料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ

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 アキレウス様の屋敷に用意された部屋は、広くて、率直に言えば豪華としか言いようがなかった。
 わたしが伴侶になると決まった時点で、部屋を用意していたそうだ。

「必要なものがあれば言ってくれ。すぐに用意しよう」
「ありがとうございます」

 と言ってみたものの、これ以上何が必要になるのかもわからない。
 成り行きのように、婚約者になってしまった……という気持ちがまだ心の中で消化できてはいない。
 また胃がちくちくとした。昼食後の痛みよりも、少し強く感じた。片手で痛むところをさすると、アキレウス様にも気がつかれてしまう。

「……どうかしたのか?」
「少し、胃が痛くなったんです」
「いつからだ?」
「昼食のあたりからで……でも、ちょっと休めば治りますから」

 心配いらないと思ったけど、アキレウス様は即座に人を呼んだ。
 ローダンテと名乗るメイドが、この屋敷でわたしのお世話をしてくれる人だ。私と同い年くらいの女性で、朗らかな雰囲気をしている。

 ローダンテに着替えを手伝ってもらい、わたしはベッドで休むことになった。アキレウス様の指示で。
 水分を摂ると痛みは薄れたような気がした。

 少し寝入った後、痛みはまだあった。
 寝る姿勢を変えようとすると、ズキンとする。喉が渇いたので、水分を摂りたいと思った瞬間にまたズキズキする。
 今までにない痛みで、その後は体を動かすことも怖くてじっとしているしかなかった。

 結局、夕食も食べる気持ちになれず、ローダンテを通してアキレウス様に伝えてもらった。
 その後、医師と看護師がやってきて、診察をしてもらう。ただの胃痛で、大きな病気はないと診断される。胃に優しい食事をすることと、胃痛を緩和するというハーブティをいただいた。
 食事というか、食べ物のことを考えると胃がズキズキするので、ハーブティをちびちびと飲み、横になる。食べたいものがあればいいのだけど、まったく考えられなかった。
 仕事をしていてストレスで胃が不快になることはあっても、これほどの痛みを感じた事はなかった。
 安静に……安静に……。心の中で呟きながら、目を閉じた。

 ◇

 翌日も、体の状態は変わらなかった。
 まったく食事ができないことよりも、早く痛みがなくなってほしいという願いしかなかった。

 その翌日、グラファリウム様からお見舞いが届いたと、アキレウス様がやってきた。

「先日もお見舞いいただいたばかりなのに、何度も申し訳ないです」
「気にするな。あいつは心配するのが仕事だからな」

 アキレウス様が笑う。

「胃の痛みだと伝えたら、ケントを寄越したんだ。胃に良い料理があるそうだ。食べられそうか?」
「……えっと、ちょっとわからないです」
「だろうな。とりあえず料理させている。少し待っていてくれ」

 わたしがうなずくと、アキレウス様は部屋を出て行った。
 しばらくして、ドアをノックする音がしてローダンテが食事を持ってきた。

「こちらがお見舞いの品だそうです。おかゆと言えばわかるだろうとのことでした」

 陶器のスープ皿に盛られている白くてふわふわしたものは、わたしの知っているおかゆに近かった。よくよく見てみると、米粒にしては茶色い線がある粒で、匂いもお米っぽくはない。
 胃は相変わらず痛いのだけど、これが本当におかゆなのかどうか興味のほうが勝つ。この世界でお米があるなんて知らなかった。ケントさん……いやグラファリウム様がどこかで手に入れたのだろうか。

 スプーンで上澄みをすくう。
 白いとろみのある汁を口に含んだ。

「……ん?」

 少し香ばしい気がする。味付けはしていないようで、ほんのり甘い味はこの食材のものなのだろうか。
 飲み込む時に、ちりちりと胃が痛くなった。

 粒をちょっとだけすくって、食べてみる。
 形状的に煮込んだもののようだけど、粒には弾力が残っていた。

 痛い、けど食べたい。痛い、でももうちょっとだけ食べたい。
 食欲と痛みの戦いがありつつも、結局おかゆを全部食べ切った。

「あの、これを作った人に……ケントさんに、食材と作り方を聞いてくれませんか?」
「かしこまりました。その間にハーブティを飲んで、お待ちくださいませ」

 ローダンテがお茶を淹れてくれ、スープ皿を下げてくれた。
 彼女が戻ってきて、ケントさんが書いてくれた作り方のメモを受け取る。メモに食材が書いてあり、「大麦に似た穀物。米じゃなくてごめん」と書いてあった。米だったら確かに嬉しかったなあと思いながらも、彼も同じ故郷の人で、病気の時におかゆを食べていたからきっと作ってくれたのだろうと嬉しくなった。

「ローダンテ、ありがとう。食べたら少し眠くなってました。休んでもいいですか?」
「もちろんですよ。何かあればお呼びください」

 ローダンテはティーカップを下げて、ベッドの横に呼び鈴を置いた。
 彼女の部屋が隣にあり、鈴を鳴らすと来てくれるのだそう。

 その日は、数日ぶりに熟睡することができた。
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