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第16話 今日から私メイドになります!②

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タリアンさんは、そんな私たちの挨拶が終わるのを待って、ポケットから銀の懐中時計を出し時間を確認すると、パチンと音を立てて蓋を閉めた。

「さてミツキ。お前は仕事が好きだと愚弟ぐていから聞いている」
「はい?」

タリアンさんの言葉に色々と疑問が……
仕事が好き、とは語弊ごへいがあるけれど、それよりも。

「愚弟?」
「……ルーセル・オライオン・ベシエール」
タリアンさんは眉間にしわを寄せて、嫌そうに言った。

ええ、えええ~っ!?
「ルーセルの、お兄さん!?」
確かに言われてみれば、紫がかった黒髪と濃い紫の瞳がルーセルの紫と結びつく。

あのチャラそうなかたまりのルーセルと、まじめそうなタリアンさん。
雰囲気は全然違うけど。

「あいつとは異母兄弟だ」
「あぁ、確かに似ていらっしゃいますね」
言ってしまってから、しまった!と思った。
タリアンさんの綺麗な片眉がピクッと跳ねて、銀縁の眼鏡の奥で目が冷ややかにギロリと光ったようにみえた。

うわぁぁぁぁ~。あとの祭りだ……。
って言ったのに。
案の定、タリアンさんは、
「はあ!?どこかだ!お前の目は飾りか!?あの生まれてきたような男に、この俺と少しでも同じ血が流れているとはだろう!?女と見ればすぐに口説いて回る、万年発情期のあいつだぞっ。どこをどう見ても、だろうっ!?お前、今度目の医者を紹介してやる!」

そう、怒涛どとうの勢いで一気に言い切った。

……やっぱり、二人似てる気がする。

タリアンさんは綺麗な顔をしかめて、心底嫌そうな顔をしている。
、と。

タリアンさんの地雷がわかったところで、私たちは城の中を掃除をするよう言われた。

そう言えば、私が仕事好き…て、ルーセルがタリアンさんに言ったみたいだけど、違います!て訂正するの忘れた。
仕事したいって言ったのを、仕事好きと思われたのかも知れないけど。 
それは、居候いそうろうなのにタダ飯と、聖女様召喚失敗に責任を感じてのことなので、決して私は仕事が好きというわけではなく。
どちらかと言えば、仕事のない休みの日なんかは、家から一歩も出ず、漫画や小説を読むか書くか、溜まった深夜アニメを見るか、ごろごろゲームしていたい。
アニメや興味のあるイベントには出かけていくけど、友達とBQQや合コンなどは苦手だ。って、まずしたことがない。

やっぱり私は、華やかなOLやキャリアウーマンとは真逆の人間だと思うから、今度、訂正しておこう。

城内の掃除は広いので、それぞれが担当を分けてする。
私とエリザはまず図書室の掃除担当になった。
図書室は吹き抜けの2階建てになっていて、壁一面本棚となっている。
大きな窓からは、柔らかな陽の光が差し込んでいて、とても穏やかで優しい空間だ。
なんて素敵な場所なんだろう。一日中、過ごしてみたい。

はたきを持ってパタパタ掃除をていると、いつの間にか、どこからか妖精が二匹現れて、背中の透明の羽をキラキラさせながら、はたきの周りを楽しそうに飛び始めた。

それぞれレモン色とオレンジ色のワンピースを着た女の子の妖精たち。

はたきに合わせて、自分もはたきを持っているフリをして、パタパタはたく格好をしては、手を口に当ててクスクス笑ったり、楽しそうにじゃれている。

微笑ましくて、思わずこっちも楽しくなる。
はたきで綺麗にしたところから光の粉が舞い、窓から射し込む陽射しにキラキラと反射して綺麗だった。

こっちの世界に来て、妖精が以前より見えるようになってきた。
この世界の住人は、みな当たり前のように見えているのだろうか。
魔法使いがいたり、何か能力を持ってたりするくらいだもんね。ふと訊いてみたくなった。

「ねえ、エリザ。この国の人はみんな、妖精が見えたりするの?」
「え?ミツキ見えるの!?」
エリザは、はたきの手を止めて、私を振り返った。
「う…、ううん?ちょっと見えたような気がしただけ」
だいぶ、控えめに言ってみる。

「えー!見えるのなんて、凄いよぉ!」
彼女の顔には、気味悪がったり怪訝けげんそうなものは一切なく、本当に心から凄い!って言ってくれているようだ。
「見えるのって、変じゃないの?」
おそるおそる訊いてみる。
「まさか!妖精が見えるなんて凄いことだよ!」
「そう、なんだ」

妖精のいない遠い国から来た、という私のためにエリザが教えてくれたのだけど、まず、この国には、妖精は普通にいろいろな場所にいること。そして、妖精は悪戯いたずらもするけど、力になって助けてくれたりもする、ありがたい存在でもあるらしい。

でも、妖精が見えるのは魔法使いだったり、何か強い力を持ってたりする人で、誰でもみんなが見えるというわけではないから、この国では、見えるということは凄いし、良いことなんだということを教えてくれた。

私は別に何か力を持ってるわけではないけれど、きっとえてしまう、という体質なんだろう。

「ミツキ見えるって凄いよ」
「あの、見えるって言っても、ごくたまに?まれに?いつも見たくて見れるわけじゃないから、ほとんど見えないし、役に立たないよ」
「そっかぁ」

エリザはちょっと残念そうに言った。
子供の頃は気味悪がられたのに、世界が違うとこんなに変わるなんて不思議。

でも、私には何か力があるわけでもないし、ほとんど見えないことにしておくことにした。

妖精たちは、あいかわらすクスクスと笑いながら、私たちのはたきに合わせて、楽しそうにダンスを踊っていた。
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