最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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重なる恐怖.

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20「…、フォルテ…大丈夫?」

誰かが俺を呼ぶ声が聞こえて、目を開けた。
目の前には心配そうな顔をしているカノンがいた。

その瞬間、さっきまでの光景が思い出されて条件反射で後ろに下がった。

頭を振って、さっきの光景を頭から追い出そうとした。
深く深呼吸をして、ゆっくりと目の前の光景を見つめた。

母さんとカノンがいる、俺の知るいつもの子供の姿のカノンだ。

カノンは驚いていたが、何事もなかったかのように「ボーっとしているみたいだけど大丈夫?」と聞いてきた。
俺、今まで何をしていたんだ?いきなりゲームの景色を見せられたから分からない。

状況が追い付いていなくて、カノンになにがあったのか聞いた。
カノンの話によると、俺が追体験をしているとき廊下に座り込んだまま、魂が抜けたように動かなかったみたいだ。

どんなに声を掛けても反応しなくて、身体を揺すっても変わらない。

俺自身、そういう意識は何もなくて不思議な気分だ。
突然目の前にそんな人がいたら怖いよな。
母さんも心配して、カノンと同じような事を聞いてくる。

あの光景は、いつか現実に起こるかもしれない未来。
俺が、世界の流れに負けて悪役フォルテとして死ぬ場面。
カノンに嫌われて、ミッシェルの言う通りになった。

俺の記憶が戻るのがもう少し遅かったら、もしかしたら、今もまだ俺じゃなかったらきっと無理だった。
フォルテの歪みは早く進み、深く取り返しのつかない事になっていた。
こんな俺と、カノンは友達になんてなってくれないよな。

まだ追体験の名残のような気持ち悪い感情が残っている。

カノンが俺に触れようとしていて、大人のカノンに剣を向けられたシーンが重なる。
頭を抱えて、カノンから離れようとして壁に背中がくっついた。
カノンはそれ以上、俺に触れようとはしなかった。

今のカノンじゃないのに、震えが止まらない。
友達なのに…カノンを怖いと思う自分が本当に嫌だ。
カノンにとって意味が分からないよな、俺が可笑しいんだ。

あの時のカノンから見た俺は、恐ろしい顔をしていたんだろうか。
お互い憎しみ合って殺し合っていたんだから当たり前だ。

このままじゃダメだと、カノンをまっすぐ見つめた。
一瞬また大人のカノンと重なって見えたけど、それでも負けじと穴が開きそうなほど見ていると、いつものカノンが見えた。
心配そうな顔をさせてしまって、申し訳ない気持ちになる。

「フォルテ、なにがあった?」

「…ごめん、何でもない」

「……」

「本当に、ごめん」

これじゃあカノンだって、納得なんて出来ないよな。
それでもカノンに謝る事しか出来ない。
夢を見てカノンに殺されたなんて言ったら、いい顔をするわけがない。

ゲームの話なんて、もっとカノンには分からない話だ。
ミッシェルという神が脳内にいるなんて言ったら頭が可笑しくなったとしか思えない。

何も言えない、この感情は墓場まで持っていくと決めた。

今日はカノンに帰ってもらい、部屋に戻ってきた。
久々に俺に会いに来てくれたのに、心配するカノンを追い返すような事をしてしまった。
しかも、何もしてないのに怯えて…カノンにとって嫌な気分になるよな。

ベッドの上に乗って、膝を曲げて小さくなる。
大人のカノンを忘れたいのに、脳内に焼き付いてはなれない。
今のカノンの笑顔を思い出して、塗り替えようとする。

明日、俺から会いに行って謝ろう。

カノンに酷い事をしてしまったなら、謝るべきだ。
簡単に許してくれなくても、償い続ける…俺がいつもやっている事だ。

悪役になりたくないと思っても、感情だけが一人で勝手に暴走する。
ミッシェルは、俺にどうしてトラウマを植え付けるんだ。
どうせなら、カノンと出会った幸せな日々を思い出させてくれたら平和だったのに。

俺が友達で幸せだと思っているから、怒ったんだ。
もし、友達のままだとまた違った結末なんだろう。

友達だから、道を踏み外したら俺を止めるためにカノンは俺と戦うのかな。
俺に真剣に向き合ってくれたカノンなら、きっとそうする。

その結果、きっと俺とカノンは心も身体もボロボロになる。
誰が好き好んで友達と戦う事を望むんだ、優しい人ほど傷付きやすい。

俺がそうしたくなくても、世界が俺を悪役にするとミッシェルは言っていた。
俺達登場人物は、神様の手の上で転がされている。

本当に、それこそゲームのシナリオと選択肢しか選べないロボットだ。

俺はゲーム実況者でプレイヤーだった…それでもロボットと変わらない。
そんな俺が唯一抗う事が出来るのが、恋愛という新しい要素だ。

俺に残された最後の希望であり、チートアイテムのようなものだ。
これを手にすれば、俺はきっと幸せになれるのかもしれない。

今は声が聞こえない、いつもはうるさいのに静かなものだ。

ミッシェルに用があるから、口を開いて呼んでみた。
何度目か声を掛けると、脳内にミッシェルの声が響いた。
さっきまで本人が目の前にいたから不思議な気分だ。

『何?そんなに呼び出して』

「カノンと仲直りするにはどうしたらいい?」

『知らないよ、楽に攻略出来ると思わないでね』

ミッシェルは相変わらず、非協力的に言っていた。
でも、あの時とは違って話しやすい声に戻っていた。
面と向かって話すと、あんな感じになる癖でもあるのか?

そしてミッシェルの声は聞こえなくなった。

自分でやらないと攻略は出来ないって事だと思う事にした。

俺が自分で考えて、俺の行動がきっと意味があるんだ。

ただ謝るだけじゃ、カノンは許してくれるかもしれない。
でも、それはカノンの優しさに甘えているだけでそれではダメだ。
俺がした事なら、俺がちゃんとしないと反省してると分からない。

言葉だけではなく、謝罪もちゃんとカタチにしないと。

部屋を飛び出して、厨房に向かうと母さんとメイドさんが夕飯を作っていた。
お腹が空くほどいい匂いがする、これはお肉のスープなのかな。

夕飯を見にきたわけじゃないとすぐに我に返って、母さんのところに行った。

母さんに説明して、頷いてくれた。

カノンのために、手作りのクッキーを作って会いに行こうと考えた。
料理なんて、生前に自炊していた時以外やっていなかった。

クッキーは生前も作った事がなく、この世界の食材は何一つ分からない。
母さんに手伝ってもらいながら粉を混ぜて、生地をこねた。

「食べさせたい相手の事を想いながら作るのよ」

「…想いながら…カノンに食べてもらえますように」

生地を伸ばして、型を手に取る。
どれもハートの形をしている。

ハートのクッキーをいきなり貰ってもカノンは困惑するよな。
腹に入れたら形なんて関係ないか、そのくらいカノンが気にするとは思えないし。

初めてにしてはよく出来たクッキーを見つめて、カノンが喜んでくれたらいいなと歪なクッキーを一つ口に入れた。
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