最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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誤解

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すぐに大勢の人間に囲まれて、騒ぎになったが教師に話を聞かれただけで終わった。
大きな花はフォルテが燃やして跡形もないし、他の植物には炎が燃え移ってないから、何もないように見えた。
あの先輩達もいないから、俺が騒いでいるように見えたみたいだ。

余計な事を言うと面倒な事になるから、黙っている事にした。

それに、フォルテは今この場にはいない。

何処に行ったのか分からないけど、アイツなら大丈夫だろう。

人間離れしたあんな力を隠し持っているなんて知らなかった。
今まで裏を隠して、弱いフリをして俺にやられっぱなしになっていたのか。

教師の事情聴取は終わり、注意だけで解放された。

「あ、ユリウス!」

寮に向かって歩いていたら、後ろからよく知る声が聞こえた。
後ろを振り返らなくても分かってる、幼馴染みのラウルだ。

昨日は実家に帰ると島から離れていたが、帰った時様子が可笑しかった。
同じ寮部屋だから、見ようと思わなくても目に入る。

俺が呼んでもずっと無言で表情が曇っていたら、さすがに心配になる。
今朝も一言も話さずに、先に登校してしまうから話し合いも出来なかった。

正直今はフォルテの事で頭がいっぱいいっぱいだが、ラウルが話してくれるようになったのなら話を聞かないとな。
後ろを振り返ると、走ってきたのか少し息を乱しているラウルがいた。

「もう平気か?」

「……え?」

「なにか悩みがあったんだろ、無理には聞かないから安心しろ」

ラウルだっていつも笑っているけど悩みがないわけではない。
俺達はずっと一緒にいるが、隠し事をしていないわけでもない。
普通に話せるくらいに平気になったのなら良かった。

ラウルは何も言わずに下を向いてしまい、いつも通りにしていたのになにかしてしまったのかと慌てた。
ゴーグルを外して服の袖で涙を拭っていて、泣くほど嫌な思いをさせてしまったのかと俺の気分も下がる。

フォルテの時もそうだ、俺は人を思いやる気持ちがなくなってしまったのかもしれない。

あの時から、俺は水が怖く感じて日常生活でも苦労していた。
毎日風呂に入る度に苦痛で、怖くて苦しい思いをした。
その度にフォルテへの怒りも日に日に大きくなっていった。

アイツの顔が見たくなくて、国を出て小さな村で数年間過ごしていた。
両親にも迷惑を掛けたし、俺を心配して付いて来たラウルにも申し訳ないと思っている。

アイツのせいで、俺はこうなったんだ…それなのにアイツはきっと俺の事を忘れて幸せに暮らしているんだ。
フォルテへの復讐のためだけが心に残って生きてきた。

学院に通う時、アイツと再会する恐れがあるのを分かっていたがチャンスだと思った。
復讐に囚われた俺は、フォルテに一生分のトラウマを植え付けようと考えていたんだ。

命を掛けて俺を助けたアイツは、何処か昔見たフォルテとは違って見えた。
魔術を使う方ではないフォルテは、俺の誤解を解くのに必死になって訴えていた。
あれからかなりの時が過ぎているから変わるのは当たり前か。

フォルテは悪い奴なのに、今さら謝っても遅いのに、俺を助けたフォルテの後ろ姿に心が揺らいだ。
なんで、あの時俺を突き落としたりしたんだよ…そんな事をしなければ俺は…

「うっ、ふぇ…ご、ごめんなさい…ごめんなさい」

「無視したと思ってないから謝らなくていい」

「ち、違っ…僕が、僕が悪いからっ」

ラウルの言っている意味が分からず、首を傾げた。
俺の声を無視したと思って泣いているのかと思ったが、違うなら何に対して謝っているんだ?

島を離れた時、ラウルはいったい何をしていたんだ?

とりあえず、寮に帰る道の真ん中で大泣きしているところを見られて注目されている。
寮部屋に戻るかと、ラウルと一緒に部屋に戻った。

まだ他の人達は戻っていないようで、他人に聞かれたくない話でもゆっくり話せる。
俺とラウルのベッドは下の向かい合わせだから、ベッドに座って話しやすい。

ラウルの大きな目が腫れているが、だんだん落ち着いてきたようで良かった。

「それで、なんで謝っていたんだ?」

「僕が、ユリウスを湖に落としちゃったんだ!」

「…………は?」

ラウルは意味が分からない事を言っていた。
何を言っているのか理解出来ない。

ラウルの言う湖ってあの事だよな、どういう意味だ?

確かにあの場にラウルはいたが、俺から少し離れたところにいたから突き落とすなんて無理だ。
それに、突き落とす理由がない…俺達は親友同士なのに…

なんで急にそんな話をするんだ?
いろんな事が一気に来すぎて、頭の整理が出来ない。

ラウルがふざけて嘘を言っているように聞こえない。

フォルテになにか言われたのかと思ったが、すぐに頭を振った。
決めつけていたら変わらない、ラウルの話を聞こう。

俺はラウルが嘘を付いている仕草とかを知っている。
俺の前では、嘘は付けないとラウル本人も分かっている筈だ。

「休日に忘れ物を取りに、島から出たらフォルテ達を見かけて好奇心で付いて行ったんだ」

ラウルの話を聞くと、アイツら二人は湖に落ちた事の再現をしようとしていたみたいだ。
再現するって事は、本当に覚えていなかったのか?
俺がずっと心に残っていたのが、バカみたいじゃないか。

いや、俺はずっと聞かなかったんだ…フォルテの話を何も…

俺はスピカに無自覚に押されて、ラウルの掘っていた穴から出た濡れた地面に足を滑らせて湖に落ちたと言っていた。
アイツが覚えていないだけだと思っていたのに、そもそも自分じゃないから知らなかったって事なのか?

俺を騙すためにそんな事を言っているだけだと思っていた。

嘘だ、そんな筈はない……だって、湖に落ちて最初に見たのはアイツの顔だった。
それが、俺を落としたのはアイツだっていう決定的な証拠だ。
それに後ろめたくないなら、何故あの時俺を置いて逃げたんだ?

逃げなければ、もっと早く誤解が解けたかもしれないのに…

あの時、俺はなにが起きたのか分からずフォルテの去る後ろ姿を見ているしかなかった。

「ユリウス!大丈夫!?」

「ユリウスくん!」

ラウルと今日会ったばかりの女の子が慌てて駆け寄ってきてやっと我に返った。
なんだ、なんなんだアイツ…俺に何の恨みがあってそんな事をするんだ?

俺やラウルに気持ち悪いものを見せてくる嫌な奴だと記憶していた。
周りの子供達も同じように思っていたから、俺の考えは間違っていない。
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