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ケントさんの送迎会は、ほどなくして行われた。
送迎会はちょっと変わった方式で、みんながケントさんの料理を恋しがるので、送迎会というよりも「ケントさんの料理をおなかいっぱい食べる会」になっていた。
「わたしも料理を手伝いますよ」
「ああ、助かるよ。……ったく、俺が送られるってのに、みんな美味しいごはんがもう食べられないなんて嘆きやがって。全然、楽できねーじゃねぇか」
大量の鶏肉を切って、調味料をもみ込んでいる。粉をつけてあげて、唐揚げにするそうだ。
レシピはだいたい決まっていて、パスタは三種類のソースを先に選んでもらい、茹でたパスタにソースをかけるだけ。唐揚げの他に、白身魚のフリッター、カロリーが気になる人には蒸した肉か魚を用意する。
各お皿に付け合わせの副菜を乗せて、大量の唐揚げとフリッターをそれぞれ盛り付ける。数も決まっているが、おかわりが出来るように残ったものは別皿に寄せておく。
大きなレストランでみる料理の光景だけれども、いつもケントさんがやっている作業だと聞き、圧巻する。もちろん他のかたも手伝ってはいるが、ケントさんの指示があちらこちらに飛んで、キッチンの主導権をにぎっていた。
「ビュッフェだったら、もう少し楽かもしれないですね……」
「ん、なんか文句あるのか?」
「いえいえ、大変だなって思ったんです。みなさん別々の料理になってますし、だったらビュッフェ方式のほうが作る分には楽かなって思ったんです」
「ぶっへ?なんだそれは」
「ビュッフェです。料理を大量に作って、大皿から食べたい人が好きなだけ取り分けるんです。……例えばパスタも、茹でたものを好きな量をトングでお皿に盛って、パスタソースは何種類か作っておいて、それも自分で盛り付けてもらうんです」
ふうん、とケントさんは呟いて、作業の手をとめた。
「そりゃ、バイキングってやつか?」
「同じです、バイキングって昔は言っていたようですね」
「昔?ああ、元の時代が違うってやつか」
「そうです。わたしの時代では、ビュッフェと言うお店が多いです」
ケントさんはちょっと考えて、それから他のみなさんへ声をかけた。
「パスタがゆであがったら、油を軽く絡ませて、大皿に盛り付けてくれ。ソースも片手鍋のまま、それぞれレードルを入れておいてくれ。横には人数分のパスタ皿を。それから……」
次々に指示を出す。盛り付け済みの副菜が乗ったお皿は、直接手渡して、主食を好きなだけ盛り付ける方式に変えるそうだ。準備した料理を乗せるテーブルも必要だ。
食堂では、送迎会の飾り付けをするひとたちがいた。ヘレンもクレハさんもいる。
「テーブルが必要になったので、手伝ってくれませんか?」
「いいですよ」
クレハさんを筆頭に、何人かがテーブルのセットをしてくれた。
調理場から料理が次々と運ばれる。通常なら料理は個人の席へと運ばれるのだけど、大きなテーブルに大皿に乗ったパスタがどーんと置かれて、少しだけざわっと声が聞こえた。
唐揚げも、フリッターも、スープの大鍋もテーブルへ。
「ケント、これってなんなんだい?」
「ビュッフェだよ。……ってか、俺が送迎されるってのに、最後まで料理させてさぁ。別にいいけど。横で見てたシズクが、この方法を教えてくれたんだよ。な?」
「はい。……ええと、ビュッフェを知ってる人はいますか?」
食堂にいる人のうち、数人が手をあげた。
知らない人のほうが、圧倒的に多い。
「好きな量と、味を、このなかから選べます。いっぱい食べたい人も、ちょっとだけ食べたい人もいますし、好みも違うからこれだったらどうかなと提案しました。みんな集まったら、説明しますね」
できた料理を運んで、その間に食堂の飾りつけも終わってみんなが席に座る。
じゃあ、説明しましょうか……というところで、施設長がやってきた。
