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フォルテ
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*ユリウス視点*
なんで俺を助けたんだよ、助けられる覚えなんてない。
俺はコイツを殺そうとしたし、憎悪を抱いていた。
俺を放って逃げればいいのに、なんで庇うんだよ。
俺も逃げればいいのに、助けてくれた奴をほっとけるわけがない。
でも、どうする事も出来ない…ただ見ている事しか出来なかった。
本当に殺したかったわけではなく、久々にフォルテに会って頭に血が上って引き戻れなくなっていた。
視界いっぱいに映る赤いものを見て、遅すぎる後悔をした。
俺を助けてくれたフォルテは、本当に俺を突き飛ばしたのか?
もっと話を聞いてやれば良かった…フォルテより、俺の方が極悪人だ。
あの時見た湖の青い水しぶきと、正反対の光景だった。
ぱちぱちと、燃えているものをこの場にいる誰もが呆然と眺めていた。
その中でたった一人だけ、この場に似つかわしくない明るい声が聞こえた。
「なんだ、もっと飲んでくれていいのに…つまんないな」
「フォ…ルテ」
俺の声に、フォルテが自分の身体に刺さった触手を抜いてこちらを振り返った。
いつもと変わらないフォルテの顔だが、黒髪に赤いメッシュなんてあっただろうか。
俺の記憶のフォルテは、今も昔も真っ黒で綺麗な黒髪だった。
フォルテは俺を見て、不思議そうに首を傾げている。
血だらけで破けた服を着ていると思えないほど平然としていた。
周りにいた先輩達は顔を青ざめて「化け物!」と騒いでいた。
触手は燃え尽きて灰となり、風によって散っていった。
「酷いなぁ、化け物だなんて…化け物を育てたのは君達なのに」
「お前っ!魔術を使う悪魔か!?」
「人間だよ、人畜無害でか弱い…ね」
フォルテが人差し指を上にあげると、指先から炎が出現して手を握りしめた。
炎はさらに大きくなり、花が一瞬で燃えて灰となった。
フォルテは笑みを浮かべていて、指をくるくると回していた。
先輩達が言っていた魔術は一握りの人間や魔族しか使えないと聞いた事がある。
フォルテがその数少ない魔術を使う人間の一人だったのか?
でも、そんな話を聞いた事がないし…慣れている様子だ。
もし目の前の男が俺の知るフォルテなら、お前はいったい何者なんだ?
先輩達がフォルテの力に恐怖を感じて顔を歪ませながら逃げていった。
「フォルテ」
「なに、その呆然とした間抜けな顔は」
フォルテは俺に顔を近付けてきて、ドキッとした。
顔はフォルテなのに、行動と喋り方が全く合わない。
固まる俺の耳に唇を押し当ててきて、吐息が掛かる。
相手は嫌いなフォルテなのに、何を考えているんだ俺は…
顔が熱くなる俺に囁くように「俺はフォルテだよ」と言った。
俺の目の前でフォルテが花に刺されたんだ、入れ替わる隙なんてない。
俺から離れたフォルテの瞳が真っ赤に変わっていた。
その瞳を見るだけで、吸い込まれてしまいそうだ。
違う、コイツはフォルテではない…フォルテの姿をしただけの奴だ。
「お前は、アイツじゃない」
「俺じゃなかったら、お前の目の前にいる俺はなんだ?ユリウス」
考えられるのは二重人格だ、コイツはフォルテであってフォルテじゃないのか?
