最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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死亡フラグ回避は恋愛

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その名前は、俺が知っている神様の名前ではなかった。

そもそもゲーム内の神様はスピカの脳内に語りかけるキャラクターだ。
ゲームでは語られなかったフォルテの脳内にはこの人がいたのかもしれない。

だとしたら悪に導くのもこの人なんじゃないのか?

やっぱり信用出来ないと、手紙を机に置いてバッグを掴んだ。
俺は騙されないからな、絶対に悪役になんかならない。

ドアノブを掴んで、酷い耳鳴りがして気分が悪くなった。
手を離して、頭を抱えてドアの前でしゃがみ込む。
すぐにその気分も耳鳴りもなくなり、元に戻った。

「家出を引き止めているみたいだ、これも強制力?」

『君が話を聞かないからだよ』

脳内に何者かの声が響いて、周りを見渡してみても俺しかいない。
本当に幻聴じゃなくて俺の脳内に神様がいたのか?

ラスボスポジションとはいえ、俺は当て馬のようなものだ。
脳内に神様がいる重要なキャラクターじゃないのに、語りかける相手間違えた?

口には出さずにそう思っていたら神様のミッシェルは『自分をそんな過小評価しないで、君を救うために来たんだから』と言っていた。
やっぱりゲームの悪役でも裏設定が存在していたのか、知らなかった。
そんなに重要キャラクターなら、救いがあってもいいのにな。

俺を救うって、それは死なない方法を教えてくれるという事だろうか。
それ以外に考えられない、悪役になって世界を滅ぼしたら死なずに済むとかはやりたくない。

そんな野望はないし興味がない、それがあっても滅ぼす前に俺が死ぬ。
30攻略ルートをやった俺には分かる、フォルテは絶対にヘマして死ぬ。
行方不明とか、何処かで幸せに暮らしているかもしれないと思わせる事もない。

フォルテの味方になる相手がいたのに、なんでいつも死ぬんだろう。
もしかして俺、なにかに騙されてはいないだろうか。

とりあえず、神様の話を聞かないと何とも言えない。

「どんな方法か教えてくれませんか?」

『君を殺す全ての攻略キャラクターを君が攻略する事が生きる道だよ』

「……はい?」

『このゲームはハッピーエンド恋愛ゲーム、恋人を殺すキャラクターはいないからね』

何を言っているのか分からず、口を開けたまま考える。

ここが恋愛ゲームなのは知っている、後日談が描かれている続編もやっていた。
確かにフォルテがいない世界は幸せで溢れていたから、殺伐としたキャラクターはいなかった。
むしろ、フォルテのせいでいろいろと事件を起こしたりしている。

フォルテが消えれば平和になるのは分かる、悲しいけど。
でも俺が攻略するの意味が分からない、攻略って恋愛って意味だよな。
女の子の攻略キャラクターはいただろうか、それとも俺がスピカを攻略するという事?

そんな事したら、余計に攻略キャラクターに恨まれて死亡フラグが立ちまくる。

全然解決になっていない、やっぱり俺を悪役として散らせるために送られてきた刺客なのではないのか。

ミッシェルは俺の脳内にいるから、考えている事が筒抜けのようで呆れているようなため息が聞こえる。

『ゲームで君を殺す攻略キャラクターと恋愛すれば君の悩みは解決される』

新しい悩みを増やしそうな言い方で、解決出来るとも思えない。
そうだ、恋愛ゲームという事しか頭になかったから忘れていた。

ゲームには友情エンディングというものも存在しているんだ。

ゲームでは、スピカが誰も選ばずに皆と仲良くなるエンディングだ。
そのエンディングでも、フォルテが邪魔で殺されていた。

でも、不可能ではない…恋愛以外の道も残されている。

「……それって、友達になるだけでいいんじゃないですか?」

俺が知っている攻略キャラクターは確かに男だけだ。
でも、同性を惚れさせるなんてハードルが高すぎる。
ただでさえ悪役で嫌われているのに、俺にどうしろと?