「ケントの就職先が、領主様の屋敷ということで、今日は領主様も食事に招いておる。護衛の者もいるので、ふたり分の食事を追加してくれないだろうか。……おや、これは?」
食堂の端、キッチン側のテーブルに視線を送る。そこにはビュッフェ形式にした大量の食事が並んでいる。
「施設長、申し訳ありません。今日はビュッフェ方式で、みなさんが好きなように食事をとる形式にしたのです。おふたりの分は、別でお作りします」
「――ビュッフェとはなんだ?」
わたしが説明しようとしたら、施設長の後ろから領主様……グラファリウムさんが顔を出した。
「説明を、これからみなさんにするところでした」
「なら、一緒に聞こう。アキレウスもそれでいいだろう?」
「ああ、そうさせていただこう」
グラファリウムさんの後ろに立っていたのは、燃えるような赤い瞳の男性だ。一瞬目が合い、強い視線にひるむ。
金の髪はゆるりと流している。
「……君が」
「シズクと申します」
「アキレウスだ」
ピンとした背筋はそのまま美しい動作で軽く頭を降ろす、御辞儀になる。あっ、わたしもお辞儀をしなくちゃ。まっすぐに立ってっ背筋を伸ばして、片足を一歩後ろに下げる。そうして、前の足に重心をかけながら、顔は正面を向いて微笑む。両手はスカートのすそを軽くつまんだまま。
「よろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそ」
この姿勢が結構大変で、普段の運動不足がひざにきてがくがく震えそうなのを堪えているのだ。ゆっくりと膝を伸ばして、内心ほっとする。
挨拶が終わり、ふたりが座る席は施設長が決めていた。ふたりと同じテーブルに施設長も座る。
わたしが見本となって、パスタと、おかずと、スープを盛り付ける。
それからルールはもうひとつ。おかわりは自由だけれども、自分で盛り付けた分は必ず残さず食べること!説明が終わって、そういえばと、グラファリウムさんに伺う。
「おふたりの分は、別でお作りしますね」
「なぜだ?俺たちも同じように食べたい」
「いいんですか?」
「ああ。ここなら毒を盛られるなどないし、そもそもそういった用意は常にしてある」
ちらっと見せてくれたのは、宝石のついた指輪だ。こちらの世界では、偉い人ほど身辺に気をつけると、勉強していた。……その前にグラファリウムさんに料理を作ってしまっていたけれども、止められなかったのは指輪のおかげだったのかしら。
「まあ、何かあったらアキレウスがいるし」
横に座るアキレウスさんは、ひとつうなずいた。
アスターさんやシオンさんよりも、体形がひとまわり大きくて、背も高い。体形だけで、充分に説明がつく。
「では、おふたりが先に食事を盛り付けしましょうか。きっと、後でとなると気を遣いますから」
「そうしよう。自分で盛り付けなんて、初めてだ。どのくらいまでならいいんだ?」
「食べられる分だったら、お好きなだけ結構です。もし足りないようでしたら、追加します」
グラファリウムさんは言ったとおりに、自分で皿を持ってパスタも唐揚げもフリッターも、大盛りにしていた。アキレウスさんは、戸惑うのかちょっと立ち止まったりしていて、少しずつ取って、盛り付けをした。ふたりが席にもどってから、みんなが盛り付けの列を作る。
自分が好きな量を選べるという部分は、男女問わず好評だ。食べたくて何度もおかわりをする人は、最初から大盛りにする。少しだけ食べたい人も、残す心配がなくゆっくりと食事をしていた。
唐揚げだけは追加が必要そうで、ケントさんは先に食事を終えて、調理場へと向かう。
「わたしも手伝います」
「うん、助かる。でもシズクもゆっくり食べてからで大丈夫だから。こんな大人数の料理、これから作れるかわからないし、俺の作った料理でみんな喜んでるってのを、かみしめたい」
「わかりました。じゃあ、大変そうだったら呼んでください。私も食べ終わったら、また来ます」
「さんきゅ」
調理場から出ると、アキレウスさんがお皿を持って立っていた。
「どうしましたか?」
「美味しかった。もっと食べてもいいのか?」
