料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ

文字の大きさ
上 下
21 / 28

21.

しおりを挟む
 騎士団の宿舎へ戻った直後、リアトリウス様がアキレウス様を待っていた。
 緊急の用事だろうかと思っていたけれど、夕食時には帰られたそうだった。

 食堂に、騎士団のみなさんが揃う。
 ここでの食事は、決まったメニューを毎日提供している。
 盛り付けまで終わったものを、各自が受け取ってテーブルへと持っていく。食べ終わったものはテーブルに置いたままで、後でわたしたちが片付けることになっている。

 騎士団のみなさんが食事をしている間は、わたしたちはキッチンで次の仕込みをしたり、雑務をこなしている。騎士団のみなさんの片付けが終わった後、賄いを作るのだ。
 賄いといっても、こちらにも食費を充てられている。今日は鶏肉のトマト煮込みと、固めのパン。手でちぎったパンをを浸して食べると美味しい。

「シズク、うまいか?」

 パクパクと食べていると、恰幅の良い男性が声をかけてきた。
 今日の賄い料理を担当したバードックだ。彼も、他の料理係も、年齢にとらわれずに敬称を外して呼んでいる。なので、わたしも同様に呼び捨てをしてもらっていた。

「うん、美味しいよ」
「そっか、良かった。おかわりもあるが、どうだ?」
「ありがとう。これひとつでおなかいっぱいだから大丈夫。バードックは、それで足りるの?」

 賄いは全員が同じ量を配られている。
 バードックの見た目はクマのように大きくて、わたしと同じ量だなんてきっとおなかが空いてしまうだろうと思ったのだ。

「足りるようになっちまったからな」

 と言ってガハガハと笑った。
 食べることも、作ることも好きで、天職だといつも言っている。
 わたしと同じように、ここには料理が好きで、仕事にしている人が多かった。「騎士団もキッチンも、男性ばかりだから」とアキレウス様が話していたけれど、今のところその境目は感じることはなかった。

 食事が終わり、各自が片づけを終えて、部屋へと戻ろうとしていた時だ。

「シズク、騎士団長がお呼びだ」

 料理長に呼び止められる。
 騎士団長のアキレウス様に呼ばれる時はたいてい、ハナコさんの元へ行く時だ。今日行ったばかりなのに、何かあったのだろうか?
 食べたい料理があるという話だったら、どんな料理なんだろうかと考えながら、騎士団長の部屋へと向かう。ひとりで勝手に寮内を歩いてはいけなくて、騎士が同行する。
 寮の奥のほうに、騎士団長の部屋がある。騎士がドアをノックして到着を告げて、それからわたしが入室する。

「ああ、遅くにすまない」

 書類に向けていた視線を、わたしへと変えた。
 
「大丈夫です」
「リアトリウス様が来ていたことは知っているな。その件で、相談したいことがある」

 そう言って、アキレウス様は騎士ふたりに、外へ出るよう言った。

「そんなに大事な話なんですか?」
「ああ」

 ハナコさんの話であれば仕事のうちでもあり、人払いをすることはなかった。
 アキレウス様は、本当に困った様子で、小さく息を吐いた。

「君を、俺の伴侶として同行させてくれないかと、頼まれたのだ」
「伴侶、ですか?」
「ああ」

 返事をしたアキレウス様は、とても困った様子で眉間に皺を寄せている。

「あの、それはどういった理由でしょうか」
「もちろん、聖女だ。このひと月で、聖女が心を許し、なおかつ体調も上向いてきた。結婚式は貴族しか参加できないが、俺の伴侶という形を取れば参加できる」

 ただし、参加するためには、わたしは貴族の所作やマナーやあれこれを学ばなければいけない。
 この世界の慣習自体はだいたい覚えたけれど、貴族の所作となればまだまだ勉強不足だ。

「式まではまだ日にちがある」
「はい」
「ドレスなどもこちらで用意しよう」
「はい……」
「作法を学ぶ時間も、勤務とみなす」
「はい……」

 決定事項として、アキレウス様から今後の予定を告げられて、ただただ返事をした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

料理屋「○」~異世界に飛ばされたけど美味しい物を食べる事に妥協できませんでした~

斬原和菓子
ファンタジー
ここは異世界の中都市にある料理屋。日々の疲れを癒すべく店に来るお客様は様々な問題に悩まされている 酒と食事に癒される人々をさらに幸せにするべく奮闘するマスターの異世界食事情冒険譚

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...