最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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美しの天使

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部屋のドアを開けると、真っ白な廊下が続いていて後ろでドアを閉めた。
いろんな扉があり、一つ一つ開けるのは大変そうだ。
それに、勝手に開けてはいけない場所がある筈だ。

誰かに聞こう、名前はプロフィールに載っていたからスムーズに話せる。

いざ人に聞こうと思ったが、人が一人も歩いていない。
どうしよう、廊下を歩いていたら一人でもすれ違うかもしれない。

周りを見渡しながら、一歩一歩確認して足を止めた。
何処からか声が聞こえてきて、耳をすますと廊下の奥から声がして導かれるように向かって歩いた。

とある扉の前で足を止めて、扉に耳を付けていると歌声が聞こえた。

もしかしたら、彼である可能性もなくはない。

邪魔をしないようにゆっくりと扉を開けると、明るい日差しに目を細める。

やっと目が慣れてきて、改めて部屋を見ると息を飲んだ。

ステンドグラスの七色が部屋を照らして、幻想的な空間が広がっていた。
この部屋には一人しかいないが、他の人がいてもきっとこの人しか見えないんだろう。

小さなステージのような場所に、その人は立っていた。
スポットライトのように照らされて、透き通った声で歌う少年はまるで天使のようだった。
あまりの人間離れをした美しさに魅入ってしまった。

あれ?俺、何しにここに来たんだっけ…まぁいいか。

動かず、息をするのも忘れていたら少年と目が合った。

口を閉ざしてしまい、残念に思っていたら「入って来ても構いませんよ」と言ってくれた。

扉にしがみついている格好をしていたから、慌てて離れて部屋に入った。
手を軽く叩きながら、少年の近くに向かって歩き出した。

「凄く綺麗な声で、天使がいると思って…」

「そういうのはいいですから、何の用ですか?」

言われ慣れた言葉なのか、軽くあしらわれてしまった。

感情を見せず、少年は俺を不思議そうに見ていた。
さっき手当てしたから、少年にも俺にも用はないと思っているのは分かる。

俺には用がある、ちゃんと話を聞いてくれる人がいたんだ…伝えないと。

俺は少年に頭を下げて「酷い事をしてごめんなさい」と謝った。
彼も、俺が見せたおもちゃで驚いて怖い思いをした一人だ。

怖くなくても不快には思っていた筈だ。

償わないといけない、俺の精一杯で許してもらえるまで。

少年は小さくため息を吐いていて、ビクッと条件反射で身体が震える。
何を言われても仕方ないのは分かっているけど、傷付かないわけではない。

石を投げられた事は当然だと受け入れていても、心は怖がっていた。
俺の言葉は無意味で、痛みと罵倒が身体中に響いていた。

泣きたくても、泣く権利なんてないんだって言い聞かせて涙を流さないようにしていた。

どんなに心が壊れかけても、これが俺への罰なら受け入れる。
見るだけで嫌ならもう…俺は消えた方がいいのかもしれない。

いるだけで不快に思うのなら、俺は遠くの山に一人で住んでひっそりと暮らす。
いつか来る死亡フラグに怯える生活を送るだろうが、俺の道はそれしかない。

震える肩に触れられてびっくりしたが、顔が上げられない。

「何の謝罪ですか」

「俺が、気持ち悪いおもちゃで怖がらせたから」

「怖がらせようとしたんですか?」

「違っ…」

「貴方の顔を見ていれば分かりますよ、純粋に見てほしいという気持ちは伝わっていますから」

顔を上げると、そこにいた人を見て目を見開いた。

俺の気持ちに気付いてくれたとは思っていなかった。

俺をまっすぐと見つめるカノンの顔は、聖職者のように慈愛に満ちていた。
表情は変わらないけど、カノンからは神様のような神聖さがある。
自称、本物の神様と言うミッシェルとは何処か違う。

一人でも俺の気持ちが分かってくれるというのは、とても嬉しいものなんだな。

腕を引かれて、部屋を出て連れられた場所は赤子を抱いた聖母の像がある礼拝堂だった。
数人が椅子に座っていて、瞳を閉じて祈りを捧げていた。

俺もカノンと一緒に椅子に座った。

気持ちが落ち着いてきて、カノンが隣で他の人と同じように瞳を閉じて両手で握り祈りを捧げていた。

俺も見よう見まねで聖母の像に祈りを捧げる。
やった事がないから、これでいいのかは正直分からない。
でも、暖かな光が俺達を照らしていた。

最初に口を開いたのはカノンだった。

「人は目の前にあるものを最初に見るんです」

「目の前の?」

「悪意がない純粋な顔よりも、差し出されたものを見て皆は誤解されたのでしょう」

目蓋を開けてカノンの方を見ると、俺より先にカノンは俺を見つめていた。
最初に見たのが、おもちゃとはいえ蛇や虫だったら俺だって怖い。
カノンも最初に見たのはおもちゃの方だと言って「私も最初は驚きました」と言っていた。

でも、カノンはその後に俺の顔を見て分かってくれた。

カノンのような人ばかりではない、謝る事以外に許される方法はあるのかな。
逃げ出す事ばかり考えていた、もっと向き合わないと。

聖母様に祈れば、俺を正しい道に導いてくれるような気がする。

もう一度目蓋を閉じて、祈りを捧げてみる。

「俺は皆を怖がらせました、どうしたらいいのか分かりません…どうしたらいいんでしょうか」

「……」

「聖母様に、ちゃんと届くのかな」

隣にいるカノンに聞くと、静かに首を縦に振った。

カノンは聖母の像を見つめて「祈り続ければ必ず答えが見えてくる」と言って祈りを捧げた。

「ミッシェル、とある人のプロフィール出せる?」

『無理』

「なんで即答なんだよ」

『攻略キャラクターのプロフィールは、触れた相手のしか無理だから』

カノンに包帯交換で触れられた時の事を思い出して、落胆した。
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