「はい、大丈夫ですよ。新しいお皿に変えて……どれを食べますか?」
食べ終わったお皿を受け取って、テーブルの端へと詰み重ねる。
新しいお皿を持つと、アキレウスさんは「肉がいい」と言った。唐揚げのコーナーはだいぶ減ってしまい、3個転がっているくらい。それをトングで取る。
「今、揚げていますので、少しお待ちいただけますか?」
「ああ」
お皿を持って、グラファリウムさんの座る席まで運ぶ。
わたしたちが近づくと、グラファリウムさんも気が付いた。
「アキレウス、こういうのは早いもの勝ちって、学んでないのか?」
「慣れた食事だったらな。ここは初めてだ、それにこんなにうまいとわかっていたら、もっと盛っていた」
「だろうな。……ああ、今日の料理担当は、話した通り今後はうちの屋敷で働く」
「お前のところへ行けば、うまい食事にありつけるんだな。わかった」
どうやら相当気に入ってくれたみたい。
ケントさんも、おふたりが喜んでいると知ったら、うれしいだろうなぁ。
「シズク、ごめん。ちょっと来てほしい」
調理場からケントさんに呼ばれる。
わたしはふたりに一礼をして、「どうぞごゆっくり」と挨拶をした。
「彼女も料理をするのか?」
「シズク殿か?そうだけど」
「ふぅん。シズク殿、ね。噂は聞いていたけれど、君が女性を気にかけるって珍しいね」
「……彼女はこちらに来たばかりだぞ」
「言葉は十分わかるじゃないか。この間も、お前の護衛のシオンと、不便なく会話をしていた」
「ああ、だけど……」
「何か不足でも?それとも、彼女を誰かに重ねているのか?」
「そんなことはない」
ふたりのやりとりは、もちろんわたしには聞こえていない。
だって、調理場に戻ったら、思った以上に唐揚げが好評で、用意していた鶏肉が全部なくなるくらいみんなが良く食べて、ずっと揚げ物をしていたのだから。
その日のお風呂は、しっかりと髪も体も洗ったけれども、なんとなく唐揚げの匂いがずっとしているような気がして、とうとう唐揚げを揚げ続ける夢を見るほどだった。
送迎会はちょっと変わった方式で、みんながケントさんの料理を恋しがるので、送迎会というよりも「ケントさんの料理をおなかいっぱい食べる会」になっていた。
「わたしも料理を手伝いますよ」
「ああ、助かるよ。……ったく、俺が送られるってのに、みんな美味しいごはんがもう食べられないなんて嘆きやがって。全然、楽できねーじゃねぇか」
大量の鶏肉を切って、調味料をもみ込んでいる。粉をつけてあげて、唐揚げにするそうだ。
レシピはだいたい決まっていて、パスタは三種類のソースを先に選んでもらい、茹でたパスタにソースをかけるだけ。唐揚げの他に、白身魚のフリッター、カロリーが気になる人には蒸した肉か魚を用意する。
各お皿に付け合わせの副菜を乗せて、大量の唐揚げとフリッターをそれぞれ盛り付ける。数も決まっているが、おかわりが出来るように残ったものは別皿に寄せておく。
大きなレストランでみる料理の光景だけれども、いつもケントさんがやっている作業だと聞き、圧巻する。もちろん他のかたも手伝ってはいるが、ケントさんの指示があちらこちらに飛んで、キッチンの主導権をにぎっていた。
「ビュッフェだったら、もう少し楽かもしれないですね……」
「ん、なんか文句あるのか?」
「いえいえ、大変だなって思ったんです。みなさん別々の料理になってますし、だったらビュッフェ方式のほうが作る分には楽かなって思ったんです」
「ぶっへ?なんだそれは」
「ビュッフェです。料理を大量に作って、大皿から食べたい人が好きなだけ取り分けるんです。……例えばパスタも、茹でたものを好きな量をトングでお皿に盛って、パスタソースは何種類か作っておいて、それも自分で盛り付けてもらうんです」
ふうん、とケントさんは呟いて、作業の手をとめた。
「そりゃ、バイキングってやつか?」
「同じです、バイキングって昔は言っていたようですね」
「昔?ああ、元の時代が違うってやつか」
