幼馴染が蒼空(そら)の王となるその日まで、わたしは風の姫になりました ~風の言の葉~

碧桜

文字の大きさ
上 下
21 / 35

山賊

しおりを挟む
都からの帰り道、翠蘭と羅李が山道に差し掛かる頃には、陽も少し傾きかかっていたが、日が暮れる前には家につくことが出来るだろう。
山道に入って少し過ぎた頃、翠蘭は羅李のすぐ横に並び寄り添うようにしながら、こっそりと小さな声で彼に言う。
「羅李、気づいてる?」
「ああ。ざっと七、八人ってところか」
「いけるかしら」
「問題ない」

少し開けた所に差し掛かったとき、翠蘭が躓くフリをした。
「あっ、痛ぁい」
下手な芝居だと羅李が思ったそのとき、翠蘭がしゃがみ込んだのを合図かのように、周りの木々や茂みからワラワラと下品な笑いを浮かべた髭面の男たちが八人飛び出してきた。

翠蘭はしゃがんだまま様子を伺う。
「よお、美人じゃねえか。そこの笠の兄ちゃん、悪いこたぁ言わねぇ、死にたくなきゃその姉ちゃんと金あるだけ置いて去りな」
一番がたいのいい男が、大きな太刀をこれ見よがしにちらつかせながら言ってきた。
「姉ちゃん……」
羅李が小さい声でボソっと呟く。翠蘭を姉ちゃん呼ばわりしたことに、すでにカチンときた。羅李のそんな様子を下から伺っていた翠蘭はヤバいと髭面の男のほうを同情する。

「よう、聞こえなかったのか?まあ、兄ちゃんも剣を持ってるってことはよぉ、少しはやるってことか」
「お頭、よく見ればこの男もなかなかの顔ですぜ」
「おう、男にしておくには勿体ねえな。金持ちの女の道楽に愛玩として売れるか。兄ちゃん悪いな、予定変更だ」
男が下品に舌を出し唇を舐める。
「忠告はしたからな。こっちは八人、そっちは兄ちゃん一人だが、悪く思うな。お前ら、やってしまえ」
「うおぉぉぉ!」
なんて絵に書いたような陳腐な追い剥ぎなんだ。羅李は溜息をついた。

「誰が一人だって!?こっちは私もいるのを忘れないでくれる!?」
鋭く言って、翠蘭はしゃがんだ体制で衣の中から太腿に下げていた短剣を抜きくと、そのまま振り向きざまに自分に迫って来た男たちに振るった。
「なんだ、この女!道具を使うのかっ」

頼むからこのお転婆は黙っておとなしく守られていてくれないかな。
羅李は心の中で愚痴を零しながらも、今から起ころうとしている対戦に備えて武術で対応すべく身構えた。
彼は腰に下げた剣は抜かず、手刀と蹴りで相手を次々に打っていく。無駄な殺生はなるべくしないということで、一般人に剣を使うことは翠蘭に控えさせられている。山賊とはいえこの程度の雑魚であれば、ど素人にすぎない。
ということで、面倒だが剣は抜かずにやっている。

二人、三人と戦闘不能になっていくなかで、相手の男たちにも焦りが出てきた。
焦りでやけくそになった男たちが、あたりかまわず太刀をめちゃくちゃに振り回す。太刀を避けたはずみで、翠蘭が小石を踏んづけて足を滑らせ尻もちをついた。その瞬間、一人の男が翠蘭の上に馬乗りになった。いや、乗ろうとしたが、次の瞬間、羅李にはるか向こうまで回し蹴りで飛ばされていた。

羅李は黙って翠蘭の手を引き寄せ、起こしてやる。
「ありがと」
彼は黙ってシュンと静かに剣を抜くと、蹴り飛ばした男の方を向いて木にぶつかり座り込んでいる男を剣で指し示した。
「許さない」
そう言うと羅李はすごい速さで周囲に剣を振るい、瞬く間に目的の男の間合いに入った。座り込んだまま防御しようとした男の太刀を弾き飛ばし、急所の首をめがけて剣を振り下ろす。
「羅李!」
翠蘭の鋭い制止の声で、首の革まで一ミリというところで、羅李はぴたっと剣先を止めた。
「羅李、ダメよ」
羅李は冷ややかに男を見下ろしている。
男は静かに怒りを表す彼の青いに震え上がった。
目深に被っていた笠が少しずり落ち邪魔になったので、羅李があご紐を解き笠を取った。
すると、男たちが一斉に息をのむのが分かった。
「金の、髪!?」
「おい、宮廷の軍には金の髪の凄腕の剣士がいるって聞いたことがある」
「俺は青い目だとも聞いた」
男たちが口々に騒ぎ出す。

