料理がしたいので、騎士団の任命を受けます!

ハルノ

文字の大きさ
上 下
5 / 28

05.

しおりを挟む
 魔王国の田舎で生活を始めた俺たちは朝ご飯(正しくは夜ご飯)を食べながら今後の話をしていた。

「リフォームに必要な工具が欲しい」

「工具?」

「それはなんですの?」

 ぽかんとするギンコの膝の上でウルルが小さく鳴いた。

「人族が使う道具や」

 ダークエルフ族のツリーハウス作りには工具を必要としないらしい。
 九尾族には家という概念がないらしく、こちらも工具からは程遠い生活を送っていたことになる。

「ドワーフ族がいるなら話を聞いてみたいし、デスクックの爪とか牙とかも売れるなら金に換えたい」

「旦那様は人族のようなことを言うんやね」

 確かに、今の発言は迂闊うかつすぎたかもしれない。

「デスクックの爪や牙なんて価値はあるのでしょうか。食べられない箇所は全部ゴミです。トーヤが玄関に飾っている鶏冠とさかもゴミです」

 気持ちいいまでの割り切り方。さすがは闇の眷属けんぞく

「価値観はそれぞれやから。ただのゴミが金になったらお得やん?」

「どっちにしても私は人族の国には行けませんよ。憎き太陽が落ちない限りは」

「ギンコは?」

「妾は旦那様が行く場所にならどこへでもついていきます。どこぞの耳とがりとは違いますから」

「尻尾割れてるくせに偉そうに」

「あら? 嫉妬なんて醜いですわよ。いくら旦那様にモフモフされないからって」

「残念でした。トーヤは九尾族のときは必ずモフモフの自給自足をしますから。ダークエルフ族のとき以外、あなたの尻尾は用無しです」

 今日もバチバチにやり合っている二人。
 ウルルは危険を察知してか、早々に俺の膝の上に避難してきた。

「そんなことないよな、ウルル。お前の毛並みもモフモフするもんな」

「ウル~ッ」

 圧倒的癒やし!