「そうです。わたしの時代では、ビュッフェと言うお店が多いです」
ケントさんはちょっと考えて、それから他のみなさんへ声をかけた。
「パスタがゆであがったら、油を軽く絡ませて、大皿に盛り付けてくれ。ソースも片手鍋のまま、それぞれレードルを入れておいてくれ。横には人数分のパスタ皿を。それから……」
次々に指示を出す。盛り付け済みの副菜が乗ったお皿は、直接手渡して、主食を好きなだけ盛り付ける方式に変えるそうだ。準備した料理を乗せるテーブルも必要だ。
食堂では、送迎会の飾り付けをするひとたちがいた。ヘレンもクレハさんもいる。
「テーブルが必要になったので、手伝ってくれませんか?」
「いいですよ」
クレハさんを筆頭に、何人かがテーブルのセットをしてくれた。
調理場から料理が次々と運ばれる。通常なら料理は個人の席へと運ばれるのだけど、大きなテーブルに大皿に乗ったパスタがどーんと置かれて、少しだけざわっと声が聞こえた。
唐揚げも、フリッターも、スープの大鍋もテーブルへ。
「ケント、これってなんなんだい?」
「ビュッフェだよ。……ってか、俺が送迎されるってのに、最後まで料理させてさぁ。別にいいけど。横で見てたシズクが、この方法を教えてくれたんだよ。な?」
「はい。……ええと、ビュッフェを知ってる人はいますか?」
食堂にいる人のうち、数人が手をあげた。
知らない人のほうが、圧倒的に多い。
「好きな量と、味を、このなかから選べます。いっぱい食べたい人も、ちょっとだけ食べたい人もいますし、好みも違うからこれだったらどうかなと提案しました。みんな集まったら、説明しますね」
できた料理を運んで、その間に食堂の飾りつけも終わってみんなが席に座る。
じゃあ、説明しましょうか……というところで、施設長がやってきた。
「ケントの就職先が、領主様の屋敷ということで、今日は領主様も食事に招いておる。護衛の者もいるので、ふたり分の食事を追加してくれないだろうか。……おや、これは?」
食堂の端、キッチン側のテーブルに視線を送る。そこにはビュッフェ形式にした大量の食事が並んでいる。
「施設長、申し訳ありません。今日はビュッフェ方式で、みなさんが好きなように食事をとる形式にしたのです。おふたりの分は、別でお作りします」
「――ビュッフェとはなんだ?」
わたしが説明しようとしたら、施設長の後ろから領主様……グラファリウムさんが顔を出した。
「説明を、これからみなさんにするところでした」
「なら、一緒に聞こう。アキレウスもそれでいいだろう?」
「ああ、そうさせていただこう」
グラファリウムさんの後ろに立っていたのは、燃えるような赤い瞳の男性だ。一瞬目が合い、強い視線にひるむ。
金の髪はゆるりと流している。
「……君が」
「シズクと申します」
「アキレウスだ」
ピンとした背筋はそのまま美しい動作で軽く頭を降ろす、御辞儀になる。あっ、わたしもお辞儀をしなくちゃ。まっすぐに立ってっ背筋を伸ばして、片足を一歩後ろに下げる。そうして、前の足に重心をかけながら、顔は正面を向いて微笑む。両手はスカートのすそを軽くつまんだまま。
「よろしくお願いいたします」
「ああ、こちらこそ」
この姿勢が結構大変で、普段の運動不足がひざにきてがくがく震えそうなのを堪えているのだ。ゆっくりと膝を伸ばして、内心ほっとする。
挨拶が終わり、ふたりが座る席は施設長が決めていた。ふたりと同じテーブルに施設長も座る。
わたしが見本となって、パスタと、おかずと、スープを盛り付ける。
それからルールはもうひとつ。おかわりは自由だけれども、自分で盛り付けた分は必ず残さず食べること!説明が終わって、そういえばと、グラファリウムさんに伺う。
「おふたりの分は、別でお作りしますね」
「なぜだ?俺たちも同じように食べたい」
「いいんですか?」
「ああ。ここなら毒を盛られるなどないし、そもそもそういった用意は常にしてある」
