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共有された夢

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レッドの言葉に何も言えずにいたら、レオンハルトが助け船を出してくれた。
俺というより、カノンを助けたんだけどガッカリさせたくない。

「必ずお役に立ちます!」と宣言すると、レッドはそれ以上何も言わず歩き出した。

隣のカノンを見ると、レオンハルトの顔を見ずに下を向いてお礼を言っていた。

カノン…いったいどうしたんだろう。

特別科の寮部屋は二人部屋になっていて、レオンハルトのみ一人部屋だ。
俺とカノン、レッドと先輩はレオンハルトの部屋を挟むカタチで暮らす事になる。

なにかあればすぐに駆け付ける事が出来るように。

「なにかあれば必ずベルで呼びます、それまで身体を休めて下さい」

レオンハルトは小さな鈴を見せて、俺達は「おやすみなさい」と頭を下げて部屋の中に入った。
あの鈴は確か、壁に投げつけると鐘か鳴るように音が大きい防犯アイテムだ。
ゲームでもよく出てきていて、ゲームはヒロインのスピカが持っていた。

王子様が持っても、何も不思議ではない。

部屋に入ると、ほとんどベッドで埋め尽くされていた普通科の部屋とは明らかに違った。
リビングや個室もある、ちょっとしたマンションの部屋のようだ。

リビングには、昨日荷造りした荷物がまとめて端に置かれていた。
感動して、カノンにもこの気持ちを分かち合いたかった。

後ろにいるカノンはずっと表情が曇っていた。
顔色がさっきよりも悪い、具合悪いのかな。

カノンをソファーに座らせて、水は冷蔵庫にあるのか確認しようとした。

「カノン?」

「ごめん、今は何処にも行かないでほしい」

俺の腰に回された腕が震えていて、俺が告白した病室での事が重なる。
水を持ってくるのは後にしようと、カノンの隣に座ろうと思った。

しかしカノンは離してくれなくて、膝の上に座る事になった。

……なんでこうなった。

人目が俺とカノン以外ないとはいえ、ちょっと恥ずかしい。

重くないようにちょっと腰を浮かせていたら、抱きしめる力を強められた。
それで深くまで座ってしまった、重くないか?
カノンがそれでいいなら、俺も抱き枕になるよ。

「フォルテ、ごめん…変な夢見たんだ」

「夢?昨日?」

「いや、さっきの会議室で眠っていたみたいなんだ」

「カノンが?珍しいね」

カノンはどんなに眠くても居眠りなんてする人じゃない。

去年、カノンが球技大会の後に体力が限界になった時があった。
それでも、次の日は平然と授業を受けていたと同じクラスのラウルが言っていた。

昼休みに皆で屋上でご飯を食べてる時、カノンは俺の膝を枕にして寝ていた。
ユリウスとラウルの前でイチャイチャするのは気まずいが、カノンが俺の膝で安心して寝れるなら嬉しい。

翌日、カノンは反省して体力を付けるために筋トレをしていた。
カノンは体力がないんじゃなくて、球技大会の内容がアレだっただけだ。

ここはファンタジー世界の球技大会だ、普通の球技大会と同じだと思ってはいけない。
しかも、カノンは学年代表でいろんな事をしていたから体力がなくなるのも分かる。

カノンはそのままでいいと思うけどな。

そんなカノンが、また寝てしまったのか…俺より荷造りを早く終わらせていたけどどうしたのかな。

「まだ眠い?寝ていいよ」

「いや、今は寝たくない…あんな夢をもう見たくない」

「怖い夢?」

「うん、フォルテが殺される夢」

カノンの言葉に、今度は俺の頭が真っ白になった。
会議室で見た夢……まさか、そんな事が…

俺が見た追体験をカノンもしているのか?
でもカノンはミッシェルの声が聞こえない筈だ。
あの場にもカノンがいたのか?それでも、カノンはなんで追体験をしたんだろう。

身体ごと後ろを向いて、カノンと向かい合う格好になった。

カノンの瞳が揺れていて、不安と怯えが含んでいた。
腰を引き寄せてカノンに抱きしめられて、サラサラの髪に触れた。

「なんであんな夢を見たのか分からない、しかもレオンハルト様がなんで…」

「俺と同じものを見たんだ」

「フォルテも同じだったのか?」

カノンは顔を上げて、俺の頬に触れた。

カノンが見たのはカノン視点ではなく、第三者の視点だったようだ。
俺とレオンハルトが戦っているのを黙って見ている事しか出来なかったと悔しそうだった。

カノンに軽くキスをして「夢だから大丈夫だよ、そんな事あるわけないから」と笑った。

俺はそんな結末には絶対にならない、だからカノンも夢だからって気にしなくていいよ。
…でも、ありがとう。

そろそろお腹空いたし、食堂に行こうと思って大きな声を上げた。
カノンは目を丸くして、驚いてしまった。
謝って、カノンの膝から降りた。

「フォルテ、何処か行くの?」

「普通科のクラスにカバン持ってくるの忘れてた」

「そう、私も着いていくよ」

「大丈夫だよ、すぐに終わるし…カノンは先に食堂行ってて」

今はユリウスも命を狙ってないし、大丈夫だ。

それに俺達護衛の仕事はレオンハルトを守るためにある。
俺もカノンもいなかったら、レッド達だけになる。

レッドは魔族と関わりを持つ予定の男だ、信用ならない。
レッドの助手の先輩も、レッドの味方だからやっぱり信用ならない。

残りはカノンだけだ。

カノンに「レオンハルト様をよろしく」と言うと、俺の考えを分かってくれたのか頷いた。

カノンは不安そうな顔をしていたから、もう一度大丈夫だとカノンの額にキスをした。
手を振って、急いで部屋を出た。

忘れ物なら、先生に鍵を借りれるかな。

寮長さんに話をすると、門限までに帰ってきてと言われて寮を出た。
学院に来て、先生は何処にいるんだろうと周りを見渡して違和感があるものがあった。

あれ?校舎の扉開いてる?先生が閉め忘れたのかな。

勝手に入ったらダメだよな、大人しく先生を探すか。

「あれ?普通科の一年生?」

「レッド…先輩…」

「あれ?名前知ってくれてるんだ、嬉しいなぁ」

棒読みで、全くそう思っていないんだろうなと分かった。
なんでこんなところで会うんだろう、早くカバンを持って戻ろう。

「それじゃあ失礼します」とだけ言って、先生を探すために歩いた。

何故か後ろからレッドが付いて来る。
レオンハルトを守る役割があるのに、なんで後ろにいるんだ?

やっと灯りが付いている場所を見つけて、中に入った。
先生に説明をすると、先生が一緒に行かないといけないと言われた。
でも、今忙しくて手が離せないと言われてしまった。

カバンを取るだけなのに、どうしたらいいんだろう。

先生は後ろを向いて、頷いていた。

「特別科の、しかも学年一位のレッドくんがいるなら安心だ」

「えっ、あの…」

「ありがとうございます!」

レッドは俺の肩を抱いて、にこやかに先生に言っていた。
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