可能性はたった一つだ、攻略キャラクターと友達大作戦でいればいいんだ。
無理な攻略より希望が見えてきた、嫌われていてもいつか和解できる日が来る事を願っている。

やる気になっている俺を嘲笑うかのように、ため息を吐いていた。

異性しか好きになった事がない俺と攻略キャラクターがどうやったら結ばれると思ってるのか。
いや、それだけじゃなく攻略キャラクター全員と恋愛?確かにゲームは同時に複数のルート攻略が出来て、プレイしていた時は楽に感じていた。

でもそれはスピカが主人公の場合だ、一人でも不可能な俺が同時攻略なんて絶対に無理だ。

まだ友達なら、出来る…友達を殺すキャラクターなんて…

『君、忘れたの?友人に裏切られて殺された事』

「……………あ」

ミッシェルに言われて忘れていた事を思い出した。

確かに攻略キャラクターの一人に、フォルテが全信頼を寄せていた親友がいた。
しかし、スピカと出会い…スピカを守るためにフォルテを裏切って殺した。

友達になっても、ヒロインの前では紙のように薄っぺらなんだとこの時思った。
フォルテがそこまで信用出来ない相手だからというのが大きいけど…

俺と友達になる攻略キャラクターは、皆こうなるって事なのか?
それほどまでに、死亡フラグは強いものという事か。

じゃあ攻略キャラクターとの恋愛ルートしか残されていない。

30人と恋愛…これは現実なのだろうか、遠回しに俺の死亡フラグは回避出来ないぞと言っているのか。
既に一人に憎悪を抱かれているのに、俺にどうしろと言うんだ。

コントローラーのボタンを押すだけのゲームとは違い、ここは現実で皆生きている。
嘘の愛の言葉なら、誰にでも言う事が出来る。
それで生き残る事が出来たとして、本当にそれでいいのか?

俺が人の気持ちを動かせるほどの魅力なんてあるとは思えないが、適当な言葉は相手に伝わって傷付けてしまう。

今から田舎に逃げ出したい気持ちをグッと堪えて、ベッドに向かって歩いた。
倒れるように横になって、天井をボーッと見つめる。

ミッシェルが攻略の手伝いをしてくれたら、ちょっとはやりやすいと考えていたら『キャラクターのプロフィールは教えてあげるよ』と脳内に響いた。
遠回しに、攻略の手伝いはしない…自分でやれと言っているようだった。

『じゃあ100人攻略頑張ってね!』

「ちょっと待て!何だよ100人って、30人だろ!」

俺が知ってる攻略キャラクターは30人だ、それでも多いと思っていた。
なんで桁が違う人数に増えているんだよ!やっぱり俺に無理難題を言っているだけなんじゃないか?

ミッシェルは『君はゲームしかしていなかったからね』と動揺する俺と正反対で冷静に言った。

『このゲームはアニメ化やコミカライズ化、映画やスマホゲーム化などいろいろやっていたから』

「それは知ってるけど、攻略キャラクターは変わらない筈だ」

『その度に10人ヒロインに恋する男が増えていき、最終的に100人になったんだよ…神様でさえびっくりな世界だよ』

そんなとんでもない数の男を惚れさせるヒロイン、実物を見てみたくなった。
ヒロインに近付いただけで即死亡ルートになりそうだから、自ら死亡フラグを立てる事はしない。

ミッシェルの話によると、ゲームの主人公はスピカだけど他は違うようだ。
アニメ映画スマホゲームとコミカライズはまた別の主人公で、三人の主人公がいる世界がここだ。

ミッシェルは俺を放り出すように「頑張ってね、応援してるよ!」と言った瞬間に声が聞こえなくなった。
せめてヒントだけでもお願いしても、全く反応しなくなった。

ゲームしか知らない俺が、半分以上誰かも分からないキャラクターを探す事から始めないといけない。

とりあえず俺も叫び疲れたし、寝ようかな…ちょっとくらい現実逃避させてくれ。
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