最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

文字の大きさ
上 下
34 / 62

病室の中

しおりを挟む
ーーー

「ん…んー…」

チュンチュンと鳥の囀ずりが聞こえてきて、温かな風が髪に触れる。
ボーッと天井を眺めていて、完全に目が覚めるまで時間が掛かった。

手を見つめていて、人差し指に集中すると炎が出現した。
こんな事、今までなかったのに…悪役フォルテが目覚めたからか。

勢いよく起き上がり、両手を眺めていたら隣から大きな音が聞こえた。
隣を見ると、隣の人が地面に倒れていてビックリした。

いきなり起き上がったからビックリさせてしまった。
倒れた人を助けようと思って、近付いてしゃがんだ。

「大丈夫ですか……あれ、カノン?」

「うっ、ごめん…すぐ出ていくから」

「いきなりどうしたの?」

よく分からないが、カノンは記憶の中で足を怪我していた。
俺の出した炎で火傷もしていたけど、火傷は軽そうで良かった。

肩を貸してベッドに座らせて、床に落ちている杖を掴んだ。
カノンを見ているが、ずっと俺の顔を見ていない。

あんな事させたから、嫌な気持ちにさせたよな…ごめん。

杖をカノンに渡して立ち上がって、カノンの前に立つと驚いて俺を見てくれた。
あんな記憶の中より、実物のカノンを見た方がいい。

カノンの手を握るのは遠慮して、両手を前に出すだけにした。

「ごめん、俺が迷惑掛けて…もうあんな事は二度と起こさないから」

「フォルテの意思じゃないのは分かってる」

「ありがとう、俺じゃないって気付いてくれて…助けてくれてありがとう」

カノンは、俺の言葉に不思議そうな顔をしていた。
助けてくれた事にお礼を言っただけなのに、なんでそんな顔をしているんだ?

カノンは「昨日の事覚えてないの?」と聞いてきた。
昨日とは多分、俺の力が暴走してしまったあの日の事だ。

ミッシェルに見せてもらったから、全部覚えている。

普通に頷くと、カノンはまた下を向いてしまった。
好きでもない男とキスはカノンにとってトラウマだよな。

『私はフォルテが好きだよ、誰よりも君を愛してる』

カノンが俺に言ってくれた言葉が頭の中に響いた。

「俺は、嫌じゃなかったよ…キス」

「…っ」

「カノンの事、嫌じゃない」

カノンは顔を上げて目を見開いて、俺の方を見つめていた。

カノンは誰を助けるためでも、嘘をついたりしない。

俺にまっすぐ言ってくれた言葉は、カノンの本心なんだ。

そして、キスをされて…初めて男とキスをしたのに、全然嫌ではなかった。
これだけはミッシェルの言った通り、いつの間にかカノンに攻略されていたんだ。

辛い事があれば、俺も半分背負い込む覚悟はある。
半端な気持ちでそう言っているわけではないんだ。

俺を好きになってくれる攻略キャラクターなんていないと思っていた。
でも、俺を好きになってくれる人がいて…俺もカノンを好きになった。
恋愛慣れしていなくても、この気持ちが友情ではない事くらい分かる。

友達としか思っていない相手にキスされても嬉しい筈がない。
キスそのものは俺を助けるためでも、気持ちに嘘はない。

だからこそ、俺はカノンに内緒にする事は出来ない。

こんな事を言ったら、俺への愛が冷めてしまうかもしれない。
友情にも戻れない、俺はまた一人になるかもしれない。
なにかのきっかけで、死亡フラグが成立するかもしれない。

『それでいいの?彼は攻略不可キャラクターになっちゃうよ』

ミッシェルが俺の脳内に語り掛けるが、心は揺らがなかった。

それでも俺は、言うよ。

不安に揺れるカノンの瞳をまっすぐに見つめた。
これから言う事は、カノンにとって理解できない話だ。

でも、これが俺の真実なんだ。

俺は100人の相手と恋愛する事を伝えた。
それが、俺の中のアイツを抑え込む唯一の方法。
カノンもその瞬間をキスを通して見ていたから、そこは信用してくれている。

理由はどうであれ、俺は100人と向き合って全員大好きで愛している気持ちで接する事を話した。
カノンは目を見開きながら聞いていたが、話が追い付いていないみたいだ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ここは弊社のゲームです~ただしBLゲーではないはずなのに!~

マツヲ。
BL
大人気乙女ゲーム『星華の刻』の世界が、腐女子に乗っ取られた?! その世界を司る女神様におねがいされた原作のシナリオライター男子が、モブに転生して物語の改変に立ち向かう。 けれどいきなり隠し攻略キャラの腹黒殿下に気に入られ、気がつけば各攻略キャラともフラグが立つんですけども?! ……みたいな話が読みたくて、ちょっとだけ自分の趣味に正直に書いてみた。 *マークのついている話は、閲覧注意な肌色多め展開。 他サイトでも先行及び同時掲載しております。 11月開催の第9回BL小説大賞にエントリーしてみました。

ライバル視していた隣国の魔術師に、いつの間にか番認定されていた

地底湖 いずみ
BL
魔法ありの異世界に転生をした主人公、ライ・フォールは、魔法学園の成績トップに君臨していた。 だが、努力をして得た一位の座を、急に現れた転校生である隣国の男、ノアディア・サディーヌによって奪われてしまった。 主人公は彼をライバルと見なし、嫌がらせをしようとするが、前世の知識が邪魔をして上手くいかず、いつの間にか彼の番に認定され──── ────気づかぬうちに、俺はどうやら乙女ゲームの世界に巻き込まれていたみたいだ。 スパダリヤンデレ超人×好きを認めたくない主人公の物語。 ※更新速度 : 中

悪役令息の七日間

リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。 気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

今世はメシウマ召喚獣

片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。 最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。 ※女の子もゴリゴリ出てきます。 ※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。 ※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。 ※なるべくさくさく更新したい。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)

黒崎由希
BL
   目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。  しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ? ✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻  …ええっと…  もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m .

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

処理中です...