最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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過去の真相

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「確か、もう一人女の子がいたよね」

「うん…でも、スピカは怖がってただけだからユリウスとは関係ないよ」

「怖がって彼に寄り添ったの?」

「えっ、そうだけど」

「なら、彼女の行動も考えるべきだ」

スピカはユリウスに寄り添って怖がっていたけど、それだけだ。
そもそもスピカはゲームでもか弱い女の子で、ユリウスを突き飛ばす力はない。
それをする理由もないから、勝手に除外していた。

確かにカノンの言う通り、スピカも試してみるか。

俺は動いていなかったから、俺の役はやらなくていいか。

じゃあどっちがスピカの役か考えていたら、カノンが俺の方に身体を寄せていた。
いきなりで、ちょっとドキッとして心臓が跳ねた。
カノンの髪からいいにおいがする、いや…何考えてるんだ俺は…

その瞬間、俺の身体がよろけて湖の中に沈んでいた。

湖から顔を上げると、嬉しそうなラウルの声が聞こえた。
後ろを振り返ると、ラウルはなにか灰色のものを持って喜んでいた。
あれってなんだ?見た目はカタツムリみたいだけど、手のひらサイズなんてデカすぎないか?

カノンは俺に手を差し伸ばしてきて、申し訳なさそうにしていた。

「ごめん、怪我はない?」

「カノン、どうやったの?」

「ただ寄り添うだけのつもりだったけど、足が思うように力が入らなくて」

滑ったのか?でもカノンの位置だと地面が湖で濡れる事はない。
昨日もその前も雨は降っていなかったから濡れるわけがない。

カノンに引っ張られて、下の方を見ていたから俺もそちらを見た。

地面にはいくつもの浅い穴が出来ていた。
何だこれ、最初に湖に落ちた時はこんなものはなかった。

穴の周りを見てみたら、近くにラウルしかいなかった。
ラウルの手は土で汚れていて、穴を掘った犯人が誰か分かった。
こんなところで何をしているのか、再現ではないのか?

ラウルに近付くと、俺達に気付いて笑って灰色のものを見せてきた。
中がもぞもぞ動いていて、虫の足が出てきて悲鳴を上げた。

カノンの後ろに隠れると、カノンは平気なのか動じていない。
ラウルは「いつも虫を見せて驚かしてるのに変なの」と言っていた。

あれは本物じゃないし、記憶を取り戻す前のフォルテは知らないが俺は虫が苦手だ。
他の人はおもちゃだって知らないから、俺と同じかそれ以上に怖かったよな。

カノンに肩を触れられて、もう大丈夫だと微笑んだ。
あんな事はもうしないし、心を入れ替えて人助けをしているんだ、昔のフォルテじゃない。

ラウルは本当に暇だからここに来たのか、俺達の邪魔をしに来たのか分からなくなってきた。
ユリウスの友人だから、ちょっと疑ってしまう。

ユリウスは全く関係なくて、ラウルの意思でここにいる事を願おう。

「何してたの?」

造形甲殻虫ぞうけいこうかくむしを探してたんだよ!」

「俺…昔の再現をしているんだけど、こんなに穴を開けられたら危ないだろ」

「僕も昔の再現だよ、こうして造形甲殻虫を探して」

その何とか虫は、湿った地面に潜っているみたいだ。
湖の影響で表面は乾いているが、掘り進めると濡れた地面が現れる。

俺は蛇を見ていて、ユリウス達は俺を見ていたからラウルを見ている人はいなかった。
だからラウルが何をしているのか分からなかった。

あの時の再現だったなら、もしかしてこれも原因の一つか?

俺はカノンに寄り添わられた衝撃で、湖に倒れた。
カノンの方が力があるし、重いから倒れるのは当然だ。

子供とはいえ、ユリウスなら滑ったスピカを支えるくらいの力はあった筈だ。
俺の考えが成立するのは、ユリウスもラウルの掘った地面を踏んで滑った場合だ。

もしそうだとしたら、ユリウスが湖に落ちた事がいろいろと納得が出来るものがあった。
でも、もしそうだとしたら…結末は悲しい結果になる。

謎の第三者がいた方が、マシだったのかもしれない。

カノンは「普通だったら女の子にぶつかられたくらいで湖まで落ちたりはしないから、油断していたからこそ起こったのかもね」と言っていた。

最悪な状況が重なって、事故が起きたんだ。
悪意がある人なんていない、誰も悪くなかったんだ。

ユリウスもスピカも、地面に用がないかぎり注目はしない。
そして、ラウルも穴掘りに夢中で見ていなかった。

ラウルは無言になった俺達を見て首を傾げていた。
視線を俺達から、自分の足元を見つめていて考え事をしていた。

俺がラウルに声を掛ける前に、ラウルは目を見開いて呆然としていた。
汚れた自分の手を見つめながら、小さな声で呟いた。

「あれ?もしかして僕のせいでユリウスがああなったの?」

「君のせいじゃないよ、あれは事故で…」

「……」

さっきまで楽しそうにしていたラウルの表情が曇った。
誰かが悪いとかではなく、ラウルが気にする事ではない。
わざと突き落とした犯人はいなかった、良かったとすら思う。

俺はそう思うが、ラウルはそんな簡単にはいかないんだろう。
ユリウスとラウルは幼馴染みであって親友同士だ。
今まで苦しんでいた原因が自分だと思ったらラウルも苦しい筈だ。

このまま何事もなく過ごせたらきっと心は軽いだろうな。

でも、ユリウスに隠し事は出来ない…それだけは誤解を解きたい。

この場にいないユリウスが信じてくれるかは分からないけど。
誤解したままだと、ユリウスもラウルも心に嫌なものが残ったままになる。

俺だって、ユリウスに殴られるのはもう勘弁してほしい。
カノンにここまで協力してもらったんだ、無駄にはしたくない。

ラウルが俺達を驚かした時、第三者は本当にあり得るかもしれないと思った。
でも、ラウルが草むらにずっといたらすぐに俺達は気付いていた。
木の影から見ていて、タイミングを見計らっていたんだろう。

でも、やはりそうなると行きは良くても帰りが見つかる。
また木の影に隠れた場合、ラウルの穴堀りで地面が滑りやすくなっているのに無事に木の影まで戻れるのか?

避けようにも、濡れた床と普通の床は全く色の見分けがつかない。
普通に気付かないレベルで、濡れた床はこれを見るかぎり広範囲に広がっている。
ここで、第三者がいるかもしれない可能性は消えた。

俺がユリウスのところに行った時に、ユリウスが滑ったかどうか気付いていたら良かった。
湖の近くだから、滑っても当たり前だと思っていたのかもしれない。
だから記憶の中の印象に残らず、思い出す事もなかった。

何も知らない人が入ってきて、転んだら危ないから穴を埋める。
カノンも手伝ってくれたからすぐに終わる事が出来た。

ラウルのところに行くと、ビクッと肩が跳ねていた。
ゴーグルで表情がよく分からないけど、びっくりしているみたいだった。
別に怒ってないから、そんなに怯えないでほしいな。
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