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騎士団の宿舎へ戻った直後、リアトリウス様がアキレウス様を待っていた。
緊急の用事だろうかと思っていたけれど、夕食時には帰られたそうだった。
食堂に、騎士団のみなさんが揃う。
ここでの食事は、決まったメニューを毎日提供している。
盛り付けまで終わったものを、各自が受け取ってテーブルへと持っていく。食べ終わったものはテーブルに置いたままで、後でわたしたちが片付けることになっている。
騎士団のみなさんが食事をしている間は、わたしたちはキッチンで次の仕込みをしたり、雑務をこなしている。騎士団のみなさんの片付けが終わった後、賄いを作るのだ。
賄いといっても、こちらにも食費を充てられている。今日は鶏肉のトマト煮込みと、固めのパン。手でちぎったパンをを浸して食べると美味しい。
「シズク、うまいか?」
パクパクと食べていると、恰幅の良い男性が声をかけてきた。
今日の賄い料理を担当したバードックだ。彼も、他の料理係も、年齢にとらわれずに敬称を外して呼んでいる。なので、わたしも同様に呼び捨てをしてもらっていた。
「うん、美味しいよ」
「そっか、良かった。おかわりもあるが、どうだ?」
「ありがとう。これひとつでおなかいっぱいだから大丈夫。バードックは、それで足りるの?」
賄いは全員が同じ量を配られている。
バードックの見た目はクマのように大きくて、わたしと同じ量だなんてきっとおなかが空いてしまうだろうと思ったのだ。
「足りるようになっちまったからな」
と言ってガハガハと笑った。
食べることも、作ることも好きで、天職だといつも言っている。
わたしと同じように、ここには料理が好きで、仕事にしている人が多かった。「騎士団もキッチンも、男性ばかりだから」とアキレウス様が話していたけれど、今のところその境目は感じることはなかった。
食事が終わり、各自が片づけを終えて、部屋へと戻ろうとしていた時だ。
「シズク、騎士団長がお呼びだ」
料理長に呼び止められる。
騎士団長のアキレウス様に呼ばれる時はたいてい、ハナコさんの元へ行く時だ。今日行ったばかりなのに、何かあったのだろうか?
食べたい料理があるという話だったら、どんな料理なんだろうかと考えながら、騎士団長の部屋へと向かう。ひとりで勝手に寮内を歩いてはいけなくて、騎士が同行する。
寮の奥のほうに、騎士団長の部屋がある。騎士がドアをノックして到着を告げて、それからわたしが入室する。
「ああ、遅くにすまない」
書類に向けていた視線を、わたしへと変えた。
「大丈夫です」
「リアトリウス様が来ていたことは知っているな。その件で、相談したいことがある」
そう言って、アキレウス様は騎士ふたりに、外へ出るよう言った。
「そんなに大事な話なんですか?」
「ああ」
ハナコさんの話であれば仕事のうちでもあり、人払いをすることはなかった。
アキレウス様は、本当に困った様子で、小さく息を吐いた。
「君を、俺の伴侶として同行させてくれないかと、頼まれたのだ」
「伴侶、ですか?」
「ああ」
返事をしたアキレウス様は、とても困った様子で眉間に皺を寄せている。
「あの、それはどういった理由でしょうか」
「もちろん、聖女だ。このひと月で、聖女が心を許し、なおかつ体調も上向いてきた。結婚式は貴族しか参加できないが、俺の伴侶という形を取れば参加できる」
ただし、参加するためには、わたしは貴族の所作やマナーやあれこれを学ばなければいけない。
この世界の慣習自体はだいたい覚えたけれど、貴族の所作となればまだまだ勉強不足だ。
「式まではまだ日にちがある」
「はい」
「ドレスなどもこちらで用意しよう」
「はい……」
「作法を学ぶ時間も、勤務とみなす」
「はい……」
決定事項として、アキレウス様から今後の予定を告げられて、ただただ返事をした。
