義感がとても強かった。

ラウルは不思議な瞳をしていて、子供の頃からいじめられていた。

青と黄のオッドアイ、いつもそれで気味悪がられていた。
だから、ゴーグルを付けている…人に見られなければいじめられる。

目を隠せば隠すほど、暴きたくなる子供も当然いた。

ゴーグルを取られて「気持ち悪い目!」と言われて、小さいラウルをバカにするように腕を上げてゴーグルを揺らしていた。
周りの子達はそれを見て笑っていて、ラウルは涙を溜めていた。

「返してよ!」

「取れるもんなら取ってみろよ!」

「おい!何やってんだお前ら!」

ユリウスは棒を持っていじめっ子達を追い払ってくれた。
取り返したゴーグルをユリウスから渡されて、なくさないように手にした。

ラウルはずっとゴーグルを手放せなくなっていたし、それでいいと思っている。
でも、ゴーグルはない…代わりを探さないといけないなとユリウスの帰りを待った。






そして、翌日…フォルテはラウルを見て目を丸くしていた。
ラウルはいつも通り明るく「おはよう」と言っていた。
呆然としながら、フォルテも手を上げて挨拶した。

全てを知っているユリウスは気にするなとしか言えなかった。

ラウルはいつものゴーグルをしていなくて、一瞬誰だか分からなかった。
真っ黒なサングラスを着けたラウルがそこにいた。
周りの人達も、びっくりしてラウルに注目していた。

「ちょっとゴーグル壊しちゃって!」

「そうなんだ」

「まぁ、そんな事もあるよ…あいたっ!!」

「ちゃんと前見ろよ」

「あれ?ユリウスの声が聞こえるのに姿が見えない」

「……お前は」

机につまずいて、転びそうになって壁に激突した。
サングラスは無事だったけど、少しだけ鼻が赤くなっていた。

心配するフォルテと呆れるユリウスを見て、ラウルはヘラヘラと笑っていた。

創立パレードまでまだ数日あり、休日にどうするか三人で話していた。
ラウルはロボットを組み立てるのに時間を使うと言っていた。
ユリウスは、一日中眠っていたいと予定は入れていない。

フォルテはカノンが教会の装飾に使うものを買うから、荷物持ちに付いて行くつもりだ。
レオンハルトは一週間ほど創立パレードの準備で学院を休む。
だから、一週間護衛の仕事がなくてそれぞれの時間を使える。

「あれ?ユリウス寂しいの?顔が暗いよ?」

「お前、それはサングラスのせいだろ」

「あはは!そうだっけ」

「ラウル、前見えてる?」

「うーん、大丈夫…かなぁ」

本当は、暗い色のサングラスだからあまりはっきりと前は見えていなかった。
あのゴーグルは特殊なガラスで出来ていて、クリアに見えた。
心配掛けないように、目の前が見えない不安を感じさせないように明るく振る舞った。

ロボットが完成するまでこのままだけど、仕方ないなとラウルは思っていた。
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