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最終章

元の世界に戻ったようです4

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家に着いてからの翔は、さっきまでとは人が変わったように私の横で手伝いをするようになった。

お昼は翔が昔から好きだったオムライスにしようと思って、お米はもう炊いてある。
具材を切ろうとしたら、「俺もやる」とかいって手伝ってくるし。

手付きはぎこちないけれど一緒に作ったオムライスは今までで一番美味しくて、二人して昔話しながら食べていた。


食器も洗い終わって、ぼーっとソファに座る翔の前に淹れたばかりのお茶をおく。

私はその正面。


「なんで、、、こんなことになったんだろうってあの日からずっと考えてた」

翔は絞り出すような声で話始めた。



「あの彼女と話してる時は本当に楽しかった。舞とは昔みたいに話さなくなったし、彼女の話が全部新鮮に思えたから、、、。それに義務感で一緒にいるんじゃないかって言われて、それなら舞とは離れた方がいいって思った」


「、、、うん」


「だから彼女を選んだのに、舞はその後に行方不明になったって1週間後に知ったんだ!!その間誰も俺に教えてくれなかった!!いくら俺が引きこもってて、舞じゃない彼女を選んだとしても人を心配する気持ちくらいあるのに!!
 それにゲームにログインしなくなってから、彼女から連絡がきた。告白の返事が知りたいって。俺は舞が行方不明になってるから落ち着いたら話したいって言ってるのに、幼なじみと私どっちが大切なの?ってしつこく聞かれて目が覚めた。
俺にとって大切なのは舞だって。だから彼女とは何もない。舞が行方不明になった理由は分からないし、もう俺の事なんとも思ってないけどやっぱり側にいて欲しいのは舞なんだ」

翔は真っ直ぐ、揺らぐ事なく私を見た。

ずるいよ。

そんなこと言われたらちょっと揺らぐじゃん。

「舞、俺今日舞に会うまで生きた心地がしなくて結局ニート拗らせたけど、舞がいてくれたらまた変わろうと思えるんだ。だから、、、」

 「翔、、、」

さっきまで正面の座っていた翔はいつの間にか私の横に来ていて、気が付いたらぎゅっと抱き締められていた。

香水じゃない、男の人の匂い。

ヴェルサス様でもヴァレン様とも違う。

違和感はない。

10年目にしてやっと近づいた距離。


私がじっと翔の目を見てると、翔も目をあわせてくれる。
やっぱり翔の側でこのまま一緒にいるのが幸せなのかな。
なんて思っていたら、どんどん翔の顔が近づいてくる。

あ、これって、、、キスされる、、、




「だっ、駄目!!」


慌てて翔を押し離す。
危ない!!流されるところだった。


「翔ごめん。
私が何もかもやり過ぎてたからいけなかったんだね。私も翔もお互い居心地が良すぎて依存してたんだよ。でもね、翔みたいに新しいことを知るとそっちに行きたくなるのは私も一緒。
私の中の翔への思いは、あの日にもう終わってて今は新しい所へ行きたいの。
だから翔も、もっと新しい世界を知って欲しい」

私は翔の目を見ながら翔の腕を強く握りしめる。


「俺は舞がいてくれればそれでいい。それ以外何も求めない!離れてからやっと気付けたんだ」

「違うよ翔!!もっと私以外の世界を見て!!今までの私は全部翔にとって都合がよかったからそう思うだけ!!世の中甘くない。だけどそれが当たり前なの。私が翔が誰からも傷付けられないように守ってただけなの!!でも私は



誰かから守られたい、、、」


翔を説得しようと思っていたのに、段々と気持ちが昂ってきていたせいか、ついに本音がぽろっと出てしまった。


異世界に行って知ってしまった「守られる」という居心地の良さ。

こっちの世界では、常に孤独でいつも「何か」と戦わなきゃいけなくて誰もが疲弊している。

私はそんな中で翔という存在にある意味助けられていて、翔のお世話をすることでその世界を一時的に忘れて、自分が翔を守ってあげているという優越感に浸っていた。


ただの自己満足でしかない。

だから翔は余計に居心地のいい方へ逃げてしまう。

でも本当はお姫様みたいに、ピンチの時には誰かに守ってもらいたかった。

だから本当は翔の引き籠りを治して 、外から私を守ってもいたかった。

「舞、、、俺じゃ舞を守れないのか?」

「言ったでしょ、翔への思いはあの日に終わったって、、、。今私が望むのは翔に守られるよりも、もっと私意外の世界を見て欲しいの」

「もう、俺が何を言っても無駄なのか?」

「ごめん。翔のお陰で私もこの数ヶ月で新しい世界を知ったから、、、」

「好きな人が出来たのか?」

「うーん。好き、というよりもっと知りたいかな?」


私が居たい場所。

それはあの二人がいる世界。

まだ行ったばかりだから、もっといろんな事を知りたい。

もっと二人の事を知りたい。

それが戻ってきた世界で感じた事。


「綺麗になったからまさかとは思ってたけど、、、」

「私綺麗になった?」

「少なくもここに来てた時よりは」


手抜きしてたのちょっとバレたかも。


「もう俺なんか頭の中にないんだな。俺は舞を綺麗にすることなんか出来なかったし、ごたごた色々言って悪かった。でも舞が大切であることは俺の中では変わらない事だから、それだけはわかって欲しい」


「ありがとう翔、、、」


もっと早く本音で話していれば、こんなことにならなかったのかな。

でも、逆にこうなったから異世界に行けたのかも。


何とか翔と和解(?)して、私達はお世話抜きの幼なじみに戻った。

やり残したことはもう何もない。



後は二人がいるあの世界に戻るだけ。
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