さっきの様子からして、聞いても真面目に答える気がなさそうだ。
その時、騒がしい声が聞こえて後ろを振り返ると教師と生徒の姿が見えた。
まさか、元凶である先輩達の声で気付かれるなんてな。
人が来る前に、フォルテにまだ聞きたい事がある。
後ろを振り返って声を掛けようとしたが、そこには誰もいなかった。
すぐに大勢の人間に囲まれて、騒ぎになったが教師に話を聞かれただけで終わった。
大きな花はフォルテが燃やして跡形もないし、他の植物には炎が燃え移ってないから、何もないように見えた。
あの先輩達もいないから、俺が騒いでいるように見えたみたいだ。
余計な事を言うと面倒な事になるから、黙っている事にした。
それに、フォルテは今この場にはいない。
何処に行ったのか分からないけど、アイツなら大丈夫だろう。
人間離れしたあんな力を隠し持っているなんて知らなかった。
今まで裏を隠して、弱いフリをして俺にやられっぱなしになっていたのか。
教師の事情聴取は終わり、注意だけで解放された。
「あ、ユリウス!」
寮に向かって歩いていたら、後ろからよく知る声が聞こえた。
後ろを振り返らなくても分かってる、幼馴染みのラウルだ。
昨日は実家に帰ると島から離れていたが、帰った時様子が可笑しかった。
同じ寮部屋だから、見ようと思わなくても目に入る。
俺が呼んでもずっと無言で表情が曇っていたら、さすがに心配になる。
今朝も一言も話さずに、先に登校してしまうから話し合いも出来なかった。
正直今はフォルテの事で頭がいっぱいいっぱいだが、ラウルが話してくれるようになったのなら話を聞かないとな。
後ろを振り返ると、走ってきたのか少し息を乱しているラウルがいた。
「もう平気か?」
「……え?」
「なにか悩みがあったんだろ、無理には聞かないから安心しろ」
ラウルだっていつも笑っているけど悩みがないわけではない。
俺達はずっと一緒にいるが、隠し事をしていないわけでもない。
普通に話せるくらいに平気になったのなら良かった。
ラウルは何も言わずに下を向いてしまい、いつも通りにしていたのになにかしてしまったのかと慌てた。
ゴーグルを外して服の袖で涙を拭っていて、泣くほど嫌な思いをさせてしまったのかと俺の気分も下がる。
フォルテの時もそうだ、俺は人を思いやる気持ちがなくなってしまったのかもしれない。
あの時から、俺は水が怖く感じて日常生活でも苦労していた。
毎日風呂に入る度に苦痛で、怖くて苦しい思いをした。
その度にフォルテへの怒りも日に日に大きくなっていった。
アイツの顔が見たくなくて、国を出て小さな村で数年間過ごしていた。
両親にも迷惑を掛けたし、俺を心配して付いて来たラウルにも申し訳ないと思っている。
アイツのせいで、俺はこうなったんだ…それなのにアイツはきっと俺の事を忘れて幸せに暮らしているんだ。
フォルテへの復讐のためだけが心に残って生きてきた。
学院に通う時、アイツと再会する恐れがあるのを分かっていたがチャンスだと思った。
復讐に囚われた俺は、フォルテに一生分のトラウマを植え付けようと考えていたんだ。
命を掛けて俺を助けたアイツは、何処か昔見たフォルテとは違って見えた。
魔術を使う方ではないフォルテは、俺の誤解を解くのに必死になって訴えていた。
あれからかなりの時が過ぎているから変わるのは当たり前か。
フォルテは悪い奴なのに、今さら謝っても遅いのに、俺を助けたフォルテの後ろ姿に心が揺らいだ。
なんで、あの時俺を突き落としたりしたんだよ…そんな事をしなければ俺は…
「うっ、ふぇ…ご、ごめんなさい…ごめんなさい」
「無視したと思ってないから謝らなくていい」
「ち、違っ…僕が、僕が悪いからっ」
ラウルの言っている意味が分からず、首を傾げた。
俺の声を無視したと思って泣いているのかと思ったが、違うなら何に対して謝っているんだ?
島を離れた時、ラウルはいったい何をしていたんだ?
とりあえず、寮に帰る道の真ん中で大泣きしているところを見られて注目されている。
寮部屋に戻るかと、ラウルと一緒に部屋に戻った。
まだ他の人達は戻っていないようで、他人に聞かれたくない話でもゆっくり話せる。
俺とラウルのベッドは下の向かい合わせだから、ベッドに座って話しやすい。
ラウルの大きな目が腫れているが、だんだん落ち着いてきたようで良かった。
「それで、なんで謝っていたんだ?」
「僕が、ユリウスを湖に落としちゃったんだ!」
「…………は?」
ラウルは意味が分からない事を言っていた。
何を言っているのか理解出来ない。
ラウルの言う湖ってあの事だよな、どういう意味だ?
確かにあの場にラウルはいたが、俺から少し離れたところにいたから突き落とすなんて無理だ。
それに、突き落とす理由がない…俺達は親友同士なのに…
なんで急にそんな話をするんだ?
