上 下
13 / 62

カノンとフォルテの結末.

しおりを挟む
19全身が焼けるように熱くなり、意識が戻る。

俺の目の前には信じられない光景が広がっていた。

いつもお祈りをしている教会が燃えている。
外からは人の叫び声が聞こえる。

見慣れた筈なのに、変わり果てた街がそこに存在していた。

眠っていたのは一瞬の筈なのに、いったいこの短時間でなにが起きたんだ?

俺の目の前には、大人の姿になったカノンがいた。

カノンの身体には血が付いていて、傷付いていた。

近付けなかったのは殺伐とした雰囲気だからではなく、実際に足が前に動けない。
声を掛けたくても、自由に声を出す事が出来ない。

そういえば、意識を失う前にミッシェルが『追体験』と言っていた。
これは、ゲームの世界が現実に起こった時の光景なのか。

俺の意思とは反対に、勝手に身体が動く。
これは、俺ではなくフォルテの記憶の中の出来事だ。

血で濡れた剣をカノンに向けていた。

「貴方は何故、神に逆らうのですか」

「神?そんなものが居たら見てみたいね」

「止まらないと言うなら、私が止めます」

「お前のような奴、ムカつくんだよ…正義ぶっているようなお前ら偽善者が!!」

カノンに向かって、剣を振り上げていた。

いろんな感情が頭に流れ込んできた。
それは、悲しみ…憎しみ…絶望感が支配している。

苦しい…ゲームでのフォルテはこんな気持ちでいたのか?

カノンを傷付けたくはないのに、振り下ろす腕は止まらない。

肩に剣が刺さり血が溢れてきて、カノンの身体能力なら避ける事も出来た筈だ。
それでも、避ける素振りはなかった。

俺との距離がゼロになる。

腹部にじんわりとしたものが広がっていく。
息が出来ない、痛い…俺、死ぬのか?

「神は貴方を許さない、貴方は多くの人の命を奪った」

「…ぅっ、ぐっ…」

「私も神ではない、人を殺める行為は貴方と変わらない……救われる命が一つでもあるなら、私は悪魔にもなれる」

俺は最後の力を振り絞り、抵抗するようにカノンに手を出そうとしていた。

その時、教会が眩い光に包まれた。

まるで神が降りてきたかのように神々しい光だった。
雷が落ちて、カノンの剣に力を与えた。

そのまま俺の身体は焼けていく。

カノンが俺を殺す覚悟が見えた。
聖職者なのに、悪魔になる覚悟は半端な気持ちではなれない。

最後に見たのは、カノンに駆け寄る女性がいた。
黒髪の綺麗な見知らぬ子、あの子がカノンの好きな人か。

俺は、この日で二度目の死を経験した。

カノンにこんな気持ちにさせた自分が許せない。
自分の嫌な気持ちも残っていて、ぐちゃぐちゃな感情になる。

フォルテは一人で、こんな気持ちを抱えていたんだ。

「これが君の未来だよ」

「……誰?」

真っ暗な意識の中、俺に声を掛ける人がいた。
腰まで長い薄い金髪の青年だ。
その人の周りだけ色がある、神々しいオーラをまとっていた。

俺を見下ろしていて、その声には聞き覚えがあった。
もしかして、ミッシェル?

声しか知らないから、半信半疑で恐る恐る聞いてみる。

俺の質問には答えない…それが答えのようだった。
相変わらず俺を無視するところも本人にそっくりだ。

俺の頭の中だから、手のひらを見ようにも俺の姿はないから見えない。
いつもの脳内にミッシェルの姿が追加されたようだ。

神様のように人間離れした美しい容姿だけど、怖くもあった。
いつもの明るい声とは掛け離れたような感情がない顔だからだろうか。
無言で俺を見つめて、その声は冷たく棘のあるものだった。

「君が信じていた友人は君が道を踏み外したら、ためらいなく君を殺す」

「俺は道を踏み外さない、ゲームとは違う結末に変わろうとしているんだ」

「変わらないよ、この世界はゲームと同じ結末を辿るようになっている、君が必死に変えようとしても世界が修正に入る…まだゲームは始まっていないからね」

「ゲームに抗う方法は、フォルテがどのルートでも手に入れる事が出来なかったもの」とミッシェルは呟いた。

俺が手に入らなかったもの…それが恋愛なのか。
裏切られたとはいえ、友人はいたから手に入れる事が出来なかったとは言えない。
偽りでも、友人なのは変わりない。

ミッシェルは「君を救う気持ちに偽りはないよ」と言っていた。

このままミッシェルがいなかったら、俺は本当に友人関係のまま殺されていたのかもしれない。
カノンがそんな事をする筈はないと、まだ少しそう思う気持ちは消えていない。

だけど、俺が見たカノンもそういう事をするカノンではなかった。

俺が世界の修正に負けて、悪役となった瞬間にカノンはきっとあの時のように俺を殺すだろう。

「もしかして、子供の頃…皆に嫌われたのも…」

「普通、嫌なものを見せても悪意がないならあそこまで嫌われると思う?」

「……おれ、は…」

ゲームが始まる前に、きっとまた悪役になる修正が始まる。
俺の知らないところで、俺が悪さをしている。
言葉は通じない、通じるのは行動だけだ。

あの時俺は、殺されて何を思ったんだろう。

この気持ちからして、憎しみのまま死んでいったんだ。
そんな結末嫌だ、死ぬなら人生の悔いがない死に方をしたい。

ミッシェルの姿がだんだん遠くなっていき、再び暗闇に包まれた。

最後に聞こえた言葉は、はっきりと脳内に焼き付いている。

「信じられるのは自分の行動だけ、世界がゲーム通りに進む道を用意するなら外れる勇気も必要だよ」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

私の事を調べないで!

さつき
BL
生徒会の副会長としての姿と 桜華の白龍としての姿をもつ 咲夜 バレないように過ごすが 転校生が来てから騒がしくなり みんなが私の事を調べだして… 表紙イラストは みそかさんの「みそかのメーカー2」で作成してお借りしています↓ https://picrew.me/image_maker/625951

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

処理中です...