 急成長具合にはビビるけど、この子を育てて良かったと思える至福の瞬間である。

「で、ギンコは一緒に行くってことでええんやな? じゃあ、クスィーちゃんはウルルとお留守番しててや」

「仕方ありませんね」

 いつもギンコに突っかかっているクスィーちゃんにしては珍しい。
 よっぽど太陽が嫌いらしい。

 そんなこんなで陽が昇り、クスィーちゃんとウルフが寝床に入ったタイミングで人族の町へと出発した。
 ちなみに俺とギンコはしっかり夜に寝ている。

 背中のリュックにはデスクックの素材の他にも過去に狩ったブラックウルフの素材も入れてきた。

 さすが国境付近とあって、すぐに人族側の検問所が見えてきた。

「どう見ても人間には見えへんよな」

 自分の尻尾を見てつぶやくと、「簡単です」とギンコがパチンっと指を鳴らした。

 別段、変化はない。
 ギンコ曰く、これで他者からは姿が見えなくなったらしい。

 ホンマかよ――

 と、疑っていたがすぐに謝罪することになった。

 おそるおそる息を潜めて進み、人族の兵士の前を通り過ぎる。
 彼らは何事もないように俺たちをスルーして、「異常なし!」と指さし確認を行った。

「これ何の魔法?」

 ギンコが無言で首を振る。
 喋ると効果が消滅する系だと察して黙って歩いた。

「ぷはっ。幻惑魔法の一種です。子供騙しやね」

 息を止めていたことで頬を上気させたギンコが教えてくれた。

 俺、そんな魔法使えないんやけど……。

「あと、もう一つ」

 またギンコが指を鳴らすと、俺の尻尾とギンコのキツネ耳と尻尾が消えた。

「うおぉ!」

「これも子供騙しです」

 これなら誰が見ても人族だ。
 大阪弁を喋る糸目のにぃちゃんと、はんなり京都弁を喋るキツネ目のねぇちゃんにしか絶対に見えない。

 近くを流れていた川の水面に映る自分の顔を見て感動した俺は、意気揚々と検問所を越えて一番近くの街に向かって歩き出した。

 到着すると、あまりの人の多さに驚いた。
 街を行くほぼ全員が武装していて、大剣や斧なんかをかついでいる。

 大通りの両サイドには露店が並び、活気ある街だった。

「着いたはいいけど、どこに行けばええんや」

 人間のくせに人間社会についての知識がない俺と、そもそも人間ですらないギンコの組み合わせで出向いたのは無謀だったかもしれない。

 こういう時は――

「すんませーん! 道案内してくれる店ってどこですかー?」

「あんた見ない顔だな。冒険者にしては軽装だし、商人か?」

「そんな感じです」

「それならギルドに行くといい。素材の売却もしてくれるし、街のことは何でも教えてくれる」

「ありがとうございます」

 普段はコミュ障全開やけど、二度と会わないと分かっている人には遠慮なく話しかけられる。
 ずっと町中をウロウロするのは御免やでな。

 早速、ギルドというファンタジー感満載の店に向かうと受付では綺麗な女性が笑顔を振り撒いていた。

「初めてなんですけど」

「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょう」

「素材の売却と聞きたいことがいくつかあって」

「かしこまりました。まずは素材を拝見させていただきますね」

リュックに詰めていたデスクックの爪、牙、羽根、鶏冠とさかをカウンターに取り出す。

「……………………」

 さっきまでニコニコしていたお姉さんが顔を引き攣らせて、奥へと引っ込んだ。

 すぐにカウンターの奥から厳つい男が出てきて、何度も素材と俺たちを見比べて重い口を開いた。

「待ってろ」

 続いて、華奢な男がやってきて、デスクックの素材を入念にチェックしていく。
 目の周りに魔法陣が描かれているから、何かしらのスキルか魔法を使っているらしい。

「デスクックだ」

 やがて、ため息のついでのようにつぶやいた。

 「鑑定士が言うなら信じるしかねぇ。あんたがこいつを討伐したのか? どこのギルドからの依頼だ?」

 ツレが倒した、と言いそうになる口をつぐんで頷く。

 疑われたらますます厄介だと判断して、俺の手柄にしてしまった。
 ごめん、クスィーちゃん。

「金貨千枚を出す。構わないか?」

 ギルド内にいた武装している連中がどよめいた。

 この金額が高いのか、安いのか分からないから、俺は出された金貨をすぐに仕舞ってお姉さんに向き直った。

「ものづくりに精通している人に会いたいんやけど、この街にいますか?」

「はい。メインストリートから左の路地にドワーフ族が営む店がございます」

「ドワーフ! ありがとうございます」

 あの厳ついおっさんの目と、周囲の目が怖すぎてお礼を言ってギルドを飛び出した。

「デスクックってレアモンスターなんか?」

「知りませんわ、そんなこと。今の耳とがりに狩られるくらいですから、きっと弱小に決まっています」

 相変わらず、クスィーちゃんには手厳しい。
 でも、今のってことは、それなりに彼女のことを認めているのだろう。

 見知らぬ土地でひったくりや置き引きに注意するのは海外旅行の基本。

 俺はリュックを抱きかかえながら、目的地へと向かって絶句した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

雪月夜狐
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが吃驚して憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! 本編完結しました! リクエストの更新が終わったら、舞踏会編をはじめる予定ですー!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

人間だった竜人の番は、生まれ変わってエルフになったので、大好きなお父さんと暮らします

吉野屋
ファンタジー
 竜人国の皇太子の番として預言者に予言され妃になるため城に入った人間のシロアナだが、皇太子は人間の番と言う事実が受け入れられず、超塩対応だった。シロアナはそれならば人間の国へ帰りたいと思っていたが、イラつく皇太子の不手際のせいであっさり死んでしまった(人は竜人に比べてとても脆い存在)。  魂に傷を負った娘は、エルフの娘に生まれ変わる。  次の身体の父親はエルフの最高位の大魔術師を退き、妻が命と引き換えに生んだ娘と森で暮らす事を選んだ男だった。 【完結したお話を現在改稿中です。改稿しだい順次お話しをUPして行きます】  

処理中です...