いろんな事が一気に来すぎて、頭の整理が出来ない。
ラウルがふざけて嘘を言っているように聞こえない。
フォルテになにか言われたのかと思ったが、すぐに頭を振った。
決めつけていたら変わらない、ラウルの話を聞こう。
なんで俺を助けたんだよ、助けられる覚えなんてない。
俺はコイツを殺そうとしたし、憎悪を抱いていた。
俺を放って逃げればいいのに、なんで庇うんだよ。
俺も逃げればいいのに、助けてくれた奴をほっとけるわけがない。
でも、どうする事も出来ない…ただ見ている事しか出来なかった。
本当に殺したかったわけではなく、久々にフォルテに会って頭に血が上って引き戻れなくなっていた。
視界いっぱいに映る赤いものを見て、遅すぎる後悔をした。
俺を助けてくれたフォルテは、本当に俺を突き飛ばしたのか?
もっと話を聞いてやれば良かった…フォルテより、俺の方が極悪人だ。
あの時見た湖の青い水しぶきと、正反対の光景だった。
ぱちぱちと、燃えているものをこの場にいる誰もが呆然と眺めていた。
その中でたった一人だけ、この場に似つかわしくない明るい声が聞こえた。
「なんだ、もっと飲んでくれていいのに…つまんないな」
「フォ…ルテ」
俺の声に、フォルテが自分の身体に刺さった触手を抜いてこちらを振り返った。
いつもと変わらないフォルテの顔だが、黒髪に赤いメッシュなんてあっただろうか。
俺の記憶のフォルテは、今も昔も真っ黒で綺麗な黒髪だった。
フォルテは俺を見て、不思議そうに首を傾げている。
血だらけで破けた服を着ていると思えないほど平然としていた。
周りにいた先輩達は顔を青ざめて「化け物!」と騒いでいた。
触手は燃え尽きて灰となり、風によって散っていった。
「酷いなぁ、化け物だなんて…化け物を育てたのは君達なのに」
「お前っ!魔術を使う悪魔か!?」
「人間だよ、人畜無害でか弱い…ね」
フォルテが人差し指を上にあげると、指先から炎が出現して手を握りしめた。
炎はさらに大きくなり、花が一瞬で燃えて灰となった。
フォルテは笑みを浮かべていて、指をくるくると回していた。
先輩達が言っていた魔術は一握りの人間や魔族しか使えないと聞いた事がある。
フォルテがその数少ない魔術を使う人間の一人だったのか?
でも、そんな話を聞いた事がないし…慣れている様子だ。
もし目の前の男が俺の知るフォルテなら、お前はいったい何者なんだ?
先輩達がフォルテの力に恐怖を感じて顔を歪ませながら逃げていった。
「フォルテ」
「なに、その呆然とした間抜けな顔は」
フォルテは俺に顔を近付けてきて、ドキッとした。
顔はフォルテなのに、行動と喋り方が全く合わない。
固まる俺の耳に唇を押し当ててきて、吐息が掛かる。
相手は嫌いなフォルテなのに、何を考えているんだ俺は…
顔が熱くなる俺に囁くように「俺はフォルテだよ」と言った。
俺の目の前でフォルテが花に刺されたんだ、入れ替わる隙なんてない。
俺から離れたフォルテの瞳が真っ赤に変わっていた。
その瞳を見るだけで、吸い込まれてしまいそうだ。
違う、コイツはフォルテではない…フォルテの姿をしただけの奴だ。
「お前は、アイツじゃない」
「俺じゃなかったら、お前の目の前にいる俺はなんだ?ユリウス」
考えられるのは二重人格だ、コイツはフォルテであってフォルテじゃないのか?