ちらっと見せてくれたのは、宝石のついた指輪だ。こちらの世界では、偉い人ほど身辺に気をつけると、勉強していた。……その前にグラファリウムさんに料理を作ってしまっていたけれども、止められなかったのは指輪のおかげだったのかしら。
「まあ、何かあったらアキレウスがいるし」
横に座るアキレウスさんは、ひとつうなずいた。
アスターさんやシオンさんよりも、体形がひとまわり大きくて、背も高い。体形だけで、充分に説明がつく。
「では、おふたりが先に食事を盛り付けしましょうか。きっと、後でとなると気を遣いますから」
「そうしよう。自分で盛り付けなんて、初めてだ。どのくらいまでならいいんだ?」
「食べられる分だったら、お好きなだけ結構です。もし足りないようでしたら、追加します」
グラファリウムさんは言ったとおりに、自分で皿を持ってパスタも唐揚げもフリッターも、大盛りにしていた。アキレウスさんは、戸惑うのかちょっと立ち止まったりしていて、少しずつ取って、盛り付けをした。ふたりが席にもどってから、みんなが盛り付けの列を作る。
自分が好きな量を選べるという部分は、男女問わず好評だ。食べたくて何度もおかわりをする人は、最初から大盛りにする。少しだけ食べたい人も、残す心配がなくゆっくりと食事をしていた。
唐揚げだけは追加が必要そうで、ケントさんは先に食事を終えて、調理場へと向かう。
「わたしも手伝います」
「うん、助かる。でもシズクもゆっくり食べてからで大丈夫だから。こんな大人数の料理、これから作れるかわからないし、俺の作った料理でみんな喜んでるってのを、かみしめたい」
「わかりました。じゃあ、大変そうだったら呼んでください。私も食べ終わったら、また来ます」
「さんきゅ」
調理場から出ると、アキレウスさんがお皿を持って立っていた。
「どうしましたか?」
「美味しかった。もっと食べてもいいのか?」
「はい、大丈夫ですよ。新しいお皿に変えて……どれを食べますか?」
食べ終わったお皿を受け取って、テーブルの端へと詰み重ねる。
新しいお皿を持つと、アキレウスさんは「肉がいい」と言った。唐揚げのコーナーはだいぶ減ってしまい、3個転がっているくらい。それをトングで取る。
「今、揚げていますので、少しお待ちいただけますか?」
「ああ」
お皿を持って、グラファリウムさんの座る席まで運ぶ。
わたしたちが近づくと、グラファリウムさんも気が付いた。
「アキレウス、こういうのは早いもの勝ちって、学んでないのか?」
「慣れた食事だったらな。ここは初めてだ、それにこんなにうまいとわかっていたら、もっと盛っていた」
「だろうな。……ああ、今日の料理担当は、話した通り今後はうちの屋敷で働く」
「お前のところへ行けば、うまい食事にありつけるんだな。わかった」
どうやら相当気に入ってくれたみたい。
ケントさんも、おふたりが喜んでいると知ったら、うれしいだろうなぁ。
「シズク、ごめん。ちょっと来てほしい」
調理場からケントさんに呼ばれる。
わたしはふたりに一礼をして、「どうぞごゆっくり」と挨拶をした。
「彼女も料理をするのか?」
「シズク殿か?そうだけど」
「ふぅん。シズク殿、ね。噂は聞いていたけれど、君が女性を気にかけるって珍しいね」
「……彼女はこちらに来たばかりだぞ」
「言葉は十分わかるじゃないか。この間も、お前の護衛のシオンと、不便なく会話をしていた」
「ああ、だけど……」
「何か不足でも?それとも、彼女を誰かに重ねているのか?」
「そんなことはない」
ふたりのやりとりは、もちろんわたしには聞こえていない。
だって、調理場に戻ったら、思った以上に唐揚げが好評で、用意していた鶏肉が全部なくなるくらいみんなが良く食べて、ずっと揚げ物をしていたのだから。
その日のお風呂は、しっかりと髪も体も洗ったけれども、なんとなく唐揚げの匂いがずっとしているような気がして、とうとう唐揚げを揚げ続ける夢を見るほどだった。
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