緊急の用事だろうかと思っていたけれど、夕食時には帰られたそうだった。
食堂に、騎士団のみなさんが揃う。
ここでの食事は、決まったメニューを毎日提供している。
盛り付けまで終わったものを、各自が受け取ってテーブルへと持っていく。食べ終わったものはテーブルに置いたままで、後でわたしたちが片付けることになっている。
騎士団のみなさんが食事をしている間は、わたしたちはキッチンで次の仕込みをしたり、雑務をこなしている。騎士団のみなさんの片付けが終わった後、賄いを作るのだ。
賄いといっても、こちらにも食費を充てられている。今日は鶏肉のトマト煮込みと、固めのパン。手でちぎったパンをを浸して食べると美味しい。
「シズク、うまいか?」
パクパクと食べていると、恰幅の良い男性が声をかけてきた。
今日の賄い料理を担当したバードックだ。彼も、他の料理係も、年齢にとらわれずに敬称を外して呼んでいる。なので、わたしも同様に呼び捨てをしてもらっていた。
「うん、美味しいよ」
「そっか、良かった。おかわりもあるが、どうだ?」
「ありがとう。これひとつでおなかいっぱいだから大丈夫。バードックは、それで足りるの?」
賄いは全員が同じ量を配られている。
バードックの見た目はクマのように大きくて、わたしと同じ量だなんてきっとおなかが空いてしまうだろうと思ったのだ。
「足りるようになっちまったからな」
と言ってガハガハと笑った。
食べることも、作ることも好きで、天職だといつも言っている。
わたしと同じように、ここには料理が好きで、仕事にしている人が多かった。「騎士団もキッチンも、男性ばかりだから」とアキレウス様が話していたけれど、今のところその境目は感じることはなかった。
食事が終わり、各自が片づけを終えて、部屋へと戻ろうとしていた時だ。
「シズク、騎士団長がお呼びだ」
料理長に呼び止められる。
騎士団長のアキレウス様に呼ばれる時はたいてい、ハナコさんの元へ行く時だ。今日行ったばかりなのに、何かあったのだろうか?
食べたい料理があるという話だったら、どんな料理なんだろうかと考えながら、騎士団長の部屋へと向かう。ひとりで勝手に寮内を歩いてはいけなくて、騎士が同行する。
寮の奥のほうに、騎士団長の部屋がある。騎士がドアをノックして到着を告げて、それからわたしが入室する。
「ああ、遅くにすまない」
書類に向けていた視線を、わたしへと変えた。
「大丈夫です」
「リアトリウス様が来ていたことは知っているな。その件で、相談したいことがある」
そう言って、アキレウス様は騎士ふたりに、外へ出るよう言った。
「そんなに大事な話なんですか?」
「ああ」
ハナコさんの話であれば仕事のうちでもあり、人払いをすることはなかった。
アキレウス様は、本当に困った様子で、小さく息を吐いた。
「君を、俺の伴侶として同行させてくれないかと、頼まれたのだ」
「伴侶、ですか?」
「ああ」
返事をしたアキレウス様は、とても困った様子で眉間に皺を寄せている。
「あの、それはどういった理由でしょうか」
「もちろん、聖女だ。このひと月で、聖女が心を許し、なおかつ体調も上向いてきた。結婚式は貴族しか参加できないが、俺の伴侶という形を取れば参加できる」
ただし、参加するためには、わたしは貴族の所作やマナーやあれこれを学ばなければいけない。
この世界の慣習自体はだいたい覚えたけれど、貴族の所作となればまだまだ勉強不足だ。
「式まではまだ日にちがある」
「はい」
「ドレスなどもこちらで用意しよう」
「はい……」
「作法を学ぶ時間も、勤務とみなす」
「はい……」
決定事項として、アキレウス様から今後の予定を告げられて、ただただ返事をした。
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