さっきの様子からして、聞いても真面目に答える気がなさそうだ。
その時、騒がしい声が聞こえて後ろを振り返ると教師と生徒の姿が見えた。
まさか、元凶である先輩達の声で気付かれるなんてな。
人が来る前に、フォルテにまだ聞きたい事がある。
後ろを振り返って声を掛けようとしたが、そこには誰もいなかった。
すぐに大勢の人間に囲まれて、騒ぎになったが教師に話を聞かれただけで終わった。
大きな花はフォルテが燃やして跡形もないし、他の植物には炎が燃え移ってないから、何もないように見えた。
あの先輩達もいないから、俺が騒いでいるように見えたみたいだ。
余計な事を言うと面倒な事になるから、黙っている事にした。
それに、フォルテは今この場にはいない。
何処に行ったのか分からないけど、アイツなら大丈夫だろう。
人間離れしたあんな力を隠し持っているなんて知らなかった。
今まで裏を隠して、弱いフリをして俺にやられっぱなしになっていたのか。
教師の事情聴取は終わり、注意だけで解放された。
「あ、ユリウス!」
寮に向かって歩いていたら、後ろからよく知る声が聞こえた。
後ろを振り返らなくても分かってる、幼馴染みのラウルだ。
昨日は実家に帰ると島から離れていたが、帰った時様子が可笑しかった。
同じ寮部屋だから、見ようと思わなくても目に入る。
俺が呼んでもずっと無言で表情が曇っていたら、さすがに心配になる。
今朝も一言も話さずに、先に登校してしまうから話し合いも出来なかった。
正直今はフォルテの事で頭がいっぱいいっぱいだが、ラウルが話してくれるようになったのなら話を聞かないとな。
後ろを振り返ると、走ってきたのか少し息を乱しているラウルがいた。
「もう平気か?」
「……え?」
「なにか悩みがあったんだろ、無理には聞かないから安心しろ」
ラウルだっていつも笑っているけど悩みがないわけではない。
俺達はずっと一緒にいるが、隠し事をしていないわけでもない。
普通に話せるくらいに平気になったのなら良かった。
ラウルは何も言わずに下を向いてしまい、いつも通りにしていたのになにかしてしまったのかと慌てた。
ゴーグルを外して服の袖で涙を拭っていて、泣くほど嫌な思いをさせてしまったのかと俺の気分も下がる。
フォルテの時もそうだ、俺は人を思いやる気持ちがなくなってしまったのかもしれない。
あの時から、俺は水が怖く感じて日常生活でも苦労していた。
毎日風呂に入る度に苦痛で、怖くて苦しい思いをした。
その度にフォルテへの怒りも日に日に大きくなっていった。
アイツの顔が見たくなくて、国を出て小さな村で数年間過ごしていた。
両親にも迷惑を掛けたし、俺を心配して付いて来たラウルにも申し訳ないと思っている。
アイツのせいで、俺はこうなったんだ…それなのにアイツはきっと俺の事を忘れて幸せに暮らしているんだ。
フォルテへの復讐のためだけが心に残って生きてきた。
学院に通う時、アイツと再会する恐れがあるのを分かっていたがチャンスだと思った。
復讐に囚われた俺は、フォルテに一生分のトラウマを植え付けようと考えていたんだ。
命を掛けて俺を助けたアイツは、何処か昔見たフォルテとは違って見えた。
魔術を使う方ではないフォルテは、俺の誤解を解くのに必死になって訴えていた。
あれからかなりの時が過ぎているから変わるのは当たり前か。
フォルテは悪い奴なのに、今さら謝っても遅いのに、俺を助けたフォルテの後ろ姿に心が揺らいだ。
なんで、あの時俺を突き落としたりしたんだよ…そんな事をしなければ俺は…
「うっ、ふぇ…ご、ごめんなさい…ごめんなさい」
「無視したと思ってないから謝らなくていい」
「ち、違っ…僕が、僕が悪いからっ」
ラウルの言っている意味が分からず、首を傾げた。
俺の声を無視したと思って泣いているのかと思ったが、違うなら何に対して謝っているんだ?
島を離れた時、ラウルはいったい何をしていたんだ?
とりあえず、寮に帰る道の真ん中で大泣きしているところを見られて注目されている。
寮部屋に戻るかと、ラウルと一緒に部屋に戻った。
まだ他の人達は戻っていないようで、他人に聞かれたくない話でもゆっくり話せる。
俺とラウルのベッドは下の向かい合わせだから、ベッドに座って話しやすい。
ラウルの大きな目が腫れているが、だんだん落ち着いてきたようで良かった。
「それで、なんで謝っていたんだ?」
「僕が、ユリウスを湖に落としちゃったんだ!」
「…………は?」
ラウルは意味が分からない事を言っていた。
何を言っているのか理解出来ない。
ラウルの言う湖ってあの事だよな、どういう意味だ?
確かにあの場にラウルはいたが、俺から少し離れたところにいたから突き落とすなんて無理だ。
それに、突き落とす理由がない…俺達は親友同士なのに…
なんで急にそんな話をするんだ?
いろんな事が一気に来すぎて、頭の整理が出来ない。
ラウルがふざけて嘘を言っているように聞こえない。
フォルテになにか言われたのかと思ったが、すぐに頭を振った。
決めつけていたら変わらない、ラウルの話を聞こう。
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