羅李がフンと鼻を鳴らし、頭と呼ばれた髭面の大男を冷ややかに見据える。
「そうだな、拝めたことを有難く思え」
「お、おい。ヤバいぞ、かなうわけねえ」
「それから、もう一つ。軍ではない」
「は?」
「所属は軍ではないと言っている。第一皇女専属の護衛剣士だ。間違えるな」
「は、はいぃぃぃ!!」
山賊と襲われる者、立場がすっかり逆転している。山賊たちは気絶している仲間を担ぎ上げ、すみませんでした!と転びそうになりながらも走って逃げて行った。

「姫様、大丈夫か」
いきなりここで姫様呼びって、ずるいなあ~て思ってしまう。つい苦笑した翠蘭に羅李は首を傾げる。
「?」
「ううん。山賊よりあんたのほうがよっぽど質が悪いって」

翠蘭の髪の先に葉がついている。さっき尻もちついたときのものだろう。
羅李が壊れ物を扱うかのように、左手でそっと髪を掬いあげ、小さな葉を摘んで取ってやる。
「ありがとう」
羅李は口は悪いが、基本的に根は優しいのだと思う。
「さて、そろそろ行かないと。日がくれてしまうわね」
「ああ」
さきほど対戦のため一時的に置いた荷物を再び拾い直すと、二人は何事もなかったかのように家路についた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

皇帝は虐げられた身代わり妃の瞳に溺れる

えくれあ
恋愛
丞相の娘として生まれながら、蔡 重華は生まれ持った髪の色によりそれを認められず使用人のような扱いを受けて育った。 一方、母違いの妹である蔡 鈴麗は父親の愛情を一身に受け、何不自由なく育った。そんな鈴麗は、破格の待遇での皇帝への輿入れが決まる。 しかし、わがまま放題で育った鈴麗は輿入れ当日、後先を考えることなく逃げ出してしまった。困った父は、こんな時だけ重華を娘扱いし、鈴麗が見つかるまで身代わりを務めるように命じる。 皇帝である李 晧月は、後宮の妃嬪たちに全く興味を示さないことで有名だ。きっと重華にも興味は示さず、身代わりだと気づかれることなくやり過ごせると思っていたのだが……

職業、種付けおじさん

gulu
キャラ文芸
遺伝子治療や改造が当たり前になった世界。 誰もが整った外見となり、病気に少しだけ強く体も丈夫になった。 だがそんな世界の裏側には、遺伝子改造によって誕生した怪物が存在していた。 人権もなく、悪人を法の外から裁く種付けおじさんである。 明日の命すら保障されない彼らは、それでもこの世界で懸命に生きている。 ※小説家になろう、カクヨムでも連載中

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます

ジャン・幸田
キャラ文芸
 アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!  そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
※毎日18時更新予定です。 架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

ニンジャマスター・ダイヤ

竹井ゴールド
キャラ文芸
 沖縄県の手塚島で育った母子家庭の手塚大也は実母の死によって、東京の遠縁の大鳥家に引き取られる事となった。  大鳥家は大鳥コンツェルンの創業一族で、裏では日本を陰から守る政府機関・大鳥忍軍を率いる忍者一族だった。  沖縄県の手塚島で忍者の修行をして育った大也は東京に出て、忍者の争いに否応なく巻き込まれるのだった。

薬膳茶寮・花橘のあやかし

秋澤えで
キャラ文芸
 「……ようこそ、薬膳茶寮・花橘へ。一時の休息と療養を提供しよう」  記憶を失い、夜の街を彷徨っていた女子高生咲良紅於。そんな彼女が黒いバイクの女性に拾われ連れてこられたのは、人や妖、果ては神がやってくる不思議な茶店だった。  薬膳茶寮花橘の世捨て人風の店主、送り狼の元OL、何百年と家を渡り歩く座敷童子。神に狸に怪物に次々と訪れる人外の客たち。  記憶喪失になった高校生、紅於が、薬膳茶寮で住み込みで働きながら、人や妖たちと交わり記憶を取り戻すまでの物語。 ************************* 既に完結しているため順次投稿していきます。

Comet has passed

縹船シジマニア
キャラ文芸
かつて、ここ橋武から南西に約50キロメートル離れたところに、中羽という妖と人が共存した集落があった……。 あの日までは……。 「速報です。集落に彗星が落ちました。今日午後十一時過ぎ、浦山県鴨雪市中羽にタメヌニアン彗星が落ちました。死者百数十名、妖怪学の権威、湧石一樹博士が含まれて……」 あれから、八年。 これは少女達の日常、よく遊び、時に争い、たまに敵に立ち向かう。 やがて、それは彗星の謎へと繋がる。 少女達と彗星の軌跡を、歩め! カクヨムで既に連載していて、小説家になろうでは11月中旬頃連載を開始します。

処理中です...