最強悪役令息が乙女ゲーで100人攻略目指します

ゆで大福

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転生先はバッドエンド

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美しい透き通った歌が聞こえる、子守唄のような心地よさだ。

この高い少女の綺麗な歌声を俺は聞いた事があった。

何処だっただろうか、最近?いや、もっと前に聞いた。

あれは何だっただろうか、確かあれはゲームをしていて…

何のゲーム、そうだ…30人の攻略キャラクターがいるゲーム。

思い出すと同時に、目蓋を開けて視界がクリアになっていく。
あの歌声は聞こえないけど、その代わりに小鳥の鳴き声が聞こえた。
気持ちよさそうに空を泳いでいて、俺もあんな風に飛びたいな。

昔の事は思い出せたけど、さっきまでの事が思い出せない。
なんで俺は、芝生に座って意識がボーッとしていたのだろうか。

変な気分だ、まるで幽霊が乗り移ったかのような突然さだ。

「フォルテ、お昼ごはんにしましょ」

「はーい」

何処からか、優しい母の声が聞こえて立ち上がった。

そこである程度記憶がスッと俺の中に入ってきた。

そうだ、俺の名前はフォルテ…ゲームに登場した悪役と名前が同じなんだ。

後ろを振り返ると立派な屋敷が見えて、服装も平民とは思えない肌触りのいい高級な服。

服に付いた草や土を両手で叩いて落とし、屋敷の中に入った。
俺の世話係を任されている年配の執事に着替えを受け取り、新しい服に変えた。

手も綺麗に執事に洗ってもらい、昼ごはんとは思えないほどの豪華な料理が並んだ席に着く。

黄金色に輝くスープを覗き込むと、自分の姿が映し出された。

ゲームのキャラクターの間抜け金持ちであるフォルテがそこにいた。
幼少期のフォルテの顔は分からないが、面影がある。
子供がそのまま成長したような顔をしているからすぐに分かる。

今思えば、幼少期の頃に攻略キャラクターらしき人物と会っていた記憶がある。
今では超絶不仲になっているから会ってない、ゲームでもあったエピソードだ。

フィクションのような話だが、これは現実で起こった事だ。

絶対になりたくないと思っていたキャラクターに転生するとは思わなかった、しかも途中転生のようなものだ。
今までの俺は、フォルテであって俺ではないようなややこしい転生をしてしまった。

どんなに願っても、人生がリセットする事は出来ない。
ゲームに似ている世界でも、ゲームのようにはいかない。

俺は生前ネット配信者だったが、ある嵐の日…仕事帰りに事故に遭った。

あの時の事は思い出したくない、自分が死んだ日がトラウマになるのは当然だ。

本当に前世をはっきりと覚えて転生するんだと、感心する。
でも、これで自分が今やるべき事も同時に気付いた。

一言も喋らない食器も一切音を立てない静かすぎる食事を終えて、部屋に戻った。

よくいる悪役転生は、頑張って運命に抗って最悪な結末を回避して主役へと昇格する。
でも、このゲームの主役は女の子…男であるフォルテが主役になる事はない。

フォルテというキャラクターは、攻略キャラクター全員に嫌われている。
実際に幼少期のやらかしで既に憎悪を抱くレベルの攻略キャラクターがいる。
俺が今現在進行形で嫌われたのはゲームの強制力なのかもしれない。

そうなると、このままここにいたらどうなるか…最悪な結末になる。
俺が悪役フォルテ?そんなものは知らない、魔法使いにもなりたくない、ゲームのキャラクターとも関わりたくない。

そんな俺が導き出した答えは、今すぐにでもこの国を出て誰もいない田舎に行こう!
そして好きになった人と家族を築いてほのぼのと暮らすんだ!

8歳である俺は、自分の身体と同じくらい大きなバッグをクローゼットから取り出して服を片っ端から掴んで詰め込む。
両親は優しい人だ、俺も両親が大好きで申し訳ない気持ちがある。
でも、この家には俺だけではなく悪役の親玉のような人達がいる。

俺より悪どい事をして、俺が悪魔族に弟子入りしたのをいい事に自分達の罪をなすりつけた祖父母。
あの人達がいる家にずっといたら、悪に染まるのも時間の問題だ。

そうなる前に、俺は家出をする…探さないで下さい。

服やいろいろ詰めたせいで、バッグが重くて持ち上がらない。

引きずるようにしてドアまで運んでいると、突然ドアが開いた。

びっくりして危うく悪役転生人生が終わるところだった。
いくらフォルテが凄く嫌でも、当然死にたくはない。

心臓部分に手で撫でて、目の前にいる執事を見つめる。
家出の事で頭がいっぱいで、ドアをノックした音が聞こえていなかった。

執事はなにが起きたのか分からないまま、俺に手紙を渡してドアを閉めた。

執事に渡された手紙を見つめて、俺宛てなんて珍しい。
手紙を見てから家出しても遅くはない、ずっと気になりながら家出しても集中出来ない。

宛名がなく、封筒を開けて中の紙を開くと一瞬動きが止まった。

何故こんな手紙が来るのか、心当たりがありすぎる。
前世を思い出す前の俺は何も考えていないバカだった。
いじめっ子でいつも近所の男の子をいじめていた記憶がある。

まさかその子?だとしたら、なんで今家出しようとしている俺の気持ちが分かるんだろうか。
超能力者?ゲームではそんな話はなかった気がする。

手紙には『何処に行っても死は必ず追いかけてくる』と書いてあった。

イタズラだと思いたい、ただの手紙だし…俺のようにゲームを知っている人がいるのかな。
もう一度紙を見ると、文字が一瞬で変わってびっくりした。

『ゲームの強制力は、何処の世界に居ても逃れる事は出来ない』

「ゲームって、ゲームを知っている?」

『神様だから、何でも知っている』

「会話してる!?」

俺の独り言に合わせて文字が消えて、新しい文字が浮かび上がってくる。
神様だからこんな魔法のような事が出来るのか?

神様、そういえばゲームでもいたな…確か主人公のスピカの脳内に語りかけていて導いていた。
ちょっと口が悪い不良のようなキャラクターで、確か攻略のおまけでストーリーがある一応攻略キャラクターだった。

神様はおまけキャラだったから、フォルテとは何の関わりもない。
でも簡単に信じていいのだろうか、神様自身がゲームの世界の強制力なのかもしれない。

とりあえず俺が知っている神様かどうか、まず名前を聞く事にした。

「名前はなんて言うんですか?」

『ミッシェル』
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